のんびりニャンコのスローライフ ~強豪ひしめくMMO世界~
MMORPGプリースト戦記と融合された世界。
ダンジョン領域日本。
大騒動の始まった日から既に三日が経っていた。
舞台は日本とファンタジー世界が融合した、メルヘンな世界。
ビルと寺院が並んでいたり。
コンビニの中で魔剣が売っていたりと、なんでもありな魔境となっている。
ま、ダンジョン領域日本に順応していた人にとっては日常茶飯事。
今もまた。
齢八十を超えるだろうおばあちゃんがコンビニでミサイルランチャーを購入し、外に湧いている悪魔を一掃する。
心地良いレベルアップ音が響く中。
小学生の三人組が、新たな錬金術に夢中になって研究を進め。
道行く女子高生が日本刀で、触手魔神の触手を刎ねる。
そんな平和な光景が広がっている。
内ももの毛までもふもふな私、大魔帝ケトスもまた世界を楽しむうちの一人!
私がいるのは、暗黒遺跡といった感じの超高難度迷宮の手前。
ラストダンジョンと表記されるMMO世界側の、おそらく最終決戦場とされる筈だった場所の入り口だった。
にゃんスマホを片手にニヒィ!
出現したゲーム内魔物――。
悪魔の群れに向かい聖書を翳す。
『主よ、我等の道を照らし給え――』
ビシっと伸ばす猫手から、聖なる波動が螺旋を描いて膨れ上がっていく。
肉球の表面に浮かんだ光を束ね。
赤い瞳をゆったりと閉じ、静かに、穏やかに光を放射する。
『汝等の魂に救いあらんことを』
にゃいぃぃぃぃん!
《ニャンコ神父の肉球聖光》が発動!
優しい肉球によるナデナデが、悪魔を浄化し昇天させていく。
ゴテゴテしていた悪魔の群れを一掃!
ドロップしたアイテムを私の影が回収!
そう! まずはレベル上げとアイテム稼ぎ!
この辺一帯が今現在の私の狩り場となっているのだ!
レベルアップ音が響く中。
私の後ろのキャンプで、ぐつぐつコトコト。
朝ご飯のキノコたっぷりクリームシチューを作っているジャハル君が言う。
「って、またレベリングっすか!?」
『いいじゃないか、新しい世界に来たみたいなもんなんだし。プリースト戦記でのレベルを上げて、敵をいっぱい狩って! ランキングを維持しないといけないからね!』
そう!
三日で既に私は!
融合したMMO世界のトップランカーになっていたのである!
ちなみに……。
二位は日向撫子くんこと女子高生。
現役勇者で人間としてはまず間違いなく最強クラスのヒナタくんである。
で、現在行動を共にしているのは炎帝のジャハルくんのみ。
社長の白狼くんは今までとは逆に、なんとしてでもサーバーを維持しないとこの世界がヤバイ!
という事で会社に箱詰め状態。
いやあ、融合しちゃってる状態で、データが置いてあるサーバーが吹っ飛んだら。
……。
ど、どうなるんだろうね?
たぶん、世界がガチでやばい。
というわけで。
ハクロウくん以外にも私配下の魔猫は皆、あっちに出張中。
魔王軍の古参幹部連中も、じゃあ護衛のついでに観光!
ということで会社で居候をしているのだが。
ジャハルくんが木製の器にシチューを装ってくれながら。
遠くの空を眺めてボソリ。
「それにしても、あの人間の社長、金木白狼でしたっけ? ……大丈夫なんすか?」
『大丈夫って、なにがだい?』
無限に敵が湧くスポットでリスポーン・キル……通称リスキルを繰り返し、んにゃ?
装って貰ったシチューを味わい。
モフ耳をぶわ!
口元をクリームでちょっぴり汚す私を、フキフキしながらジャハル君。
「いや、ウチの魔猫達に、ウチの厄介な……。こう、先輩たちに言うのもなんすが、ワシより強いモノに会いに行く、みたいな連中じゃないっすか古参幹部って。すげえ、苦労してるんじゃないかってちょっと心配で」
『ああ、そういうことか。彼なら大丈夫さ♪』
遠隔操作している聖書でも神雷を降らせ続け。
殲滅! 殲滅! 殲滅!
