エピローグ ~魔猫と共犯者~(終)
かつて私が住んでいた地――遠き青き星。
魔術のない地球。
もう既に、魔王陛下の第一世界への帰還は済んでいる。
これは、歴史的な節目から数年経った後の話。
なのだが。
魔王様が既に移動ルートを確保している。
つまりは――うん。
当然! 腹心たる私!
素敵モフモフにゃんこな大魔帝ケトスも、時間差はあれど現地へ到着!
時刻は正午過ぎだろうか。
魔王陛下が海外全部を回っている間に、私は日本をとりあえず観察することになっているのだが。
ぶわぶわぶわ。
ビル風が私のヒゲとしっぽを、ボサボサボサっと揺らしていた。
ちょっと寒いね……?
てなわけで! 現地人に感知されないように、ビルの上からバリアをはりつつ。
じぃぃぃぃぃ。
赤い瞳で都会の街並みを眺めていたのである。
『くははははははは! 聞くがよい人類よ! そして頭を垂れよ! 我はケトス、大魔帝ケトス! 偉大なる御方、魔王陛下一の腹心なり!』
ビシ!
ズバ! うにょーん!
決めポーズを完成させながらも風に揺れるモフ毛。
今日もとっても素敵だね?
まあ、私の声は聞こえてないから、雰囲気作りだけなんですけどね!
さて、やることは決まっている。
この世界を救う事になる我が子達を迎え入れる!
その前に! 準備をする!
具体的には我が子らが住む家を購入したり、貯金をしたり!
軍資金を用意したい!
のだが。
うん、現実的な問題が待ってるんだよね。
ようするに、この世界で使う貨幣が一円たりともないのである。
いや、本当に着の身着のままの転移なのだから仕方ないんだけどさ!
けれど安心安全、こっちも頼りがいのある仲間がいる。
私と一緒に私の故郷を見たいと顕現したのは、二柱。
まあもう分かってるかもしれないが、ロックウェル卿とホワイトハウルである。
頼れる親友は、それぞれシベリアンハスキーのような獣毛を、ぶわぶわ!
ニワトリさんそのもののフォルムで、羽毛をもこもこ♪
決意を込めた顔で、街並みを眺め。
カカカカ!
『さて、せっかくケトスの本当の故郷に来たのだ!』
『うむ! まずはグルメ巡りを行うべきであるな!』
……。
おい。
観光気分でウッキウキなワンコとにわとりさんには悪いのだが。
私は魔王軍最高幹部の顔で、ぬーん。
『いや、その前にお金を稼がないと……私達、無一文だよ? 住所がないと換金もできないだろうし、わりとハードバランスなシミュレーションゲーム状態だよ?』
言われたワンコが眉間にシワを寄せて。
『魔術の有無の差はあれど、ここは似たような世界。かつてダンジョン領域日本だった地の貨幣と、通貨は共通しているのだろう? ケトスよ、汝はあの地で金を余らせていたではないか、それを使えんのか』
『あのねえ、紙幣って一枚一枚ちゃんと管理されてるんだよ? 下手したら通貨偽造を疑われるだろう? 世界を救う前に逮捕! なーんて展開は嫌だろう?』
納得するワンコの横。
極悪ニワトリロックウェル卿は、真顔のままでコケケケ。
『ならば金が余っていそうな悪人でも捕まえて、奪い取ればよかろうて』
『まあ悪人から奪い取るっていうのは、手段としてはアリだけど――まずは魔術の動作確認をしないとだね。魔王様の話だと、やっぱりこの世界はまだ魔術が安定してないみたいだし』
どれ……っとホワイトハウルが神獣の顔を作り。
天候を操作し始める。
むろん、大規模な魔術である。
もっとも主神クラスをとっくに超えているホワイトハウルなら、それも容易に可能で、この世界でも実現できたのだが。
快晴に切り替えた空を眺め、ホワイトハウルは尻尾を垂れ下げながら。
ガルルルル。
『ふむ、やはり魔術発動にタイムラグがあるのう――魔王陛下の帰還で、既に魔術発生の兆候がみられているが。まだ魔術式の干渉力は弱いまま……ほぼ魔術のない領域なのであるな』
『コケカカカ! そのようであるな!』
快晴となった空に翼を広げ。
鳩胸状態のささみ部分を温めながら卿が言う。
『なれど! 魔術が発動するのならば、どーとでもなるであろう! さあ、余はおいしい唐揚げを所望するぞ! なんたらおじさんのフライドチキンもこの世界にはあるのであろう!?』
キョロキョロっと首だけを左右にコケケケ!
