大いなる聖母ノ晩餐 ~〇〇〇〇は死なない~
雪のダンジョンと化した迷宮の最終フロア。
赤き瞳に照らされるのは、重厚な扉。
ギギギギギィィ。
ゆっくりとその扉が開かれていく。
大魔帝ケトスたる私がいつもの演出で、ゆっくり開けたのではない。
扉……半分凍ってて、動かしにくかったんだよね……。
内部には既に敵が待っていた。
クリスマスプレゼントのような包みや、お菓子の家具が並ぶ中。
黒山羊は存外にモコモコな身体を膨らませ、何かをモシャモシャ食べている。
わざと隙を作っているのだろう。
『このまま不意打ちで退治してあげてもいいけれど――こちらには気づいているんだろう? どうして振り向かないのかな? それとも、ずっとそのカウンターの魔術を溜めているつもりかい?』
問いかける私に、黒山羊はゆらりとシルクを翻すように振り向いた。
「ふふふ、気づいていたのね」
邪悪な魔力をドレスの様にまとった黒山羊が、悪魔にも似た瞳を細めていた。
白山羊がそうであったように、黒山羊もまた聖母のヴェールを纏っている。
その印象は、かつてであった黒聖母――サタン・ムエルテ神に少し似ているだろうか。
まあ、見た目はまんま二足歩行の黒山羊だけど。
皆が結界を張る中、私だけは足を進め――。
すぅっと頭を下げてみせる。
『私はケトス、大魔帝ケトス。自己紹介は不要かもしれないが、どうかこの名を覚えておいて欲しい』
「覚えていますとも。ああ、そうね――アタシも自己紹介が必要かしら」
告げて――カツン。
黒山羊は身に纏う闇のベールごと体をズズズっと持ち上げる。
悪女を彷彿とさせるしぐさで、山羊は妖しく微笑した。
「アタシの名は黒の聖母。ありとあらゆる聖母の力を扱えるもの、救世主を産む者。マリアと名乗ってはいるけれど、あなたが知っているあのマリアではないわ。まあ、その力と目的は継いでいるのかもしれないけれど――」
『目的ねえ……白い方の君から聞いてはいるけど、私の子供をなんちゃらって話は本当なのかい?』
問いかけに、くすりと女は微笑んで。
「ええ、本当よ。だからアタシはずっとあなたを観察していた。様々な聖母候補、様々な出会いを眺めていた。あなたこそが次代の聖父になる、そう、救世主の父にふさわしいと認めてあげるわ。だから、そんなに怒らないで頂戴な。なにをそんなに怒っているのかしら?」
『君に問おう――少女の心臓に寄生し、愛の魔性化させたあの事件に何の意味があったというんだい』
私の推察では、おそらくあれは実験。
人間の愛を探る研究を、哀れな少女で行っていた。
「どうせ死んでしまうはずだった少女よ? アタシが心臓に力を授けなければ死んでしまっていた、儚い小鳥……救ってあげた対価に、アタシの研究に付き合ってもらった。それってそれほど悪い事かしら?」
『研究ねえ……』
あの少女の心臓病は元からだったのか。
それともこの聖母のせいなのか。
事実がどちらなのかで、かなり言葉の印象も変わるのだが――。
『君は、君自身の行動を恥じることなく――公言することができるのかな?』
睨む私に、女は否定せずに微笑んだ。
それが、答えなのだろう。
探る私の赤い瞳を逆に睨み、黒山羊の口がメェと動く。
「あなたがいけないのよ、大魔帝ケトス。あなたは冒険の中で様々な出会いを果たした筈、多くのフラグを肉球につかめたはずなのに、全てのフラグをあなたは破壊して回った。無自覚でしょうけどね、ずっとずっと、色んな女性の淡い心に気づかずに……通り過ぎてしまった。ちょっと呆れてしまうわね」
言われて私は眉を顰める。
敵で間違いない。
ならば――。
『君の言っている言葉の意味は理解できないが、一つ分かったことがある』
猫手に魔力を溜めて、私は肉球をパチン!
影を纏い。
ざざざ、ざぁあああああああああああああぁっぁあぁ!
『やはり君は邪悪だ! 話は君を捕まえてからにするよ――!』
黒衣の神父モードにチェンジ!