高速レベリングを繰り返す私は、話を続ける。
『ハクロウくんはホワイトハウルともロックウェル卿ともうまくやっていけているからね。しかも同時に。あの二人を同時にうまく扱えているなら、まったく問題ないと思うよ』
告げる私に、ほへーっとジャハル君が珍しい息を漏らす。
「厄介なケトス様達を同時に三柱も。じゃあ問題ないっすね」
『君、いま――私まで数に入れなかった?』
うにゅっと猫眉間を尖らせる私に彼女は言う。
「当たり前じゃないっすか……」
『う……っ、そこまで堂々と言われるとこっちも困るんですけど』
と、こちらは朝のレベリングで盛り上がっているのにだ。
ノイズが空間に走る。
私とジャハル君が、次元の歪みを感じて目線を移す。
敵ではない。
一応、非常事態という事もあり結界を張っているのだが。
ベチンと。
何かが結界に頬を寄せて、貼り付いている姿が見える。
なかなか器用なヤツである。
「大魔帝ケトォォォス! きさまぁぁぁあ! どこにいる!」
『あー、ここにいるよ。空間を塞いでる結界を解くから……ちょっと待ってね』
しゅぅぅぅん。
解除した結界に入り込んできたのは、一人と一匹。
元ランカー一位の野ケ崎神父と、そのマスコットのでち助だった。
長身強面で、おそらく黙っていればそこそこはモテるだろうが……。
口を開けば残念な――。
まあいつものタイプである。
次元跳躍。
術者の身をいったん別次元に転移させ、望む指定座標を再計算、元の次元に戻る事による移動手段。
ようするに空間転移をできるほどには実力のある彼だが。
さすがに私達相手には分が悪い。
眉間に濃い皺を刻んだ神父が、ぐぬぬぬぬ!
血の涙を流す勢いで、充血した瞳を尖らせていた。
「きさまぁぁぁぁ! よくもサービス開始から保ち続けていたオレの順位を、抜かしてくれたなっ!」
『ああ、元ランカー一位で、現在三位の野ケ崎くん。まさか、それを言うためにわざわざ私を探していたのかい?』
呆れた様子で告げてやる私に、神父が狂犬モードで吠え続ける。
「誰が三位だ!」
『だれって、君だろう。この迅雷の野ケ崎ってのがそうだろう?』
言って私はランキング表を顕現させる。
ヒナタくんに抜かれた表を覗き込み、顔面蒼白となって神父は吠える。
「な!? またオレが抜かれているだとっ!?」
『そりゃあ今までのゲーム中なら無双してたのかもしれないけど、こっちのソシャゲと混じっちゃってるからね。このダンジョン領域日本は現実世界でもあるし、今まで通りって訳にもいかないだろうさ』
そもそも無理やりに混ぜたもんだから、魔術式もグチャグチャ。
ゲームシステムも混じっちゃってるんだよね。
今のこの世界はMMO寄りになっているとはいえ、ソシャゲの要素も強い。
レベルはソシャゲ状態、MMO状態で独立して分類されている。
私は暇なので……。
いや、知的探求心の追求のためにMMO状態でレベルを上げているが。
ソシャゲ状態のレベルを維持したまま、この世界を楽しんでいる者も多い。
いやあ実は、既にダンジョン領域日本で慣れ過ぎているのか。
みんな。
MMOと混じっても、ただの新イベントだと思って動揺してないんだよね。
つまり、私のおかげで世界は落ち着いているのだ。
うん。
さすが私、別に趣味でソシャゲ化したんじゃないって事が証明されたと思う。
そんな。
過去のやらかしがやらかしではなかった! と、証明が完了した穏やかな陽射しの中。
男は私につかみかかる勢いで、くわっと唸る。
「し、しかし! たった三日でオレを抜くとは。な、なにかインチキをしているのだろう! そうに決まっている! さあいえ! すぐいえ! とっとといえ! キサマ、何をした!」
おうおう!
負け犬の遠吠えは心地良い!
