異能力者 VS ファンタジーネコ ~魔猫の賭け~後編
戦場でドヤ顔を浮かべ、ふふーん!
胸を張るのは一人と一匹。
片方は、そう皆様ご存じ!
大魔帝ケトスたるモフモフ師匠な私。
そしてもう片方は、大魔帝の新たな弟子。
残念強面でMMORPG系能力者の野ケ崎くんである。
聖書を浮かべた野ケ崎くんは、にひぃ!
まるで悪役の顔で、敵を睨み。
「ふはははははははは! 何だか知らんが多少の無茶をしても、問題ない相手のようだな!」
ビシっと指の凹凸の角度まで計算して、相手を指さし。
「この野ケ崎要がキサマの皮を生きたまま剝がし、わが師匠への贄としてくれるわ!」
「自惚れるなよ、人間風情が!」
ヒトの皮を被った狂人は、ぎひり!
黒い哄笑を浮かべ、終わる夕方の暗さの中。
邪悪な言葉を吐き続ける。
「ノケザキとかいったか!? この世界に生まれた新たな特異点! プリースト戦記の核となっているオマエの皮を貰い、俺はこの世界の神となる! 皮となって、俺の役に立てるんだ、嬉しいだろう? 震えちまうだろう? あひゃ! さあ、てめぇの本当の名を教えろ! 覚えてやる、刻んでやる! 皮の名前を刻んで、俺様はお前たち人間にログインする!」
さあ、名乗るがいいと相手はまあノリノリである。
対する野ケ崎君は影を伸ばしつつ、腕を組んで。
ふーんと偉そうに告げる。
「聞こえなかったのかっ、バカめ! 野ケ崎要と名乗っただろうが!」
「はぁ? ちげえよ、プレイヤー名じゃなくて本名だっての。俺はてめえの皮を貰って生きていくんだから、名前がわからねえと不便なんだわ? わかるか? わかるだろう?」
問われた野ケ崎くんは駆け引きではない顔で。
んんぅぅぅぅ?
おもいっきし、眉をしかめて。
「何を言っているのだ? だから、野ケ崎要だと言っているだろう!」
「は? てめぇ、まさか本名でオンラインゲームをプレイしてやがったのか!?」
「オレは逃げも隠れもせん!」
ふははははははは!
と、それはもう偉そうに言い切りましたとさ。
うわぁ……敵さん、引いてるじゃん。
皮の下の犬歯が、ぐぐぐっと歪む。
「頭がイかれているのか!?」
「ほう、オレに臆したか!?」
か、会話になってない。
どっちかっつーと、こっちの方が変人集団みたいになってるじゃん!
まあ……彼の背景を知っていると。
せめて与えてくれた名前だけは……。
そういう、暗い話になるのだろうが。
騒動が大きくなってきたからか。
PVPエリアの周囲に、転移の波動が複数発生する。
異能力者の別勢力だろう。
別々に現れた男女が、別々に言葉を漏らす。
「これは、いったい!?」
「なによ、これ……っ! 世界MMO化の特異点と、ニンゲンじゃないナニカ……、それに、え、偉そうなネコにランプの女精霊に、無差別銃撃殺人集団の異能力者達よね!?」
言葉にすると……うん。
意味わからないね……。
PVP結界の外であるが。
万が一という事もある――私がジャハル君に目線を送ると、女帝モードで長い指をパチン。
彼女は炎の結界で、顕現した異能力者勢力を守り始める。
「そこの異能力者共、妾は異世界の炎の大精霊ジャハル。精霊国の王である。ここは危険じゃ、見学をするのは構わぬが、手を出そうというのなら――わかっておるな?」
さすがに格の違いはわかるのか。
ジャハル君クラスの魔帝に睨まれたら震える子犬も同然、従わざるを得ないのだろう。
女の方が言う。
「守りの結界よ。たぶん、嘘は言ってない」
「わ、わかった。けれど確認させてくれ――お前たちは悪か正義か。どっちだ」
ええーい!
ごちゃごちゃしてきたじゃないか……っ。
私、ネコだから! 知らない人が三人以上いると、混乱しちゃうんですけど!
