とある社長の異能力者 ~大人な対応~
ところ変わって都会の某所。
いつでもどこでも素敵な私!
大魔帝ケトスは人類が生み出した建造物の最上階。
既に勝手知ったる高層ビルの、ゴージャス社長室に訪問する事となっていた。
で、今はビルの玄関!
私が来訪すると、既に顔見知りの受付のお姉ちゃんが、にっこり。
そう、既にここは我がテリトリー!
社員のほとんどは魅了済みなんだよね!
そして、出迎えたこの長身の男が金木白狼くん。
以前の事件で知り合ったカードゲーム会社の社長で、異能力者。
トカゲっぽい顔立ちが特徴的な、まだ若いのにイケおじ扱いされる青年である。
金持ちという付属効果があるからか――。
女学生たちからの顔の評価は良いらしいが。
もちろん私の方がイケニャンである。
『突然すまないね、元気にしていたかい?』
「おかげさまで……というか、つい先日もいらっしゃってくださいましたよね? 美味しいムニエルが手に入ったから白ワインを貰いに来たよ~、と」
ふと賢い私は考える。
はて、たしかに高級なお酒を手に入れるにはここが一番と、転移した記憶がある。
いやあ、私。
頭脳がネコちゃんだからねえ、記憶容量が少ないからねえ。
『にゃははははは! ごめんごめん、あの時はご馳走様。そのまま宴会までしちゃったんだよね。ここは来やすいし、君ともわりと気兼ねなく話せちゃうから、ついつい甘えちゃうんだよねえ』
「そう言っていただけるとこちらも嬉しいですよ。それで――」
ハクロウ君が言葉を区切り、すぅぅぅぅ。
後ろに並んでいるジャハル君。
そして、今回の事件の関係者で接触者となった男――野ケ崎神父に目をやった。
暴れていた異能力者、って事は察したのかな。
異能力者は異能力者同士でなーんか、縄張りとか派閥みたいなのがあるっぽいし。
私の知らないバチバチでもあるのかな?
気遣いのできる優良ニャンコな私は、首周りのモフモフを揺らして言う。
『中に入ると仕事に支障があるなら――場所を変えるけど、どうするかい?』
「いえ、お部屋に案内いたします。どうぞこちらへ」
促された私はドヤ顔で社内を歩く。
社長さんに丁寧に案内される私を見て。
野ケ崎君がぼそりという。
「そこの異世界猫よ。どういうことだ。この男――ア、アレだろう!? 雑誌とかにもよく出ている、あの金木社長だろう?」
『そーだけど、どうしたの?』
「し、知り合いなのか!?」
すっごい喰いつきである。
情報を開示するのはフェアじゃないと、私は適当に返事をする。
『以前の事件でちょっとね――』
ともあれ、私達は案内された部屋に入室した。
◇
相変わらずゴージャス絨毯の部屋!
ここはハクロウくんの私室兼、社長室!
私とワンコとニワトリが、勝手に貸し切り――宴会を行う場所としても有名なスポットである!
まあ今回は真面目な話なので、そういうのはないけど!
既に用意されていたのだろう。
高級ネコおやつの香り。
そして高級茶葉の香りが、私のネコ鼻を甘く擽っている。
部屋の入り口。
立ったままのハクロウくんが無骨ではないが筋張った手で、室内を促し。
全員の顔を確認する。
「とりあえずお掛けください。詳しい話をお聞きいたします――えーと、初めましてではありませんね。そちらの、威厳ある女性がジャハル様ですね」
女帝としてのジャハル君が、ふふふ。
妖艶な笑みを浮かべる。
「如何にも――妾こそが炎帝にして、大魔帝ケトス様の側近。魔帝ジャハル。謎の猫、ニャンコ・ザ・ホテップの件でその顔、見たことがある。我が主が大変世話になっていると聞く、いつも済まぬな」
「とんでもございません、こちらこそ――」
王たる精霊に対して、頭を下げるハクロウくん。
彼は次に異能力者で当事者である、強面神父に目線を移し。
「そして……すみません、ワタシの情報にはないのですが、えーと、神父のコスプレをなさっている方は、ケトスさんの世界の……従者の方でしょうか?」
あ、変なコスプレ衣装だからファンタジー世界の人と勘違いされてる!
ぷぷぷー!
