追放のもふもふ!? ~荒ぶる肉球、新大地へ!~
あれから更に一週間が過ぎていた。
ところ変わって我らは潮風を受けた大海原!
童話魔術で生み出した巨大な船に乗り込み、さあ出発!
目指すは犠牲者たちの中に紛れていた兵士くんの故郷。
そう。
あの後、話を聞いた私は他国兵士君の頼みを聞き、別の大陸へと新たな冒険に旅立っていたのだ。
潮風を受けながらも、モコモコモコ♪
モフ毛を優雅に膨らませる私こそが、ななななんと! あの大魔帝ケトス!
素敵ニャンコで最強な低級猫魔獣である。
で! 旅立ちのメンバーはというとだ!
私と、女子高生勇者のヒナタ君はいつも通り。
ムーンキャット達と黒マナティーはムーカイアでお留守番。
女王陛下の守りについている。
では誰がついてきているかというと、モフモフっとした糸目なネコ獣人。
元人間で私の洗脳……。
じゃなかった治療で、ネコ化が完全に進んでしまった武骨戦士君である。
そして!
今回の事件の発端となった青年、蘇生されたばかりの他国の兵士くん。
いかにも正義感にあふれています!
って感じの、まあそれなりに顏の整ったシュっとした印象の若者である。
外見は冒険者になりたての、ちょっと気の弱そうな、軽装の戦士を想像してもらえばいいだろうか。
彼の願いを聞き。
魔物に襲われ亡国の危機にあるという彼の故郷を助けにいこう!
と、船で優雅に現地へと向かっているわけなのだが。
目的地へと進む船の上。
兵士君は――じぃぃぃぃぃ。
釣り糸を垂らす私とヒナタくんと武骨戦士君を見て。
蛇のように鋭い目を細め、ぼそり。
「あのぅ……救助要請に応じて下さったことは大変にありがたいのですが。その。なぜ、あなたがたは呑気に釣りをなさっているのですか?」
清廉潔白そうな顔と声で問われ――。
私達三人は顔を見合わせる。
他の二人はちゃんと魚を釣っているので、仕方がない。
太陽のポカポカを受けつつ。
くいくい!
釣り竿を引き上げながら私が言う。
『なぜって、そりゃあお昼ご飯にするために決まっているだろう?』
「え!? いや、そういう意味ではなくてですね!? わたし、いいましたよね!? 我が国、ナザレブルーノは今、無数の魔物に襲われっ、危機的状況にあると!」
なかなか女性にもてそうな声である。
この兵士君。
蘇ったばかりで元気なのは良い事なのだが。
私は彼をじっと見ながら肉球をぷらぷら見せつけ――。
『ん? だからこうして救助に向かっているじゃないか』
「たった三人で帰国するなどっ、無謀だとわたしは言いたいのです!」
ヒナタくんとモフモフ武骨君の釣り竿には、バシャシャシャっと獲物がかかっている。
私は先ほどからハズレばかり。
魚ではなく、海底に沈む宝石やら古代の壺やら、伝説級のアイテムが釣れるのだが魚はゼロ。
神殿のひとつぐらいは建てられるだろう財宝の数々だが。
食べられないんじゃ意味ないよねえ……。
魚と格闘している二人が答えてくれる気はないようなので。
私は釣り上げた黄金の神像を磨きながら言う。
『君が心配するのも分かるけれどね、こう見えても私たちは強い。けれど、他の二人はともかく、私の得意分野は超無差別範囲の広範囲攻撃。味方が増えれば増えるほど動きにくくなるからね。三人がベストなのさ』
連携が取れるほど仲のいい存在や。
そもそも私の超範囲攻撃に巻き込まれても問題ないレベルの存在ならいいのだが。
ムーカイアの兵士はどちらの条件も満たしていない。
クティーラさんなら条件に当てはまっているのだが……。
念のためムーカイアの守りについて貰っている。
それに彼女は邪神を産む、というかなり特殊な能力を持っている。
その応用で――いつでも彼女の腹の中から私が顕現できるようにもなっているのだ。
なので彼女はあちらで固定状態。
いや、まあそんな手段を使いたくはないけどね……?
