魔猫が語りし敵の正体 ~ゲームと異世界と現実と~
戦いが終わった、翌日。
私達は場所を変えて現在、紅茶を囲んで会議を行っていた。
まあいつもの作戦会議である!
場所は、亜空間に用意したお菓子の家。
汎用性の高い魔術:童話魔術。
神話再現アダムスヴェインから派生したと思われる、童話再現魔術で作り出した空間だった。
ちなみに!
一番偉い席にいる私は、どこにでもいる最強な魔猫。
大魔帝ケトス!
集まったそれぞれの勢力を眺めて。
じぃぃぃぃぃぃ。
色々と多くて、覚えきれないね?
転移帰還者救済機関、メルティ・リターナーズ。
その存在の噂は、異能力者界隈でも広がっていたのだろう。
あそこの関係者だと証明されていたおかげか、一応の信頼は得られているようだが……。
みんな、私をめっちゃ見てるよ。
喋る猫って、そんなに珍しいのかな。
ダンジョン領域日本化した後だと、あまり珍しくもない現象なのだが。
やっぱり多くの異能力者って、狭い世界で生きている連中なのかな。
ともあれ。
いつものように私はウニャウニャと肉球で身振り手振り。
解説しながら、すぅっと瞳を細める。
『と、まあこちらの事情はこんな感じさ。だいぶ端折ってるし、多少のズレはあるだろうけど――さすがに全部を話すと月単位で時間がかかるだろうから、割愛させてもらうよ』
解説を受けたゲストたちの顔は、さながらハニワ。
だろうか。
意味が分からんとばかりに、ぽかーんと目も口も空洞となっている。
このハニワたちは昨日の連中。
第三勢力というか……。
前の事件で、私達とはかかわっていなかった異能力者達である。
私の隣で側近のジャハル君が言う。
「ま、こうなるであろうな。ケトス様が領域違いの存在であるとは、昨日の戦場で既に知っておるだろう? 精霊国の王として、妾が保証しよう。すべてが事実。この世界を覆う世界ソシャゲ化現象も、プリースト戦記化も、時が来れば元に戻る。すべてが夢と現実のはざまへと帰るのじゃ……まあ、たとえばここで人を殺したり、殺されたりした――そんな事実は、世界が戻った時に現実にも再現されてしまうがのう」
そう。
夢と現実のはざまなのだ、ここは現実でもある。
罪がなくなるわけではない。
彼女に続き、私は異界のはちみつをドロドロドロ。
ミルクティーに注ぎながら、ズズズ♪
『そういう制限をかけておかないと、元に戻るからって理由で大犯罪とかする奴らもでちゃうだろうからね』
現状の世界。
ダンジョン領域日本の説明を受けた彼らは皆、混乱している様子だ。
今、ここに集まっているのは、大きく分類して三組織。
まずは私達。
大魔帝ケトスとゆかいな仲間たち――野ケ崎君を含む、異世界人こと魔王軍のメンバー。
メルティ・リターナーズや学園のメンバーもここに含まれる。
異国風美女の立花グレイス君が、ソシャゲ狂いの本性を隠して。
キリリ。
クール美女な微笑を漏らす。
「こちらは、あなたたち異能力者の立場も尊重します。そちらはそちらで事情があって行動しているのでしょうから。ただ、こちらはお渡しできる情報を提供しましたので、できればそちらの情報も提供していただきたいのです」
赤毛を妖しく反射させ。
クール美女を完璧に気取ったまま、彼女は言う。
「それとあなたたちの権利を先に提示しておきますね。もし保護を求めるのならメルティ・リターナーズでも可能です。戦いに巻き込まれた未成年者や若者の社会復帰を望むのなら、ご安心を。正式な学歴となる学園も存在しております。後で資料を転送いたしますのでご確認ください」
次に、国から派遣されているお堅い背広連中が、手を上げる。
「こちらからも異能力者の方の権利と義務について話があるのですが、よろしいですか?」
異能力や異世界人の存在を認め――活動するようになった公務員である。
とはいっても。
この会議に参加している私の知り合いは一人。
異能力者でカードゲーム会社社長の弟――異能力及び、異世界人専門の部署に配置されてしまった、金木黒鵜くんだ。
仕事モードのおかげか、はたまたバカ弟と呼ばれていた彼も成長しているのか。
キリっと外向きの顔である。
彼はまじめモードで、組織の代表みたいな顔で言う。
「もし、地球人……という表現が正しいのかはわかりませんが。戸籍のある人間を殺めていた場合は正直に話してほしい。行方不明者や身元不明の死者と照合したいのです。なぜ殺してしまったのか、止むを得なかったのかも――すべて正直に語っていただきたい。もちろん、そちらの事情を最大限に尊重し、配慮は致しますが」
ただ――と。
黒鵜君はお兄さんの爬虫類顔を彷彿とさせる鋭い眼光で。
ギロっと異能力者の方々に目をやり。
威圧感のある顔で、淡々と告げる。
「もし快楽や一方的な理由で人を殺していたのなら、覚悟はしておいてください。立証できるのなら逮捕もあるということです。これは日本国に暮らすものとしての義務となります」
言われた異能力者達は苦い顔をする。
それはそうだろう。
おそらく、彼らにも仲間がいるのだろうが――。
すべての人間が聖人君子というわけではない筈。
私利私欲。
身勝手な理由で、人を殺してしまったモノもいるのだろうと、私はそう思っていた。
たとえばだが、力に目覚めたばかりの人間に、殺してやりたくなるほど憎んでいた相手がいたとしたら。
異能力だから殺してもバレないと思ってしまっていたら。
おそらく……手を血で染めてしまったものもいるだろう。
空気が黒くなっていく中。
金木黒鵜くんがコホンと咳ばらいをし、表情を緩めて言う。
「これは公務員としての言葉ではありませんが――もし、不安があるのならば、ケトスさんを頼られるという手もあります。彼らは異世界人。あちらの世界へと旅立ってしまえば、こちらの法は適用しにくいですからね」
『おや、それって匿って欲しいってことかい?』
「あくまでも公務員ではないモノの言葉ですが――はい、もちろん報酬はお支払いします」
告げる公務員たちに、私はウニュっと立ち上がり!
