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わたしのお兄ちゃん。 ~病弱少女の王子様~その3



 闇の空間に落ちた聖なる学び舎。

 魔性と化した少女で黒幕――病弱な白き少女、天童てんどう美香みかくんを守るのは黒衣の神父。

 私、大魔帝ケトスの弟子で、彼女の腹違いの兄。


 野ケ崎(のけざき)かなめ

 周囲に広がるのは、キキキキキっとざわめくネズミの声。

 兄妹を出逢わせた運命のゲーム、プリースト戦記のマスコットキャラクターのでち助である。


「まったく、バカな男でち――でちが、勝算はあるんでちか!?」

「バカめが! あるわけないだろう!」


 自らの使役する付喪神に突っ込まれ、なっはっはっは!

 野ケ崎君は実に偉そうに宣言する。

 それでも――。


「チュチュチュチュゥゥゥゥッゥウウゥゥ! バ、バカなんでちか!? いや、バカなのは知っていまちが! 大馬鹿でち!」

「バカはキサマだでち助! おまえは勝てないからと見捨てるのか? 勝てないからと見なかったことにするのか! 違うだろう!? オレは知っている、ああ、オレは知っている。妹だか何だか知らんが、この娘の気持ちは理解ができる!」


 告げた我が弟子の体から赤い魔力が漲り始める。

 魔性としての妹の力に共鳴しているのだろう。


「マリアよ、いや我が妹、美香よ! 共に冒険をしたあの日々を、オレは忘れてはいない! オレにとって救いだったあの世界を共に歩き、共に楽しみ、共に救われた! その事実はけして嘘ではないっ、たとえ世界ゲームが終わろうとも、オレたちが過ごした日々は終わらない!」

「お兄ちゃん……っ」


 マリアというのは、少女がゲームで使っていたプレイヤー名だったか。

 しかし、彼女の心臓に憑依しているあの存在も聖母マリア

 あの腐れ女神の白山羊と関係しているだろう、あの黒山羊……。


 アレもここでなんとかしたい所なのだが。

 ……。

 ていうか、紛らわしいし混乱するから……同じ山羊の恰好ででてくるの、止めてほしいんだけどなあ。


 考える私の前で、スフィンクスたちがブニャ!

 ギロギロギロギロ!

 相手がネズミということで、ウチの眷属たちがめっちゃあらぶって、ふんふん♪


 うわぁ……。

 めっちゃ鼻息を荒くしているし。

 我が眷属であるスフィンクスたちに向かい、手を出すなと、目線を送る私。

 とっても空気の読める大魔帝だね?


 よーし、シリアスは維持できた!

 私、偉い!

 と、自画自賛しつつ神父姿のまま語り掛ける。


『そうだね、ならばハンデを上げようじゃないか、私は三分間、こちらからは攻撃しないであげるよ。それがタイムリミットだ。その間に君が、いや、君たちが私にダメージを与えることができたなら、殺すのはやめてあげよう。さあ、かかっておいで――』

「悪いが、本気で行かせてもらうぞ。モフモフ師匠!」


 宣言と共に野ケ崎君は腕に演算器具を顕現させ。

 カカカカカ!

 高速で魔術式をくみ上げる。


 使用している魔術効果は、チャージ。

 力を溜めているのだ。

 溜めれば溜めるほど威力を増す、ゲームでもよくある能力である。


 でち助がまだ狼狽したまま、モフモフな毛を輝かせ。

 でちちちちち!


「ほ、ほんとうに大丈夫なんでちか! 大魔帝ケトスは魔族。やるといったら、本当にやるでちよ!?」

「くどい! 嫌ならばオマエは逃げていろ!」


 統率が取れていない三人を見て、私はただ悠然と手を広げたまま。

 敵対するものとしての顔で、黒く微笑する。


『老婆心ながら告げておくよ――もう十秒が経ってしまった。迷っている時間はない。ほら、時間はどんどんなくなっていく。制限時間付きのバトルっていうのも、なかなかおもむきがあるだろう? せいぜい抗ってみ給えよ、脆弱なる人間とその眷属ネズミ』

「あぁあああああああああああああぁぁぁぁ! もう、仕方ないでちね!」


 キキキキキキキィ!

