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新たなるドリームランド ~魔王陛下のご息女って時点で特別~



 前回の事件を解決し、魔王様成分を補充した後のできごとだった。

 魔王軍最高幹部で最強の低級猫魔獣。

 大魔帝ケトスこと私は、私の自室にて――んーみゅと、猫口をひん曲げていた。


 黒山羊聖母を追っていた我が側近、炎帝ジャハル君による報告を受けていたのだが。

 スリムボディが美しいモフモフ魔猫な私。

 そしてランプの美女精霊っぽいジャハル君は、部下と上司で共に、ジト汗を流していたのである。


 なぜなら、うん。

 ジャハル君と一緒に黒山羊聖母を追っていた、ウチのワンコ(ホワイトハウル)がね?

 めっちゃ犬歯を覗かせて、口元をグギギギギギギ!


 赤き魔力を滾らせて。

 普段はシベリアンハスキーみたいな姿を、北欧の神獣フェンリル狼の様に異形へと化し。

 モフ毛をモコモコモコモコ!


『許すまじっ。聖母マリア討つべしっ、滅ぼすべしっ! ガルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』


 と、こんな感じで滅茶苦茶、威嚇モードになってるんだよね。

 私とジャハル君は目を合わせ。

 コピーした神器、リラックス効果のある冥界神の竪琴を鳴らし、私が言う。


『ホ、ホワイトハウル。落ち着きなって、いったい何があったのさ』

『これが落ち着いてなどいられるかっ』


 くわっと目を見開く神獣モードのホワイトハウル。

 その怒り荒ぶる顔の目の前に、私はすぅっと棒状のワンコおやつを絞り出す。

 部屋の中に、濃厚なオヤツの香りが広がる。


 ちゅるちゅるちゅる……。


 じぃぃぃぃぃぃ。

 ワンコの瞳が怒りから食欲に変わり、モフモフしっぽがばっさばっさと揺れ始める。

 ぴっちゃぴっちゃぴっちゃ♪


『グハハハハハハハ! うまし! 実にうまし!』

『どうやら、落ち着いたようだね――』


 一連の流れに呆れた目を向けつつも、ジャハル君が炎の髪を揺らす。


「あー、なんつーか……緊急事態ではないんですが。んー、ホワイトハウルさまが怒るのも無理ないんすよねえ」

『黒山羊の聖母……私がドリームランド・ウルタールで出逢った個体とは別の、前回の事件の黒幕を操っていた聖母を追っていたんだよね? で、どこに逃げ込んだのかも調べがついているって話だったけど……』


 だったらあとは攻め込んで、黒山羊をとっ捕まえるだけだと思うのだが。

 どうもホワイトハウルの様子がおかしすぎる。

 今のところはワンコおやつで、荒魂あらみたまを抑えているけど――。


 燃える髪をがしがしするジャハル君が、通信モニターを顕現させ。

 ものすっごい苦い顔で言う。


「逃げ込んだ場所が問題なんすよ」

『ふむ、簡単に入り込めない多次元宇宙にでも逃げ込んだのかい? それならたぶん、聖父クリストフの迷宮国家クレアリスタから行けると思うけど』

「まあ今から彼女に話を聞けばわかりますよ。本人の希望もあって――前回の事件であの兄妹が落ち着くまで、ケトス様に心配をおかけしないようにしてたんすが……」


 彼女?

 誰だろう。この口ぶりだと私も知っている相手みたいだけど。

 すっかり魔導技術と科学技術が融合し始めている、最新鋭の通信モニターに映像が走る。


 そこにいたのは黒髪美少女。

 一見すると清楚な美人さん……って。


『ヒナタくんじゃないか! どうしたんだい!?』

「にひひひひ! やっほー! ケトスっち、久しぶり~! 元気にしてた?」


 ブイサインを作るのは――女子高生勇者、日向撫子くん。


 三獣神の弟子。

 三毛猫魔王陛下の娘で、私の宿敵が転生した勇者の娘で……って、いろいろと属性、盛り盛りな存在。

 純粋な人間としては間違いなくトップの実力を持つ、少女である。


『久しぶりだね、まあ色々と事件はあったけど元気にしているよ! で? 今日はどうしたんだい。なにか知っているって感じなのかな?』

「いやあ、知ってるっていうかね。あんまり怒らないで聞いてほしいんだけど、実はね」


 ヒナタくんは、愛嬌のある顔をぽりぽりと掻きながら。


「最近、毎日変な夢を見るのよ。あたしも知らない変な街で、白山羊と黒山羊が大喧嘩をして場所の取り合いをしてるって感じの夢を、毎晩……って、ケトスっち!? お、怒らないでって言ったじゃないっ!」


 モニターの中で動揺するヒナタくんの前。

 私は憎悪で瞳を赤く染め。

 くわ――ッ!


