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砂漠女王の正体 ~それは淡くて温かくて~



 帰ってきましたムーカイアの街!


 出かけたときは大魔帝ケトスたる素敵ニャンコな私と!

 元普通の人間で怪我人だった糸目な武骨戦士君。

 二人だったはずなのに――。


 凱旋する我らを出迎える代表。

 砂漠の女王カトリーヌさんも、夢見る乙女ことヒナタくんも困惑気味。


 ま、まあ……流砂の迷宮に大半のムーンキャットを残してきたとはいえ、だ。

 凱旋に並ぶモフモフは大量。

 にひぃ! と、三日月型の目と口で笑う大柄の猫たちの群れは、インパクトが強いかもね。


 口元を隠すタコ足の貴婦人までいるしね。


 黒マナティー達が私の帰還にはしゃぐ中。

 ムーンキャットと黒マナティーで覆われたムーカイアの街で、ヒナタくんがぼそり。

 腕を組んだまま、ジト目で私のモフ耳を揺らす。


「で? なにがどうなるとこうなるの?」

『いやあ、どうなるとこうなるんだろうね?』


 めちゃくちゃドン引きしてるので、誤魔化してやったのだ!

 いつも通り呆れるヒナタ君の横。

 だんだんと私にも慣れてきたのか、カトリーヌさんが美しい金の髪を風に靡かせる。


「ふむ。なかなかどうして、大量なモフモフ軍団であるが……。とりあえず、まずは宴としようではないか。詳しい話はその後に聞かせて貰っても?」


 むろん私に異論はない。

 大量のムーンキャットと黒マナティーを護衛とし。

 脅威が去った街は大宴会。


 私の提供による無限分裂する食材を元に、盛大なグルメが振る舞われた!


 ◇


 グルメの宴の後。

 ムーンキャット達の家を童話アリス魔術マジックにより作り出し、私達は王宮を会議室にして円卓を囲んでいた。

 本当は円卓などなかったのだが、会議なら円卓ニャ!


 と、私が召喚したのだが、その辺りは割愛。


 夜は更けている。

 邪神ともいえる無数の人魚と、長槍の名手なもふもふネコ達に守られた町は安全。

 今頃、砂漠の街でキャンプファイヤーを囲んだまま、夜の宴を続けているはずだ。


 私もできたらグルメを味わいたいが、それよりも優先させることがある。

 なので!

 パイ生地で包んだマトンの照り焼きサンドウィッチをガジガジガジ♪


 携帯食で解決したのだ!

 香ばしい肉汁と、肉に挟まれたタマネギのシャキシャキ感を味わいつつ。

 私は話術スキル:かくかくしかじかを発動!


 効果は単純。

 かくかくしかじかということで超高速による説明。

 相手にこちらが言いたいことを理解させる便利スキルである。


『というわけで、死の砂漠の地下にあった流砂の迷宮は完全攻略。ボス個体も捕食して情報は確保済み。リポップの心配もない。裏で糸を引いていることが確定した黒山羊には、注意が必要だけど……しばらくはここも安全だと思うよ』


 話を聞いた女王カトリーヌさんが、ぎゅっと唇を強く噛み。

 戦いの歴史を思い出していたのだろう。

 シャランと黄金装飾を肌の上で鳴らし、重い息を吐く。


「よもやあやつらが、砂漠の地下から攻め込んできていたとは――」

『砂漠の地下神殿だからね、まあアリっぽいといえばアリっぽいけど』


 ……。

 たぶんあそこの人間アリは、元人間。

 ここより前にあった国がアリの魔獣に滅ぼされ、捕食により合成、人間アリとなった存在だろう。


 まああくまでも遺骸がキメラの素材となっていただけで、元人間と言えるかは怪しいが……。


 とはいっても、もう既に人間だったときの魂は残されていなかった。

 このことを女王に話す必要はないか。

 ずっと、元人間と闘っていたと知ったら――少なからずの動揺があるだろうからね。


 けれど。

 言える範囲で伝えるべきことは伝えておこう。

 円卓の上、猫口の前でネコ手を組み、私は神父の声音で告げる。


『あそこには、ここで殺され錬金術や合成アイテムの素材とし使われている遺骸が多く、存在する。国が落ち着いたら……供養してあげるといい。今は私の配下のムーンキャットが遺品などの整理をしているからね、後で資料を届けさせるとしよう』