 群れとなったでち助の毛が、モフモフっと膨らんでいく。

 赤い魔力を受けるネズミの体が、ササササ!


 魔術印を刻みだす。

 ルーン文字のように、文字自体に魔術効果を圧縮させているのだ。


「三分の間に、デバフをかけまくるでち!」

「わ、わたしもやるわ!」


 続いて車椅子の乙女が瞳を赤く染め、黒髪を白く染め上げ手を伸ばす。

 その髪の色。

 雪のような髪の色が、魔性と化した彼女の、本当の髪の色なのか。


 彼女の過去が透けて見えてくる。


 校則なので黒く染めていたのだろう。

 白い髪に、赤い瞳。

 雪ウサギのような少女は、いつでも膝を抱えて泣いていた。


 ――おねがいだから、もう力を使わせないで……っ。


 少女の過去が、私の魂を揺さぶる。

 これはでち助が使っているデバフ魔術の効果だろう。

 相手に過去を見せることにより、同情を誘い――その心の揺れを楔に、私の能力に干渉しているのだ。


 この手の精神デバフ魔術の弱点は明白。

 真実ではない過去だと看破された場合、まったく効果がないのだ。

 ウソの過去なら同情などしないのだから。


 しかし――。

 野ケ崎君が魔力を掌に集中させながら、凛々しい顔立ちで告げる。


「モフモフ師匠。いや、大魔帝ケトス。キサマなら心を読める、過去を見ることさえも可能。ウソを見破る能力もある。ゆえにこそ、でち助の精神デバフは百パーセント以上の力で突き刺さる」


 そう、私が相手の心を読めるからこその作戦だ。

 うんうん!

 イイ感じで戦えているじゃないか!


『ああ、そうだね。私が教えたことをよく学んでいる。君たちのチャンスは一度きり、制限時間ギリギリまで私の能力を下げて、一撃にすべてをかける。実に単純なプランだが最適解だ。どうか私に君たちを殺させないでおくれ、既に魔導契約は済んでいる――この三分が終われば、私は君たち兄妹を殺す』


 言って、私は魂に送られてくる少女の過去に目をやった。

 宣言した三分間は、私は行動しない。

 多重のデバフが私の能力を著しく下げていく。


 過去が私の精神を蝕み始める。

 レジストすることは容易い。

 けれど私はあえて彼らのデバフを受け入れた。


 ◇


 少女がまだ小学生だったころの記憶か。

 病弱な少女の車椅子を運ぶトモダチは、少女の髪を掴んでいた。

 少女は何も言えずに、ぎゅっと唇を嚙む。


 トモダチが言った。


 ――なによ、その目は。

 ――あんたなんてお人形と一緒でしょっ? あたしがいないと、満足に校舎も動けないのよ?

 ――なのにっ、なんで先生はあんたのことばっかり見てるのよ! 許せないっ。あんたみたいなゴミ人形を介助してあげてるあたしのほうが、ずっとずっと偉いんだからっ!


 それは全寮制の檻の中で決められた役割。

 トモダチはその月の、美香ちゃん当番になってしまったのだろう。

 いつでも他人に親切に。アガペー()を忘れずに。

 だから、みんなで可哀そうな美香ちゃんを助けてあげましょうね?


 人形のように美しい少女が言う。


 ――おねがいっ。離して、痛い……っ。


 堪えるように。

 抑えるように。

 身の中に眠る力を必死で鎮め、少女は懇願する。


 髪を伸ばしていれば、願いが叶う。

 背中まで伸ばせば、夢が叶う。

 まだ幼かった少女はそんなジンクス、おまじないを信じていたのだ。


 だから。

 少女は髪を守るように、必死で頭を押さえる。


 それが面白かったのだろう。

 子どもは時に残酷だ。

 他人の大事なものだとわかっているからこそ、平気で壊してしまう無邪気で暗い嗜虐心を抱いている。


 ――あたしだって、あたしだって偉いのにっ! なんであんたばっかり!

