脳筋皇子と素敵ニャンコ ~まだまだ未熟な皇子様~
前回の超かしこい、あらすじ。
バカ皇帝のバカ息子。
脳筋皇子で銀髪褐色肌のヨナタンくん(二十歳)が何の考えもなしに、いきなり叛意を煽ってきました。
私、天才ニャンコな大魔帝ケトスはおもいっきしバカにしました。
以上!
いやあ、冗談みたいに言ってるけど――これ。
私達が情報遮断状態を作ってなかったら、このバカ皇子ともども、処刑だってなってもおかしくなかったからね?
なので!
来賓用のゴージャスな部屋で、私はゴゴゴゴゴゴ!
お説教する教師の顔で、私は野性的な顔立ちの皇子に言う。
『そこに座りなさい。君は皇子なんだろう? 考えなしにもほどがある!』
「んだ、このモフモフ野郎が偉そうに! ああん? もう既に座っているだろうがっ?」
ベンベンと寝具を叩くヨナタン皇子は勝ち誇った顔をし、さらに続ける。
「叔父上の使い魔かなんだか知らねえが、てめえ、謁見の時にも大暴れだったらしいじゃねえか? いいのか? 眷属の不始末は主人の不始末。ダビデの叔父上がてめえのせいで粛清される可能性もあったんじゃねえのか? ああん? どうなんだ!?」
こ、これは――っ。
正論攻撃!?
くっ……っ、私が得意としつつも、相手にした場合は最も苦手とする攻撃である。
というわけで。
聞かなかったことにして、シリアスな顔を作り。
大人猫の顔で誤魔化してやる。
『で? 本当に君、なにしにきたのさ? 敵意がないのは分かったけど、実の親を殺したいのかい?』
「殺したいわけじゃねえさ。だが、おまえ達もアレを見ただろう?」
親を親とも思わぬ口調で、しかし顔にはわずかな苦さを浮かべ。
猪突猛進な皇子は続ける。
「今の親父は神の言葉だけを頼りに、神の人形となりさがったただのカカシだ。それも外道なカカシだ。あんな男、もはや父ではあるまい。俺にも俺なりの矜持がある。皇族としての誇りもある、故にこそ、味方となりそうなヤツには声をかけているだけの話だ。たとえ十五年前、失踪しちまった叔父上といえどな」
まだ若いのに肝が据わっている。
貫禄の中に確かな自信もある。
けれど、まだ若く――まっすぐすぎる。
老婆心が私の猫口を動かせていた。
『なるほど、君はまっすぐなんだね。ならば、いや、だからこそ君に言おう。この部屋は監視の魔術が掛かっていた、盗聴の気配もあった。既に私たちがそれを取り除いていたから今、こうして普通に会話をできているが――君の到着がもう少し早かったら、どうなっていたと思う?』
本当にまじめな忠告だったからだろう。
武器を握るためのゴツゴツとした指で鼻をすすり、ヨナタン皇子は銀の髪を揺らす。
がしがしと髪を掻き、皇子はブスッとした顔で言ったのだ。
「悪かったよ、叔父上が帰ってきたってきいて、そんで――舞い上がっちまったんだ」
「ヨナタン……わたしも君と再会できてうれしく思っていますよ」
ダビデ君が十五年ぶりの再会に、眉を下げる。
おそらくまだ五歳だったこの坊やと、我が弟子の関係は良好だったのだろう。
時の流れのズレが、いま彼らを同世代にしているが――。
「本当かぁ? 俺のことが分からなかったくせにか?」
「分からなかったからこそ、ですよ――」
拗ねた様子で脳筋皇子は腕を組み。
「はぁ? 意味わかんねえ」
「わたしは今、この国で孤立していますからね。あなたがあの頃の様に語り掛けてくれた、それがとても、ええ、とても嬉しく思えたのです。祖国に帰ってきたのだと、初めて実感できたのかもしれません」
と、ダビデ君、なかなか老成したような声と貫禄である。
まあ年齢こそ二十歳だが、繰り返す時の中でかなり時間を過ごしているからね……。
精神年齢は見た目とかなり違うのだ。
納得したのか、ヨナタン皇子は露骨に元気になって。
しかし、顔を引き締めもう一度言う。
「それで、どうなんだ。叔父上、皇帝になる気はあるのか?」
私とダビデ君は目線を合わせ。
ダビデ君が言う。
「穏やかではありませんね、ヨナタン。なぜ実の父をあなたがそこまで疎んでいるのか……たしかに十五年前も、あなたは兄上に懐いてはいませんでしたが……」
「親父は神の声だとか抜かして、おじいさまを殺しやがった。俺はそれがどうしても許せねえ。許せねえ奴が今もあの玉座に座ってやがる、しかも趣味の悪い黄金を塗りたくってな。ありゃあ、もう駄目だ。王たるモノの器じゃねえ。そんなダメ親父の息子の俺も駄目だ! 戦う事しか能がねえしな!」
ガハハハハハっと豪胆に笑った後。
なぜか皇子は私を振り向き。
ふんと腕を組んで、じっと私を見て。
「というかだ!? おおおお、俺がバカだと!? そ、そりゃあ知っているが、なんでネコごときにそんなこと言われにゃならんのだ!」
『え? いまさらそこ!? 君、反応鈍いってレベルじゃないだろう!?』
あー、分かった。
この坊やも変人枠だ……。
どうして、私の周りに寄って来る人間て、こうなんつーか……ねえ?