そりゃあ肩にモフモフなネズミも乗っけてるしねえ。
「失礼な男だなっ! オレが、オレこそが! 数多の最難関クエストをソロで攻略し、最速でグランドプリーストとなった男! 迅雷の野ケ崎とはオレの事だ!」
「迅雷の野ケ崎、その名……どこかで」
そりゃあ、廃人だったんだろうし。
自分の会社で持っているMMORPGの有名人なら、名前くらいは聞いた事があったのかな。
魔術カード《ネコ印の鑑定魔具》を発動しているようだ。
ハクロウくんは三白眼を細め、冷静な社長声で言う。
「というか、あなた……まさか本名でゲームをプレイされているんですか?」
「我は隠し立てなどせぬ、当然だろう?」
「いえ、そういったプレイはあまり推奨してはいませんよ。普通に危険ですし、今度からはちゃんと規約を理解してからプレイしてくださいね」
あ、普通に説教してる。
そりゃそうだよね。
「そしてそちらの、モフモフな御方が」
『ああ、ゲームのマスコットキャラらしいよ? 電話で軽く説明したとは思うけど、君の所のMMORPGから発生した意志ある魔力体、日本的な言い方をすると付喪神だね』
ネズミさんは爬虫類顔のハクロウくんが苦手なのか。
神父の髪の中に逃げ。
チュチュチュゥゥゥゥ。
「嫌われてしまいましたかね」
『蛇とか大きなトカゲって、ネズミの天敵だもんねえ』
言われたハクロウくんは眉を下げる。
このまま談笑をしていても話が始まらない。
空気を切り替えるように、私は瞳の色を赤く灯らせる。
『さて、そろそろ真面目な話をしよう。説明させて貰ってもいいかな?』
「よろしくお願いします」
そんなわけで!
通された社長室に用意されていた猫玉座で、どでーんとして!
ウニャウニャニャ!
身振り手振りを交えつつ、私は事情を説明した。
私の話術及び、会話スキル。
かくかくしかじかも発動し、高速解説。
一通りの説明を終えて、私は紅茶を一口。
揺れる波紋を眺めて、静かに貫禄のある声を出してやる。
『というわけさ。まさか君の会社で作っていたゲームの中から、付喪神が発生したっていうのは驚いたけどね……まあ事実なのだから仕方がない。今回の件、君にも協力して貰いたいんだけど。どうだい?』
爬虫類顔を引き締め。
ぎしり……。
ハクロウくんが革張りソファーを鳴らし言う。
「なるほど、お話は理解できました。ケトスさん、ご迷惑をおかけして大変申し訳ない」
『いや、こちらも急だったのにすぐに対応して貰って助かっているよ。それに、貸しも作っておきたいしね』
言って、私は社長室に並ぶ高級なお酒をニャヘヘヘヘっと眺めてやる。
「分かりました。あなたが好きなチーズも取り寄せておきますよ」
『君は話が早くて助かるね』
報酬のグルメをひとまず確保!
知的で、大人な取引をしている私の横。
強面神父な野ケ崎くんの肩の上で、チュチュチュチュゥゥ。
もふもふネズミな、でち助が言う。
「え!? まじで理解したんでちか!? あんな荒唐無稽な話を!?」
ヒマワリの種を頬袋に貯めているネズミを見て。
ハクロウくんは静かな口調で。
しかし、鋭い眼光を尖らせ語り始める。
「ケトスさんがワタシに嘘を言うメリットもないでしょう。それに、この御方はワタシの恩人でもある。信じない筈がありません」
ネズミさんがドン引きした顔で言う。
「どーなってるんでちか、あなたの周りは……ちょっと頭のねじがズレてまちよ?」
『たしかに、ちょっと変わった存在が多いのは事実だけど。それでも私はね――彼らの事を気に入っている。賑やかだし、なにより共に過ごしていると、なんだろうね。心が優しくなるというか、うん……そうだね。私の中の憎悪が抑え付けられるからね』
穏やかに告げる私。
とっても大人の憂い溢れるネコだね?
憎悪の魔性を知らないネズミさんコンビは、理解できていないようだが。
まあ、その辺を説明すると長くなるし割愛かな。
ハクロウくんが眉を下げる。
「ありがとうございます。話を戻しましょうか、それで――そちらのネズミさんが例の付喪神、と」
鋭い眼光で、でち助ネズミを眺め続けるハクロウくん。
その顔は鋭いが……。
実はこれ、睨んでいるわけではない。
カードゲームに使えるかどうかを、考えてるんだろうなあ……。
そんな商売目線を知らずに、ネズミさんは足先から頭にかけてモフ毛をぶわぶわ!
蛇に睨まれたネズミ状態で、叫ぶ!
