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捨てられ皇子の冒険 ~拾ったからには責任をもって~前編



 酒場で出された海の幸♪

 お刺身の盛り合わせでどんちゃん騒ぎをした、翌日。

 ふんわりシーツの上で、くわぁぁぁぁっと体を伸ばしニョキニョキ♪


 起床したのは大魔帝ケトスたる私!

 偉大なる御方、魔王陛下に仕える素敵ニャンコで魔猫の王!

 今日は黒山羊の情報を集めつつ、街を散策する予定になっているのだが。


 ダダダダダっと、一階の食事スペースまで猛ダッシュ!


 宿に備え付けの酒場兼、食堂の空気は既に重い。

 傷心のダビデくんが、どよーんとしたまま椅子に凭れ掛かっているのである。

 目のクマがすっごいことになってる若者は私に気づき、ははは……と朝のスマイル。


「おはようございますケトス様。その、宿代まで出していただいて……ありがとうございます」

『え、うん……気にしないでいいよ? まさか、十五年の間に通貨が変わってるだなんて、思わないもんね……』


 踏んだり蹴ったりとはまさにこのこと。


 ダビデくんが持っていた通貨は既に廃止。

 代わりにダビデ君のお兄さんである現皇帝サウルの顔が刻まれた、サウル硬貨になっていて。

 今現在の彼は無一文。


 いやあ、私が海底から釣り上げた財宝がなかったら、危なかったね~。


 さて、目の前の傷心皇子も心配だが。

 まずは腹ごしらえ!

 年季が入っているが、木の温かみのある作りの厨房に向かい、私はモフっと肉球を向ける。


『おばちゃ~ん! モーニングセット十人前よろしく~!』

「あいよー! ウチは繁盛するから助かるけど、朝からよく食べるね~。モーニングのサービスにリンゴのタルトもつけとくよ、たーんと食べておくれ」


 既に私のモフ魅力の虜になっている宿屋のおばちゃん。

 恰幅と気前のいい彼女と、優雅で紳士で小粋な会話もしつつ。

 私は出されたモーニングをむしゃむしゃむしゃ♪


 おお!

 シャキシャキレタスと、蒸し焼きウィンナーの豊潤さが合わさって!

 美味! 美味! 美味!


 蒸しウィンナーの脂を吸った野菜って、すごい美味しくなるんだよね!


『くはははははは! うまし! 実にうまし! って、ダビデくんも食べないと、元気にならないよ? 私の山盛りほくほくポテトサラダ食べる?』


 代金なら気にしないでと言っているのだが。

 ははは……と。

 伏目がちになって、皇子はぼそりと床に向かい重い溜息。


「す、すみません。食欲が……その……」

『ま、十五年も経っていたのならプチ浦島太郎状態。って言っても分からないか。ともあれ! しょげてしまうのも仕方ないか……でも、本当に少しは食べておいた方がいいよ?』


 心配しつつも、私はフォークで刺した魚のすり身の練り物を味わい、ぶにゃ~♪

 ネコ髯をピンピンにするほど大満足なのだが――。

 どよーんとした顔で窓の外をみる青年、この国の第二皇子だったダビデくんは、一晩で随分とやつれていて。


 うーむ……。

 まるで減量中のボクサーみたいでやんの。

 捨てられた子猫状態にも見えるが……。


 ヒナタくんも、ぐぐっと手を上に伸ばしながら二階の宿屋スペースから降りてきて。

 ぎぎぎぎっと椅子を引き。

 元気よく厨房に向かい手を上げる。


「おはよう、ケトスっちにダビデさん。おばちゃーん! モーニングセット十人前~、よろしく~♪」

「この猫ちゃんの飼い主さん? ふふふ、あんたもペットと似て美味しそうに食べてくれるから、サービスしとくよ♪」


 くははははは!

 うふふふふふ!