あいかわらずマイペースだなあ、ロックウェル卿。
ホワイトハウルが瞳を細め。
じゅるりと涎を空から降らしながら、わふん。
『卿の言葉ではないが、実際問題、転移でかなり力を使ったからな、我も腹が空いてきたぞ。――ケトスよ、何かいつものようにセコい裏技はないのか。ほれ、こう、あるのだろう?』
ワンコは正真正銘の大神、この涎も神聖な涎。
下の人からすると、なんか元気になる天気雨状態になっているのではないだろうか。
まあ別にいいけど。
『そうだね――本格的にこの世界を救うなら、絶対に魔術には頼らないといけないんだし。だったらさ? 世界に魔術や異能をこっそり仕掛けちゃえばそれでよくない? 要領はダンジョン領域日本で実験済み、リセットもできるようにしておけば、もしうっかり地球が全滅しちゃってもやり直せるからね』
ここで私、華麗なる提案である。
私もお腹空いてきちゃったし。
金銭問題も、手っ取り早く魔術で解決したいし。
『ぐはっはははは! なるほど! 魔術や魔力、異能といった力がほとんど感じられないこの世界に、奇跡と力の源を新たに授ける。魔王陛下の生み出された魔術式、物理法則を捻じ曲げる現象の核を植え込むという事か』
『クワクワクゥゥ……ふーむ、しかし。そうなると、世界創生規模の力であろう? 魔術式が満足に動かぬこの異端の地で、実現可能なのであるか?』
問題はそこなのである。
しかーし!
この私は様々な冒険を果たした大魔帝!
私は友を邪悪な顔で見て。
チェシャ猫スマイル。
『にゃふっふっふ! 前提として、君たちが協力してくれるならだけどね――今の私ならたぶん可能だと思うよ?』
『まことか!』
『グハハハハハハハ! よいぞ、よい! それでこそケトスよ!』
三柱の結論は一致。
この地に、もっと本格的な魔術を発生させる!
ネコ肉球とワンコ肉球、そしてニワトリの翼が重なり合う。
魔王様の生まれた西暦元年。
あの日が第一の分岐点だとしたら――。
今日、この日が地球の新たな分岐点。
魔術式の生まれる日、魔術元年となるのだろう。
『どーせ、このままだと滅んじゃうみたいだし。やっちゃっていいよね?』
多数決というやつである。
『ぐははははは! ケトスがそう言うのなら構わぬ!』
『くわわわわわ! これは正義のためであるからな! 魔術式をもっと自由に使える世界に書き換えれば、余の見通す能力ももっと活用できるのである!』
そう、これは世界を救うため。
けっして、私利私欲のためなんかじゃない!
三柱は頷き。
私は魔術の核となる一つの魔道具をモフ毛から取り出していた。
『んぬ? なんであるか、その大量のクリスタルは』
『私の冒険の軌跡を綴った、記録媒体さ。まあこれは原本のコピーなんだけど――この中にはヤキトリ姫事件から今日にいたるまでの散歩情報が記録されてるってわけで』
二柱とも強大な存在。
私の意図するところを理解したのだろう。
ロックウェル卿が自慢げにくちばしの下を、翼で撫でながら。
『クワワワワ! ケトスよ! 理解したぞ! つまりその中には魔術、すなわち魔王陛下を因とした魔術式の多くが記されていることになる』
『我も理解したぞ、親友よ』
ホワイトハウルもまた、賢人の顔で黒い微笑をワッフッフ!