「な、なんでちか! デチは喰っても美味しくないデチよ!」
「それは心外です。いくら爬虫類顔と言われても、ネズミを食べたりなどしませんよ」
誤解されやすい顔立ちではあるんだよね。
天然なせいか。
動物的な所もあるし。
「そ……そうなんでちか? てっきり、こう……人間に化けている、上位存在の落とし子的な存在だと思っていたんでちが」
酷い言われようである。
「まあいいでち! それで、デチ達の世界の維持を約束してくれれば、たぶん騒動も治まると思うのでちが――どうなんでちか!」
頼まれたハクロウ君が言葉を詰まらせる。
鉄面皮状態で、考え込んでいる彼に私は気さくに言う。
『もしかして、費用が結構掛かるのかい? なんなら政府関係者か某国の大使館に理由を話して、脅し……いや、ふんだくって――違う。ともかく、現金を用意させても良いけど』
ハクロウくんの会社も、ボランティアでサービスをやっているわけではない。
サーバーの維持にどれだけお金がかかるのか、正直私は知らないが。
社員を養うためには、そういった生臭い事情もでてしまうのは仕方がない。
「いえ、ケトスさんにそこまでしていただく必要もないですよ。費用といっても替えの機材も人材も整っておりますので、さほど掛かりはしません……。しかし、なんといいましょうか。別の問題があるのです」
私とネズミさんが目線を合わせ。
私の方がオウム返しする。
『別の問題?』
「ええ。確かにそのゲームはかつてウチで開発し、販売したMMORPG。サービス終了の話も届いていますが――ご覧になっていただいた方が早いかもしれませんね」
言って――資料をパソコンで探りながら。
タタタタターン!
キーボードを長い指で操作する音が響く。
映像が浮かびあがる。
おそらく、既に機械と異能力を融合させているのだろう。
それはかなり鮮明な映像となって、私達の視界に入り込んでくる。
「ご覧の通り、物理的に不可能なんですよ」
『ん? どういうことだい』
モニターには……緑の残像。
サーバールームのライブ映像っぽいのが映っている。
監視カメラの映像なのだろうが、この荒い解像度は明らかにおかしい。
金持ちなのだ。
税金対策的な意味でも監視カメラをケチるとは思えない。
「サーバーが既に何者かに侵食されているのがお判りでしょうか?」
『いや、詳しくは分からないが。ふむ――たしかに、何か異質な魔力を感じるね……』
ぎしりとソファーを鳴らし。
キリリ――。
顔の前で指を組みながらハクロウくんが語り出す。
「この歪みが発生したのはちょうど一ヵ月前。はじめはバグだと思っていたのですが、どうやらそういう類のモノではなく。異能力や、ケトスさん……あなたがたが使う魔術の類だと判断しました。取り除くことは現状困難、ならば長期の稼働でサーバーも老朽化していたという事もあり、サービスを終了しようとなりまして」
言葉を濁らせるハクロウくん。
それはまあ、世界の終わりを示す事であり、ネズミさんがチュチュっと眉間を尖らせる。
が――。
冷静そうなネズミさんが賢者の顔で語る直前。
狂乱したのは、現代人であるはずのコスプレ神父、野ケ崎君の方だった。
「なんというゲスめ! 資本主義の犬! 悪鬼羅刹か! オレ達の世界をそんな理由で滅ぼすとは、神は必ず汝等に罰をお与えになるぞ!」
「落ち着くデチ、相手はちゃんと親身になって考えてくれていまちよ」
ネズミさんがはぁ……と重い溜め息。
構わず男は唸りを上げる。
「プリースト戦記こそが、我が本来の魂のありか! それを終わらせるなど、きさまぁぁぁあぁ! 神罰が下るぞ!」
「と、言われましても――サービス終了の予定は一年後。だいぶ猶予は作っておいたはずです。アーカイブとしてのデータ参照もできるようにすると、お知らせでお約束しましたし……今までの戦績やデータ。勲章など、ありとあらゆる情報を個別に閲覧可能にする仕様を用意しているのです」
証拠となるデータを提示し、社長さんは冷静に続ける。
「残りの期間は無料で開放しておりますし。弊社といたしましても、異能力によって浸食されたゲームをそのまま経営するという状況は――看過できません」
「なに!? どういうことだ!」
「危険と判断しております」
「危険などあるものか!」
怒鳴られても冷静なまま。
ハクロウくんが社長の顔で薄い唇を動かしてみせる。
「御言葉ですが、お客様。今あなた方はこうして危険な目に遭っているのでは? 今回の襲撃がケトスさんだから、穏便に話も済みましたが……。もし、話を聞かないロックウェル卿さんや、話を聞いても罪を許さぬホワイトハウルさんでしたら……今頃、あなたという存在そのものが歴史から消去されていたでしょう。極めて危険な状態にあったと、そう認識しております」
と。
真面目モードなハクロウくんは、強面神父ではなくネズミの方を向き。
