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エピローグ:炎帝ルート ~王の凱旋~



 魔族に属する一種族。

 精霊種。

 魔王軍幹部たる魔帝、そして魔王軍最高幹部の側近を生み出した精霊国。


 彼の国は今、ちょっとしたお祭り状態。


 精霊王にして炎の大精霊ジャハル。

 そして魔王軍最高幹部、大魔帝ケトス。

 王の帰還と大魔帝の訪問に活気だっていたのだ。


 まあ、大魔帝って私の事なんですけどね!


 炎の精霊と氷の精霊の護衛を引きつれて、私は祭りの屋台を全盛期モードで巡回中!

 カッシャカッシャと石畳みを歩む、ネコの爪音がしている。

 赤き瞳をカッコウよく細め――私は言う。


『凄い歓迎であるな。ぐははははは! よいよい! 魔力で満ち満ちているではないか!』

「ケトス様はいつも忙しくしてましたから、あんまりウチの国に来てくれなかったじゃないっすか? だから、民たちはいつかケトス様を直接見たい! って思ってたみたいっすからねえ、それでこれっすよ」


 と、苦笑気味に微笑んだのは、炎帝ジャハル君。

 魔としての我が伴侶。

 そう、今日はジャハル君の家族に挨拶にきた、という側面もあるのだ。


『ぐはははははは! すまぬな! 我もいつかはまたと思っていたのだが、直接的な訪問の回数がどうしても減ってしまっていた。我の反省すべきところであるな!』

「まあ、大魔帝ケトス様の訪問となると準備も大変っすからねえ。あんまり来られ過ぎてもそれはそれで家臣たちは困るんすけど」


 お偉いさんを出迎える準備の大変さは私も知っている。

 これでも最高幹部だからね!


 それにしても――。

 パレード状態となっているこの場で上がりまくっている歓声と熱気に、私は全盛期モードのままイカ耳。

 ちょっと怯んだように耳を後ろに下げていた。


『しかし、人だかりが本当にすごいことになっておるのう』

「いや、そりゃそうでしょうよ。なんていっても、”あの”大魔帝ケトス様の訪問っすよ? そりゃ、こうなりますってば」

『ふむ、それにしても少々――これは仰々しすぎるのではないか』


 私としてはあくまでもご両親たちやご家族にご挨拶。

 ごごご。

 頭に「ご」がつきまくる、大事な行事。

 ようするに、大魔帝としてではなくプライベートな訪問ぐらいの感覚だったのだが。


「あんた……自分がどれだけ魔族のために動いていたのか、自覚ないんすか?」

『ふむ。まあ頑張ったなぁとは思っておるぞ?』

「なら分かるでしょうが……」


 女帝モードで結い上げている炎の髪を揺らし。

 炎のドレスをしゃらん。

 ジャハル君が覗かせた肩を落として。


「精霊種は昔に虐げられていたり、魔族の中でも新参で立場が弱かったっすから。それでもオレを重用してくれたってことで、マジでケトス様は現人神みたいなもんなんすよ? いや、あんたは純粋な人じゃないから言葉のアヤがあるっすけど! そもそも本当に神っすけど! それに、オ、オレと……そういう関係になっているっていうのは、みんなもう、知ってますし――とにかく、言いたいことは分かるっすよね?」

『ぐはははははは! 歓迎されていることは分かっておるわ!』


 国民たちに向かい、私は肉球前脚を掲げ!

 ペカー!

 幸運の祝福をかけまくってやったのだ!


 くらえ! 幸運ビーム!