産ませていただきますわ、ふふふふっと笑っていたが。
ともあれ。
実はこの冒険は何もお人好しな人助けというだけではない。
クティーラさんがアリから得た情報によると、黒山羊はあの大陸にはもう既にいない状態にあった。
つまり、魔物が暴れている地域があるのなら――。
まあかなりの確率で、そこに黒山羊のしっぽを掴む何かがあるだろうと踏んでいるのである。
『それで、そろそろ君の詳しい素性を教えて貰ってもいいかい?』
「素性……ですか?」
『ああ、私は他人のステータスや職業。習得スキルなどをある程度判定できる能力を持っていてね――勝手に調べてもいいが、それじゃあ互いに信用できないだろう?』
ここ。
実はけっこうまじめな会話である。
「なるほど――わたしの素性をご存じなのですね」
『私の口から語るかい?』
実はまったく知らないんですけどね。
にゃっふっふっふ! これぞ話術スキル!
兵士君はシュっとした顔立ちを引き締め、キリリとした口調で告げる。
「失礼しました。隠していたわけではないのですが……ええ、そうです。わたしがダビデ。英知の第二皇子と呼ばれるナザレブルーノの皇子なのです――黙っていて、すみません」
『ふーん、皇子だったんだ』
「って!? あれ!? わかっていたんじゃないんですか!?」
がばっと口を開くダビデ君に向かい、私はニャンコスマイル。
『本当に調べようと思えば鑑定できるけど。そうやって正体を調べるより、君の口から語ってもらった方が私達も信用できるだろう?』
「それは、そうですが――なんだか、騙された気分です」
と、組んだ腕をぎゅっとして、子供っぽい顔をしているダビデ君。
おそらく年齢は二十歳ぐらいかな。
巨大クラーケンを吊り上げたヒナタくんがアイテム収納空間にしまいながら、声を出す。
「でさあ、そこの~なんだっけ。ナザレブルーノか。なんだって皇子様が遠路はるばる、海を越えたこっちの大陸に救援要請なんてしにきたのよ。ダビデ君さあ、その時にアリに襲われて殺されちゃったわけでしょ?」
「それは、兄上の命令で――」
兄上か。
第二皇子とか言ってたから、第一皇子のことかな。
『そっちの大陸って他に国はないのかい? ヒナタくんの言葉じゃないけど、救援要請ならわざわざこっちにくるのも大変だっただろうに』
「無能なわたしには兄上の命令に従うしか……その」
歯切れの悪さと自信のなさが一致している。
こりゃ、厄介払いをされた可能性もあるのか。
その辺は繊細な話題っぽいので、あえて触れずに――。
私は目を伏せたままの皇子の肩に、ポンと肉球を置き。
『まあ! 私が関わったからには何も問題ないさ! いざとなったら敵も味方も、全部まとめて吹っ飛ばしてあげるさ!』
「す、すみません。冗談を言って元気づけて下さっているのですね」
もにゅっと眉間にしわを刻み。
私は猫口をうなんな。
『冗談?』
「いえ、敵も”味方”も吹き飛ばすと……冗談なのですよね?」
ヒナタくんはものすごい残念そうな顔で、首を横に振り。
武骨戦士君がしっぽを左右に、ぶるぶるぶる。
ぐぎぎぎぎっと緊張した様子で、ダビデ君が言う。
「もしかして、この黒猫。とても危険な存在なのですか?」
「もしかしなくてもそうよ」
告げてヒナタ君がクラーケンの二匹目を釣り上げ。
勇者の顔で、鋭い声を零す。
「別に何もなければ暴れたりはしないけど、先に言っておくわ。もしあなたの国があたしたちが追っている黒山羊と手を結んでいたりしたら、悪いけどそっちの身の安全の保障はできないわ」
「わ、わかりました……黒山羊など、わたしの情報にはないのですが……」
ぶつぶつと呟きながらも、ダビデくんがクラーケンに目をやり。
……。
ぎょっと瞳を広げて、ツバを飛ばす勢いで叫び始めた。
「と、ところでお嬢さん! 先ほどから捌いているその巨大なイカは……もしや伝説級の魔物、デス・ディープ・デビルクラーでは?」
「そうなの? いやあこのイカを切って、餌にすると色んな魚が釣れるのよね~♪」
ふんふんふ~ん♪