『私たちは異世界帰還者救済組織、メルティ・リターナーズの関係者。帰還者の学園の者だ。すでに政府の承認も得ている。お墨付きってわけさ。噂ぐらいは聞いたことがあるだろう?』
言って、黄門さまの印籠がわりに、政府関係者に発行させた契約の証を提示。
これはある種の身分証明にもなっている。
異能力者勢力が、息を漏らす。
「あのとんでも集団の……っ」
「なるほど、あなたたちが”あの”!? そうなのね――わかったわ。そちらを信じます」
告げた彼らは、結界の中――あきらかに異質な存在を見る。
……。
あ、どっちがこの騒動の悪者なのか悩んでるっぽいな……。
そんな異能力者をにらみ返し、ヒトカワのナニカが吠える。
「ああん? 人間がまた増えやがっただぁぁ!? うざってぇなあ、気持ち悪いなあ。あああぁぁぁぁぁ! いやだいやだ! 虫唾が走るぜ!」
野ケ崎君が影を伸ばし続ける中。
皮を被ったオトコは、魔力を高めて空を揺らす。
異常さが伝わってくるのは――増えたギャラリーをぎょろっと眺める白目。
そして、髪をぶちぶち引き抜きながら、喚くその姿。
「だいたいだ! そっちの魔猫は魔王軍、悪だろう! 野ケ崎、てめえもこの世界をMMOに落とした悪! そこで震えてるヤツらも、身勝手な異能力者! 全部、一般人から見たら悪だろう!? なぜ俺だけを悪と断言する! はははは! おかしいだろうがよ、人間様よ!」
吠える歯ぐきから血が滲んでいる。
狂乱の魔力が、力となってオトコの周囲に広がっていく。
「だから、ここにいる全員が悪なんだよ! なら、問題ねえよなぁぁああ!? てめえらの皮をよこせ! 全部、のっとって、全部入って、全部俺が貰ってやるよ! ひゃぎゃははははははは! ああー、皮がいっぱい。何度も何回も入れるじゃねえか。あぁぁぁあ! 俺の皮になるために来てくれて、俺は、俺は、すげぇ嬉しいぜぇぇぇえぇえ!」
本気となったのだろう。
異能力の波動を発動させ、人皮の男が瞳をケモノのように光らせる。
猟奇的な敵、といったイメージである。
「男の皮はさんざん使った後で、てめぇらのママの墓にでも打ちつけといてやる! 女の皮は、大事に保管してずっとずっと使ってやる! 嬉しいだろうなぁ? 楽しいだろうなぁ!? 俺様のコレクション! クローゼットには、いろんな女の皮が並んでるんだ。知ってるか? 女の皮って、すげぇ気持ちいいんだよ! 着てやる、着てやる、着てやる! 女肉ログイン祭りだぁぁ!」
うわぁ……趣味悪。
転移してきた異能力者達も、こっちで守っている元襲撃者たちも声を失っている。
が――。
ウチの野ケ崎くんもわりと狂人的なわけで。
負けじと、ふふふふふ、ふははははは、ふはははははははは!
「キサマの話などどうでもいいわ!」
「な、なんだと――!?」
「オレは、オレは必ずキサマの皮を剥ぎ、わがモフモフ師匠に献上する!」
そのままバっと天に向けて手をかざし。
這わせていた影から、ネズミの群れを顕現させる野ケ崎君。
でち助と協力しているのだろう。
「キサマ達は知らないのだ! 大魔帝ケトス、あのモフモフ師匠の恐ろしさをっ。ここでオレが失敗したら、絶対に修行のやり直しとか言い出すからな! 隕石は嫌だ! 猛毒の滝もごめんだ! 時の狂った空間で、何度も繰り返す数日。生きたままスライムに溶かされ続けるあの地獄、貴様らにはわかるまいっ!」
「はぁぁぁ!? さっきから何を言って……っ。な――しまった!?」
会話ターンで隙を稼いだ。
次の瞬間。
フードつきのモフモフ防寒着を着用したでち助が、にひぃ!
「終わりでち!」
「影から、ネズミのNPCだと!?」
大量発生したネズミさんによる窃盗スキルが発動。
ネコも窃盗スキルを得意とするが、ネズミもまた窃盗が得意な種族。
私は野ケ崎君のついでに、でち助にもスキルを授けていた――。
闇の中で、ねずみたちの瞳が赤く蠢き――。
皮と皮との隙間に、入り込んだ!
刹那――!
ブチブチビチュィィッィッィィィィィ!
ネコよりも仕事が丁寧なネズミさんの盗みの対象は、敵の皮膚。
オトコだけに。
ダメージが――走る。
転げまわったオトコから、皮膚が丸ごと剥がされていく。
「ぎゃぁああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
丁寧に剝がされたアイテムがドロップする。
かつて異能力者の一組織のリーダーだったモノ。
その人皮だ。
なかなかえぐい手段だったが、傷はついていない。
相手の皮を装備と認識することによる、まあ裏技である。
皮を剥がれ、ぎぃぃぃぃ。
むき出しになった歯を怒らせたのは、黒いヒトの形をした塊。
あまりいい表現ではないが、黒焦げの男といった見た目か。
ヒトの形が、声を漏らす。
「バカな……っ、いつのまに仕込みを! そうか、挑発系の異能力!?」
「ふははははははは! 目立つオレでおまえの注意を引き、でち助を暗躍させる! もふもふ師匠譲りの卑怯攻撃、思い知ったか!」
剥いだ皮をシュン!