 精霊国の民が私を拝んでいたので、ふふーんと私はドヤ顔をし。

 鼻をスピスピと膨らませていた。


 せっかくなのでペカーペカーっと遊んでいると。

 センサーに何かがひっかかる。

 全盛期モードの私の耳が、ぴょこんと立っていた。


『ん? あの魔力は――』

「やっほー! ケトスさま、姉さん! こっちよ、こっち!」


 行列の中で手を振っていたのは、月の花の精霊。

 ジャハル君の妹の、蒼帝ラーハルくんである。

 ジャハル君が私の補佐で忙しい時に、この国を支えてくれている精霊王代理でナンバーツーでもあるのだが。


 その手には、人間界から取り寄せたお神酒が握られている。

 頬もめちゃくちゃ真っ赤になっていた。

 家臣たちの前だからだろう、女帝モードの口調でジャハル君がジト目を光らせる。


「ラーハルよ……そなた、どれだけ飲んでおるのじゃ……」

「だってー! 今日はおめでたい日でしょう? 無礼講だって、ホワイトハウル様がお神酒を振る舞ってくださっているのよ?」


 そのままラーハル君は私に抱き着き、続いてジャハル君に抱きつき。

 ふふふふふっと微笑んでいるのだが。


『ふむ、ラーハルよ。我が友、ホワイトハウルが来ておるのか?』

「いらっしゃっていますよ? あれ、ご存じなかったのですか?」

『まぁぁぁったく、聞いておらぬ』


 まあロックウェル卿がラヴィッシュ君に会いに来ていたのだ。

 ホワイトハウルが精霊国に来た理由も読めている。


『すまぬ、我が側近よ。友が既に王城で暴れているようであるな』

「暴れているかどうかは分からないっすけど、来てるのは確かみたいっすねえ」


 私達は、ジャハル君の両親も療養している王城を眺め……って。

 なんか無駄に明るい光が二つあるな。

 あれは――。


『蒼帝ラーハルよ、あの光はもしや』

「ええ、大いなる光様も導き様もいらしてますよ? もう既に、けっこうお酒もすすんでいますし。ふふふ、だーかーらー。今日の主役の姉さんと、ケトス様を連れに来たんじゃないですかぁ」


 と、悪絡みするように妹帝。

 姉に抱き着く妹の図である。


 ズリズリズリと妹を引き摺り、ジャハル君が炎を揺らす。


「分かったからっ、分かったから離れよ! だぁぁぁぁぁぁ、おまえ! わらわのドレスで焼き豚の脂を拭くんじゃない!」

「いやよ! だって姉さん、お嫁に行くみたいなものでしょう? 今日ぐらいは、姉さんをたっぷりと堪能したっていいじゃない! いいなあ、姉さんには愛してくださる旦那様がいて。ちょっと嫉妬しちゃうなあ、わたし」


 出逢ったころよりかなり明るくなったとはいえ。

 普段はわりと冷静で皮肉も漏らす女性なのだが――。

 相当飲んでるな、こりゃ。


 私の横で、ジャハル君はかぁぁぁぁぁっと顔を赤くさせ。


「ラ、ラーハルッ、そ、そんなこといって! たたた、ただ浴びるほど飲む理由にしてるだけであろう!」

「姉さん、照れてる~!」

『ふむ、たしかに照れて真っ赤になっておるな。ぐははははは! 愛いやつよ!』


 私とラーハル君で邪悪コンビとなり。

 ニヒィ!


「がぁぁぁぁぁぁ! すーぐそうやって結託するんすからっ!」

「いいじゃない、もう家族なんですし。義兄さんと仲が良い妹に感謝した方がいいんじゃないの?」


 からかうように言って、しかしラーハル君はふと我に返り。


「ごめんごめん、こんなことしている場合じゃなかったんだ。姉さん、ちょっと真面目な話、いいかしら?」

「ん? そ、それは構わぬが――どうしたのじゃ?」


 酔いを浄化の魔術で直し、ラーハル君が真面目な口調で言う。


「ホワイトハウル様をはじめとした天界の方々がいっぱい来ているの、お祝いに来てくれたみたいなものだからありがたいんですけど――お父さんとお母さんだけじゃあ、対応しきれてないのよね。無礼講とはいえ、やっぱり相手は主神ですもの。国として失礼があったら困るでしょう? 悪いけど、精霊国の王としてお相手して貰ってもいいかしら?」

「なるほど、わかった。すぐに妾も向かう。えーとケトス様――」


 目線を送られた私は頷き。


『我も向かう、なれどここに集ってくれた民にもちゃんと祝福を授けてやりたいのだ。炎帝よ、先に向かってくれるな?』

「承知いたしました――ラーハル、その間のケトス様の護衛を」

「分かっております。それじゃあ悪いけど、お願いね。姉さん」


 瞳で頷いたジャハルくんの身体が消える。

 転移したのである。


『さて、ラーハルよ。おそらくホワイトハウルの命で我に何かを言いに来たのだろう。申してみよ』

「さすがケトス様。お見通しなのですね」


 敬語と砕けた言葉のちょうど中間のような声音でラーハル君が言う。


「ホワイトハウル様からの伝言です。この場でよろしいでしょうか?」

『構わぬ』


 魔族の一員としての声で、妹帝は声を上げる。


「我が友、いや魂の親友大魔帝ケトスよ。汝と炎帝との子、必ずや我が偉大な結界使い、偉大な炎熱マスター、ありとあらゆる魔道具を支配する強者に育ててみせる。子育ての手伝いは我に任せよ? 分かったな? べ、別に、ロックウェル卿に先を越されぬように、肉球を打っているわけではないぞ? とのことです」