ある程度の力の調整を可能としたのである、黒猫のまま暴れると危険だからね!
私の影が波打ち、じゃぱじゃぱ!
闇ネコの集団が伸びた!
にゃにゃにゃにゃぁぁぁぁぁ!
麗しい美壮年神父の影から、ネコの柱が飛び出している。
そんな光景を想像してもらえばいいだろう。
「師匠! 結界は任せて下さい!」
「やるわよ、みんな!」
きいぃぃぃぃぃぃん!
打ち合わせ通り、皆が世界を守る結界を展開!
私が神父モードである程度本気を出しても問題ないように、他の全員で世界を守る戦闘フィールドを形成。
結界の中で、世界を壊さぬ戦いをする!
それが今回の最終決戦。
最終決戦と言い切る理由は単純。
ここで、絶対に逃がさずにケリをつけると、この私が決意したからだ!
『君は必ずここで仕留める、チェックメイトだよ。黒聖母、ブラックマリア!』
ざぁぁぁぁぁぁ!
私の闇から生まれた黒猫の影が、聖母を包むように襲い掛かる。
壁一面に、ネコの瞳と口の形が浮かびあがる。
戦いの気配を察したのだろう。
けれど。
闇に包まれても、女は笑っていた。
くすっと、黒山羊聖母が邪悪に笑んでいたのである。
「せっかちなのね、嫌われるわよ――だからあなたは朴念仁。まあ、それもここまで。アタシが大人にしてあげるわ、坊や」
山羊のモフ毛を逆立てて、ブラックマリアは両手を広げる。
万華鏡のような魔法陣が、ぐるりぐるり。
蹄の先で回り――。
ガガガガガァアアアアアアアアアアァッァアァァ。
結界を抉るほどの魔力が、大地を薙ぐ。
女の黒いドレスが、杯の形となって周囲を取り込んでいた。
これは……っ。
『闇猫よ――戻れ!』
直後――!
闇猫の纏わりついていた猫空間が、歪む。
ジャガァァアアアッァァァ!
不可視の牙が、砂利を抉る音を立て空間を破壊していた。
女は黒いドレスの周囲の空間を取り込むように、山羊の口をモコモコモコ。
毛玉の様に固まっていた私の闇猫。
その魔力残滓を喰らっていたのだ。
間一髪。私の眷属は無事。
戻すのが遅れていたら、取り込まれていた。
「あら、残念。あなたの眷属、とても強いから利用してあげようと思っていたのに――勘がいい? いえ、経験則かしら――あなた強運だけで戦っているわけじゃないのね、とても強い。ええ、とても強い。やはり、あなたに決めたわ。あなたこそが救世主の父にふさわしい! そうでしょう!」
この最終フロアでただ待っていただけではなかったのだろう。
黒聖母の周囲には、マリアの象徴である青色の魔法陣が多重展開されている。
皆に向かい、私は告げる。
『それじゃあちょっと本気を出すから、みんな、ここからは君たちも全力で結界を頼むよ』
「やっちゃいなさい! ケトスっち!」
腕を上げてヒナタ君が聖剣をぐるんぐるん!
勇者の統率の力を発動する。
人間とは個にして複数、複数にして個。
統率されることによる、いや、互いに協力することにより力を発揮する種族。
勇者のヒナタ君には、バラバラの力を束ねる能力がある。
前にも告げたが、それこそが勇者の強さなのだ。
全員が全員、集中する中。
影に全ての闇猫を戻し――すかさず私が翳したのは、聖者ケトスの書。
表紙の聖印。
ホワイトハウルの肉球スタンプが、輝く。
『主よ、聖霊よ! わが友の幻影を同胞とせよ――汝が御手を歪曲せし、邪悪なる信徒を打ち払い給え!』
即興奇跡:《原初を喰らう審判魔狼》が発動――!
黒聖母に対応した神の奇跡を行使したのだ。
ワォォォォオン!
咆哮を上げる神狼の幻影が、前足を振り下ろす。
ズジャァァァァァ!
