三章後日談:ギルドマスター編 ~後編~
帝国領のギルド食堂にて起こった珍事。
大魔帝ケトスの降臨に、皆が騒然としている中。
ダークエルフの男は眼鏡を輝かせ、カカカカ――!
緊急にネコさま用の厨房を召喚し、自己強化魔術を発動。
使命だとばかりにギルドマスターのウィリアムは、眼鏡を輝かせ――。
「オレからの緊急依頼だ――全員、俺を手伝いケトス様の御持て成しにかかるぞ!」
吠えながらも、そのままタタタタタタ!
懐中時計型の”時を操る魔術”まで使いこなし、匠の技で包丁を鳴らし。
超高速で調理に入っている――。
並んでいくのはグルメの数々。
たまにしか来ぬ客やまだ入ったばかりのギルドの面々は、いつもは偏屈で皮肉屋のウィリアムの反応を不思議がっている。
だが、慣れ親しんだ者たちの反応はニヤニヤ。
新人の鑑定士、かつバイトの受付娘が言う。
「て、店長? な、なにしてるんですか――?」
「見て分からないのか!?」
「えーと、なんというかですねえ。ありとあらゆる魔導技術を使いながら、全力で調理してるように見えますけど……」
「たわけ! 分かっているのなら手伝え! ケトス様がいらっしゃっているのだぞ!?」
そこにあるのはギャグの空気。
フンフン――っと美形に似合わぬ鼻息すら漏らす、ダークエルフの珍妙な姿である。
唖然とする者と、いつものアレだと分かっている者が半々。
常連かつ、当時の事件に参加していた冒険者の一人が言う。
「はは、驚いたろ? ギルマスはあの一件以来、ケトス様の信奉者になってるからな。いらっしゃったらこうやって、最高の持て成しをするって決めてるんだとよ」
百年の恋も冷める顔で、例の新人娘が呆れの息に言葉を乗せていた。
「ああ、それでこう、残念な感じになってるんですね」
「俺の事はいいから、ケトス様を速やかにお席に案内しろ。出すお酒は」
「はいはいはい……最高級のマタタビ酒ですね。えーと、それじゃあケトス様、お席に案内しますね」
少女は店長の行動に適応し、行動開始。
ただ一見すると、彼女は普通に席に案内しているだけ。
怪しいところなどない――フィッシュアンドチップスの噂を聞き、そのまま路銀稼ぎにバイトをやっている少女だ。
だが、新人の彼女を見上げ、うにゅ~っと瞳を尖らせた大魔帝ケトスが口を開く。
『君、この時間軸の人間じゃないね?』
少女の背は露骨に揺れていた。
ぐぎぎぎぎぎっと首だけで振り返り、にっこり♪
「え? あははははは! まさかまさか、そんなそんな……。あたしのどこが怪しいって言うのよ!」
『うにゃはははは! まあ悪意がないみたいだから構わないけどね。それじゃあ席に案内したまえ! この町にはメチャクチャ恩を売ってあるからね、そして責任者の了承も取ってある! つまり! どれだけ食べても問題なし! さあ私のお腹は準備万端、いつでもウェルカムさ!』
ポンポンとお腹を叩く猫は、ニヤリ!
実際、宣言通り彼は大いに飲み食いし始めた。
◇
大魔帝ケトス降臨の日は、祭りで宴会の日。
ウィリアムの権限で行われている飲み会は大盛況。
飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎの中。
積み重ねられた皿の前。
落ち着きを見せた大魔帝ケトスに近づいたのは、例の謎の少女。
彼女は、えへへへと店長の恋の話に興味津々なのだろう。
「それで、結局店長ってどっちとくっついたんです?」
大魔族すら畏れないので、肝が据わっているのは間違いない。
大魔帝ケトスも少女の図太い神経に応じるように、ケプっとマタタビの息を吐き。
『答えは彼が言っていた通りさ、人間とダークエルフは寿命が違うからね。それにここで起こった事件を纏めた書物、物語に書いてある通り彼は転生者だ。その魔力の影響で更に寿命は延びる。それを理由に断って、そのままだよ』
「なんだ、つまんないの。てっきりあたしは、両方とくっついたんだとばかり」
『どうしてそう思うんだい? まさか、見たことがあるとかかな?』
ニヤニヤと訳知り顔で大魔帝ケトスは新人少女を眺めている。
少女は目を背けるが。
大魔帝ケトスの目線は、ずっと少女の顔を追っている。
「ああ、もう分かったわよ、分かりました! 確かにあたしは未来から来ているけれど、三人がどうなったのか知らないのよ! そもそもあの逸話の舞台がここだっていうのも、後から気付いたんですから!」
『ほへ? じゃあなんでまた、こんなド田舎に来たのさ』
肉球を衣の油で少し湿らせつつ、追加のオーダーをガツガツ食べ始めた大魔帝ケトスに彼女は言う。
「ここに来た理由なんて決まっているじゃない! 純粋にフィッシュアンドチップスが食べてみたかったから! どうよ! 悪い!?」
『立派な理由だね。でも君、まさかそのために時間旅行をしてるってことかい? 時間への干渉なんて、並み以上どころかほんの一握りしかできない筈だけど……、何者なんだい?』