 まーたこのパターンか。

 まだそういう新たな命は授かっていないのだが。

 まあ、ロックウェル卿は先を見通す者、ホワイトハウルはああみえてガチで神聖な大神。

 子を宿す運命を把握していてもおかしくはないのだが。


 むろん、私はジト目である。


『まあそういう流れになるとは思っておったが、解せぬな。なにゆえに炎帝を先に帰還させたのだ?』

「姉さんの前で子どもの話なんかしたら、一大事。恥ずかしさのあまりにこの場で燃え上がって、大惨事になると思いません?」


 ものすごいありそう。


『気を使わせたようだな、すまぬ』

「今ならホワイトハウル様たちが場を掻きまわしてますから、お父さんとお母さんとの挨拶もしやすいんじゃないかなって。あ、あと一応伝えておきますが――これは大いなる光様からの伝言です。ぷぷぷー、やいこの暴走駄猫! 天界の民で場を温めておくから、うまくやりなさいよ! とのことです」


 ホワイトハウルも大いなる光も、けっこうこういう時って茶化すからなあ。

 しかも、大いなる光は酒豪。

 うっかりなにをやらかすか分からない属性も持っている。


『なるべく早く戻った方がよさそうであるな……』

「はい、そうしてあげてください」


 言った直後。

 ラーハル君は、青い炎の吐息に乗せて――安堵の声を漏らしていた。


「あーあ! 姉さんもこれで誰かのモノになっちゃうのかあ」

『ほう――我では不服か?』

「そんなわけないってわかってて聞いてますよね? 一番好きな姉さんと一番好きな人が結ばれるんですもの。わたしはとても、嬉しいんです。けれど――」


 ちょっと困ったような。

 複雑な笑みを浮かべて彼女は言う。


「姉妹ですから、ちょっと悔しいって気持ちもあるんですけどね」

『悔しいとな?』

「ふふふ、ごめんなさい、気にしないでください。でも、やっぱりそっかあ。ケトス様って、お姉ちゃんの気持ちにずっと気づかないぐらい鈍感だったから。分からないですよね」


 お姉ちゃん。

 ラーハル君はいつもの姉さんではなく、お姉ちゃんと呼んでいる。

 きっと、心がこもっているのだろう。


 細い指を胸に当て、ラーハル君はそのまま続けて口を開く。


「お忘れかもしれませんが――わたしもあなたに救われた命なんですよ? だから。わたしも大魔帝様の事を、ちょっといいな~って思っていた時期もあったんです。もう時間も経っていますから、昔の話ですけどね」

『ふむ、そうであったか――すまぬな。我はその、そういうことには鈍いようでな』


 愛しきモノの妹が言う。


「でも鈍いからこそ、奥手のお姉ちゃんでもこういう関係になれたのかもしれません。だってお姉ちゃん、あの時からずっとあなたが好きだったのに、ずっと、ずっと――、一歩も二歩も引いていたんですもの。ちょっと、もどかしかったんですけど。ま、結果良ければ全てよし、かもですね」


 妹帝が、国民の歓声の中で笑んでいる。

 彼女もまた。

 私の冒険、私との出会いで変化があった者の一人なのだろうか。


 私はゆったりと瞳を細め。


『我は必ず、汝の姉を幸せにしてみせる。案ずるな、我は猫と人と違い、こう見えて一番紳士であるからな』

「信じていますよ? ケトス様。お姉ちゃんを泣かせたりしたら、許さないんですからね!」


 なーんて、と微笑み。

 ラーハル君は、深々と頭を下げた。

 その魔力は、月の花の輝きを放っている。


「姉さんを、我が国の王をよろしくお願いいたします」

『任せておけ、我はケトス。大魔帝ケトス。魔王陛下に誓って必ず、汝との魔導契約を果たすと約束しようではないか』


 愛しきものがいない裏。

 こっそりと結ばれた魔導契約。

 私は彼女を必ず幸せにする。


 いままでずっと甘えていた分、恩返しとはまた意味合いは違うだろうが。

 目指す結果は一つ。

 ずっと支えてくれた愛しきあの者を幸せにする。


 そう私は誓い、彼女の民たちに祝福を授けた。

 温かい太陽が――。

 精霊国を照らしていた。


 ……。


 と、綺麗に終わりたい所だったのだが。


 キイィィイイイイイイイィィィィン。

 ――と。

 光の波動が王城を照らし始めていた。


 これは大いなる光とホワイトハウルのしわざだろう。

 おそらくは……。

 酔い過ぎた大いなる光を諫めるワンコの聖なる光なのだろうが――。


 光がどんどんと強まっている。

 ガルルルルゥと獣の唸りも聞こえている。


 困った様子でラーハル君が言う。


「ケ、ケトス様? そろそろ戻りませんか、なんか、本格的にやばそうな気が……」

『う……うむ、そうであるな――』


 まあ、たしかに。

 あの二柱が暴れているところを止める形で乱入すれば。

 ご両親との挨拶もかなり省略できる。


 いやあ、偉大なる私であるが。

 畏まったああいう挨拶って苦手だからねえ。


 ある意味これも助け船だと、私は国民に祝福を授けながら。

 ぐはははははは!

 モフ毛を膨らませ、空を駆けたのだった!



 《終》

《次回》

エピローグ勇者編

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