言いたいことは分かると思うが、こんなんばっかりなんだろ。
ともあれ、私は飄々とした魔猫スマイル。
『ふむ、自覚のある脳筋か――ならそこまで酷くはないのかな』
「てめえ! この俺を値踏みしやがったな! 叔父上よ、この生意気な黒猫はなんなのだ?」
問われたダビデ君が答える前。
私は面白そうだから正体を隠してニャン! と伝言。
「まあ、わたしの大切な人ですよ」
「いや、ネコだろう!?」
言葉の綾だろうに。
面倒な男である。
青年は気さくに笑った後……ふと、顔を引き締め。
すぅっと息を吸った。
皇族の顔を覗かせたのだ。
「叔父上。まあなんだ。アレだよ……帰ってきてくれて、ありがとうな――正直、もうこの国は滅茶苦茶だ。俺一人じゃあどうにもならんと思っていた。そんな時にアンタは帰ってきてくれたんだよ。だから、本当にうれしいと俺は思っている。それだけは、嘘偽りのねえ感情だ」
その言葉に偽りの気配はなかった。
十五年の時が過ぎても、ダビデくんの味方がいなくなっていたわけではない。
そういうことなのかもしれない。
この日は再会を祝してだろう。
来賓室で小さな宴を行った。
この皇子本人への心配もあり、ダビデ君が叛意への問いかけに応えることはなかった。
◇
あれから三日が過ぎていた。
軟禁状態とはいえ、王宮の中を動く自由はあった。
皇帝サウルからの連絡はなし。
神の言葉を待って、引きこもり中。
まあ、神託妨害装置の私が同じ施設にいるのだ、どれだけ待っても届くはずがないのにね。
神のお告げが聞こえない。
それだけで皇帝は混乱している様子である。
そんなことは構わず!
ポカポカ陽気の廊下――私は食堂の前で、どでんと横たわり。
しっぺしっぺしっぺ♪
いまだに解けない雪山状態となっている大森林に目をやっていた。
いやあ……。
これ、まさか永久に雪山状態になってるんじゃないだろうか……。
……。
ま、いっか!
街に向かった謎のウサギが人間たちと共闘し、自警団まで作り出したとの噂が届く中。
食堂の前でご飯を味わうのは、この私。
美しきネコたる我の貢ぎ物は山盛り!
グルメを奉納する女中たちのなんと多い事!
理由は二つ!
憂いを帯び、覇者のオーラさえ纏う魔術師皇子のダビデくんと近づくため。
そしてなによりも、私が可愛いから!
そんな事情があるわけで!
私はここでご飯を待って可愛くしていればいいだけ!
グルメタイムを満喫しているのである!
