第百四話『幕開け』
早朝六時頃、降霊術師ヨハンネスは昨晩のけりをつける為、目的の地へと向かい歩き出していた。
「________アンタが同類を殺し回ってるて言う降霊術師か?」
人通りの少ない路地裏から槍を携えた男がヨハンネスを呼び止める。
「........如何にも、と答えれば良いのかね?」
「其れだけ聞けりゃあ十分だ!」
好戦的な眼光をした男は槍を構え間髪入れずにヨハンネスの懐へと入る。
「喰らいやがれッ!!」
槍は心臓へと向かい軌道を描くが虚空を突く。そして即時に槍で弧を描き背後を警戒した。
「アンタの弱点は知ってる。その能力は3秒のインターバルが必要だろう?なら、次は逃さない。確実に仕留めさせて貰う。」
顔付きが先程迄とは違い明確な殺意が感じられる。だがヨハンネスは余裕を持った態度で正面へと姿を現わす。
「成る程。だが、私も同様に君が王彦章だと言う事は知っている。何れ君の元へとも訪れる予定だったのでね。」
コツンコツンと杖の音を響かせるヨハンネス。
(無限三國と言うげぇむに登場する槍使い。鈍重な槍を軽々と振るう豪傑。だが、恐れるに足りぬ存在である事には変わらない。)
王彦章は驚愕の表情を浮かべ、睨みに深みが増す。
「俺の素性が割れたところでてめぇの運命は変わらなねぇ。」
「あぁ変わらないさ。君の死という運命からはね。」
王彦章の背後から手を伸ばすヨハンネス。
「弱点は知っていると言ったはずだ!!俺の王鉄槍がアンタを砕いて武人としての矜持を果たす!!!」
槍は素早い速さでヨハンネスの横腹へと抉り込むが即座に自己召喚をして、致命傷を避ける。
「膂力はあの少女以上か。」
下級霊を短期憑依させ、傷を即座に完治させる。
「だが、其れだけの事だ。」
即座にビルの屋上へと移動し腕を振り上げるヨハンネス。王彦章は気配を感じ取りビルの壁を跳躍しヨハンネスの後を追った。
「______フルフル、仕事だ。」
ヨハンネスは契約をしている悪魔の名を呼ぶ。
”タイカワ”
ノイズのかかかったような底知れぬ声が響く。
「奴の血肉を全てやろう。」
”ネガイヲウケイレヨウ”
異形の両腕がヨハンネスを包み込む様に現れる。日の出の光が眩しく照らし、神々しさを放つ。
「あん?何だか知れねぇーがこれでとどめだぁ_______ふんッ!!」
王彦章がヨハンネスを捉え王鉄槍を投擲した。
「なっ!?」
だが其れは容易く異形の手、フルフルにより受け止められた。そして其れを同じ要領で王彦章へと投擲し返す。
「化け物がッ!」
返される槍を掴もうとする王彦章。
「っ....ぶっ!?」
だが王鉄槍は王彦章の腹を抉り貫通した。王彦章は訳がわからないと言った表情でビルの最上階から先程の路地裏へと落ちて行く。
「_______雷の力、か。」
ボソリとそう口に出すヨハンネス。フルフルは投擲する際に雷を槍へと付与したのだ。すなわち、王鉄槍は人では受け止められぬ程の貫通力を有し王彦章を貫通したのである。
”チハモラッタ、ネムリニモドル”
フルフルはそう言い残すと異形の腕は空気へ還って行った。ヨハンネスは王彦章が落ちた場所へと目を移すと、その場には王彦章が着用していた甲冑しか存在しなかった。恐らく、フルフルが贄として肉体を回収したのだろう。
「さて、行くとしよう。」
杖を床へとポンと一叩きすると、ヨハンネスはその場から消えるのだった。
午前七時半頃、アパートにでは今も尚、論争を繰り広げる三者の姿がそこにはあった。
「............一睡も出来なかった。」
ブランチェは飽きたのか、ニュース番組を見ている。
「おい、いい加減にしろよアンタら!今日は襲われた場所へ行くんだろ?」
青年は三人の真ん中に立ち本来の目的を口にする。
「そうだったわ!もし彼奴がいたら八つ裂きにしてやるんだから!!」
拳を握りしめ闘志を燃やすカミーユ。
「私の『所有物』に傷を負わせた責任、死をもって償わせましょう。」
ルキフェルは自分をチラチラと見ながらそう言う。
「じゃあ私はぁ家でジョンとお留守番をしていますねぇ?ふふふ。」
昨晩の時とは反対に落ち着いているディアーナ。
「なっ!?」
ルキフェルが悔しそうな表情でディアーナを睨みつける。まるで、その手があったか!と言わんばかりの表情だった。
「ディアーナ、貴方は昨日、その手を鮮血に染めたいと言っていた筈です。ならば我らと共に来るべきだ。」
「うふふ、私は気まぐれな聖女なのです。気分くらい変わりますよぉ?其れに誰かがジョン副団長と共に居なければ昨日の様に襲われるのは必然。ならば私が常に彼の側にいる事こそが安全だと言えるのではないでしょうかぁ♪」
ルキフェルは歯軋りをしながら返答を返す。
「ならば私が代わりにジョンと共にいましょう。守護に置いて我ら熾天使の右に出るものはいないでしょうし。」
「結構ですよぉ?降霊術師の概要を見る限り、私に負ける要素はありませんでしたのでぇ。」
「私もありません!ですが、うぅ」
ルキフェルが捨てられた子犬の様な瞳で此方を見て来る。
(ルキフェル.........)
この半年、ディアーナに口で勝ったところを一度も見た事がない気がするなぁ。
「はぁ.........皆んなで行けば良いだろ?カミーユが戦っている時、俺を誰かが守ってくれれば良いし。寧ろそっちの方が
効率が良いとまで言える。」
ルキフェルはパァと瞳を輝かせ、ディアーナは舌打ちをした。
「皆んなで行くわけ?別に良いけど、絶対に邪魔しないでよね!私が一人でケリをつけるんだから!」
両手を腰に当て宣言をするカミィル。その姿をソファーから睨むブランチェの視線に誰も気づかずにいた。