でち助がアイテム収納。
これでもう遠慮する必要はない。
敵は次の皮を求めてPVP結界に突撃。
赤い血をべちゃべちゃと貼り付けながら、転移してきた異能力者達を睨んでいる。
もはや余裕がないのだろう。
「雑魚どもっ、皮をよこせ! ログインさせろっ! 早く、しねえと!」
「ひぃ……っ」
ダンダン……ッ。
必死の形相で結界を掻きむしり、ナニカが蠢き続ける。
異能力者たちの精神がもたないか、仕方ない。
「消えたくねえ、もう消されたくねえっ。よこせ、よこせ、よこしやがれ、人間っ! てめえらに、ログインさせろっ!」
『本当ならもっと事情を聴きたいけど。君、ちょっと危険だね』
告げた私は、結界の外に転移。
敵さんはすでに戦意喪失状態だった。
結界に張り付いているナニカ――皮を求める彼の目線にはおそらく今。
赤いネコの瞳が二つ、見えているだろう。
『ふむ、君を見せて貰おうか』
私は猫の魔眼を発動する。
赤い光が、空間に広がる。
皮は回収した。
もはや相手は滅ぼしていい敵。
壊していい相手の前――私は力を抑えず、心さえも塗り潰す勢いで闇を這わせていた。
情報を抜き取っているのだ。
きっと。
相手にはそれが怖かったのだろう。
私という大いなる闇が、得体のしれないバケモノに見えたのだろう。
オトコは、ひぃっと掠れた呼吸を漏らし空間転移。
だが、あっさり私は強制キャンセル。
『はいはい、そういうのはいいから。っと、まあ情報はこんなもんかな』
転移空間から強制排除された敵が、ドサりと地に落ちる。
動揺するオトコ。
その歯ぐきから、引き攣った声が漏れた。
「やめろ……て、てめぇ、なにをするつもりだっ! やめ、やめろぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
転げ落ち。
逃げるように、地を這う男の前に――先回りした猫の前足が着地している。
再び私は顕現し。
『君だって、やめなかっただろう?』
「や、め――っ、消えたく、ねえ。消えたく……ねぇ!」
断末魔にも似た叫びの中。
猫の口が――。
告げる。
『君は要らないや』
それだけで、オトコの存在が薄れ。
次の瞬間。
周囲の音が消え、そして――。
さぁあああああああああああっぁぁぁぁ……。
オトコだったモノが、落ちた太陽の中へと消えていた。
残骸は一つ。
ただ、縋るように結界を掻きむしり――こびりついた手の血痕だけが、くっきりと浮かんでいたのみ。
戦いは終わった。
しばらくして。
異能力者の女性の口から、風が通り過ぎる。
声だった。
「なに、いまの……」
「分からんが、あのドヤ顔の黒ネコが……っ、桁の違う存在だということだけは、理解した。絶対に、手を出さないでくれよ……っ」
脂汗を額に浮かべ告げる男に、女がごくりと息を飲み込む。
「言われなくても……、わかっているわ。あなたたちとも停戦する、いいわね?」
頷く男は、そのままなんとか私に目線を移し。
両手を上げて、敵意のない証明をしてみせる。
「こ、こちらに敵意はない。話をしたいのだが――どうだろうか」
「同じく、話をさせていただきたいの。できれば、平和的に……ね」
魔術や異能力があるのだから、手を上げても意味ないのだが――まあ、そういう習慣はないのかな。
ともあれ差を理解してくれたのはありがたい。
面倒がないからね。
まあ、語り掛けるだけで存在を滅ぼすなんて芸当、なかなか見れることじゃない!
はっきり言って、自慢なのだが!
そのまま私はクールを維持し、玉座によじ登り、ででーんと着地!
しっぺしっぺと毛繕い。
さて! 転移してきた異能力者達にお辞儀をして、何事もなかった顔でぇぇぇ!
ふっと大人の微笑を漏らす。
神父の低音で、穏やかに語りかけたのだ。
『やあ初めまして。私も知らない異能力者集団だね。こちらも、君たちと話がしたい。が、その前に』
でち助に目線を移す。
すでに凝縮された数日を共に過ごしているので、私の言いたいことも伝わっているようだ。
装備となっていた人の皮を再顕現させ、でち助が言う。
「これでちね、でもどうするつもりなんでちか? その……さすがに、これは助けられまちぇんと思いまちが……」
『ま、やってみる価値はあるだろう? これでも私は本当に、異世界ではそれなりに有名で、それなりに比類なきほどの神でね』
それなり、それなり! 超それなりなのだ!