だがそんな美しい私を見る視線が一つ。
残念ながらグルメの気配ではない。
邪悪な気配でもない。
堂々とこっちを睨むその青い視線。
覚えがありすぎる。
片目を開き、赤い瞳をギラギラとさせながら私の猫口が語りだす。
『さて、我がグルメタイムを睨んでいるそこの脳筋皇子くん、私に何か用でもあるのかな?』
「おまえさん、本当に何者なんだ? ただの黒猫ってことはねえんだろ?」
疑う青年。
ヨナタン皇子は太陽で銀髪と八重歯を輝かせる。
『どこにでもいる魔猫さ。低級ダンジョンを探せばすぐに見つかるようなね』
「へぇ――そうかい。どこにでもいる魔猫が神のお告げの妨害なんてできねえと、俺は思うんだがねえ」
私は両目を開く。
『どこで調べたんだい』
「俺にも部下はいる。おまえさんも黒騎士と出逢っただろう? あいつらに調べさせたんだよ」
『なら私の正体も知っているんじゃないのかい?』
雪山の事件で私は外なる神だと名乗っている。
ダビデ君の元婚約者であるミシェルさんが部下だというのなら、報告が届いているはずだ。
「部下っつっても、あの姉ちゃんは叔父上を第一に考える女だ。叔父上が不利になるような事は俺にも報告しねえし、俺もそれを強要する気はねえさ。それがあいつとの約束だ。叔父上の失踪で奴らは立場を失っていたし、なにより美人だろう? だから――叔父上の失踪から少しした時に、俺が頼んで部下にした。そん時、あの姉ちゃんなんて言ったと思う?」
その日の記憶を自分の中で噛み締めているのだろう。
ヨナタン皇子は太陽を掴むように天に腕を伸ばし。
「わたくしはあの方の帰りを待ち続けます。ダビデ様にしか従うつもりはありませんので、だとよ。あの姉ちゃん、俺がちょっと惚れてるってことに気づいてやがった」
『年上の女騎士にねえ、ませてたんだねえ君』
うわぁ……と耳を後ろに下げる私も可愛いわけだが。
しかし。
現皇帝サウルとは別口で、このヨナタン君もダビデくんを探していたってことか。
家族を人質にされていたからミシェルさんは動いていた。
偽ダビデ皇子殺害の命を受けていたわけである。
それと同時に、ヨナタン皇子の部下としてダビデ君の本物も探していた、ということか。
ちょっとわかりにくいね。
人質のせいで皇帝と皇子、どちらも出入りする二重スパイみたいな状態になっていた。
ということなのかな。
んー……少し変だ。
いくら脳筋皇子といってもだ。
この皇子君は、ダビデくんの帰還の真偽を疑っていなかった。
部屋に入ってきたとき、既に本人だと確信していたとみえる。
普通ならば、本人かどうか疑うだろう。
探りぐらいはいれるはずだ。
私は声に貫禄を滲ませ、神父の声音で問いかける。
『教えてくれないかい? 君はどうしてダビデくんが生きていると思っていたんだい』
「昔にな――俺にもお告げがあったんだよ。白い山羊が夢の中に出てきて、将来、必ずダビデ皇子は帰還する。救世主たる神の慈悲を受け、この国の大地を踏むでしょう。ってな」
白山羊。
じゃあ、やはりあっちの白いマリアもこの世界に干渉しているということか。
黒山羊は皇帝サウルに――。
白山羊は息子のヨナタンに味方をしているのかな。
これがヒナタ君が夢で見たっていう、縄張り争いの可能性が高い。
だんだんと山羊のしっぽを掴めてきている、というわけだ。
「はじめは信じてなかったんだがな。あの糞山羊がしつこくてな。信じなさいよ! 信じるまであたし! 夢からでてってやらないんだからね! って、マジでうざかった……」
しんそこげんなり、皇子はうなだれる。
あ、絶対にあの腐れ女神本人だ。
まあまだ会話ができる方だし、私の愛する魂を救ってくれた存在なので……色々とアレがアレでアレなのだが。
ともあれ私は納得した様子で、モフ毛を風に靡かせる。
『なるほどねえ、そして実際に白山羊のお告げに導かれ、ダビデ皇子が帰還した――か』
「そういうこった。つまりはてめえが救世主の神。そういうことだろう?」
問いかけに私は真顔のまま、ぎしり。
邪悪に猫口を開く。
『既に予知されていたのだとしたら――少し、面白くないね』
構わず、皇子は声を潜め。
「クソ親父。いや、狂王の部下に人質にされていた黒騎士の家族、あいつらを助けてくれたのも――てめえか。皇帝の命だとか抜かして、俺の命令さえ聞かなかった狂王の部下どもが、いつのまにか腑抜けになっていやがった。いくらなんでもタイミングが良すぎる」
『さあ、どうだろうか』
ぼかした返事を肯定と受け取ったのか。
ヨナタン脳筋皇子は脳筋に似合わぬ怜悧な顔で、私に頭を下げていた。
しかし、自らの父を狂王と呼ぶとは――事実だろうが、なかなかにこの青年も苦労をしているようである。
そのまま昔の話を聞こうと思ったのだが。
目の前に気配が生まれた。
転移魔術による移動であるが、敵ではない――ダビデ君である。
驚いた様子で振り返ったヨナタンくんが、ダビデ君の顔をぎょっと見上げる。
「叔父上!? いったいどこから」
「ああ、すみません。緊急だったので魔術で転移しました」
魔術で転移。
さりげなく言われた言葉に驚くヨナタンくんに気づかず、ダビデ君が私に言う。
「師匠。外出の許可がでました――魔物退治のついででよければ、街にグルメを探しに行けるようですが。いかがいたしますか?」
『魔物退治? どういうことだい?』
同じく疑問を持ったのだろう。
ヨナタン君も法皇のローブを着込むダビデ君に目をやる。
「兄上……陛下のご命令です。叛意がないのなら、国を守るために働いて見せよと――そう仰せなのです」
「なるほど、あのバカ親父。神の声が届かない不安で、先にアンタを殺しにかかってきたか」
魔物退治のついでに死んでくれたらオッケー!
