決闘、異能力者の攻防戦 ~戦いの果てのメェ~
前回のあらすじ。異能力者同士の戦いが始まった。
今回のあらすじ。もう終わってた。
いや、本当に速攻で終わってしまったのだから仕方がないじゃないか。
作り出した特殊戦闘フィールド。
闇に浮かぶ揺らぎの中。
一瞬で終わってしまった戦いを前にして、尻尾をビタンビタン……ッ。
魔王軍最高幹部たる私――。
大魔帝ケトスは、モフモフ猫毛をモコっとさせ。
ブスー!
くわっと、ニャンコの唸りを上げていた!
『って! 秒で終わりじゃないか!』
「こ、こいつが手加減をしないのが悪いのだっ!」
と、カードから呼ばれた終末の獣。
マスターテリオンの肉球で、ぷにー!
上から押さえつけられている野ケ崎神父が、声を張り上げる。
「ぐぬぬぬぬ! 許さん、許さんぞ! 悪魔の手先め!」
うーむ……ま、まあ一応? ネズミのでち助を守る形で踏まれているので。
そこは見直したのだが。
対戦相手の金木白狼くんが私の顔色を見て、動きを止める中。
キャラメルソースが濃厚なポップコーンや、お高いコーラ。
加えて!
高級スイーツを味わう私は叫んでいた。
『困るよ! こっちは観戦モードで異能力者の戦いを見学! その能力の実況とか解説とか、そういう事をする筈だったんだよ!』
「知るかこのボケ猫が! こっちは真剣なんだぞ! 世界の運命がかかっているんだぞ!」
吠える神父がやはり、グギギギと肉球から逃げようとするが。
マスターテリオンは鉄の魔杖を翳し、重力の檻を形成。
完全に閉じこめる形を作る。
負け確定である。
「卑怯者めが! このなんだ、ケモノが!」
『ったく、これじゃあ魔王様に面白い報告ができないじゃないか!』
バンバンと机を叩き。
シュークリームの粉で口の周りを白くさせる私は、更に追撃!
『やーりーなーおーし! やりなおし!』
「そうだ! オレもやり直しを要求する!」
騒ぐ魔猫と神父を見て。
他の方々は呆れ顔。
ハクロウくんだけは、抗議する魔猫も素敵ですね……みたいに、冷静な顔で商売人の瞳を尖らせているが。
ともあれ。
やり直しを要求し、肉球で次元をバンバンとする私。
とっても愛らしいね?
押しつぶされて閉じこめられる野ケ崎神父が、堂々と私に唸る。
物怖じしないっていうのは、ある意味強みだよね。
「というか、そこの魔猫! 魔王様とか、面白い報告ってのはなんなのだ!」
『魔王様への報告書に決まっているだろう! あの方は私の冒険の記録を読むのが好きなの! もっと面白い展開をするまで、やーりーなーおーし! やりなおし!』
告げて私は肉球を鳴らし。
特殊戦闘フィールドという領域を利用し、時間跳躍。
戦闘直前の状態へと時間を戻してやる。
ゴゴゴゴオゴ!
時間を戦闘前に強制的に書き換え!
ふふーん!
とドヤる私のモフモフも麗しいわけだが。
『さあ仕切り直しだ! 今度はせめて一分はもたせておくれよ!』
チュチュチュ!