『キシャァアアアアアアアアアァァァア! あんの腐れ女神がぁぁぁぁぁぁ! ああ、そうかなるほど。魔王陛下の夢の中に寄生していたみたいに、君に寄生しているってわけかっ』


 我が愛弟子の……っ。

 夢の中に寄生!?

 しかも、もう一人の魔王陛下である三毛猫魔王様のご息女にっ!


 全盛期のフォルムになった私は、ざざざ、ざぁぁぁぁぁあ!

 ぎしりと赤い瞳を輝かせる。


『なるほど、白銀の魔狼――我が盟友よ。汝が怒り心頭となっていた理由、ようやく理解ができたわ』

しかり。我が怒りの理由、汝も理解してくれたようで力強いぞ――』


 ホワイトハウルがワンコおやつをむちゅむちゅしながら言う。


 ジャハル君がはぁ……と肩を落とし、私の口元に有名ニャンコおやつを近づけて――。

 ……。

 ぴっちゃぴっちゃぴっちゃ♪


 しゅるしゅるしゅる。

 いつもの魔猫モードに戻った私は、眉間を尖らせながらオヤツに食いつく。

 甘露のごとく極上なるオヤツで口元を汚し、私はシリアスに唸る。


『魔王陛下の夢世界を利用して世界を構築したように、今度はヒナタくんの夢に入り込んでいるのか、しかも黒と白が両方ともねえ……』

『聖母め、何を企んでおるのやら』


 愛弟子の危機に殺気立つ私達とは裏腹。

 ヒナタくんは明るい様子のままだった。


「まあ今のところは害もないから、そこまで気にしてはないんだけどね? でもやっぱり、これって何かの事件の前触れよね? しかも絶対に厄介な案件だろうし……でさあ、お父さんとお母さんにはまだ相談してないのよ。可能なら、ケトスっちたちの方でなんとかして欲しいかなって思ってるんだけど。ダメかしら?」

『私たちが逃がした聖母のせいだからね。もちろん協力させてもらう。けど――』


 首を横に倒し、私はハテナを頭上に浮かべる。


『なんでそっちでは内緒にしているんだい? 今って、大魔王ケトスと愉快なモフモフ達も同居してるんだろう?』

「いや、今のあんたとそこのワンコを見ればわかるでしょうよ……。ウチに住んでる邪悪アニマルたちがガチ切れしたら、さあ……まだ比較的冷静なあんたたちと違って、世界、やばくなるんじゃない?」


 あー……。


 この温厚な私と、ホワイトハウルが全盛期モードになって。

 魔王様のご息女の夢に侵入するとは許せん……!

 となっているのだ。


 第二世界の三獣神が暴走したら。

 ……。

 穏便に止められる自信は正直、ない。


『それでは内密に話を進めるとして。そうだね、とりあえずヒナタくんもこちらに来てもらっていいかい? 魔王城なら安全だろうし、もしなにかあったとしても対処ができる』

「了解♪ さすがケトスっち! 話が早いし、分かってるじゃない! 悪いけど、頼りにしてるわよ! じゃあ準備できたらそっちに行くけど――ちょっと待ってて」


 私とホワイトハウルは目線を合わせ。

 ワンコがちゅるちゅるオヤツを啜りながら言う。


『どうしたのだ娘よ。儀式に必要なものはこちらで用意するが』

「もう、乙女心が分かってないわねえ。たぶんあたしが眠ったところに、ドリームランドの力を持ってるケトスっちが入り込むって感じよね? せっかくだしお泊りセットを用意したいのよねえ。ジャハルさんならこの気持ち、わかるでしょう?」


