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力ある魔獣たち ~グルメにゃんこと賢者の思惑~


『クワーックワックワ! 人間どもよ、今日は美味いものを食したからな――特別であるぞ! 余の素晴らしき舞を見るがよい!』


 自らの名声を誇るかのように。


 トテトテトテ、バッサー!

 ととととと、ふぁっさー~!?

 くっそウザいポーズでニワトリの君がビシッ、バサッと羽を広げて舞う中。


 テーブルの上によいしょっと登り直した私。

 あー、やっぱり唐揚げっていいよね。

 あの煩い、鳥もいっそじゅーし~な存在にしてやりたくなってくるが。

 まあさすがに、大魔帝クラスの魔族が本気で戦ったら世界が軽く吹っ飛ぶだろうし。冗談でも口にはできないか。


 ともあれ。

 知らん顔をした私は――唐揚げをもぐもぐしながら人間たちに言った。


『そう、あの無差別石化魔で有名な神鶏だよ。ああ、石化の方は大丈夫。私が結界を張っているから、少なくとも私と一緒に居る時の彼は安全さ』


 賢者が目線だけでロックウェル卿をさし。


「もしケトス様と一緒でないときは――」


『にゃはははは、この帝都ごと全員石化してるだろうね。この石化能力は卿自身でもコントロールできないんだよ。ま、私がいないときに出会ってしまったらご愁傷さまだね』

「やはり……伝説の通りなのですな」


 んーむ、と額に汗をにじませている。

 いやはや、なかなかこの人間たちも私達に慣れてきたのか案外に冷静である。

 実際。

 全盛期のロックウェル卿は私が知りうる限りの魔族の中で、一番に厄介な存在なのだ。


 賢者はこっそりこちらに寄ると。

 私のモフ猫毛に小さく耳打ちをする。


「この御方が人間と敵対する可能性は……あったりするのでしょうかな?」


『まあゼロじゃないだろうね。なにしろ彼は魔王様に恩を感じているとはいえ現在は魔王軍所属じゃないし、神のサイドでもなければ勇者の関係者でもない。分類するなら野良魔族であり、野良神獣だ。本当の意味で自由フリーな存在なんだよ』

「ふむ……なるほど、そうでございますか」


 なにやら思い立ったのか。

 賢者は給仕たちを手で呼ぶと、それはもう手際のよい流れでロックウェル卿を讃える準備をし始めた。

 ほめ殺し作戦のようだ。


 ちやほやされるのが大好きなロックウェル卿は満足して、用意された唐揚げとイチゴパフェの山に貪りつき始めた。

 まあ、西帝国がロックウェル卿と敵対しないでくれるのは色々と助かる。

 ロックウェル卿が本格的に人間を敵と認識してしまったら――私ですら止めることができないかもしれないからだ。


「しかし――ケトス様と行動を共にしないと全てを石化させてしまうとは……本人にとってもお辛いのでしょうな」

『心配しなくても普段は霊峰に隠れ住んでいるし、彼本人はもはやその石化能力を割り切っている。人間には迷惑をかけていないよ』

「それでも――やはりお寂しいでしょうて」


 しんみりと、賢者は言う。

 その老いた目線の先には、給仕たちに持て囃されて心の底から嬉しそうにしている鶏がいた。

 まあ、寂しがり屋だっていうのは確かだけどね。

 と、私はちょっと瞳を細めて卿を見る。


『その辺も大丈夫じゃないかな。最近はずっとウチにいるしね』


「ウチに、と仰いますと?」

『君の言う通り寂しかったらしくってね――俗世の空気が懐かしくなったら度々降臨しているが、今はずっと魔王城に居座っていてね。賓客、というか気ままな居候さ。幹部連中はこのニワトリ卿の石化攻撃を防ぐ結界で競い合いをしているくらいだし。ま、今の魔族とうまくやっているんだよ』


「なるほどそうでありましたか。まあせっかく帝国に寄られたのです、出来る限りのもてなしはさせていただきましょう」


 ロックウェル卿は自分の話になっているのに、もはや舞にも飽きたのか。

 はたまた踊っている最中に鶏頭で忘れたのか。

 唐揚げの皿の前でグデーンと足を延ばし――嘴で毟った肉をうめぇうめぇ! と喰らいついて、もはや反応する気配はない。


 やっぱり、根本的に鶏なんだよなあ……。

 たまにまともな事も言うけど、基本は鳥なのである。


 賢者は舞い散るロックウェル卿の羽を眺めた後に、私に問う。

 その視線は、卿の羽をじぃぃぃぃっと見つめたままだ。


「魔帝ロック様の羽は様々な病を治す――万能薬の素材になるとお聞きしたことがございますが、それはまことなのですかな?」

『お、よく知ってるじゃないか。さすが賢者。そうだよ、たしかに伝説の通り、彼の唾液や羽、特に尾羽は高品質の万能治療薬の素材になるけど――あー、でも襲おうだなんて考えない方が良いよ。たぶんこの世界で私の次に強いからね、このニワトリ』