あきらかに狼狽した様子で毛を膨らませたのは、モフモフネズミのでち助だった。
その口からマスコットではなく、シリアスな驚嘆が零れる。
「ででで、でち!? 禁断の魔術、ロールバック!?」
「お、おまえ……っ、まさかそこまでの強者だったとは!」
神父の顔色もまともに変わっている。
仕切り直しで、マスターテリオンの肉球から解放された一人と一匹。
バカ神父と、ネズミさんが神を見る目で私を見ている。
『ふむ、くは、くはははははは! 君達も、ようやく私の素晴らしさに気付いたらしいね! いやあ、やっぱり分かっちゃうのかなあ。私の偉大さって!』
私のおやつ補充担当のジャハル君が眉を顰める。
「なんなんすか、そのロールバック……? ってのは」
『ああ、ジャハル君はこの手のゲームに詳しくないんだったね』
彼女にも分かるように魔術式でタイムラインを表示し。
私は上司の顔で穏やかに講義する。
『MMORPGってジャンルにおける禁じ手の一つ。それがロールバックなんだよ。魔術でいうなら時間逆行。致命的な問題が発生した時のみに使う、まあ、本当に最終手段だね。サービス開始……つまり世界が創世された瞬間からの、全ての時間と情報を記憶しておいて――特定の時間に戻すことのできる。リセット能力の一つなのさ』
欠点が大きく二つある。
一つは簡単。
巻き戻されたその時間、プレイしていた内容などが全部リセットされてしまう事だ。
当然、時間は無駄になったり。
レアアイテムがでていたとしても巻き戻り……なかったことになってしまうわけで。
かなりの問題が生じる筈。
そして欠点はもう一つ。
問題が生じた事への対処が大変なのだ。
後で補償とか、クレームとかがとんでもないことになる諸刃の剣なのである。
故に――。
この禁呪の存在は知っていても、実際に使われるのは見たことがない。
そういう人も多いだろうと思う。
その辺の感覚は口で伝えても理解はできないだろうから、説明は省略。
とりあえず理解した様子のジャハル君が、言う。
「ああ、ケトス様がダンジョン領域日本に保険として掛けていた、時間の保存みたいなヤツっすね」
『その通りだ――この世界の時間はまだ私の制御下にある。簡単とは言わないが、これくらいの干渉はできる。よく覚えていたね』
本来なら時間の跳躍などなかなかできることじゃない。
私も条件を整えてやっと、短時間なら戻れるといった程度のモノ。
しかーし!
私はダンジョン領域日本の中でなら、ある程度そういう裏技もできちゃうんだよねえ!
何故かジャハル君はジト目を作り。
腰に手を当て、じぃぃぃぃぃ。
「で? そんな大技を、ただ面白くなかったからって理由で使って。いいんすか?」
『問題ないだろう、何故ならきっと! 魔王様も面白いモノがすきだろうからね!』
ったく……この人は。
と――上司を諫める幹部モードでゴゴゴゴっとしているジャハル君とは裏腹。
当事者たちはかなりの困惑中。
時間が戻ったことを確信したのか。
強面神父は腕に巻かれた演算器具をフル稼働させ。
きぃぃぃぃぃぃぃぃん!
「んーむ。なにか、ヤバいネコに粘着されているような気もするがっ。これを利用しない手はあるまい!」
「さっきの多頭の豹はおそらく神話の獣でち!」
その通り。
「呼ばれたら勝ち目はない、速攻で片付けるしかないデチよ!」
「おうさ! 全ては我等が楽園のために! 仕掛ける――!」
それも正解。
仕切り直した戦闘が再開。
ハクロウくんも戦闘モードへと顔を切り替えていた。
「では、せめて一分はもってくださいね――いきますよ、お客様」
告げる低音ボイスが、空間に広がる。
ハクロウくんの三白眼が――冷たい闘志を燃やしている。
無駄に高級スーツなので、魔力の風で生地を靡かせる姿はラスボスの貫禄である。
……。
てか、なんで私と関わるとこう、戦闘能力がアホみたいに増強されるんだろうね。
まるで歴戦の戦士みたいな顔になってるでやんの。
ビルに向かっていくドンキホーテよろしく。
神父が特攻をしかけるように、前かがみに駆ける。
「召喚! 召喚! 召喚! ええーい、でち助っ、全て使い切るぞ!」
「演算加速! でちちっちちち!」
上位天使の召喚ではなく、下位天使の連続召喚に戦法を切り替えたようだ。
悪くない判断である。
魔術師でいうと――詠唱の長い大魔術ではなく、詠唱の短い魔術を連打する感覚だろう。
シュシュシュン!
暗殺者並みのスピードで駆ける神父。
その首にかけられたロザリオが輝く。
それはゲーム内アイテム、ロザリオからおそらく……不死者殺しの突剣が顕現する。
レアリティ表示が浮かんでいる。
あー、これ。
MMOなのにガチャもあるタイプなのか……。
最近はそういうのが主流なのかな。
悪くないコンビネーションで、ネズミを頭に乗っけた男が。
すれ違う――!
シュィィィィィィイイィィィン!