 言われたジャハル君は、くすり。

 女帝とも炎帝とも違う、大人の女性としての声で微笑んでみせる。


「ふふ、どうであろうかのう――このお二人は偉大な獣神なれど、そういう心の機微には疎いのやもしれぬ」

「まああの極悪チキン教官よりはマシでしょうけどねえ。って、ロックウェル卿はそこにいないわよね!?」


 うげっと少女の顔に汗が滴る。

 地獄の訓練を受けていたからか、まだ苦手意識をもってるのか。


『残念ながら卿はいないよ。けれど、君の夢の中に入ることとなったら呼ぶことになるかもね』

「あははははは、じゃあさっきのは聞かなかったことにしてね。んじゃ、準備できたらそっちに転移するから待ってて~♪」


 言いながらもヒナタくんは旅行カバンに手を伸ばし、映像が途切れる。

 だいぶ大人びてきたヒナタ君だけど――。

 旅行準備にウキウキしているところとか、まだまだ子供っぽい部分があるんだよね。


 こうしてちゃんと頼ってくれることは、結構ありがたいが。

 第二世界の三獣神。

 極悪アニマルたちには悪いが、事後報告するとして。


『しかしケトスよ――三毛猫陛下の娘ヒナタの夢に入り込むとは、これは……』

『偶然ではないだろうね。しかし今度はもういるとわかっているんだ。厳重な結界と罠をはって、出迎えようじゃないか。さすがに、また逃げられたら面白くないからね』


 黒い微笑を浮かべ。

 私も旅行カバンにネコおやつをぎゅっぎゅ♪

 モフモフしっぽを揺らす。


 私達はヒナタ君の夢の中。

 新たなドリームランドに入り込む準備を始めた――。


 ◇


 一時間ほどが過ぎたころ。

 特設した空間に魔力の揺らぎが発生した――。


 光の柱が、床から膨れ上がっていき――現れたのは一人の少女。

 三毛猫陛下のご息女。

 日向ひなた撫子なでしこお嬢様こと、我が弟子のヒナタくんである!


 寝巻代わりなのだろう、大きめなジャージ姿に黒髪を後ろに束ね――ブイサイン!

 旅行カバンをよいしょと下ろし。

 彼女は到着早々、ニヒヒヒっと太陽のような笑みを浮かべていた。


「お待たせ~っと、いいたいところなんだけど。うーん……」


 その視線はすぐに下へ。

 床に張り巡らせた魔術式の塊へと移る。

 その瞳は既に魔術式を読み解いて、解読を始めている。


「いったいなによ……これ。この、なんつーか……おどろおどろしい魔法陣は。捕縛系? それとも……神仏封印の儀式円って感じかしら」


 魔術にも詳しい少女の前。

 しっぽをもふもふ揺らしながら、今も私は魔導チョークで式を刻み続けている。

 チョークまみれのネコ手で、挨拶をぴょこぴょこ♪


『やあ、早かったね。もうすぐ終わるけど、まだこっちが準備中さ。君の中でその黒白山羊をどうにかしようと思っていてね。この空間からは絶対に逃がしたくないわけで――』

「つまり、もしあたしの中から逃げ出そうとしても、ここで待機しているワンコと魔王陛下に捕まるってわけね」


 ソファーの上でワンコを抱っこする魔王陛下がヒナタ君に言う。


「その通りだ。今回は母がすまないことをしたね、どうか許しておくれお嬢さん」

「いえいえいえ。っていうか……こうしてちゃんと話したことがあんまりなかったけど……陛下って、本当にお父さんに似てるのね。そりゃあ同一存在なんだから当たり前かもしれないけど、変な気分ね」


 ヒナタくんは照れ臭いのか、私の背中をツンツンしながら言っていた。

 そういや、ちゃんと顔を合わせる機会は少なかったのか。

 陛下が口角に笑窪を作り、優しい声を漏らす。


「キミはワタシの義理の娘であり、我が愛しき魔猫達の愛弟子。存分に頼ってくれていいよ。今度、三毛猫のワタシに内緒で修行にでも来るかい? あっちのワタシが知らない魔術の奥義を伝授したら、きっとあっちのワタシも仰天して悔しがるだろうからね」


 魔王様……。

 三毛猫陛下に微妙に対抗心燃やしてるんだよね……。

 まあ私が大魔王ケトスに負けないように頑張っているのと同じ、仲が悪いわけではない。


「あ、それいいですねえ! あたし、お父さんをびっくりさせたいですし」

『魔王様もヒナタくんも、そういうのはあの山羊をどうにかしてからにしてくださいね』


 言いながら、私は複雑怪奇な魔法陣を書き書き書き!

 理論の破綻がないことを確認し――。

 ビシっと立ち上がり、しっぽでバランスを取りながらくはははははははは!


『ふう、まあこんなもんかな! これであの腐れ女神がヒナタくんの夢から排出されても、この部屋の中に閉じ込めることができる筈。ていうか、さすがにもううんざりだし。今回できっちり、どうにかしちゃいたいし! んー! さすが私!』


 魔法陣のど真ん中に童話のプリンセスベッドを顕現させて。

 準備は完了!