 女王はやはり金髪を揺らし頭を下げる。

 黙礼といってもいいだろう。

 私への感謝も含んでいた長い敬礼が終わると、女王は濡れた唇を動かした。


「それで、妾が狙われていたとは――いったい」

『えーと、それは女王種を喰らって知識を吸収した彼女、クティーラさんから説明するってことなんだけど』


 私もその理由をなぜか教えて貰えていないんだよね。

 会議にも参加している彼女に目線を移す。


 なぜかクティーラさんは私とヒナタ君を見て――。

 しばし沈黙。

 会話用のちゃんとした美女風の顔を作り、淑女の声音で問いかける。


「確認させていただきますわ。この世界が――夢見る乙女、でしたか? ヒナタさんの夢の世界だということは皆さまご存じなのですよね?」


 女王と、サンドウィッチを噛み切っているヒナタ君が反応する。


「いかにも――そのように我らも神話にて認識しておる」

「ええ、夢の中の人も把握しているみたい。まあそれが一般市民レベルにまで伝わってるのかどうかは、ちょっと分からないけど。なんか銅像も立ってるし?」


 ふむと扇を畳み、腕の中でぎゅっと握り。

 クティーラさんが考え込む。


 ……。

 どうでもいいけど、クティーラさん。

 こうしていると、普通に思慮深いお姫様みたいに見えるね……。


「分かりましたわ。では語っても問題ありませんわね。すぐにお話しせずに、申し訳ありませんケトス様。わたくし、先に彼女たちの事を見てから、語るべきかどうか判断するべきではないかしらと――そう、悩んでおりましたの……」

『君がそうあるべきだと判断したのなら問題ないさ。私は部下を信用しているからね』


 かつての敵であったとしても――。

 いや。

 敵だったからこそ、本当に信用してるんだよね。


 自慢になってしまって恐縮だが。

 圧倒的な闇である私と敵対する気なんて、起きないだろうし。


 信頼を得られていると確信したのだろう。

 クティーラさんが、穏やかに眉を下げた。


「ありがとうございますわ。ふふ、そう言っていただけると嬉しいですわね」


 顔をほんのりと赤くしつつも。

 こほん。

 再び開いた扇で口元を隠しながら、彼女が顔を引き締め言う。


「カトリーヌ様。金糸姫と呼ばれるあなたはヒナタさんの心の変化によってこの世界、ドリームランドに生を受けた存在。乙女の中で具現化された、とある心、淡くて温かい感情の結晶ともいえる御方なのですわ」

「妾が夢見る乙女の、感情の結晶?」


 言葉を受け止めたカトリーヌさんの反応は……。

 強く驚いた様子はない。

 心の中で整理しているといったところか。


 ヒナタ君がうぬっと眉を顰める。


「ちょっと言っている意味が分からないんだけど。どういうこと?」


 私が言う。


『まあ力ある存在のヒナタ君の夢見る世界だからねえ……。カトリーヌさんだけじゃあない――この世界にいる人の多くは、ヒナタくんの心や記憶から生まれた魂。日常生活で見たモノや感じたモノ、実際に見知って記憶した情報の中から、自然に発生しているんだろうね。まあ山羊聖母だったり、あのアリんこだったり、外部から侵入してきた連中もいるみたいだけど』


 カトリーヌさんの落ち着きを待っていたのだろう。

 クティーラさんが話を続ける。


「ええ、けれど――このカトリーヌ様はその中でも特別なのです。本当に特別な……」

「ん? なーんか要領を得ないわね。あたしに遠慮してるみたいだけど、はっきり言ってもらっても構わないわよ?」


 と、物怖じせずにクティーラさんをツンツンするヒナタくん。


「言わないわけにはいきませんわよね。えーと……同じ乙女としては、あまり公にするべきではないと思っておりますが仕方ありません」


 ヒナタ君とカトリーヌさん。

 両方に目をやって、落胤の姫は告げる。


「カトリーヌ様は、ヒナタさん……あなたがとある方に恋をしたときに生まれた、夢見る乙女の小さな愛の結晶。今も変化し続ける、恋心そのものなのですわ」


 一瞬。

 空気が固まった。


 会議には国の重鎮や、護衛女傑なキーツさんやその相方。

 そして。

 糸目な武骨戦士君も参加しているのだが。


 ざわざわっと声がする。

 愛? 恋?