効果は原初の封印。
古き神たちは、それぞれ第一世界の神の力を魔術式として利用している。
ならばこそ、第一世界に干渉することにより、原初を遮断させることも理論的には可能。
結果として、聖母マリアとしての能力を削除できるはず。
なのだが――。
肉球スタンプは黒山羊を素通りし、効果を発揮せず。
って!?
『レジストされた……っ! この私の魔術が!?』
「あなたの知っている魔術だけが世界の全てじゃない。そうでしょう?」
こいつ、なんらかのインチキで聖母の力をこちらの世界にそのまま持ち込んでいるのか。
ならば――!
聖書を闇の魔導書に切り替え、詠唱を開始。
しかし女は微笑していた。
「隙だらけ――! アタシをただ美しいだけの聖母だとは思わないで頂戴な!」
『美しいかどうかは知らないが、油断はしないでおくさ――さあ、友よ時間稼ぎをしておくれ。《闇猫救世主の魔剣弾!》』
私の影からモキュ!
黒マナティーと血塗られた栄光の手が顔だけを出し。
いや、まあ黒マナティーには顔がないし……ハンドくんも顔じゃないけど。
ともあれ、彼らが私の影から作り出した闇の剣を投射し続ける。
影からトリャトリャ!
邪悪なる友たちによる、遠隔攻撃が続く。
この闇剣の威力は一本一本が神を屠るレベルの一撃。
相手も避けるか、弾くかするしかない。
その隙に――!
手を翳し、闇聖書も翳し。
影から溢れる憎悪の魔力をコントロール! 私の髪も瞳も、赤く染まり上がる。
聖職者のストラを、バサササササ!
『狂える神よ、無聊を慰める夢世界の原初よ! 汝その名は■■■■■、我はケトス、大魔帝ケトス! 我が前に立つ敵を戒める力を、我に授け給え!』
「暗黒神話の夢魔術ね、けれど――それも無駄よ!」
飛び交う闇の剣の直撃を受け、にひぃ!
女は微笑する。
そのまま血に濡れた黒聖母が動く!
闇聖母ヴェールをバサリと揺らすが。
その前に――妨害する!
『主よ――! 汝の道を踏み外せし……』
「甘いわ! 詠唱破棄! 詠唱中断! 無詠唱を禁ずる!」
世界の法則を書き換える魔術式が、逆に崩される。
こちらの魔法陣が崩壊していく。
相手の扱う制約の戒めが、私の魔術をことごとく妨害しているのだ。
『これは――へえ、なるほどね。魔王陛下の魔術そのものを母の特権で封じているのか。こういう時だけ母の権限を振りかざすとは。ずるいね、裏技中の裏技じゃないか』
魔術式を切り替えようとする一瞬を衝き。
女は自らの血のドレスを――バサァァァァ!
闇の盃を傾けるように、闇のドレスを翻したのだ。
黒い百合の花びらが、舞い上がる。
ブラック色の百合世界の中。
戦闘フィールドに、未知の魔力波動が広がっていく。
「神話解放――アダムスヴェイン!」
蹄を胸の前に合わせ、背後から聖母の影を浮かべて祈るように手を握る。
邪悪でも聖母は聖母。
周囲が光で満たされていく。
ぽつんと、祈るように握る聖母の手から血の涙がこぼれた。
次の瞬間。
女の口が高速で詠唱を開始。
「我が名はマリア。黒聖母マリア。我がうちに眠りしその心、母なる願いを聞き入れなさい……! 汝その名はシュブ=ニグラス! アタシは否定する! アタシは拒絶する! アタシは夢を見続ける。魔皇たる原初の力を、この世界では認めない!」
相手の術妨害は、再び成功。
アザトース、暗黒神話最強の力を借りた私の魔術が妨害されていたのだ。
先ほど私がしたように、原初を遮断することによる術の強制破棄か。
こいつ――普通に強いでやんの。
さすがは魔王陛下の母上といったところか。
私の闇剣に貫かれていた筈の傷も、消えている。
『ふむ、それは事象の改竄、詠唱破棄により与えた傷さえも否定されたか――なかなかどうしてやるね、君。そんなに強いなら、聖父クリストフも大変だっただろうに』
告げる言葉に、わずかな隙が生まれた。
なんだろうか。
だが、その隙も一瞬で終わり――黒山羊は黒い百合を周囲に散らし始める。
防御結界の一種とみるべきか。
やはりブラックマリアは妖しく微笑したまま。
「忠告されていたでしょう? アタシはありとあらゆる聖母の力を扱えると、それって、ほぼ全ての力が使えると同義じゃなくって?」
嘲笑う黒聖母はそのまま詠唱を開始。
ずん!