死んでくれなくても、魔物を退治できるならそれはそれでオッケー!
こんな感じかな。
『まあ魔物に民が襲われるのはかわいそうだからね。外にもいきたいし、その話に乗ろうじゃないか』
「おう! いいな! なら、俺もついていくが――構わねえよな?」
『いいけど君、戦えるのかい?』
問いかけに自信満々。
脳筋皇子は腕を組んで、ニヒィ!
「ふっ、まあ直接見てもらえばわかるんじゃねえか?」
なかなかの自信である。
そんなわけで、私たちはグルメ散歩がてら魔物退治に行くこととなった。
もちろん、神のお告げ妨害は範囲を拡大して継続するけどね!
◇
魔物がでたというのは、突如として雪に覆われた神聖な大森林の隣の平原。
敵は人にも似た。
枯れ木のような姿の昆虫らしいのだが。
なーんか、どっかで聞いたことのある特徴なんだよね。
遠征メンバーは例の黒騎士部隊と私。
ダビデ皇子にヨナタン皇子。
それだけである!
ま、本当に魔物に困って出兵させたという可能性もあるが――。
おそらくはダビデ皇子の謀殺を企んでいるのだろう。
そして、神のお告げを妨げている原因を探っている、といった感じか。
私達を遠ざけることで、電波が届くようになるか実験したいのだろう。
今のサウル皇帝は、スマホの電波が届かなくなった女子高生よりも困惑。
酷い狂乱状態にあるらしい。
全部、私のせいなんですけどね!
馬に乗り討伐に向かう馬車道は穏やかだった。
風も心地いい。
まあ、ここからも見える雪に覆われた大森林から、なーんか、兎たちの雄たけびが聞こえるが。
……。
とっとと魔物を掃討して、グルメ巡りなのじゃ!
だんだんと敵も見えてきた。
確かに枯れ木のような昆虫人間が、うじゃうじゃとひしめき合っている。
バッタ人間のようなこいつらは……って、ローカスターじゃん、こいつら。
以前の事件で敵対した女神が使役していた、元人間の、奉仕種族ともいえる魔物である。
こりゃあ、電波妨害されている黒山羊が送り込んできたとみるべきかな。
黒馬に乗ったヨナタン皇子が、ダビデ皇子の馬に近づき。
パッカパッカパッカ♪
気さくに声をかける。
「叔父上、たしか職業は魔術師だったよな? 戦えそうか?」
「はい、戦いは得意ではありませんが――魔術を使う事だけは得意ですよ。ですが、武芸となるとどうしても――まだ苦手意識がありますね」
穏やかに眉を下げる皇子様。
苦く告げるダビデ君に、ヨナタン皇子はワイルド顔をニヒィ♪
大型犬のような愛嬌をみせて豪胆に言う。
「なら、次の皇帝陛下に俺の腕を見せつけておかねえとってやつだな!」
「腕に覚えあり、ですか――それは楽しみですね」
ダビデ君に期待されている。
そう受け取ったのか。
あからさまに気分を良くしたヨナタン皇子は弓を構える。
魔力が込められた、白霊銀の弓、といった印象の武器である。
遠距離攻撃をするつもりなのだろう。
相手は地平線の彼方にずらっと、ひしめきあっているのだが。
まあたしかに、高低差はこちらが上――弓の達人ならこの距離でも攻撃は可能か。
「叔父上よ! 俺をただのバカ皇子とは思うなよ、弓を使わせれば国一番との自負がある!」
『って、筋肉バカ皇子はいってるけど、そうなの?』
問いかける私に皇子の家臣たちはうんうんと頷いている。
みんな女性なのがちょっと気になるが。
ともあれ、事実っぽいな。
『さてお手並み拝見といこうかな。ねえねえこれでショボかったら、君、ものすっごい情けないよ?』
「黙れ、このモフモフが!」
告げた脳筋皇子が、筋と血管を隆々とした腕に浮かべ――。
弓を天に向かい引き絞る。
地脈から魔力を引き出し――カカカっと怜悧な瞳で皇子は力を解き放つ。
対軍を意識した、弓のスキルだろう。
魔力を這わせるためか、ギギギっと力を込めた口から言葉が紡がれる。
「超絶必殺、俺様の秘奥義! 我が妙技の前に、屍を晒しやがれ!」
《シャイニングレイン》のスキルが発動!