 賢者はまともに顔色を変えて、


「なんと!? 全てにおいて自信の御有りになるケトスさまが、そのように断言なさる程の御方なのですか!?」

『うん、戦闘には相性とか駆け引きとかあるだろうけど。そういうのを考慮したとしてもコイツ、本当に強いんだよ。できれば戦いたくないね、私は』


 むっしむっし、唐揚げをくちばしで貪り食うニワトリ卿。

 そんな彼をジト目で見ながら私は続ける。


『どういうインチキを使っているか知らないけど純粋な不死だし、治療魔術が得意だし。鳥という属性を利用して生贄……黒魔術にも造詣が深く。純粋な力比べもトップクラスで、魔鶏や恐竜系統の眷属もほぼ無限に召喚できるし。基本、クソゲーチートなまさしく鶏の王さ。頭脳が鳥頭ってぐらいしか弱点がないんだよね』


 私と違って人間を優先して守るっていう妙な弱点もないし……。

 まあ。

 弱点があるとすれば――歩く迷惑装置ということぐらいか。

 卿が自由に歩けば世界は滅ぶ。

 魔王様もそう頭を抱えて悩んでいたくらいだし。

 ……。

 人間たちには伝えられないけど。

 誇張とか脅しではなく事実なんだよね、これ。

 先ほども口にしたが、卿の石化能力は彼自身にもコントロールができないのだ。


 たとえば彼がちょっと転んだとする。

 ニワトリ頭だからロックウェル卿はすぐに転んだことすら忘れて、クワックワといつものように歩き出すが――その目線の先にあるのは石、石、石。

 もうそれだけで国や街が滅んだりするのである。


 彼がなにかやらかすだけで、その直線状の範囲で数十キロメートル先まで全滅。生きとし生けるもの全てが石化してしまうと思ってもらっていい。

 そんな彼が本気で人間を絶滅させようとしたら。

 勇者のいない世界など、すぐに滅んでしまうだろう。


 だからこそ、この鶏。

 力の暴走を恐れ、唯一彼の力に正面から対抗できる私をなにかと利用しているのだ。

 俗世に降りる際は私を頼ってついて回っているのだが――なんか便利に使われているような気もしなくはない。

 まあ一人でホイホイ人間の街を回られたら、それはそれで困るのだが。


『そんなわけで、できるなら彼を敵に回さないでくれると助かるね。ま、どうしてもっていうなら止めないけど』

「ふぁっふぁっふぁ、まさか恩ある大魔帝ケトス様のご友人を襲う筈がありますまい。ただ落ちている羽を拾っていいのかどうか、少し悩みましてな」


 友人じゃないんだけど、まあ否定しなくてもいっか。

 最近はけっこう行動を共にしてるし。

 なにより眠る魔王様の前で二人で飲み会とかもよくやってるし。


『ねえロックウェル卿。人間たちが君の落とした羽に興味があるみたいなんだけど、あげてもいいかな?』


『ふふふ、余の美しき羽に目を付けるとはなかなかに目の付け所がよい。うむ、くれてやってもよいぞ』

『だってさ』


 ロックウェル卿に尾羽の方も人間にあげていいか訊ねると、別に構わんぞと返事がくる。

 私は賢者に頷き、賢者は給仕たちに頷き羽を拾わせた。


「ところで……大魔帝である貴方と力ある神鶏でいらっしゃるお二方が同時に降臨されるとは――……、もしや、世界にただならぬ何かが起こっていらっしゃるのですかな?」


 賢者くん、ものすっごい真剣な表情である。

 ……。

 どうしよう。

 このバカ鶏が唐揚げ喰いたさに、ただ暴れていただけだなんて……言えないよね。


 私はふーむと考え込み。

 ま、魔族の威厳もあるしそれっぽいことを言っておくか。


 ジト目をサササと正し、真剣な表情を作り出す。


『君達にも――念のために、伝えておいた方が良いのかな』


 闇の顔。

 魔族を意識して、紅い目を輝かせて――ふっと微笑して見せたのだ。

 ただの演出である。


『まあ事件ってほどではないけれど、百年前に暗躍していた勇者の関係者が動き出してるってのは確かなんだよ』


「勇者ですかな?」

『ああ、実際。この間のエルミガルドの事件で、私も勇者の関係者であるウサギの司書に出会ったし。問答無用で襲われたからね』


 あの鬼畜ウサギ。

 勇者の魂を探すためにちょっと暴走していたみたいであるが。あの事件で少しは落ち着いたのかな。


「ケ、ケトスさまを襲ったですと! だ、大丈夫だったのですか?」


『心配しなくても大陸に傷はついていないよ。壊さないように超がんばったからね!』

「いえ、失礼いたしました。わたくしめはケトスさまの身が心配だったのでございますが……無礼な杞憂で御座いましたな」


 なんか、いわゆる温かいまなざしで私のモフ顔を見ているが。

 あれ、もしかしてこの賢者の爺様。

 私を心配してくれていたのか……ちょっと、まあ嬉しいかも。


 私は猫毛をブファっと膨らませて、


『ああ、もちろん私はまったく無傷だったけどね!』


 ドヤァ!