 ――可哀そうだからって! 偉いと思ってるんじゃないでしょうね!

 ――あたしだって! あたしだってっ。


 それは病弱な少女を優先する大人への嫉妬だったのだろう。

 もうすこし、成長すればわかってくるはずだったのだろう。

 それは病弱な少女が優先されていたわけではなく、手のかかる生徒を仕方なく優先していた大人の処世術だったと。


 大人たちは、病弱な少女を捨てられた厄介な子犬。

 その程度の感情でしか見ていなかったと、子供には分からなかったのだ。

 むしろ、こうして本音をぶつけてくれるトモダチの方が、よほど温かい生き物だったのだろう。


 だから少女は我慢した。

 自分を人形と言いつつ、本気で怒りをぶつけてくるトモダチが好きだったのだ。

 人は、人形には本気では怒らない。

 唯一、自分を哀れで病弱な人形ではなく、人間として扱っていてくれると少女は感じていたのだ。


 だが。


 トモダチが輝く二本の刃を手にして――。

 笑った。

 ハサミだった。


 じゃり……。

 髪が切られていた。

 トモダチができますようにと、願った髪が車椅子の膝の上。

 はらりと髪の束が落ちる。


 涙も続いて落ちてきた。

 落ちる髪の毛を見て、少女は抑えられなくなった。

 ぎゅっとこぶしを握っていた。


 あの日、先生を殺した時の様に――心臓から影が生まれた。

 そして。

 異能力は再び発動した。


 トモダチはその日以来、笑わなくなった。


 ただ車椅子を運ぶだけの人形になった。

 唯一、怒りや嫉妬とはいえ――。

 人間扱いしてくれたトモダチの人格を、殺してしまったのだ。


 ――だから、言ったのに……。


 少女は物言わぬ人形となったトモダチを見て、悲しそうに瞳を閉じた。


 時は移る。


 病室にも似たベッドの上。

 うつろな瞳でノートパソコンを操作する少女は、まだ十二歳ぐらいだろうか。

 満足に動けない少女は、白い髪を揺らしていた――。


 そのベッドの周囲には、魂が抜けた人形が数体。

 並んでいる。

 いつからだろうか――虐めてきた面倒なトモダチを、少女はこうして人形に変えることが日常になっていた。


 我慢は二回まで。

 三回目は人形に変える。

 次第に少女を虐めてくるトモダチはいなくなった。けれど、孤独になった。


 それでもいいと少女は思っていたのだろう。

 白い髪に、赤い瞳。

 既に魔性として目覚めつつあった少女は夢中になって、モニターに目をやる。


 少女はモニターの中の自分に、理想の自分を投影していたのだ。


 自由に歩ける世界。

 画面の中には野ケ崎要と表示されているプレイヤーがいた。

 プリースト戦記だ。


 リアルでは土砂降りの雨の中。

 けれど、ゲームではよく晴れた場所。

 少女は泣きはらした目じりを拭いながら、キーボードで言葉を紡ぐ。


 ――今日ね、わたし、トモダチと一緒に買い物に行ったの!

 ――すっごいいい天気だったから、みんなで学校用のテニスシューズを買ってね!

 ――明日でみんなおそろいのユニフォームで練習しようって、約束したんだよ!


 どしゃ降りの雨の中。

 理想の自分を語る少女。

 他のゲームプレイヤーは、全国的に雨なのに? と、反応は悪い。


 また嘘を言っている。そんな冷たい反応だ。


 けれど。プレイヤー野ケ崎は違った。

 彼もまた、外のことなど気にせずにその日を過ごしていたのだろう。

 話を聞いて、疑う様子もない。


 そんなことよりも、ランクポイントを稼ぐために行くぞ!