内心で、ドヤりつつも――ここはスマートに対処。
私の猫口は、冷静な神父教師の声を漏らしていた。
『インチキじゃないさ。世界が融合したんだから、そこには必ず不具合や不都合が生じる。私はその隙間を狙って大量にモンスターを倒して、レベルを上げているだけだよ。で、敵が落とすアイテムもバランスなんて考えていない状態になってるから――まあ実演した方が早いかな』
説明しながら、私はドロップ品を加工。
ランキングポイント上昇アイテムに変換。
錬金術で分裂させて使用する。
『ね? これでポイントは簡単に稼げるのさ。いやあ悪いね。ランキングアイテムの聖貨で、ゲーム内の調理器具を買いたいんだよねえ~♪』
こちらが明かした手を見て。
ぐぬぬぬを継続。
「分裂だとっ! チートで、不正コピーではないか!」
『だーかーら! ここは現実でもあるんだって。ルールの下で競い合うのがゲームの世界かもしれないが、現実ならそうはいかないだろう? 私のポイント稼ぎはルール上は禁止されていないし、私のスキルはこの世界の仕様に則っている。MMOが現実化するって、結局は現実世界の嫌な部分も発生するようになるってことなのさ』
事件のはじめ。
彼らはサービス終了を畏れ、ある意味でこの世界を乗っ取るために動いていた。
それが実現した世界でもあるのだ、ここは。
「ではこの、オレを抜いた二位のヒナタって野郎はどうなんだ!」
『野郎じゃなくて、現役女子高生だよ。その子』
隠すこともないと教える私に臆せず。
神父は口角をつり上げ。
「フフフ、フハハハハ! バカめが、この素人ネコ! こういう男だか、女だか分からない名前を使うプレイヤーは大抵ネカマ! キサマはもう少しMMOというモノを学んだ方がいいな!」
『って言われてもねえ、本当に女子高生だよ。ヒナタくん』
まあ、信じなくても良いけど。
と、素っ気なく告げる私に男は言う。
「というか……、知り合いなのか?」
『ああ。ちょっと事情は複雑なんだが、私の恩人の娘さんでね。世界を三つ以上も救ってる本物の勇者だよ?』
「勇者、というのは……あの勇者か?」
どれが、あの勇者なのかは分からないが。
『君達がゲームや漫画の世界で言う所の、あの勇者さ。言っておくけど、喧嘩を売りにはいかない方が良いよ。本気で強いからね』
「ひ、卑怯だぞ! 勇者なんてファンタジーな世界観が、あってたまるか!」
唸る男に、私は苦笑するしかない。
『そうは言っても、君だってゲーム世界から能力を引き出していた異能力者だろ? そんな能力が実在したんだ、異世界やら、ファンタジーやらの勇者が実在したっておかしな話じゃないだろう』
「そ、それは――そうなのだが」
諭すように私は続ける。
『異能力を手に入れたって、一番になれるわけじゃない。特別な力が存在するのなら、それを利用するのは自分だけじゃないって事さ。この世界は今、様々な異能力で満ちている』
具体例を投影しながら、私は男に語ってやる。
『私のような魔術使いや、ヒナタくんのような勇者。冥府の力をもった女王や、世界を滅ぼしかけた恐怖の大王だって顕現してるし――ただの人間だって、既に世界に順応している。ソシャゲ能力を利用し頭角を現したモノもたくさんいるからね。この中でランキングを維持したいとなると、まあ本当に頑張るしかないだろう』
「オ、オレの天下だったプリースト戦記が……っ」
さすがにちょっとショックだったようである。
ま、気持ちはわかるけどね。
『結局、現実となるとそういったライバルが現れるわけさ。うまくいかないモノだね』
「ふふふ、ふはははは! だがしかーし! これで新たな目標ができたということ!」
ビシっと立ち上がり。
神父がロザリオを輝かせながら、天を見上げる。
「異教徒どもを退け、最後に天下を取るのはこのオレ! 他の連中が異教の力を用い――邪悪なる手段でランキングを上げるというのなら、オレもそれだけ成長すればいいだけの話よ!」
『おや、前向きだね。そういうのは嫌いじゃないよ』
言って私は目線を移し。
次の料理を完成させたジャハル君の前に顕現!
器に入れて貰い。
喉をゴロゴロゴロ♪
クリームシチューの中でトロトロに溶けたブロッコリーをムシャムシャ。
煮込んで繊維状になった鶏肉と一緒に、もう一個ぱくり♪
コリコリとした芯を残しつつも絶妙な食感のキノコにも満足しつつ、頬のモフ毛を膨らませ言う。
『おお! さすがはラストダンジョンにだけ湧くアルティメット・マタンゴ! 茸の王様だね!』
「って、おまえ! 現実化した世界なのに……っ、ま、魔物を喰ってるのか!?」
驚愕する野ケ崎神父。
その間抜け顔に向かい、私は木のスプーンをペコペコ振ってみせる。
『まあ素材としてアイテム登録されているんだ、せっかくなら食べて見たくなるのがネコちゃんの心ってもんだろう?』
「アルティメット・マタンゴと言えば、最新のバージョンアップで追加された大規模戦闘用モンスター。18人パーティで三時間ぐらい戦闘してやっと倒せる強敵だっただろう? しかも、見た目がエリンギに手足が生えたみたいな……こう、なんか、マタンゴー! って感じの……よく倒せたな」
こ、これは!