くははははは!
『愚かなり、異世界の人類たちよ! 我はそこまで甘くない! 我を頼ろうとするならば、それなりの代償があると心得るがいいのである!』
代償として要求するのは。
そう――。
最も大切なもの――グルメである!
液状ねこちゃんオヤツ詰め合わせをカードから召喚し、黒鵜君が話を続ける。
「自分も助けられた者の一人ですから――欲目があるかもしれませんが。いい方々ですよ。どちらにせよ、可能ならばケトスさん達の異世界人か、メルティ・リターナーズか、私達国家。どこかに身を置くことをお勧めしますよ」
にっこりとした微笑みは実に爽やかである。
うわ!
正義扇動を受けて暴走したとはいえ、いきなり襲い掛かってきたあの男が!
めちゃくちゃ普通の公務員に見える!
ニマニマしながら目線だけで、ぶにゃはははは!
黒鵜君は、目線をそらして誤魔化しているが。
あとでからかってやろう。
提案を受けた異能力者達は目線を合わせ。
「と、言われても」
「え、ええ……ちょっと、理解が追い付かないっていうのが本音ね」
と、困惑気味につぶやくのみ。
昨日のカワハギ男事件で知り合った能力者の方々である。
ま、第三勢力といってもそれぞれがバラバラに行動しているから、この分類もどうかと思うんだけど。
会議という名の情報交換会に参加している異能力者は――。
主に三つ。
二つは簡単、昨日の戦いの途中から転移してきた男女である。
彼らはそれぞれ別の勢力。
反目しあっていた異能力者らしい。
ここに来ているのは代表がそれぞれ一人と、護衛が十名程度。
実は昨日の段階で、既に名前などの自己紹介を受けたのだが。
うん……受けたのだが。
こっそりと記録クリスタルを操作するも、み、見つからない!
わ、忘れてるなんてことはない! とは言わないが……。
……。
ま、まあ! 大魔帝たる私にとっては、人の名前など些事!
細かいことは気にしない!
ともあれ、彼らはそれぞれ別に行動していた存在。
MMO化事件の犯人である野ケ崎君や、人の皮を着て入れ替わっていた「例の敵」を追っていたらしい。
そんなわけで!
名前を忘れちゃった男女の組織が二つ。
そして、もう一つが昨日の襲撃者たちの勢力だった。
野ケ崎君を狙った、銃を主に使う異能力者集団である。
と、いっても彼らのほとんどは現在病院で事情聴取中。
ここにいるのは、主に一人。
皮から蘇生された男、えーと、こっちは……おお、記録してあった!