「主よ! 我等が世界を守り給え! 貰ったぁぁぁあああああぁ!」
画面が白くなったり、暗転したり。
ああいった、一騎打ちですれ違う場面を想像して欲しい。
風がバタバタバタと、私のモフ毛を揺らしている。
勝利を確信した野ケ崎神父が、ニヒィっと笑みを浮かべかけた。
その時。
カツン! ――革靴の音が響いた。
「甘いですね――」
「――な……っ――!?」
おそらく。
神父にとってのラスボス。
異能力者で社長の金木白狼くんの声は、不意に耳元で聞こえる形となっていただろう。
神父の突剣は社長の拳により砕かれ、木っ端みじんとなっていた。
慌てて距離を取るネズミさんと神父。
それを追撃する社長さんが、遠距離の優位性を捨て――跳躍!
超人的な動きで、神父に向かい徒手空拳の乱打である。
「ぐわ! こら、待て! 話が違うではないか! カード使いなら、接近戦など! って、人の話をきけぇぇぇえ!」
「殺しはしませんよ、約束ですからね」
人間同士の応酬は続く。
「やられる前に、やるでちよ!」
「分かっている! 耳元で騒ぐな……っ!」
接近戦が得意な印象はなかったのだが。
ハクロウくんは神父の掌底を全て紙一重で避け、サササ!
体操選手のような軽やかさで身を翻し後退。
「こいつっ、早い!」
「でち! 人間の速度を超えてるでち! やっぱり、トカゲニンゲンでち!」
また酷い言われようである。
「違いますが、まあいいでしょう――終わりです」
タンと着地した床に召喚円を刻み、ハクロウくんが詠唱を開始。
複雑な紋様の刻まれたカードを発動。
それは先ほども発動した、以前の事件で入手しただろう切り札。
「召喚:マスターテリオン」
稲光を纏わせたカードを発動させ。
ざざざ、ざあぁぁぁぁぁぁ!
先ほどもあっさりと神父を肉球プレスした、召喚獣を召喚。
召喚演出が、周囲の時間を停止させていた。
海を渡る音が響いた直後。
闇の霧の中から、膨大な闇の魔力を纏った獣が顕現。
無数の瞳を赤く染め――その咢がじゅるりと音を鳴らす。
終末の獣の顕現である。
『契約者、ハクロウ――ワレを呼びし者よ。エイゴランクのステーキとやら、忘れるでナイゾ?』
「契約成立ですね。今度も殺さずにお願いします」
あ、これでまた勝負は決まっちゃったな。
おそらくハクロウくんの身のこなしは、異能力。
事前に、強化系の魔術カードを自分に使っていたのだろう。
ま、戦闘になるかもとは思っていたんだろうね。
多頭の神獣。
神話生物に分類されるマスターテリオンは、周囲を見渡し……。
じぃぃぃぃぃぃ。
『しかし、ワレ、まーたよばれたのか……』
「すみません、ケトスさんがあっさりでは面白くないと仰って――時間を巻き戻したようなので」
既に気心の知れた仲なのだろう。
社長さんが最上級の召喚獣を使役し、ゴゴゴゴゴ!
低級天使を消滅させつつ、静かな声で告げる。
「ケトスさんの言葉ではありませんが――チェックメイトです」
明らかに格上の召喚獣。
神を呼ばれたネズミさんと神父さんが、ぐぬぬぬ。
呼ばれた小天使を蹴散らされる中。
マスターテリオン、まあようするに世界の終わりを告げる黙示録の獣が――鋭い眼光を細める。
『大魔帝ヨ、相変わらずでアルナ』
『君も久しぶりだね、元気にしていたかい?』
戦いは続いているのだが、まあこれを呼ばれた時点で神父サイドは負け。
消化試合になっているようだ。
うぎゃー! こら! やめろ! とギャグみたいな悲鳴が聞こえているが気にしない。
いっぱいある豹の顔をニッコリさせ、鉄の魔杖を揺らしながら獣は言う。
『グハハハハ! まあ、それなりにな。なにせ――この世界ノ終末預言は去った。ワレも、暇なのだ!』
『ああ、そういやレイヴァンお兄さんとの戦いも、言っちゃえば終末預言みたいな感じだったしね。あの案件が解決したから君、暇なんだ』
ならいっそ、本格的に魔王軍に誘おうかと。
ニヒィっとシュークリームの粉をつけた猫口を動かした。
その時だった。
ゾクリとする程の、空気。
ノイズのような何かが、空間を走った。
刹那――。
「あれ? マスターテリオンじゃないの! ぷはははははは! ちょっと! やだ、マジでうけるんですけどぉぉぉぉ! あんたほどの大物が、なんで人間なんかに使役されてるのよ!」
声がした。
場違いなほどに明るい、女性の声だ。
しかし声は明るくても、その魔力は――歪んでいた。
ゾゾゾ!