ムフゥ♪
私は超極大のドヤ顔でニマニマしながら、ふふーん!
『まあ強敵だったかもしれないが、私ならもう一瞬で、ドカンだね!』
「お、おまえって本当に凄いネコだったんだな……」
さすがランカーキャット。
と、尊敬のまなざしが私に送られている。
「気に入った! 気に入ったぞ! 大魔帝ケトス! 喜べ、そこのモフモフよ!」
『うわ、なにさいきなり』
「キサマを我がパーティーに誘ってやる! 共にこの最終ダンジョンの最奥に君臨している難攻不落の敵、ラスボスを倒そうではないか!」
ふふーんと偉そうに言う野ケ崎神父。
そのドヤ顔を眺めて、私はこてんと首を横に倒す。
『え? ラスボスならもう滅んでるよ?』
「そう、滅んで……」
しばしの沈黙の後。
ものすっごい間抜けな声が私のモフ耳を揺らした。
「いま、なんて言った?」
『いや、だから――もう滅んでるよ? 現実化したラスボスがなにをするか分からなかったし、初日にサクっと滅ぼしてきたんだけど。知らせてなかったっけ?』
瞳孔をぐわぐわさせている野ケ崎氏が、ぐぎぎぎ。
首だけを横にずらし、ジャハル君に目線をやる。
「はは、はははははは! いやいや、まさかまさか……飼い主よ、それは本当か」
「妾はケトス様の飼い主ではないが、まあよい。しかし、狂信的な存在であるキサマのことじゃ。汝の問いに応えてもどうせ信じないだろうからのう……しばし待つが良い」
告げたジャハル君が炎の鏡を召喚。
当時の映像を映し出す。
「ケトス様はこの世界を楽しみたいと仰ってな。ならば杞憂であるかもしれぬが、後の問題になりそうな要素を真っ先に排除するべきと――即座に部隊編制。現実化した際に、世界を支える魔術式に影響を与えそうな存在を全て、その日のうちに退治なさった。もはやこの中に、ボスはおらぬぞ?」
「で、では! サービス終了までに倒せるかどうかと言われていたラスボスも……っ」
私は無言でラスボスのドロップ品を見せつけてやり。
にひぃ!
『残念だったね、もうクリア済みだよ』
「ひぎゃぁああああああああああああぁっぁあぁっぁ!」
あ。
咽び泣いちゃったよ。
しかしこの男、なんだかんだで面白いな。
ムクムクムクと、私の中で好奇心が芽生える。
泣き崩れる男の背に、ポンと肉球を置き。
『ねえ、君。そんなに悔しいなら、強くなってみる気はないかい?』
「強く、だと……っ?」
よーし、喰いついた!
『ああ、この世界は様々な能力者で満ちているといっただろう? そのうち四位、五位とどんどんランクが落ちるだろう。それって君にとってはちょっと辛い事なんじゃないかな?』
「辛いなどというレベルではない……っ、オレは、オレは……っ」
悪魔が他者を堕落させる顔で。
穏やかな微笑を浮かべながら、私は聖人の声を漏らす。
『それはとても辛いだろうからね。私も少し気になってしまうよ。だから、どうだろうか。私の修行を受けてみないかい? 大丈夫、修行といってもちょっと死ぬ気になれば耐えられるレベルだし、本当に死なせたりはしない。強くなれる事だけは、保証するよ』
死にはしない。
そこに嘘はない。
ジャハル君は私の鬼修行を知っているからか、うわぁ……っと凄い顔をしているが。
気にしない!
神に縋る信者の顔で、男が私のモフモフ顔を眺める。
「本当に、オレでも……つよく、なれるのか?」
『ああ、君の頑張り次第だけれどね。無理にとは言わない、けれど――このままランクを落としていく君を見るのは、私も辛い』
ふっと、大人の憂いをみせてやる。
「オレは、いくら支払えばいい」
『君、プリースト戦記をやり込んでいたんだろう? 私の目的はグルメ回収だからね。MMO時代にあった隠しレシピや、隠し料理スキルを全部教えて貰うだけでいいよ』
相手にとって、その情報を渡すことは問題ない筈。
交渉は成立。
「よろしく頼む、ネコ師匠!」
『ああ、強くなれる事だけは保証するよ!』
どうせ暇だし!
この男をゲームキャラ感覚で鍛えてみるか!
と、考え始めた私は、ニョヘヘ~♪
悪戯ニャンコな笑みを浮かべるのであった!




