我が側近の心 ~古き神々の悪戯~
聖母騒動も一応の解決。
魔王城も人間界もダンジョン領域日本も、夢世界も平和になった。
それはいったい誰のおかげでしょうか?
それはもちろんこの私!
立てばモフモフ、座ればふさふさ、歩く姿はスマートキャット!
そう!
大魔帝ケトスの活躍に他ならない!
ででーん!
もうこれ以上の事件が起きることはない。
そう思っていたのだが。
目覚めるとそこは未知の領域。
目の前は真っ暗で、深層心理へと続く階段が広がっている。
この現象には覚えがあった。
ぎしりと前足を顎に当て、賢き私はこういった。
『ふむ、これは我。誰かの夢世界の中にいるな?』
と。
そして呟く咢は全盛期モードのモノ。
なぜか素敵にゃんこモードでも、不敵な神父モードでもない。
寒かったので、毛布に入ってぐっすりと眠っていた筈なのだが――。
ともあれこれだけは、確か。
気が付けば誰かの夢と接続されていたのだ。
犯人はあの聖母達ではない。
ではいったい……。
凛々しき眼光をうにゅっとさせ悩んでいると、温かい炎が背後に浮かび上がってくる。
敵ではない。
この気配と魔力はよく慣れている。
「ケトス様!? なんでこんなところにいるんすか!?」
『どうやら炎帝よ、そなたの夢の中に巻き込まれているようであるな』
そう、ここはどうやら彼女の夢の中。
炎帝にして精霊国の女王。
そしてなにより我が側近、頼れる部下のジャハル君である。
今のジャハル君は女帝モードではなく、アラビアンなランプの精に近い状態だった。
燃える炎と身体が、寒い中ではとっても心地よい!
彼女もこの状況を理解していないようで、なぜか私をじと目で見て。
「ケトスさま……またなんかやったんすか?」
『どーして、そう我を疑うかのう……』
「へぇぇぇ。そう、おっしゃいますけど。前科何犯だと思ってます?」
うっ、正論攻撃である。
どう誤魔化してやろうかと思っている私に近づき、ジャハル君は表情を緩め。
女帝の声音で口紅を動かして見せる。
「冗談ですよ、来てくれて安心しました。どうやらオレの方が先にここにいたみたいっすから……オレが何者かに出し抜かれたとみるべきっすね」
『解せぬな。今の汝は魔王軍でも例外を除けばトップの実力者。我が側近の不意を衝くなど……ありえぬ』
普通ではありえない。
ありえないが。
ジャハル君も同じ事を考えたのだろう。
「ええ、オレがワンオペで魔王城を回していたわずかな時間に、なにか仕掛けられたのかもしれません。なにしろ意識を魔王城維持に集中していましたっすからねえ……」
『んーむ……まさかこんな事態になってしまうとは、すまぬ』
ちゃんと謝罪できる私、とっても偉いね?
「あんたのせいじゃないっすよ。てか、覗きの反撃を受けてイモばっかりみていた他の連中が悪いんですし……って、べ、別に魔王様を批判してるわけじゃないっすよ!?」
『分かっている。しかし、我がこの全盛期モード……猫でも人でもない、魔の姿で固定されているというのはどういうことか』
周囲をキョロキョロしながら出口を探すのだが。
都合よく、階段が目の前に現れていた。
なぜか深層心理、つまりジャハル君のドリームランドへ続く道が輝きだしたのである。
私達はやはりジト目で、じぃぃぃぃぃ。
「おりて行けってことなんすかねえ……」
『であろうな――』
あの迷惑聖母の干渉ではないのなら、いったい誰が……。
まあ犯人はかなり限られているだろう。
しかし、ジャハル君のドリームランドというのはちょっと興味もある。
『では参ろうか』
「いやいやいや、あんた、ドリームランドの能力者でしょうが! そっちのドリームランドを経由して帰りましょうって」
『しかし、これは明らかに意図された現象――何者かの意思により、我らはここに閉じ込められている。いまここから脱出しても、どうせすぐに同じ現象が起きると我は思うぞ?』
言って、カッシャカッシャカッシャ。
滑らないように猫爪を出しながら階段をチェック。
はぁ……と大きなため息をついて、ジャハル君もついてくる。
「あんた、面白がってますよね?」
『ぐははははははは! 面白がるに決まっておろう!』
全盛期モードの私と炎帝が、螺旋階段を下りていく。
途中の踊り場で肉球が止まる。
周囲に無数の扉があったからだ。
夢とは記憶の整理をする場所でもある、彼女の記憶が中に収納されているのだろう。
ギィィィィィィ。
ジャハル君が扉の前に立ち、用心しながら慎重に扉を開ける。
「これは――オレの記憶っすねえ」
『そのようであるな。これは我が出張している時の様子であるな――……』
内助の功というべきか。
私が留守にしている間、本当にジャハル君はよく働いてくれているようだ。
ジャハル君は、ふふーんと女帝スマイルをしてみせ。
「どうっすか? この働きっぷり、やっぱアンタにはオレがいないとダメなんじゃないっすかねえ?」
『ああ、そうであるな。汝がおらぬと、おそらく我は酷く困ってしまうであろうな』
「な、ななななな! なに真顔でいってるんすか!?」
必殺!
