第百五話『再戦』
昨日襲われた街灯へと向かい青年達は歩いていた。やはり日が出ている日中は人通りもあり、何の手掛かりもなく終わるのでは無いのかと思う。
「確か、そこの角を曲がった場所で襲われたんだ。」
周囲の一般人達は何事かと此方へと視線を向けていた。勿論容姿的な意味も含まれるが一番は独特な雰囲気が周りを惹きつけるのだろう。
「誰もいないじゃない!!」
午前十時、其れも人が普通に歩く時刻にあの様な奇抜な格好をした変人が歩いていれば警察を呼ばれ、注目を浴びるのは必然。いる筈がない。何か痕跡でも見つければ僥倖だろう。奴の手掛かりを元に後を追えばいい。
「______来たか、娘に男。」
そう、普通はいない...........いる筈がないのだ。この様な仮面を被った変質者がこの時間帯に徘徊している訳がない。そう思っていました。
「どうしたのかね?」
「................お前、馬鹿だろ?」
此奴は頭が可笑しいのでは無いのだろうか。何故昨晩と同じなりをして姿を見せている。周りの一般人の視線がより此方へと向く。しかし降霊術師の男はそんなもの関係ないといった様子で杖を異空間から取り出す。
「来るのね______いいわ、来なさい!!叩き潰して上げる!!!」
降霊術師の行動を見て剣を鞘から抜き取り駆け出すカミーユ。来なさいと言いながらお前が行くのかとは敢えてツッコないでおこう。
「ふッ!!」
「流石の速さだ、娘。」
余りの速さに目で追う事が叶わない。だが、カミーユが動きを止めた頃には既に魔術師ヨハンネスの心臓へと剣が突き刺さっていた。
「終わりよッ!!」
心臓に刺した状態で横払いをする。魔術師は無残にもその血肉を撒き散らし地へと身を倒す。
「はは!!凄いでしょ、私!!瞬殺してやったんだから!」
剣についた血をはらい笑顔を此方へと見せる。
「あぁ♪本来ならぁ私がやりたかったんですけどねぇ♪」
「貴方が動けば周囲一帯が瘴気に満ちるのです。やめなさい。」
ある住宅地の屋上から二人はカミーユと降霊術師の戦闘を遠目から傍観する。
「あぁ、カミーユさん_____あの場に居たら、死にますよ?」
倒れる降霊術師の近くにいるカミーユは油断して居た。故にディアーナは嘲笑うかの様に何もしないでいる。
(あの人間の女を助けることはジョンの幸福にも繋がる。逆に助力をしなければ彼に失望されてしまう。うぅ、何という選択でしょう。私は彼に嫌われたくない。彼の一番の理解者でなくてはなりません。故に私が取る行動はこの選択以外に考えてならない。くっ、歯痒い_______)
「_______カミーユ!!!今直ぐにその場から離れなさい!!!」
ルキフェルはテレパスにてカミーユへと叫ぶ。カミーユは即座に跳躍し、距離を取った。すると少女がいたであろう一帯が抉れ消えていた。
”ケイヤクヲハタセ”
「分かっている。」
何事も無かったかのように立ち上がる魔術師。胸元の傷も癒え、パンパンと埃を払う。
「ねぇ、あれってジョンがくれたノートに書いてあった憑依何ちゃらって奴でしょ?」
「あぁ........恐らく。」
霊威憑依だろう。己の身に強力な霊、悪魔を憑依させる降霊術。其れを行うことで傷は自己再生される。
「助言を一つ授けましょう、カミーユ。あの者は不死であり、不死ではない。あの背後に聳える傲慢な異物を切り離すのです。」
ルキフェルは降霊術師が契約をしている悪魔の事を指しそう言う。
(それが出来れば世話無いってのよ!!)
「しッ!!」
再び駆け出すカミーユ。通行人達は自分達をドラマの撮影か何かだと勘違いをしているせいか、騒ぎは起きていない。幸運と言えば幸運だが此処まで平和ボケしてると現代人は大丈夫かと心配に思う。
「無駄だ、私に貴様を追えなくともこの悪魔が貴様を捉える。」
上段から剣を振り下ろすカミーユ。だが、剣は異形の腕に掴まれ少女ごと住宅地へと吹き飛ばした。だが彼女は即座に立ち上がり視認不可避の速度で懐へと現れ、下から斬りあげた。
“........”