 少女と魔猫が朝の軽食を平らげている、そんなのどかな光景である。


 モフモフっとやってきた糸目武骨戦士君が、ふぁ~。

 むにゃむにゃと、ネコのしぐさで顔をふきふき。

 大量に並ぶ皿を見て……うわぁ……っとなっているが、気にしない。


 積まれていく空き皿を見て、ダビデくんが口元を押さえている。

 全員がそろったということで、私は温野菜の皿からブロッコリーの塩ゆでをむしゃむしゃ。

 口の中を緑でいっぱいにしつつも本題を告げる。


『さて、今日からは本格的に黒山羊探索をしようと思うんだけど』

「ダビデさんはどうするのかって話?」


 ヒナタくんもパリっと蒸し焼きウインナーを噛み切りながら言う。

 方針を決めるというやつだ。

 グルメを味わいながらも真剣な顔をする二人の目線を受けて、ダビデ君がぎゅっと唇を噛む。


「わたしは、その、昔の知り合いを何人かあたってみたいと思っています。もしかしたら……、あの、わたしの事を覚えている人もいるかもしれませんので」

『んじゃあ、一緒についていくよ』


 むっちょむっちょとリンゴのタルトを味わいながら言う私。

 とっても気が利いているね?


「え、いや――その……皆様のご迷惑になりたくはないので――。わざわざこの国まで、ご足労いただき恐縮なのですが……報酬をお支払いできそうにないのも……その、とても申し訳ないと言いますか……」


 自暴自棄になっているのが分かる。

 しょーがないなあ。


『私達もこっちの大陸に用があったからね、報酬は別にいいしさあ。それよりもだ、私たちはこの国の地理に疎い。十五年経ったといっても変わっていない場所も多いだろうからね。できたら現地人の協力者が欲しいんだけど、駄目かい?』


 利害は一致している。

 そう思わせてあげるのが、まあ優しさだろう。

 なんつーか、こう、本当にかわいそうだしねえ……ダビデ君。


「ダメではない、というか。ついてきてくれるのはありがたいですが」

「じゃあいいじゃない! ダビデさんが落ち着けそうな場所を探して、そのついでにあたしたちは黒山羊探しをする。一石二鳥でしょ!?」


 と、ヒナタ君が二本の指を立ててブイサイン。

 武骨戦士君もうんうんと頷いている。


 ダビデ君が、拾われたばかりの子猫のような顔で。

 じっと私達を見上げる。


「本当に、よろしいのですか?」

「このお二方は非常識ではありますが、とても根は良い人たちなので――心配いらないでありますよ」


 もふもふネコ獣人な武骨戦士君が、にっこりと微笑む。

 ヒナタ君がそのモフ耳をつっつき。


「非常識ってのは何よ、非常識ってのは!」

「では逆にお聞きいたしますが――外の世界では、それが常識的なのでありますか?」


 言われてヒナタ君は即答する。


「当然よ。むしろあたしは一番の常識人枠だし?」

『外の世界は私達より非常識な連中ばっかりだよね?』


 師弟二人して、堂々と言い切ってやったのだ!

 よーし、誤魔化し成功!

 っと、思っていたのだが――ダビデ君が怪訝な顔を浮かべ。


「外の世界とは……いったい」

「ああ、言ってなかったわね。あたしたち、この世界からすると異世界人なのよ」


 あぁぁああああああああぁぁ!

 そういや!

 ダビデ君に私達の素性をちゃんと話すの、忘れてた!?


 ◇


 ダビデ君がかつて過ごしていたという修道院を目指す、道すがら。

 私達は軽く自己紹介。

 信じる信じないは別として、こちらの簡単な素性を明かしていた。


 穏やかな気候で気分はピクニック。

 道はわりと平坦だが、山越えの道。

 緩やかなハイキングコースを想像してもらえばいいだろうか。


 森と土の香りに猫の鼻孔がヒクヒクヒク。

 のどかな、いい天気である。

 そんな中でも私の口が、今までの経緯を伝えて動いていた。


『とまあそんなわけで。私たちは外なる神で、ここに逃げ込んできた諸悪の根源を探しているってわけさ』


 事情を伝えたのはいいが、反応は……うん。

 どうやら荒唐無稽な話と思われたらしく。

 ダビデ君はヒナタ君と私を見て、困惑気味にシュッとした顔をそらす。


「分かりました――えーと、少なくともあなたがたがそう思い込んでいるということは、はい……」

「えぇ? 信じてもらえないの!?」


 こっちの国でも夢見る乙女は信仰されているらしく。

 そりゃあ、ご本尊でーす!