と、伝説級のイカを軽く倒して釣り餌にする少女を見て――。
モフモフ糸目戦士君が遠い目をして言う。
「まあ、この人たちの異常性にも、すぐに慣れますよ」
「ああ、よかった。ネコ獣人なのに、あなたはまともな常識人なのですね」
なにやら遠回しに失礼なことを言われている気もしたが。
とりあえず、私たちは船旅を楽しんだ。
◇
ポカポカ太陽も暖かい気候。
私達がナザレブルーノについたのは、翌日のことだった。
まだ港に着艦はせず、港の前でプカプカ浮かんでいる状態なのだが――。
ダビデ君が汗をタラタラと流しながら、狼狽した声を漏らす。
「な、なぜもう我が国についているのですか!?」
『時魔術でちょっと航路を弄ってね。もう着いちゃってるってわけだよ!』
どうだい、凄いだろう!
と、モフ胸をぶわぶわっとさせる私。
とってもかわいいね?
まあ魔術には詳しくないのか、はたまた外の世界の魔術を無理やりにここで再現したからか。
皇子様はぽかーん。
言われている意味が分からなかったようだが。
その肩にポンと肉球を乗せ――。
モフモフ武骨戦士君が猫耳をぴょこん。
ふっと悟りを開いたネコ目で首を横に振る。
「深く考えるだけ疲れるだけでありますよ?」
「そ、そうなのですね……なるほど、救援がたった三人というのは、正直どうかと思っていたのですが……本当に、なんとかなってしまいそうな気もします」
二人の会話を聞きつつも、私の思考は既に移っている。
魔物に襲われているとのことだが……。
海上から港町を眺めても、平和そのもの。
この港町が安全なだけで、首都などでは、今でも死闘が繰り広げられている可能性もあるが。
……。
干物を売っているおばあちゃんや、のんびりと釣りをしている子供たちを見る限り……。
平和そのものなんだよね。
大量の死者がでているっていう空気も瘴気も感じない。
もふっと膨らんでいる首回りの毛を揺らし、振り仰いで私が言う。
『で? どの辺が亡国の危機なんだい?』
「そんなはずは! この港町は合成素材を輸入する最重要拠点、常に魔物に襲われていた筈なのですが」
兵士姿のまま声を荒らげるダビデ皇子には悪いが。
んーむ……これってもしかして。
ヒナタくんも察したのか、微妙に気まずそうな顔で美人顔をゆがめる。
「ねえ、ダビデさん。あなたがムーカイアの大陸についたのっていつの話?」
「いつと言われましても、つい最近の話ですが――それがなにか」
武骨戦士君はまだ状況を理解していないようだ。
眉間にシワを寄せる私とヒナタ君、どっちが告げるべきか悩んでいると――。
まるで空気を読んだように、動きがあった。
港の方から軍船と思わしきものが進軍。
ザザザザっと明らかにこちらを目指しやってきたのである。
皇子は実家に帰ってきたかのような顔で、パァァァァっと軍船の旗に目をやって。
「あれは! 我が国の船です! おーい! 今帰りましたよ! わたしです! どうかこちらに来てくださーい!」
「あ! こら! ちょっと、まずいわよ!」
慌てて止めさせるヒナタ君に、皇子はきょとんと困惑顔。
「どうしたというのですか? 大丈夫です、あれは味方なので」
「いや、たしかにそうかもしれないけど――あぁぁぁぁもう! 相手に気づかれた!」
だぁぁぁぁっと頭を抱えるヒナタ君に、私は大人猫の顔で苦笑してみせる。
『まあいいじゃないか。私達の予想が事実かどうか確かめられるし。なにより、私と君の口から伝えるよりもさ? 信じてもらいやすいんじゃないかな?』
「先ほどから何を言っているのですか?」
既に安心しきっているダビデくんには悪いのだが。
……。
うん……私にはちょっと先の未来が見えていた。
私とヒナタ君の悪い予感は的中したのだろう。
そのまま私たちは追放。
着艦の許可は下りずに去れとのことで、港町を後にしたのだった。
◇
時刻は夕方過ぎ。
ご飯の美味しい香りが漂っている時間。
船を収納し、こっそりと入国した街の酒場。
海底に沈んでいた財宝を換金し、資金は確保済み!