 ……そんな声が漏れた後。


 ぼぼぼぼぼぼぼぼっと顔を赤くし、ヒナタくんがくわっと叫ぶ。


「は!? なによそれ!」

「わたくしに言われましても……困りますわ。ただ、あの流砂の迷宮にいた女王の知識と記憶ではそうなっているのですわ」


 言葉を区切り、クティーラさんが淡々という。


「あの人間アリたちにとっての神、つまりシュブ=ニグラスの力を宿した黒山羊聖母に命じられていたのは――ヒナタさんの恋心の結晶である、金糸姫の生きたままの捕獲。それを黒聖母に奉納することだったのですから」

「だだだだ、だからって! あ、あたしの恋とか!?」


 全身を真っ赤に染め上げるヒナタくんは、うぎゃぁぁぁぁぁっと頭を抱え。

 涙目になって、キリっとカトリーヌさんを睨む。


「ちょっと、カトリーヌさん! あなたは知ってたの!?」

「な、なにをであるか?」


 剣幕に押され困惑する女王に、ヒナタくんが涙目で食い下がる。


「恋とか、愛とか、そういうのよ!?」

「い、いや――ただ、妾が生まれた時の記憶は持っているぞ?」


 細い指を顎に当て。

 おぼろげな夢を掴むような顔で、女王陛下は静かに語る。


「あれは、そうじゃのう。少し曖昧なのじゃが――異世界には、学び舎を囲う校門という場所があるじゃろう? そこでもう二度と会えないと思っていた誰かと再会したこと……そしてじゃ、金糸雀カナリアの姫と友情を育んだこと。夢の中、たまにそんな光景が浮かんでくるのでな」


 懐かしむような顔で、女王は濡れた唇を更に動かす。


「その姫はプリンのような頭をしておったのじゃが、姫との会話の中で恋愛の話題となり……とある男を意識し始め、徐々に、内に秘めていた心を自覚して……。なるほど、あれは妾の夢ではなく夢見る乙女が見ていた、現実だったのやもしれぬな。おそらく、妾もその時に生まれ――ど、どうしたのじゃ!? 異世界の般若と呼ばれるような顔を、むぐ!」


 言葉の途中で、女王の口を乙女の手が封鎖する。

 ぐぬぬぬぬぬ。

 ――っと、への字の口を震わせるヒナタくんが止めたのだ。


「ストーォォォッォオップ! あ、あたしが誰にいつ、恋を自覚したとか!? そういうのは、別に今は必要ないでしょう!」


 つまり、誰にかは知らないが――。

 ヘンリー君のお姉さんである金糸雀カナリア姫との女子同士の会話で、私も知らない誰かへの恋を完全に自覚したのかな。


 その時にカトリーヌさんはドリームランドで具現化した。

 なるほど。

 金糸雀の姫の言葉により恋を自覚、誕生したから若いころの通り名が金糸姫、なのか。


 カナリア姫の影響を受けたのだろう。


 夢世界の時間の流れはかなり特殊。

 カナリア姫との出会いはけっこう最近だけど、夢の世界では女王になるほどに成長していたとしても不思議ではない。

 まあもしかしたら、ヒナタくんの恋心が育つとともにカトリーヌさんも急成長している可能性もあるが。


 たぶん、時間の流れが特殊という方が正解だろうと思う。

 とはいってもだ。

 私が顕現した世界、関わった時点で――それも変化する。


 ある程度時間の流れは固定されるのだが、ともあれ。


 なかなかセンシティブな話題なので、紳士魔猫な私は黙っておこう。

 本当は誰に恋をしたとか――。

 そういう部分を三毛猫魔王様とか我が宿敵に報告するべきなのかもだが。


 ヒナタくんの恋なら応援してあげたいしね!