 シーツを肉球でペンペンペン♪


『じゃあここに横になっておくれ。君の意識を通して、ドリームランドを開門させる』

「えぇ……みんなが見てる中で眠るの?」


 露骨に嫌そうな顔をするヒナタくんに助け船を出したのは、ジャハル君。

 この場にいる魔王軍側の女性陣である。


わらわもおるから安心せよ。ちゃんと炎による囲いも作っておくからのう。ヒナタよ――、汝が寝たその後にケトス様が上でどでーん……じゃなかった。ゆったりと乗り、精神リンクを開始する手筈となっておる。心配はあるだろうが、頼むぞ」

「って、ジャハルさんは一緒に来てくれないの?」


 再度、露骨に残念がるヒナタ君に、ジャハル君が女友達の顔で眉を下げる。

 私も知らない間に交流が進んでいるらしく。

 なんか結構、仲いいんだよねえ、この二人。


「眠りに入るケトス様が動けなくなるであろう? そして万が一に備え、いざとなったら魔王陛下も汝のドリームランドへと接続する手筈となっておるのじゃ。陛下は基本待機じゃが……ソファーの主となっておる」

「ああ、なるほどねえ。すると――次に魔王軍を指揮する存在が悪魔執事のサバスさんと、炎帝であるジャハルさんになるってことね。その聖母? とやらを追っている間にここが手薄になっても困るってことか」


 魔王様がソファーでドヤるホワイトハウルのお腹に顔を埋めながら。

 手をわきわき振って見せる。

 その通りだっていう合図だろう。


 あ、ホワイトハウルの野郎。

 わふわふわふふふぅぅぅ♪

 って息を漏らして――っ!

 魔王様モフモフを受けてっ! 超ドヤ顔をしやがった!


 もこもこな耳をピンと立て、ずいぶんと偉そうにしているでやんのっ!

 斜めに人を見下ろし。

 ん? ん? どうだ!? どうだ!?


 めっちゃドヤドヤ、ドヤのドヤ……っ。

 っく、ここでむきになったらこっちの負けか。

 尻尾の先をバタバタと不機嫌に揺らしつつも、私はその挑発をスルー。


 ま、まあ私はワンコと違って嫉妬深くないから、べ、別にいいのだが。

 ワンコが露骨に残念がり、わぅぅぅぅぅぅっと大きな息を漏らす。

 魔王様の髪を揺らしつつ、その吐息に言葉を乗せていた。


『なんじゃ、つまらんのう……嫉妬せんのか。我、嫉妬するおぬしがみたかったのじゃがのう……!』

『あのねぇ、君じゃないんだから……』


 よーし、勝った!

 って、こんなことをしている場合じゃない!


『んじゃあ、ヒナタくん。さっそく君の夢の世界に行こうか。どんな状態になっているかは分からないけど、油断はしないでおくれよ。夢の中で合流するから、待っていておくれ』

「オッケー! じゃあ他の人もいざとなったらよろしくね!」


 元気よく告げたヒナタくんがスキル:瞑想を発動。

 精神を集中させ、眠りに入るつもりなのだろう。


 ぶかぶかなジャージのままシーツに身を沈め。

 ぐーぐーぐー。

 寝るの、はや!


『さすが勇者ともなると、睡眠導入スキルも完備してるんだね』

『ケトスよ、気をつけるのだぞ――それと、あの聖母を見つけたらっ……わかっておるな?』


 お、おぉ……ワンコ。

 やっぱりあの山羊に滅茶苦茶ヘイト溜めてるな……。


『引っ張り出して、君の前に差し出してやるさ。でも事情をちゃんと聞かないとだからね?』

『……分かっておる』


 魔王様の母上なので我慢をしているのだろう。

 本当は、そのままガブっとやっちゃいたいんだろうなあ……。

 ともあれ、ヒナタくんは既に夢の中。


 くーくー眠る少女の胸の上に乗り。

 私もまた睡眠という共通領域を作りヒナタくんの精神に同調――!

 ドリームランド開門に意識を集中させた。


 ヒナタくんがわずかに寝息を漏らす。


「むにゃむにゃ…つ、漬物石が……漬物石が……っ、胸の上に……あ、あたしは漬けても美味しくないのに」


 思わず、ヒゲがぴくぴくっとしてしまう。

 ……。

 私の事じゃないだろうな……。


 ともあれ。

 精神が――ダイヴする!


 こうして、今回の冒険は始動。

 再び夢の世界を舞台とし――ヒナタくんの精神世界へ入ることから始まったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ネズミ兄妹アニマル化おめでとうございまーす!! 白黒山羊は何で縄張り争いしとんねん!! もうお前らは手紙の食合いでもしてろ!! ケトス様の推定体重が判明!!さすがおで……おでおでひデb!…
[一言] なんだ嫁姑戦争が始まるんじゃ無いんだ
[一言] 邪悪なる母は全世界のディズ〇ーランドを1ヶ所に集めて遊んでいるんだ! ケトスにゃんも全部遊び倒すに違いない( ̄▽ ̄)
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