新田タケルくんである。
わりと無個性的な、どこにでもいる好青年といったイメージの成人男性だった。
若く見えるが、まあ三十歳ぐらいなのだろう。
異能力者って、能力があるからか若く見えやすいって話だし。
皮の人が言う。
「俺達の組織……いや、組織っていうほどのものじゃないが。とにかく、俺達は法の裁きを受けようと思っています。えーと……」
「金木です。わかりました――それでは後ほど署の方で伺います」
こっちは黒鵜君に任せて大丈夫そうである。
私はまじめな口調で語り掛ける。
『で、皮の人に聞きたいんだけど。君に化けていた”アレ”が保存していた他の人の皮、その数と位置を把握できているかい? 可能ならば回収し、蘇生を試みたいのだが』
「か、皮の人って……」
と、複雑そうな顔で、皮の人が言う中。
た、たしかにデリカシーのない言い方だったかもしれないが。
私は後ろ頭にネコ手を当てて、にゃははははと誤魔化しスマイル。
『ご、ごめんねえ~。いやあ、私、ネコだからさあ。今ここに集まっている全員をちゃんと把握できていなくてね。特徴で覚えちゃうんだよねえ』
「それで、皮の人ですか……いえ、まあ助けてもらったので、文句はないですけど」
困った顔で言って、皮の人はふぅ……っと息を漏らす。
何をするのかと思ったのだが、簡単なことだった。
私をまっすぐに見つめ、頭を下げたのだ。
「ありがとうございました。仲間たちとのことも……その、大きな罪にならないようにして貰ったそうで。今はその、感謝することしかできないのですがっ。あの、なんていったらいいか……、他の皮の事は、ちゃんと協力させてもらうので」
息が乱れている。
感情も乱れているのだろう。
『ゆっくりでいいよ。君の魂は冥府の回廊で漂っていた、まだ肉体と魂がきちんと定着していないからね――思考がまとまりにくいんだろう』
大人の神父声で優しく語る私。
とっても凛々しいね?
ぎゅっと握った自分の拳に、もう片方の手を添えて。
皮の人は強く、唇を噛み締める。
「はい。早く、助けてあげたいです。俺以外の人たちも……っ、あいつに、剥がされた俺達の皮を。取り返したいって、そう、思ってますから」
「というか、モフモフ師匠にそこの皮だった男よ。少しいいか?」
不意に声を上げたのは野ケ崎君である。
彼がこの場に参加しているのは、MMO化の当事者であることともう一つ。
皮剥ぎの技術、でち助窃盗ラッシュを身に着けていたからである。
『かまわないけど、どうしたんだい?』
「結局、アレはいったいなんだったのだ? 人間には見えなかったが、オレにはさっぱり! まったく理解ができていないのだ。ほかの者も同じではないか?」
野ケ崎君が漏らした声に、他の人たちも頷いている。
ジャハル君も頷いている。
あ、そういや抜き取った情報の共有をしてなかったね。
正体を知っているのは私と、皮の人だけ。
皮の人はまだ蘇生したばかりで安定していない。
『私から語ろう。彼らの正体は既に把握済み、油断しろって意味ではないが、そこまで大きな存在じゃない。世界を滅ぼす予知も感知されていないしね。過度に深刻になることもないよ』
「彼ら、ですか?」
グレイスさんが眉をしかめて、じっ。
クール美女を維持したまま口紅を光らせる。
同じく、まじめモードを維持したまま黒鵜君が言う。
「単独犯ではないということですね」
この二人、出逢ったときはけっこう揉めていたのだが――。
片方はメルティ・リターナーズのエージェント。
そして、公務員としての窓口となっている異能力者ってことで、なーんかちょくちょく顔を合わせているみたいなんだよね。
……私の猫の勘。
未来視が、恋愛フラグ的なものを感知しているが、これは黙っていた方がいいかな。
私が口を出すと、フラグをベキっと折っちゃいそうだし……。
そんな内心を全部包み隠して。
私の猫の口が語る。
『彼は人間にログインすると言っていただろう? まあ実際は皮を被って化けているだけだが、人間に対して恨みを持っている人の形をした魂。それが付喪神となって顕現したものと言えばいいかな――』
「でち達と同じってことでちか?」
ゲームNPCだったでち助も付喪神に分類される。
そういう意味での問いだろうが、私はモフ頬を横に振る。
『似ているけれど違う。でち助くん、君は愛されたゲームのNPCが、プレイヤーの信仰によって動き出した存在だろう? 分類するならプラスの感情で生まれた善神となるわけだね。けれど、人の皮を剥いで化けている彼らは違う。マイナスの感情で具現化したんだ――』
スゥっと瞳を細め。
魔術式と資料を一斉にモニターに顕現。
私の猫の口は語り続ける。
『もったいぶっても仕方ないね。彼らの正体は、MMORPGの中で待っていた者。かつて栄えた時には人間のために動き、その指示のまま動いていた存在。人間たちの代わりに冒険していた者、殻となっていた概念。ログインされなくなったMMOのプレイヤーキャラ。ようするに――だ』
ブルーライトの光の中。
ネコのヒゲが蠢き語る。
『捨てられたアバター達だよ』
皮の人、タケルくんはぎゅっと自らの膝を握った。
そう。
彼はかつて自分が操作していたキャラに殺され、皮を剥がされログインされていたのだ。
ざわつく会議場を見て。
私は考える。
聖母山羊が世界MMO化――。
害の少ないプリースト戦記での領域上書きを急いでいた理由も、あるいは……。
この件に関係している可能性も――。
ともあれ。
会議はまだしばらく続いた。