「あら、それを言うのはタブー。タイムパラドックスが起きちゃうかもしれないから、言えないってのは、大魔術士であるあなたなら分かるでしょ?」
ケトスは瞳を細め。
『自覚があるなら安易な時間旅行は今回限りにするんだね、一つの過去を変えるだけで未来にはとんでもない変化が起きる。おそらく君とて時魔術を自在に操る大魔術士なんだ、バタフライ効果って言葉ぐらいは知っているんだろう?』
魔術師の先輩としての説教だったようだが。
娘は、ぷくーっと頬を膨らませ。
「だって、昔に食べたグルメの数々が美味しい美味しいって、お父さまがしつこくあたしを悔しがらせてたんですもの」
『へえ、性格の悪いお父さんもいるもんだねえ』
「ええ、まったくね」
何故か大魔帝ケトスをじっと見ている娘は、赤毛を揺らし。
アイテム収納空間を召喚。
そっと未来のお菓子を差し出し、やはりそっと大魔帝ケトスの前に献上。
「まあいいわよ。で? 本当はどうなったの?」
『全てを君に語ろう』
と、未来のお菓子をガッチリ確保――。
シリアスな顔でシリアスな声を出す大魔帝ケトスである。
『うにゃはははは! 答えは簡単だよ、鑑定娘……たしか正式な名はアリスくん……だったかな。君の前任者の鑑定娘のことだが、彼女は私の下で働き、その報酬を得ている。少し特殊なダークエルフの歳の取り方とまったく同じの老化になる、そして身近なダークエルフと近い寿命に自分を揃える、”大魔帝ケトスの手作り秘薬”を受けとっている。前払いでね』
「え? じゃあ」
『ああ、彼女はおそらくウィリアム君と結ばれるだろう』
恋の話には敏感なのだろう。
まるで恋に興味津々な女子高生のような顔で、うわ! っと口を開き。
「えぇぇぇえぇぇぇ! うっそ、じゃあマチルダさんのこと、捨てちゃったんだ」
『まあ、普通ならそうなるけど。君、私の逸話は知っているんだろう?』
「そりゃまあ、身内かってぐらいには知ってるわよ」
『なら、私と仮契約をしたままになって、そのまま本契約になったマチルダくんがどうなったかもわかるんじゃないのかい?』
彼女は魔術師の顔で考え……。
「あぁ……宇宙最強の大魔族との契約だから、職業も魔女から正式に伝説の大魔女に。その魔力によって寿命も老化も、だいぶ変わるでしょうね」
『そういうことさ。ちょうどダークエルフの人生と同じ位になる筈さ』
「つまり……」
察した少女に大魔帝ケトスが言う。
『私の未来視によると、二人を人の寿命の輪から外してしまった責任をとって――ウィリアム君は二人とも娶ることになるだろうね』
「うっわ、ハーレムじゃない!?」
『まあ両方共を愛せているのなら、そして本人同士が納得しているのなら――それでいいんじゃないかなあ』
自らも三人の妻を娶った大魔帝ケトスの言葉に、未来からやってきた少女は苦笑し。
「まあ、そうね。みんなが幸せになるなら、あたしもそれは否定しないわ。まあ、あたしは一途に一人のイケオジにしか恋をしなかったけれどね!」
『いや、聞いちゃいないし……』
「っと、いけない――今回の時間干渉はこれが限界みたい。悪いんですけど、店長や皆さんに軽く事情を説明して貰えます? それと、ちょ~っと時間を越える魔術の補助を頼みたいかなぁ……なんて。あははは!」
一頻り笑い、ガバっと顔の前で両手を合わせ。
「お願い! なーんか、挨拶する前に、元の時間に無理やり戻されちゃうみたいなんで!」
いつも頼んでいるでしょ?
ね? ね?
っと言いたげな顔に、大魔帝ケトスは呆れを隠さず。
『あのねえ君……いつもこんなことをしているのかい?』
「いつもじゃないわよ、今回だけよ?」
本当なんだからね?
と、念押しする言葉を、じっぃぃぃぃぃぃと見た魔王軍の最高幹部が言う。
『分かった、いつもやらかしてるわけだ……まったく、もしこの時代で君の父親を見つけたら説教しておくから、覚悟しておくんだね』
言って、大魔帝ケトスは元の時間軸に戻る魔術を即席で詠唱。
完璧な魔術式に、「こんな複雑な式を一瞬で!?」と。
少女が驚愕したその瞬間、魔術は既に発動されていた。
未来からやってきた少女は無事帰還したのだ。
少女を安全に見送り、はぁ……。
『もし私に娘ができたら、ちゃんと厳しく叱らないとダメだろうねえ。あれは絶対に親の、それも父親が甘やかしているテキトーさだ、うん』
大魔帝ケトスは未来視を発動。
ウィリアム達が幸せな家庭を作っている様子を眺め、マタタビ酒を傾ける。
彼が少女の正体に気付くのは、遥か先の話。
先ほどの言葉が誰に返ってくるのか。
彼女が誰の娘なのか。
大魔帝ケトスはまだ知らない。
三章後日談
ウィリアム編 ~おわり~
〇日常中心。
大きな冒険はありませんが、また不定期に更新予定です。
(ただ本当に不定期になると思われます…!)