相手のからかいにちゃんとした答えで返す攻撃!
ジャハル君が動揺した様子で、ぎょっと炎の髪を揺らめかせるも。
すぐに落ち着きを取り戻したようだ。
頬を赤くしつつ、私を正面から睨み始める。
「あんた、面白がってやがりますね?」
『ぐははははは! だからそうだと言ったであろう?』
上司と部下の会話の最中も、もっと奥に行けと光の先導が道を照らしている。
誘導されているというのはちょっと気に入らないが……。
……。
「それで、まあそれはいいんですけど。真面目な話、どうします? 今ならこのまま引き返すこともできそうっすけど」
『せっかくだ、相手の誘いに乗ってやるのも一興。汝も、かの大魔帝が逃げたと思われても面白くないであろう?』
魔族としての貫禄ある声で言ったからだろう。
ジャハル君も畏まった声で、返してくれる。
「分かりました。それではお供いたします――参りましょう、ケトス様」
私達はそのまま、階段を下る。
ジャハル君の深層心理を進んだのだ。
◇
十分ほど進んだ先。
記憶を纏った夢の泡が周囲に浮かぶ空間。
そこに、厳重に封をされた扉があった。
「光が示しているのは、ここのようっすねえ……」
『ふむ――封印が施されているようだが、なにか心当たりは?』
問われてジャハル君は顎に指をあて。
「さあ、なんすかねえ。ここはオレの意識や記憶を管理している場所……っすよね? そこで封印されてるってことは、無意識かもしれないっすけど――オレが封じているってことでしょうし……って! なに開錠の魔術を使ってるんすか!?」
問われて私は全盛期モードのまま、ぶにゃ?
モフ毛を膨らませた首を横に傾げてみせる。
『窃盗や脱走、鍵開けは猫魔獣たる我の領域であるが?』
「封印してるんすから、開けちゃあ駄目でしょうが!」
『しかし光の導きはここを示しておるしのう……』
開錠のマジックキーを空に浮かべる私の横。
ジャハル君が大魔帝の側近顔で言う。
「光と導き? もしかしてこれって――」
思い浮かんだ考えを肯定するように、私も渋い声を漏らす。
『であろうな。大いなる光と、大いなる導きが関与しておる。そしておそらく、我と汝を夢と現実の狭間に閉じ込める力を持っておるとなると』
「魔王陛下たち、ですか」
苦笑しながら私は頷いていた。
「となると……犯人は古き神。そういやあの人たちが揃って何かを会議してましたからねえ……なにやってるんだか、あの方々も……」
『まあ魔王陛下が絡んでいるのなら、害はあるまいて。なにしろあの方は我を愛しているのでな!』
むふーっと飼い猫としての愉悦を噛み締める私。
巨大神獣姿でも、とってもキュートだね?
魔王陛下を信用せよ。
私の考えを否定する気はないのだろう。
ジャハル君は長年の付き合いを示すような、阿吽の呼吸で頷き。
「しゃあないっすねえ。ちょっと心配っすけど……どうせ、止めても無駄でしょうし。んじゃあまあ、行ってみますか」
『ぐはははははは! 分かっておるではないか! さあ行くぞ! 我が側近よ!』
私達は開錠に成功した世界。
炎帝ジャハル君のドリームランドへと潜入した!