淡々と業務的な声を漏らす。
「えーと、でち助さんでしたか。まずはこちらの世界への干渉を止めていただきたい」
「今すぐには無理でちね。デチ達はまだあなたたちを信用ちておりません、そしてなにより、デチ達も一枚岩ではないのでちよ」
交渉は決裂か。
まあMMO世界の付喪神――彼らにとっては本当の意味で死活問題。
軽々な行動はできないのだろう。
そして一枚岩ではない。
これはけっこう厄介である……。
ようするに、このマスコットキャラ以外にも付喪神化している連中が、大勢いるのだろう。
長期サービスが続いているMMO世界の付喪神か。
多くのプレイヤーの魂と想いが込められたゲーム……それはすなわち信仰に近い。
信仰はあればあるほど力となり、それこそ本当に神へと昇華する。
メチャクチャ厄介でやんの……。
しかし、ハクロウくんは社長として、責任を取ることを選んだのだろう。
空気が変わる。
ホワイトハウルとロックウェル卿。
規格外な二柱とも交流のある社長さんの足元が、揺らぐ。
魔法陣が展開され始めているのだ。
「なるほど――理解しました。交渉決裂ですね。ならば仕方ありません、残念ですが――ワタシはワタシの力でサーバーを物理的に破壊致します。その時点で、あなたたちの世界は消える。残念な事ですし、申し訳ないとも思いますが――お客様の命には代えられません」
実際に命の危険もある状態なのだ。
その判断も間違っていない。
それを宣戦布告と受け取ったのか。
野ケ崎神父が、足元から発生する魔力の中で。
ぎしりと笑む。
「良かろう! ならばその前に、オレの力をもって貴様のその生意気なトカゲ顔って……おい、こら、待て! なんだ、その異形なる魔物どもは!」
野ケ崎神父が狼狽し叫ぶのも当然。
既に周囲は、カードの魔物で囲まれていた。
「異能力での戦いとなれば、ワタシも本職。それで解決するのなら話も早いですし、さあ始めましょうか」
告げて、ハクロウくんが更なるカードを周囲に展開。
高級革靴で絨毯を歩き、これまた高級なスーツを魔力の風でぶわぶわさせて。
冷徹に神父を睨む。
「ご覚悟を――」
「待て待て待て! ケトス殿! こいつ、何者なのですか! ただのゲーム会社の社長ではなかったのですか!?」
微妙に敬語になってやんの!
観戦していた私は、ポテチを掴んでいた手をそのままに――バリバリ。
玉座の上からネコの丸口を蠢かす。
『ああ。言い忘れてたけど彼も異能力者だよ? それもかなり応用の効くチート能力だからね。私との冒険で肝も据わってるし、精神的な意味でも熟練者。そんじょそこらの英雄冒険者より遥かに強いからね。正面切って戦ったら君達に勝ち目はまずないから、気をつけなよ?』
私の言葉を肯定するように、グギギギギ!
社長さんの周囲に、次々とカードの魔物が顕現していく。
「気をつけなよ、ではない!」
「やるしかないデチ!」
吠えた神父が距離を取り、ネズミさんが腕を翳す。
瞬時に神父の腕に顕現したのは、魔術演算器具。
洗脳信者たちも装備していた、魔術式を外部演算させる補助器――といったところか。
「召喚! いでよ、神の信徒よ!」
野ケ崎神父の周囲にも、天使の名を借りた存在が顕現。
きぃぃぃぃぃいん!
おそらく、MMORPGプリースト戦記の魔物だかクリーチャーだかが召喚されていく。
五重の魔法陣によって生まれているので、レベル的には英雄クラス。
最近は私の影響で平均レベルが上がりまくっているとはいえ、かつての人間の限界レベルの魔法陣である。
まあ、今の私と魔王様の世界、平和となったグルメ世界ではよくいるレベルの存在だろう。
戦いの空気が部屋を揺らしているので、私は肉球を鳴らす。
周囲を壊さない結界を構築したのだ。
コスプレ神父、野ケ崎君が召喚された天使に向かい命令を下す。
「我等が神の使途よ! そいつが世界に終焉を齎す悪魔! 我等が敵である」
輝きの槍を握る無機質な天使たちが、ジャキン!
「要請に応じましょう、神を愛する敬虔なる信徒よ」
「主は我等と共にあり」
「さあ、世界を滅ぼす創造神に鉄槌を!」
おうおう、天使の分際で偉そうである。
ハクロウくんが私に目線を送ってくる。
「構いませんか?」
『人間同士の争いでもあるからね。人死にがでるなら止めるが、そうでないのなら私の管轄外さ』
ようするに、殺すなと警告はしたのだ。
その警告はどちらにも向けたモノ。
いやあ、さすがにさ。
私が彼らを連れてきたわけだし――目の前で死者が出たら、困るしね。
そんなわけで!
今ここに――!
異能力者同士の異種決闘が始まろうとしていた!
なんか、ジャハル君が――。
呑気に観戦して楽しそうっすねぇ……と、トラブルメイカーを見る目で睨んでいるが。
気にしない!
未知の力の戦いっていうのは、やっぱり興味があるしね!