 と、少女を冒険に誘う。

 彼は細かいことを考えない、バカだったのだろう。


 プレイヤー野ケ崎。迅雷の野ケ崎は常にランキング一位、マリアと名乗る少女は二位。

 少女は夢と理想の自分を語る。


 トモダチがいて。

 お母さんとお父さんが顔を見せてくれて。

 休みの日には、たまにはゲームばかりじゃなくて、どこかに遊びに行こうと誘ってくれる。


 そんな普通の生活。


 どしゃ降りの雨の中。少女は理想の自分を語る。

 語る。語る。


 自分をまた虐めようとしてきたトモダチの心を殺した。

 けれど、ゲームで理想の自分を語る。

 成長した美しい少女の神秘的な空気に呑まれ、覆いかぶさってこようとした悪い教師を消し去って。

 けれど、ゲームで優しい日々を語る。

 世界は幸福で満ちている。そう語るように、理想の自分を塗り固める。


 語る。語る。語る。語る。語る。語る。

 語る。語る。語る。語る。語る。語る。

 語る。語る。語る。語る。語る。語る。


 けれど所詮――ウソはウソ。

 まともな生活をしているモノなら、そんな嘘はすぐにわかってしまう。

 だからゲームの中でも少女は孤独だった。


 みんな離れていった。

 害はないけど、あの子ちょっとね……。

 そんな会話が、通常会話で流れている。


 わざとだろう。


 それでも。

 彼だけは違った。

 プレイヤー野ケ崎だけは違った。


 ――そんなことはどうでもいい! さあ、冒険に行くぞ!


 プレイヤー野ケ崎は言う。


 彼もまた、歪んだ生活を送っていたからだろう。

 少女の言葉を疑わなかった。

 少女と共に、冒険した。唯一の逃げ場であるゲーム、プリースト戦記を共に楽しんだ。


 少女は彼に恋をした。


 それが実の兄。

 腹違いの兄妹だったと知っても、少女の心は移ろわなかった。

 それが、醜い世界の中で掴んだたった一つの希望だった。


 少女にとっての、光だったのだ。


 どしゃ降りだった世界に、色がついた。

 鮮やかな感情が生まれた。

 会いたいと思った。


 けれど、少女は現実を知っていた。

 嫌というほど知っていた。

 会える筈、ないじゃない――と。


 そんな時だった。まるでずっとタイミングを計っていたかのように。

 光を知った少女に――。

 聖母の影が告げる。


 彼に、会いたくありませんか――と。


 心臓に寄生する影が、救いの光を装って少女に提案する。

 交換条件。

 信仰心を集めるための駒になれと、少女に優しく語りかけたのだ。


 すでに少女の心は壊れていた。

 とっくに気など狂っていた。


 少女は言われるままに、力を使った。

 言うとおりにしていれば、いつか必ず会える。

 お兄ちゃんに会える。会える。会える。

 あえるあえるあえるあえるあえる。


 そう信じて、唯一の光に会うために――異能力を授けた。

 聖母に言われ、自分の様に捨てられた哀れなキャラに人格を授けた。

 力を授けた。

 彼らが、自分を捨てた者たちに復讐すると知っていても、授けた。


 少女は思う。


 だって、捨てた方が悪いんじゃないかしら、と。

 わたしは悪くないわ、と。

 だって、捨てられた子達の気持ち、わたしにはわかるもの――と。


 殺したいなら勝手に殺せばいい。

 ずっと自分を救ってくれなかった世界なんて、知ったことじゃない。

 じゃあ、いままで世界はわたしを助けてくれた?

 くれていない。

 じゃあ、お兄ちゃんに会うために力を使ってもいいわよね?