異形、フルフルの腕からたらりと血が流れる。
”アノニンゲンハヤクナツテル”
降霊術師は苦渋の表情を浮かべた。
(あの娘はさらに速くなると言うのか.........化け物め!!)
”モウユダンシナイ、チヲミセテアゲルヨ”
フルフルは天候を操作しようとする、だがある違和感を感じた。
「どうした、フルフル?」
”テンガイウコトヲキカナイ”
天候操作をして雷を落とす筈が、天の制御がままならない。
”コノケハイハ______マサカ”
ルキフェルとディアーナの気配を感じ取ったのかフルフルは住宅地へと視線を向ける。
”ニゲロ”
「貴様は何を言っているのだ。私達の戦いはまだ終わって居ない!!」
”ニゲロと言っているのが聞こえないのか!!!”
悪魔フルフルは焦りを見せて居た。ここまでこの悪魔が言うと言う事は何かが近くにいると言う事だ。
「______撤退す「逃がしませんよ」
かなり離れた場所にいるルキフェルに睨まれた悪魔は身動きが取れなくなった。故に悪魔の力は振るえず、己の降霊術でのみの戦闘となる。
(一体何者が潜んでいると言うのだ!!答えろ、フルフルッ!!!)
しかし悪魔は答えない。いや、答えられなかった。
「くっ、この様な凡策にでたくわなかったが、致し方なし。」
降霊術、そして自己召喚術式を使い何とか対等な戦闘を行えてはいるが、このままでは此方側の魔力が尽きる。悪魔の加護がなければ無尽蔵にも近い術式の展開が出来ないのである。一旦カミーユから距離を取り、杖を掲げトンと床へと叩きつける。すると複数のスケルトン達が召喚され、一斉にカミーユ達へと襲いに掛かった。
「か、カミーユっ!!!」
「っ___ジョン!!!」
戦闘力皆無の自分の元へともスケルトンは襲いかかって来た。しかし、それは瘴気の霧が突如足元から現れ、一掃してくれた。どうやらディアーナが守ってくれたようだ。
(なんだ、今の黒霧は_____あの青年の能力なのか?)
カミーユは残りのスケルトン達を一掃し、即座に青年の元へと駆け寄る。
「ジョン、怪我はないわよね。」
「あ、あぁ。ディアーナが守ってくれた。」
ルキフェルとディアーナは遠目から戦闘を観察する事で周囲に他の創作物がいないかを索敵をしている。仮に誰かが覗き見をして居た場合は引きづりだしぶち殺すとのこと。
(貴方の戦いの邪魔はしませんよぉ、カミーユ♪ですが、ジョン副団長に危害が加わる場合は手は出させて貰います♪)
降霊術師は冷や汗を流す。
(他の創作物らが私達の戦闘を監視している。黒の森がこの場に控えてくれていれば対策はしようがあった。だが、彼は今、此処には居ない。撤退するしかないとは言え、あの少女の速度を振り切りのは難しい。)
青年の姿が目に入る。
(あの青年を人質にこの場を離脱するしかない。先ほどの黒霧の能力は気になるが、今は博打を打つしかない。)
「______動くな」
背後から声が掛かる。
「なっ!?」
そして背後から手が伸びると首を掴まれ民家の屋上へと青年を連れ自己召喚した。
「この男の命が惜しくば_______自害したまえよ、娘。」
杖を地上へといるカミーユへと向け告げる降霊術師。
「さすれば男の解放は約そッ」
しかし、降霊術師からの拘束は解かれた。青年は即座に距離を取り、降霊術師の姿を確認する。
「貴方は_____何を言っているのですか?」
そして目に入ったのはルキフェルが降霊術師ヨハンネスの首へと槍を突き刺している姿だった。
「人と契約せし穢らわしい鹿よ、貴方は邪魔だ。」
槍を引き抜くとヨハンネスの魂が引き抜かれるかの様に炎の蛇の尾を持つ有翼の鹿が外界へと飛び出る。だが鹿は即座に天使の姿を取り地上へと静かに羽を下ろした。
「やはり、貴方様は________何故、このような汚れた世界にいるのですか、妨げる者よ!!!」
ヨハンネスから引き剥がされた悪魔、フルフルが叫ぶ。だがルキフェルは冷たい視線を浴びせ天を仰いだ。
「私の名は光を齎す者、明けの明星。貴様が如き存在が我ら天使の姿を真似るな、汚らわしい。」