宿も確保済み!
ならばすることは決まっている!
密談できる風結界をこっそり張って、私はジョッキのジュースをぷわぁ~!
『さすが港町! やっぱり魚介類がおいしいね!』
「ちょ、ちょっとケトスっち! あんた、よくこの状況でそんな呑気な声を出せるわねえ」
といいつつも、ヒナタくんも新鮮なお魚さんの刺身フルコースに箸を伸ばしている。
ファンタジーな酒場にお箸が似合っていないが……。
まあここはヒナタ君の夢の中、彼女が見て経験したことが反映されている世界だからね。
こっちは食欲旺盛なのだが、ダビデ君はどよーんと椅子に深く腰掛け。
沈んだまま。
目の下にクマまで浮かべつつ、ぼそり。
「いったい、どうして……わたしが帰還したというのに、誰もわたしを知らないだなんて……」
そうなのである。
私達の予想通り、だーれも皇子様の事を知らなかったのだ。
おそらくだが……。
『これで確定だね。残念だけどもう、ここは君が知っているナザレブルーノじゃないのさ』
「どういうこと、なのですか……?」
『ダビデくんが殺されたのはいつだか分からないが、きっと十年とか二十年前の話。たどり着いた直後に人間アリに殺され、ずっと遺骨の座椅子か調度品にされていたのだろうさ』
あまりいい趣味とは言えなかったアリさんの家を思い出したのだろう。
武骨戦士君が、うぷっ……と箸をおいてしまう。
構わず私とヒナタ君は奪い合う勢いで、お刺身の盛り合わせをつついているのだが。
武骨戦士君が皇子に向かって言う。
「理解できたでありますよ。つまり皇子様が、ケトスさんの蘇生によって生き返ったのはつい最近。けれど殺されたのはもうだいぶ前の話。そこにタイムラグが発生している……そういう話でありますか」
『そういうことさ。今、私の影猫を数匹放って調べさせているけど――魔物に襲われていたのは十五年前。もう戦いは終わって、平和になっているようだね。ここは』
まあ、あくまでも平和と言っても前と比べての話。
魔物は大勢残っているようであるが。
ヒナタくんが勇者としての剣技術を使い、刺身の山に攻撃!
「しっかし、十五年ならダビデさんの顔を覚えている人がいてもおかしくないと、あたしは思うんだけどねえ」
なれど私は、ヒナタくんの剣技をことごとく打ち払い。
刺身の山を確保!
神速で行われる達人同士の攻防戦に気づかず、傷心の皇子様が言う。
「別大陸にわたり、死んだと思っていた皇子がその時と同じ顔で帰ってきたなんて……誰も信じないという事でしょうね……」
『ま、逃亡を疑われるよりはマシかもしれないけどね』
私達はこのままここに潜伏し、黒山羊の情報を探ればいいだけなのだが。
……。
このダビデくん、どうしたらいいんだろう。
まさか放置していくわけにもいかないし、ねえ?