自らの影で、邪悪な山羊悪魔を召喚する。
「耐えられるかしら? 狂い踊りなさい、神話改竄:《大いなる聖母ノ晩餐》!」
女の口にした魔術名が、悪魔たちを更に進化。
異形へと変貌させる。
それぞれが十重の魔法陣を操るバフォメット。
――だが!
呪殺の眼光で睨んだ私は、赤い瞳を輝かせる。
静かに瞳を閉じ……祝福を告げる。
『道を踏み外した者達よ、我が命じる。滅び給え――』
ざっ、ざざ。
ざぁぁぁああああああああああああ、あ、あ、あ!
言葉だけで、無数のバフォメットが消滅。
光の渦に呑まれて消える。
さすがに一撃すらも必要としない干渉……。
言葉だけで消されるのは想定外だったのか。
ブラックマリアは大きく身を引いて、闇の翼を開き――叫ぶ。
「っく、サバトの宴を成す者よ! 戻りなさい!」
『さあこちらの方が甘いだろう。おいで、サバトよ――我の器に』
誘惑の魔力に惹かれ、黒聖母の魔力ともいえる山羊悪魔の影が私に飲み込まれていく。
だが。
すかさず相手も動いていた。
「アタシは拒絶する、汝の戒め、原初を否定する!」
魂を喰らうべく伸ばした私の影を、ざん!
黒聖母がキャンセル!
私は瞳を細め、気怠い声を漏らしていた。
『残念、あともう少しで全部喰らえたのに――焦らしているのかい?』
「油断も隙もないわね――さすがはアタシの子の弟子」
山羊悪魔のフォルムがズゥゥゥ……!
杯にも似た女の影とドレスに戻っていく。
「アタシの眷属が一撃で滅びるだなんて、本当にすごいのね。けれど――随分と余裕じゃない? 仲間を失っておきながらその澄まし顔。少し、酷いんじゃなくて?」
精神干渉の波動が発生している。
これは、何らかの攻撃であるが――。
『何の話だい?』
「とぼけているの? ああ、そう。認めたくないのね――分かるわ、そうよね。そういうものよね」
揺さぶりか。
もしや、私達を引き寄せている間に、砂漠の国を襲ったか。
……。
いや、クティーラさんの目を借りてみても平和そのものだ。
ならば帝国がやられたか?
……。
いや、こちらも黒騎士ミシェルさんの目を借りてみたが、変化はない。
なら、ただのブラフ?
分からない。
悩む私に、女は必勝を確信しているような笑みを浮かべ。
ゆったりと――。
告げた。
「ここにくるまで、アタシの仕掛けた罠でどれほどの仲間が死んだのかしら?」
勝ち誇ったように――。
ブラックマリアが魔法陣を拡大しながら更に哄笑。
黒山羊の影が、壁一面に広がる。
「大魔帝ケトス。あなたはうっかりを装った吹雪の魔術で不意打ち……アタシを閉じ込めたつもりになっていたんでしょうけど、全部無駄。アタシはあなたの吹雪の魔力を逆に利用し、この迷宮を強化したの。ねえ、苦戦したのでしょう? 誰が死んだのかしら? あなたのせいで、あなたの鈍感朴念仁のせいで、どれほどの犠牲がでたのかしら?」
ど、どーしよう。
相手は精神攻撃をしている。
……。
つもりなのだろう。
本当なら、攻略本から呼ばれた最強の敵に何度も苦戦し。
仲間を犠牲にしないといけない最後の扉で、犠牲を払い。
犠牲を払った先で、リスタートの罠が発動。
最初からダンジョン攻略のやり直し、もう一度、犠牲を払ってあの扉を開いてここにいる。
……。
筈だったのだ。
まあ全部、むだになってるんですけどね。
しかしこれは逆に危険だ。
このままだとやばいのである。
そう。
シリアスが死んでしまうのだ。
冗談みたいに言っているが、これは笑い事では済まされない。
シリアスを維持できなくなって。
神父モードから黒猫モードに戻っちゃうと、私自身の力を暴走させるリスクが高まるしなあ……。
以前では不可能だったレベルの奇跡――砂漠での蘇生の儀式がなによりの証拠なのだが。
明らかに、私の力は以前より増している。
制御しきれなくなってしまう可能性は――それなり以上にある。
それが黒山羊以外には伝わっているからだろう。
結界を張っている全員が、頬に汗を浮かべている。
シリアスを維持しないと、私以外の命が全滅する恐れがある。
ヒナタ君と目が合う。
彼女は頷き、絶対にシリアスを維持しなさいよと、念を押すように唇をぎゅっと結ぶ。
司書ウサギがシリアスなBGMの流れる童話を召喚しようとした――。
その時だった。
何を思ったのか――。
ポンっとヨナタン君の銀髪の上に顕現して、白聖母ことウチの白山羊さんが。
ニヒィィィッィィ!