空気が変貌したその時――。
給仕状態になっていたジャハル君が、ぶわっと鳥肌を浮かべ緊急変異。
女帝モードへとその身を切り替え、私と人間達を守るように魔炎龍を二体召喚する。
燃える炎が、女帝の身を包み込む。
「無礼者、魔猫の君の御前であるぞ! キサマ、何者だ!」
「あーら、ネコちゃん。今日は護衛がいるのねえ」
私をネコちゃんと呼び、微笑する光。
その正体は間違いない。
聖母――、一月前の事件で私達の前から逃走した魔王様の母君。
ジャハル君はまだ、相手の正体に気付いていないのだろう。
しかし、危険な存在であるとは察したようだ。
魔炎龍を強化しながら、私に言う。
「ケトス様。この光はいったい……っ」
『油断はしないでおくれ、私でもダメージを負うかもしれないレベルの存在だ』
告げる私の言葉に、空気が凍り付く。
「ケトス様が!? ま、まじっすか!?」
彼女が慌てるのも無理はない。
その力はジャハル君より上の存在。
明らかに異質なる声と気配だったからである。
『君も私の後ろに――人間達を頼むよ』
「畏まりました」
側近ボイスで、すぅっと身を引くジャハル君。
続く私は猫玉座を本物の玉座に置換し、肉球を鳴らす。
ボボボボ!
戦闘フィールドに魔猫の群れが顕現する。
『多少のズレはあるが――まあ丁度君が逃げた一ヵ月前に、この騒動の原因であるサーバーの異常が出た! って時点で、こうなんじゃないかなぁ……とは思っていた。けれど、なかなかどうして、すぐにでてきてくれたじゃないか』
「あらぁ? なんのことかしら?」
魔猫を率いた私は異能力者同士の戦いを中断させ。
じぃぃぃっぃぃいい。
女神の光を睨む。
『やっぱり君が糸を引いているんだね、女神アスタルテ。いや、聖母マリアと言った方がいいかな? それとも、暗黒母シュブ=ニグラスが的確かな?』
「好きなように呼ぶと良いわ――」
言って、光はシリアスモードに移行したのだろう。
光から生物の形を作り出し。
ぼちゃん……。
戦闘フィールドとなっていた暗黒空間、闇の泉に足先だけを着水。
闇に浮かぶ光の母となり――。
妖艶な笑みを浮かべ。
告げる。
「あたしは楽園の聖母。全ての母たる存在。さああなた達も皆、母たる慈悲の前に縋るといいでしょう。望むまま、願うままに――あたしは全ての命を拾いましょう。終わる世界に、母の祝福のあらんことを――」
聖母のヴェールが並々ならぬ魔力を纏い、広がっていく。
神々しい光を放ったのだ。
慈愛と慈悲の温かい力が、逆に空気を凍てつかせる中。
私はボソリと言った。
『いや、君……白山羊じゃん……』
そう。
微笑を浮かべて泉の上に足先だけを着水。
実はこれ、けっこう神々しいポイントが高めなのだが。
見た目が、白ヤギ……なんだよね。
白山羊じゃあ、ただのギャグである。
冬毛なのか、微妙にモコモコもしてるし……。
こほんと咳ばらいをし、聖母は再び暗黒の中で慈悲の光を放ち――。
「あたしは楽園の聖母――」
『いや、やり直さなくていいから……で? 今度は何を企んでいるんだい?』
あ、やり直しを中断されたからだろう。
ぷぷぷー!
女神のくせして、額に怒りマークを浮かべてるでやんの!
「ふざけんじゃないわよ! この駄猫! 空気、読みなさいよね!」
『君には言われたくないね! 聖母のカッコウした山羊が偉そうに顕現して、こっちだって反応に困るだろうが!』
創世神話規模の女神の降臨と、世界創世さえ可能な大魔帝の同時降臨。
前代未聞な事態。
息を呑む暇さえない、シリアスな空間の中。
「は!? そっちだってネコでしょうが! 頭が高いわよ、頭が!」
『ネコは偉いから! 威厳があるから! セーフなんですぅうううう!』
ネコと山羊さんの口論は続く。