天が暗く、黒く染まっていく。
世界を揺らすほどの魔力が、私の肉球から放たれた。
赤い魔力を抱いて。
私は猫目石の魔杖で、魔術式を刻んでいく。
黒雷による稲光が走る中。
異能力者の狙撃手。
この皮の恋人だった女性に、問う。
『君の恋人の名は?』
「タケル……、新田タケルよ」
私は静かに瞳を閉じ、名という言霊を頼り。
魂の波動を探る。
聖者ケトスの書をバササササ!
『タケルくんね――じゃあ、ちょっとやってみようか。我はケトス。大魔帝ケトス!』
告げた私は、モフ毛をぶわぶわっと魔力に靡かせ。
主に祈りを捧げる。
蘇生の魔術を発動させた。
◇
終わる黄昏を背景にした戦場に。
泣き声が響いていた。
蘇生は成功。
人の形と魂を取り戻し。
呆然とする襲撃者のリーダー。
本物の新田タケルに抱きつき、襲撃者たちは枯れるほどに声を漏らしていたのだ。
入れ替わっていたナニかに誘導された、正義の味方という名の殺人集団。
彼らはこれから、いろいろと答え合わせをするのだろう。
自分たちがしてしまったことを、悔いる筈だ。
それも、異能力を使うモノの責任でもあると、私はそう思っていた。
蘇生された新田リーダーもおそらく、皮となっていた時の記憶はある程度保っているはず。
魂が記憶している可能性は高い。
だから、きっと――仲間たちが狂っていく様を、見ていたはずだ。
そして、あのナニカがなんだったのかも、何か情報を持っているだろう。
新田くんとやらに事情を聴きたいところだが。
まあ、その辺はすぐにじゃなくてもいい。
私は空気が読める猫だからね。
とっとと事情を説明しろ――と、言いたげに。
腕を組んで、空気をぶち壊そうとする野ケ崎君をボゴォォォッォ!
でち助が回し蹴りを入れる中。
私の耳元に口を寄せ、ふぅ。
ジャハル君がいつもの口調で言う。
「この人間たち。狩りを楽しむように人間を殺してたわけっすよね。そこまでして助ける必要があったんすか?」
彼女の指摘もごもっとも。
おそらく、罪なき者も殺されていただろう。
あのヒトの皮を被ったナニカが、そういう風に誘導していたはずなのだから。
けれど、実際に引き鉄を引いたのは彼ら自身。
それでも――。
私の猫の口は、大魔帝としての意見を述べる。
『考えてごらんよ、倫理観が狂ってしまった彼らだが――皮として使われている人間は、どうだろうか? 新田君だっけ。彼はまともだった時に殺され、アレと入れ替えられていた。つまり――』
「あ、なるほど」
『そ、他の人間はともかく――彼だけはまったくの無罪。少なくとも、私が助けるべきだと判断した人間ってことさ』
苦笑する私にジャハル君も眉を下げる。
「あんたってネコは、やっぱり、いつでも優しいっすよねえ」
『いつでも誰にでもじゃないさ。優しくされる価値があるものだけにだよ。初めて出逢った時の、君のようにね』
そう、私は優しさの相手を選んでいる、選り好みしている。
狡猾で悪いネコだ。
けれど。
その範囲がかなり広がっている。
そんな自覚は持っていた。
世界は醜いが……悪い部分だけが世界のすべてじゃない。
それが私が冒険散歩で知った、世界の色だった。
「あんたと出逢って、オレは変わりました。本当に、感謝してるんすよ?」
『私も君との出逢いで、いろいろと変わったんだろうね。君に会えて、良かったと――心からそう思っているよ』
返事はない。
けれど、ジャハル君は嬉しそうに、ぎゅっと唇を噛み締めていた。
と――。
こっちはいい感じで物語を締めくくる空気なのだが。
転移してきた、さきほどの異能力者の男女が目線を合わせ。
ともに前に足を踏み出す。
「詳しいことを聞きたいのだが――その前に、聞かせてくれ」
「あ、あの! もし、皮を取り戻すことができたらっ。同じように、蘇生することが、あなたなら、できるの!?」
この反応はもしかして。
『あまりいい予感はしないんだけど。もしかして、さっきの彼みたいに皮を剥がれて、入れ替わっている人間がいるってことかい?』
彼らは頷き。
リストを表示させた。
ジャハル君が眉をはねさせる。
それもそのはずだ。
そこには――大量の名が刻まれていた。