「おーっほっほほほ! バーカじゃないの! ぷぷぷー! あんた、何も知らないのね!」
「な! なによ! 白いアタシ!」
「ずっと、ずっとこのタイミングを待っていたのよ! これを見なさい!」
白山羊さんが見せたのは、私達のダンジョン攻略の光景。
ようするにだ。
あのせこせこ無双を、そのまんま情報として投影しやがったのである。
空気が、変わる。
だぁああぁあああああああああぁぁぁ、こっちの白いのも理解していない!
このダブル糞女神!
シリアスを維持しないと私の魔力で世界がヤバイのに!
まずい!
シリアスな空気をぶち壊し。
黒山羊が、ぐぬぬぬぬぬっと般若の顔で荒れ狂い。
ギギギと私を睨んで言う。
「あんたたち! こんなんズルじゃない!」
「ズルじゃありませぇぇっぇぇえん! 作戦です~! ぷははははは! やだぁあ! 黒のアタシったら、ガチギレじゃない! ふひぃぃぃ、おかしい! やだ、駄目! お腹痛い! メメメメエエ!」
ヨナタン君の銀髪をペチンペチンとし。
白聖母さん。
涙を浮かべての渾身大笑いである。
「ふざけんじゃないわよ! アンタたち! アタシがどれだけ苦労してこの鬼畜ダンジョンを作ったと思ってるのよ! 謝りなさい! 謝って! 謝れぇぇぇぇ!」
「おーっほほほほほ! 謝るわけないじゃない! とっととウチの黒猫に捕まって、お縄になりなさい!」
っく……!
なんとかこっちはシリアスを保ちたいのだが。
相手はあの魔王様の母上、油断するとすぐにギャグに落ちる……!
どちらにしても、これはチャンス!
私は戒めの檻を、影から顕現。
鳥籠を召喚する要領で――肉球をパチン!
『闇よ、聖母に静かなる安らぎを――!』
影の檻が黒山羊の影を包む。
が――。
ガギイィィイィィイィィィン!
檻は崩され、黒山羊の影が再顕現する。
冷静さを取り戻したのだろう。
振り仰いで女は言う。
「なーるほど、バカ白女に隙を作らせるのが作戦――だったのね、けれど無駄よ。あなたの魔術はすべて否定できる、拒絶できる、キャンセルできるのよ? お分かりかしら?」
『どうやら、本当に油断ができないようだね』
相手の強さが本当なのが幸いだった。
よっし!
シリアスに戻せた。
そう、けっして気を抜けない戦いとなっているのだ。
一瞬の油断。
迷いで、魔猫モードに戻ってしまう可能性が非常に高い。
この間みたいに急に猫に戻らないように――。
私はキリっと奥歯を噛み締めた。
まだシリアスは死んでいない――。
シリアスが死ぬのが先か。
世界が滅びるのが先か。
限りあるシリアスを抱きしめるように、私は次の一手を踏み出した。
……。
ん? 一手を踏み出した?
肉球を、パチン?
ぶにゃにゃにゃにゃ!
ネコ手になってるって事は、私、黒猫モードに戻ってるじゃん!?