晴天の空から更に眩い光がフルフルを包む様に降り注ぐ。
「ま、待って下さい!!わ、私は、そ、そう!!契約者である人間の意思に無理や_____」
肉を焼き骨を溶かす。一瞬だった。余りにも悪魔と熾天使では次元が違いすぎる。此処まで力量の差があるのかと青年はその場へと腰を下ろした。
(っ、強過ぎないですかねぇ........ルキフェルさん。)
圧倒的過ぎる力に唖然とするしかない。
「怪我は無いですか、ジョン?」
心配をした発言をしているが、自分の身体を舐め回すようにじっとりと触るルキフェル。
「おい、何やってんだ?」
「触診です。」
「やめい」
ジト目を向ける。そしてルキフェルの頭へとチョップをかましてやったが、もう一度お願いしますとか言われてドン引きである。
「あらあら、大変♪私もぉ少ぉしお体の様子を確かめますねぇ♪」
ディアーナもいつの間にやら自分の背後に立ち身体を触りはじめる。
「ねぇ、セクハラって言葉_____知っている?てかそろそろ離れろ、阿呆!」
ディアーナにもチョップを食らわせ引き剥がす。
「あらあら、嬉しい癖に♪」
「余裕風吹かせてるけど、処女聖女な事は知ってるからな」
「なっ!?貴方だって童貞でしょうにぃ♪」
ディアーナの返しに間を置いてみる。だが下策だった。二人は神妙な面持ちとなりジリジリと身を寄せて来る。
「「「(◉ ◉)」」.............童貞です、はい。」
何その目!!怖!?
二人の瞳は瞳孔を開きどす黒い深淵を映していた。
「そ、そう言えば、彼奴は........っ!」
カミーユ達へと目を向けると未だに戦い続ける彼女の姿が映る。降霊術師は最後の足掻きと言わんばかりに全ての魔力を注ぎ込み戦闘に集中していた。
「くっ、此の儘ではっ!!」
彼らの戦いは住宅地を巻き込みながら繰り広げられる。ヨハンネスは徐々にではあるが防御で手一杯の状態なり始めていた。カミーユの剣戟を何とか数手避けるが余りに早過ぎる斬撃に身体を何度も斬りつけられる。
「逃げられないわよ!その手品はもう見飽きたわ!」
自己召喚による転移術式もカミーユの圧倒的戦士としての耳、感が抑え直ぐに捉えられてしまう。フルフルが消失したことにより上位の霊位を身に宿す事が出来なくなった以上、回復にも限界がある。
(くっ、ふざけるな_____)
降霊術師ヨハンネスは積んでいた。何よりも彼を苦しめていたのはルキフェルにより付けられた傷である。完全に修復されないのだ。常に下位の霊を宿す事で何とか生き長らえてはいるが魔力が尽き次第、死亡するだろう。
(この様な場所でっ..........)
「............私はっ!」
杖を振るい降霊術を行使しようとした刹那、深い斬撃が胸元へと刻まれる。
「うっぐっ_____」
「________終わりね」
とどめと言わんばかりカミーユは剣を心臓へと差し込み頭部へと向け切り上げようとしたが、その手は止めれられた。
「.........まだ、殺してはダメですよぉ♪」
ディアーナがカミーユルを止めたのである。
「ぁ.......っ.........ぁ?」
降霊術師は朦朧とする意識下で最後の自己召喚を行使しようとするが未遂に終わる。
「私の威光から逃れる事は叶いません、人間_______眠りなさい。」
ルキフェルは翼を広げるとヨハンネスは眠りに着くように意識を失った。カミールはつまらなさそうに剣を引き抜き鞘へと戻す。
「一体どう言うつもり?」
ディアーナはその問いに頰を釣り上げると光悦とした表情で告げた。
「拷問するのですよぉ♩彼が何の目的で私たちを襲ったのかと言う、理由を。」
(十中八九、王冠戦争でしょうけども彼らはまだ私たちが召喚された本当の意味を知らない。だから教えて差し上げる必要がある。これから起こるであろう戦いに備えて_______)
未来、私はこの場にいる熾天使や少女を殺してでも勝ち上がり全てを手に入れて見せる。
(_______ふふ、ジョン副団長。あと少しの辛抱です。真に貴方と永遠に生きる為に王冠を手に入れてみせましょう。)