『理論に破綻はなさそうであるな。その冒険散歩の記憶をこの世界に蒔くことにより、この魔力乏しき星でも、魔術式の干渉力が増大する――すなわち、汝の冒険の記録こそが魔術の種となるのだな』
理解が早くて助かるね。
『そういうことさ! この記録クリスタルには私や、私が散歩で出逢った皆の心が詰まっている。心の強さは魔術の基本だからね。成功する可能性は極めて高い』
魔術のない日本の空に。
並列された十重の魔法陣が、無数に浮かび上がり始める。
記録クリスタルで魔法陣を生み出し、三獣神でその広がりをサポートしながら。
赤い瞳を邪悪に細め、悪戯猫の顔で私は言う。
『この記録媒体には途中からちょっと変化が起こってね。多くの何者かに覗かれていた形跡があるんだ。もしかしたら――異世界からこの記録クリスタルに接続していた存在が、いるのかもしれないね――』
魔猫の肉球が、魔術を刻む。
大規模儀式を行う空に、赤い魔法陣が更に膨らんでいく。
その最中。
『我らの散歩を眺めていたモノ、か』
『クワワワワワワ! 笑止! 余の麗しさをそれほどに見たかったと!?』
第四の壁をニヤニヤと眺めるように。
私は告げる。
『きっと、その人たちの心も魔術発生のきっかけとして利用できるだろう。長い冒険だったからね、ずっと、ずっと……一緒に散歩をしてきたといえるだろう。心は力。きっと、そこには――魔術的エネルギーも発生している筈。これを活用しないのは、もったいないだろう?』
てなわけで!
大魔帝ケトスたる私は、プリティな肉球をピカピカに輝かせる。
赤い瞳も、ギラギラギラっと輝かせる!
ざざざ、ざあぁあああああああああぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!
魔術の種。
記録クリスタルを魔法陣にセットし。
ニヒィっと更に邪悪スマイル!
こちらを覗いている誰かを肉球で指差し!
『現代日本を襲う魔術発生現象。君たちはその共犯者となる、つまり!』
ででーん!
っと、私は超かっこいいポーズを取り。
モフ毛をモコモコモコっと膨らませる。
『私達だけのせいではない! ということなのニャ!』
よーし!
完璧な理論武装で責任回避も大成功!
くはははははははは!
くはははははははは!
グハハハハのクワワワワワ!
三獣神の哄笑と共に。
この日。
現代日本に、魔術という名の私の冒険散歩の記録が――!
バラまかれたのだった!
殺戮の魔猫
~くはははは、知らんのか! チーズは空気に触れると鮮度がおちる~《完結》
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本日の更新にて、
「殺戮の魔猫 ~くはははは、知らんのか!
チーズは空気に触れると鮮度がおちる~」
は完結となりました。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
※皆様のご意見や、ご指摘、応援、誤字脱字のご連絡等。
本当に励みとなっておりました。
◇以下、別作品のご案内です◇
一)2022/1/03に世界観を共有したローファンタジー作品、
「危険度SSS:最強チート女子高生は静かに暮らしたい ※なお、ふつうには暮らせないようです。」
https://book1.adouzi.eu.org/n3141hk/
の連載が開始されました(完結済み123話)。
こちらは大魔帝の娘を主人公とした姉妹作品となっております。
※後日談が気になるという方は是非。
二)2022/4/23(土)に、神猫の視点から世界を眺めるハイファンタジー。
「ぶにゃははは! ヒーラー魔猫に土下座せよ!
~世界で唯一蘇生魔術を扱える存在が、ネコだった世界~」
の連載開始いたしました。
https://book1.adouzi.eu.org/n2074hp/
※こちらも大魔帝の物語を知っていると、
より深く話が理解できる物語となっております。
それでは――。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
(ニャンコの冒険を一緒に読んでいただけて、とても嬉しかったです!)