天へと向かい放たれた一条の矢が、天を裂き。
ズジャジャジャジャ!
雨のごとき光の矢が、敵陣に降り注ぎ続けている。
発動に溜めが必要だが、実用的な広範囲攻撃だろう。
次々と貫かれていくローカスターの群れを眺め、皇子は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「どうだ見たかっ、叔父上! なあ! 俺、口だけじゃねえだろう!?」
ヨナタン皇子、渾身のドヤ顔である。
対するダビデ君はというと――技の性質を把握しつつ。
自らの細面なロイヤル顎に長い指を当て。
「討ち残しがありますね――」
空気が変わる。
ダビデ君の瞳は既に戦場に立つ皇族の顔だった。
残党がこちらに気づき超高速で駆ける中。
ヨナタン君は、頬をぽりぽりしながらいう。
「アレはそうだ、うん――俺一人じゃあ格好がつかねえからな! 叔父上のために残しておいたんだよ」
脳筋皇子的には、技を褒められると思っていたのだろう――。
戦場に意識を移しているダビデ君を、じぃぃぃぃぃぃっと見ている。
残念がっている姿が、ホワイトハウルっぽいのが笑えるが。
ダビデ君は法皇のローブを翻し、馬上で木の弓を顕現させる。
ごくごく普通の、本当にただの木製の弓である。
「なるほど、ヨナタン――君はわたしに華を持たせてくれるつもりなのですね」
「おうよ!」
「ならば、期待に応えないといけませんね」
言って、ダビデ君は怜悧に、涼しげな美貌を浮かべて弓を構え――。
しゅん!
天に向かい流星のごとく矢を投射。
《サウザンド・シャイニングレイン》が発動!
ズッジャジャジャジャジャジャジャジャジャッジャア!
ジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャッジャア!
ジャジャジャジャジャジャジャジャジャッジャアッズ!
ヨナタン皇子の見せたシャイニングレインを模倣し、昇華させたのだろう。
天を裂いた矢の一撃が、千の流星となって降り注ぐ。
残党はもちろん、伏兵として隠れていたローカスターをことごとく討ち貫いていた。
当然、ヨナタン皇子も家臣連中も腰を抜かしている。
なのに本人は涼しげな顔で、馬上から戦場を冷静に睨んでいる。
追加の召喚陣を確認したのだろう。
敵にとっては必勝の策だったかもしれないが、浮かぶ魔導書も即殺。
土が抉れる。
次元が裂ける。
正確無比な一撃が、的確に邪を射抜く。
必殺必中の矢の嵐が敵を貫き続けていた。
あまりにもあまりな無双である。
ヨナタン君が作画崩壊した漫画のような顔で、喉の奥を見せる勢いで叫ぶ。
「お、叔父上!? ちょ!? え? ん!? 武芸は苦手って!?」
「ええ、まだまだ未熟です。いつまで経っても――わたしは師匠の足元にも及びませんので」
慢心は身を滅ぼす。
そう自分を戒めるように、馬上の皇子は怜悧な顔を引き締める。
冷静に、敵を殲滅し続けたのだ。
「師匠ならば――弓を引く動作さえ相手に見せない」
あぁ……。
ありとあらゆる武芸を。
普通の世界を救う英雄ですら届かない達人レベルで、教え込んだからなあ。
ヨナタン君の反応も当然だし。逆にダビデ君の反応も仕方がないのだ。
だって……ねえ?
彼はずっと比較対象が師匠で、修行相手である私だったのだ。
そりゃ、私基準で考えたら。
自分を未熟に思うよね。
ふとこの時、賢い私の脳裏に電流が走った。
なにやらネコちゃんの鋭い勘が、私に訴え始めたのである。
そういえば私――さあ?
ダビデ君に手加減とか、力の調整とか教えたっけ?
……。
いや、たぶん一度たりとも教えていない。
……。
あぁ……ダビデ君、まじめだからなあ……。
教えの通り、問答無用に習った技術をぶっ放してるなこれ。
……。
まあ、いっか!
無論、遠征は大成功。
問答無用で、敵は全滅した。