 って、少女がブイサインしても信じてもらえないよね。


「巫女が過度なトランス状態となると、自分が神と思い込んでしまう現象があるといいます。おそらく、ヒナタさんはその影響を受けているのではないかと。それに、その、すみません……あの夢見る乙女を騙るのは……正直どうかと思いますし」


 トランスとは、まあ神おろしの儀式のことなのかな。

 イタコさんがする口寄せとか、そういう類のシャーマニズムの一種だろう。


 こっちのことを信用しているからこそ、だ。

 自分のことを神だと本気で勘違いしている残念な娘。

 そう思われているのだろう。


 ぷぷぷー!

 残念な娘だって思われてるでやんの!

 ニヤニヤする私を抱き上げたヒナタ君が、ふっと勝ち誇った笑みを浮かべて言う。


「あのねえ、あんただって自称、外なる神だって思われてるのよ? お分かり?」

『ま、そのうち嫌でも本物だってわかるだろうさ』


 女子高生の腕の中で、くはははははは!

 土で汚れることなく、快適!

 チェシャ猫スマイルな私は、しっぽをふぁさふぁさ♪


 私を抱いて歩いていたヒナタ君の足が止まる。

 もふもふ武骨戦士君の肉球も止まる。

 兵士っぽい軽装なダビデくんだけは、不思議そうに、立ち止まった私達を振り返り。


「どうしたのですか皆さん」

『お客さんってやつだよ』


 告げたその声にこたえるように、樹々がザザザザっと揺れる。

 魔力に反応しているのだろう。

 何者かがいるのは、道から外れた森の奥か――気配が膨らんでいく。


 現れたのは黒の全身鎧を着こんだ騎士達。

 カッカッカッカ。

 山歩きでは大変だろう装備をした彼らは、私達を囲う用に隊を展開。


 ヒナタ君が村娘のふりをしながら、こてんと首を横に倒す。


「えーと、騎士様……ですよね? あたしたちに何か御用なのですか?」

「女、貴様に用はない。我らはそちらの若造に用があるのだ」


 顔全体を覆うような騎士のカブトを装備しているので、声の反響音が凄い。

 ふむ。

 山賊って感じでもないし、待ち伏せされていたのかな。


 代表っぽい黒騎士がビシっとダビデ君を指さし。


「そこのおまえ、港で不審な動きを見せ――亡きダビデ殿下の名を騙っていた不届き者であるな?」

「不届き者!? わ、わたしは間違いなくダビデ本人なのです!」


 あちゃー……。

 不法入国したってバレちゃったじゃん。

 ここは誤魔化さないとダメじゃん……。


 まあ仕方がない、ダビデ君はイイ子なのだ。

 目がちょっとシュっとしたシャープな蛇っぽいけど、心は清廉潔白な皇子様。

 駆け引きとか、そういうのはまだまだなのだろう。


 黒騎士が甲冑の隙間から金髪を覗かせ、青い瞳を輝かせる。


「ほう、まだ名を偽るか。しかし、キサマ本人がどう思おうと勝手だが。あの方の名を騙り、あまつさえ今も我を騙そうなどと――恥を知れ! このペテン師が! 帝国のために散った殿下を愚弄した、その罪は重いぞ!」

「その声、君はもしかして――っ」


 なにやら声に聞き覚えがあったようだが。

 相手はそれに気づいていない。

 バっと手を翳し、周囲の騎士に命を下す。


「かかれ! 不法入国者だ切り捨てて構わん!」


 バシュバシュバシュ!

 指揮系統の支援バフが発動していた。

 本気で殺そうとしているのだ。


 まあ、相手にとっては逆賊中の逆賊。

 死んだ皇子の名を騙った不法入国者だから仕方ないんだろうけどね。

 ダビデ君が額に汗を浮かべつつも、勇敢に叫ぶ。


「待ってください! わたしの話を聞いてください!」

「問答無用だ!」


 足場の悪い山道だが、相手は構わず突進してくる。

 こちらに向かってきた騎士は三人。

 殺しちゃっていいかというと……たぶん、駄目だよね。


 てなわけで!

 ヒナタ君の腕からぴょんと飛び出した私は空中で、決めポーズ!

 モフっとした身体をアピールしつつ、ドヤァァァァァァ!


『くははははははは! 我を見よ――っ!』


 ダビデ君に向かっていた騎士たちに向かい、精神攻撃!

 まあようするにいつもの通り――。

 挑発を発動したのだ!



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