 恋を応援する紳士で大人な私は、ふ……っと微笑。

 わかってるよ、騒いだりしないよと私は穏やかニャンコな渋い笑み。


 なぜかクティーラさんは、あぁ……っと朴念仁を見る顔で私を見て。

 我関せずとばかりに口元を扇で覆い。

 触手で掴んだ紅茶を優雅にスススス。


「ともあれ、話を続けさせていただきますわ。乙女の淡い心から生まれた者、それだけでカトリーヌ様はこの世界で特別な存在なのですわ。勇者であり、名前を言ってはいけないあの方の実子でもあるヒナタさんに、多くの影響を与えうる核、それを黒山羊聖母は狙っているのでしょう」

『なるほどねえ、最終的な狙いはやっぱりヒナタくんなのか……』


 前にもちょっと語ったかもしれないが、ヒナタ君は属性過多。

 本人自体も特別だし……。

 嫌な言い方だが、なにに利用するにしても最大限の効果を発揮する存在なのだ。


 武骨戦士君がモフモフな手でティーカップを握りながら。

 不安そうに私を見る。


「話が難しくて……どういうことなのでありますか?」

『ふむ――ヒナタ君が夢見る乙女本人だっていう事は言ったよね? ならば分かるかもしれないが、本当に特別な存在なんだよ。たとえばだが、カトリーヌさんではなくヒナタくん本人を生贄とすれば――。……。考えたくはないが、本当に……どんな願いでもかなえてしまうような、合成素材となってしまうはずなんだ』


 あくまでも事実を語る口調で、私は神父の声を漏らす。


『それこそ、私を脅かすほどに強力な存在を作り出す事すら可能なのかもしれない。まあ、ヒナタ君本人がものすっごく強いし。幸運値もカンスト気味。知識にも知略にも長けているので、普通ならば捕縛など難しいけれどね。けれど、その心を夢の中から操作してしまえば――どうだろうか』


 言葉をつなぐように落胤の姫が、静かに語る。


「下劣な手段ではありますが、合理的。正面から攻め、ヒナタさんを拉致するよりも容易いというわけですわね」


 善良な心の持ち主だと、あまりピンとこないのだろう。

 空気には戸惑いがあった。

 けれど私とクティーラさんは邪悪よりなので、ピンときている。


 あえてだろう、クティーラさんが邪神としての邪悪な顔で――。

 ニヒィ。

 口元をゆがめ、残酷な言葉を口にした。


「敵は、夢見る乙女の心を侵そうとしているのですわ」


 びちゃりびちゃりと、触手を蠢かし。

 敵がいかに危険であるかを教えるように、姫は言う。


「もしカトリーヌ様を手に入れ、その心を加工。都合のいい相手に燃えるような恋をさせ、どんな命令でもきくように操作をしたとしたら? 夢の中とはいえ、それは現実世界にも影響を与えましょう」


 耳を後ろに下げ。

 イカの形にして、私はウニュっと眉を顰める。


『ま、思いつきたくもない外法だけれど――カトリーヌさんがヒナタ君の恋心そのものなら、本当にそんなことも可能だろうね。愛は盲目。時にどんなことでもしてしまうこともあるからね……五百年も生きていると、たまにそういう、愛に狂って暴走しちゃったって案件と出くわすこともあるし』


 もしかしたら……だ。

 前回の事件はその実験の一つ。

 あの妹くんの心で、愛の実験をしていたのではないか。


 そんな邪推まで浮かんできてしまう。

 白山羊はそんな黒山羊の外道を、なんとか止めようとしていた可能性もあるが……。


「話をまとめましょう――わたくしとケトス様の結論はコレ。黒山羊聖母の狙い自体はカトリーヌ様ですが――その本当の目的はヒナタさん。彼女を捕まえるための、この侵略だったのでしょう。全てはこの世界の創造主、夢見る乙女を手に入れるため。乙女の心、愛や恋をゆめから歪めて操作することにあるのですわ」


 つまりだ――。


 黒山羊聖母は少女の心を操作するために、この国で虐殺を行っていたのだ。

 なかなかどうして、外道である。

 まあ、聞いていて気持ちのいい話じゃないよね。


 しかし――分からないことがまだある。

 まだ比較的まともな方の山羊聖母。

 白山羊さんはいったい、どこでなにをしているのやら。


 縄張り争いをしていたとのことなので。

 ドリームランドにいるのは間違いないとは思うが。

 事件はまだ、終わったわけではないということか。



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