 童話魔術まで盗めたし、三つに分かれた勇者の力が人間に受け継がれているのも把握できたし。

 わりと収穫はあったのだ。

 賢者は顎に手を当て難しい顔をする。


「しかし、はてさて……勇者の関係者でございますか――平和が続いているこの世で一体なにを……」


 そう。

 私もそれがちょっと気にはなっているのだ。


 最近、この世界で大きな動きは観測されていない。

 魔王様の方針で魔族が穏健な対応になっている反面、人間同士の戦いは苛烈になっているが。

 それはあくまでも人間同士の戦いだ。

 光と闇の戦い。

 世界をかけての聖戦といった、勇者や神が動きそうな流れは全くないのである。

 強いて言うなら私がグルメ目当てに人間界への干渉を始めたぐらいだが、その程度の些事で、勇者の関係者が動くとは思えない……。

 まだ世界だって二回ぐらいしか壊しかけてないしなあ。


 本当に理由が謎なのだ。

 勇者の発生が確認されていない所を見ると、おそらく動いているのは関係者だけなのだが。


『んー、あのウサギは勇者の魂を探しているみたいだったけど。正直なんの情報もないんだよ、君たち人間の方が勇者には詳しいんじゃないのかい?』

「いえ――そもそも我ら西帝国は、そのぅ、あまり自慢できるわけではありませぬが、正義の味方とは反対の立ち位置にありましたからな。どちらかといえば、勇者殿に狩られる側なのでしょうからな」


 ふぉっふぉっふぉと、賢者。


『そういやこの国、軍事帝国だったね』


「国のため、民のためとはいえ……。また行き違いや巡り合わせの悪さ。様々な事情はあれど、いくつもの戦争を経験した帝国でございます。全てが正しく大義があった戦争であったとはいえませぬからな――今さら取り繕ったりは致しませぬて」

『ふーん、達観してるね。まだ若いのに』


 私なんて五百歳を過ぎたのに、まだ色々と後悔やら葛藤やらが多いのにね。


「勇者殿に直接おうた事はございませぬが、世界の維持のために尽力なさった方と聞いております。まあ、我が国家は勇者の方々からすれば敵対国家でありましょう。情報など噂程度のモノしかはいってこないのですよ」


 ふむ。

 人間同士の事情は知らないけれど、百年の間に結構戦争もしていたみたいだし。

 最近まで教会が大暴れしていたし。

 魔族にとっちゃ知ったことではないが、人間の中にはこの帝国を悪と認定してる国もあるのだろう。


 ふと賢い私は気が付いた。

 唐揚げを魔力で浮かべてバグバグしながら、ニヤリと魔族の笑みを浮かべる。


『なるほどね、だから君たちはグルメ化計画を進めて私を帝国領土内になるべく惹きつけているのか。ロックウェル卿の羽も、彼がこの地に来訪している事の証拠にもなる。他国を脅かすには――まあ十分すぎるぐらいの手だよね』

「ふぁっふぁっふぁ、まあ否定は致しませぬぞ。大魔族である貴方様と少なからずかかわりがあると知れば、他の大陸の者も安易に攻めては来ませんのでな」


 ま、私もグルメを楽しめるのなら問題なし。

 おぬしもなかなかに悪よのう。

 と、時代劇ごっこをしようかと思った。

 その時だった。

 私のネコ眉が、ぴくりと何かを察知した。


「何事ですかな?」

『んー、なんだろう。時空にゆがみが――』


 ブウォン!


 目の前の空間が、歪む。

 おや、転移か。

 誰だろう。

 猫の瞳をくわっと広げる私の前に現れたのは――無貌の異界死霊。


 私の眷属である黒マナティの一体が、空間を転移して突如私の目の前に現れたのだ。

 魔王城の上空を守っているうちの一体、これは……。

 本体の黒マナティクイーンである。


『どうしたんだい急に』


 ワキョワキョワキョ。

 モキョモモキョ!

 黒マナティは身振り手振りで私に状況を説明し――。


 私は思わず、声を上げていた。


『えぇ!? それは本当かい!? うわー、マジか。想定してないよ、そんなの』


 どうしようか。

 ちょっと、猫毛がざわざわしてしまう。

 そんな私に目をやり。

 賢者もニワトリ卿も、顔を見合わせて。

 賢者の方が私に言った。


「ケトスさま、いかがなされたのですか? そのようなご反応はお珍しい」

『いや――大したことじゃないんだけど……魔王城がなにものかに襲われたって』


 私は猫の肉球をにぎにぎしながら言った。


 尻尾のお毛けがあらぬ方向にぶわっと広がる。

 さすがにそんなバカはもうこの世界に残っていないと思っていたのだが。

 勇者の件もある。

 ちょっと、私は狼狽しているのかもしれない。


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