 だって、何もしてくれなかったじゃない。

 お兄ちゃん以外、だれも、なにも、わたしを救ってくれなかったじゃない。

 と。


 もはや少女に迷いはなかった。

 既に身も心も魔性化していた。

 その暴走させた心の源、最終的な因となった感情は――愛。


 世界がどれほど醜くても。

 お兄ちゃんだけは愛している。


 愛の魔性。

 それが少女の正体だったのだろう。


 そして、時は流れ――。

 記憶は現在まで、繋がった。


 ◇


 三分が過ぎようとしていた。

 私にかけられたデバフは無限大。

 もしアイコンで表示したのなら、あふれ出してしまっただろう。


 それほどに、彼女の記憶を深く読み取っていたのだ。

 それこそがでち助のデバフ。

 強力な精神攻撃だったのだろう。


 結果として人を殺めてしまった少女が見せた、人間味。

 壊されてしまった少女の人生こころ

 ごく普通の、内気そうだった少女の過去を垣間見つつも――。


 私は告げる。


『あと五秒だ――それじゃあ、約束通り。君たちを殺すよ』

「だぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁ!」


 宣言した直後。

 デバフを多重にかけられ弱体化された私の胸を、野ケ崎君の拳が襲う。


 チャージを何重にも重ね。

 魔法陣を描き続ける演算器具を武器とし。

 様々な奇跡と計算の果てに、十重の魔法陣を発動させた――。


 渾身の一撃だった。


 けれど。

 私は無傷のまま。成長した弟子を見た。

 現実とは残酷なもの。


 それでも私には――届かない。

 戯れを捨てた私には、届かない。

 大魔帝には届かない。


 私の口が、終わりを告げる。


『タイムリミットだ』


 宣言そのものが死の呪文となって発動する。

 青年の体が跳ねる。

 心臓が弾けたのだ。


「やっぱり……師匠は強いな。はははは、はは……ちくしょうめが。一撃ぐらい、いけると思ったんだが……な」

「お兄ちゃん……っ!」


 どさりと、兄の体が地に落ちる。

 いや。

 その身体は車椅子の少女が支えていた。


 病弱な妹の膝の上。

 死にゆく兄は言葉を漏らす。


「悪い……な。どうやらオレは、おまえを守り切れなかったようだ……」

「ううん……っ。そんなことない。そんなことないの……もう、いいの。わたし、ごめんなさい。ただお兄ちゃんに会いたいだけだったのに、なのに……わたしのせいで……っ」


 妹の涙を頬に受け。

 兄は腕を伸ばす。


「マリア。オレと一緒に冒険したキミを。オレは一生忘れない。楽しかったんだ……本当に。いっしょに、あそんでくれて、感謝する。心から……」

「わたしも……、すごい、たのしかったの。本当に、楽しかったの」

「そうか、ならいい……な。楽しかったのなら、それで――良かったんだよ」


 少女の涙をぬぐう兄の指が。

 力なく落ちる。

 心臓を失い、異能の力でも支えられなくなり――死んだのだ。


 しばらくして。


「なんで…………こうなっちゃったんだろう……」


 兄が拭ってくれた雫をこぼし。

 少女は言う。


 少女は言葉を溜めて。

 死んだ兄の顔に、顔を近づけ……。

 ……。


「ありがとう……。でも、巻き込んじゃって、ごめんね……お兄ちゃん」


 それが別れの言葉だったのだろう。

 少女は静かに、胸の前で手を握った。

 それは神への祈り。


 心壊れてしまった少女が祈った、最後の願いだろう。


 聖人でもある私には、その願いが見えていた。

 どうか。

 お兄ちゃんだけは……。


 続いて、少女の心臓も弾け――。

 兄の死体に寄り添うように、ゆったりとその身を預けて死んだ。

 カラカラカラと、車椅子の車輪が回る。


 動かぬ黒衣の神父の上。雪のように白い肌と髪の少女が横たわっていた。

 主を失った天使も。

 無数のネズミも、光の霧となって消えていく。


 車輪が、止まった。


 戦いも終わった。

 黒幕しょうじょも滅んだ。

 そこには兄妹の遺体だけが残された。



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― 新着の感想 ―
[一言] ケトス様は【殺す】とは言ったけど【蘇生】しないとは言ってない(☆∀☆) さあ兄妹よケトス様の大いなる猫心で蘇生したら魔王軍に入ろう(* ̄∇ ̄*)
[一言] 殺す(そのあと蘇生させるかどうかは気分次第
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