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聖母神の帰還 ~神の子を産んだもの~



 魔王様の母君だと判明したのは、闇の中で浮かぶ光。

 女神アスタルテ。

 私をこの夢世界へと招き入れた、ちょっと残念な女神様だった筈なのだが。


 いやあ、まさか魔王陛下のお母さんだったとはね。


 ちなみに――外なる神こと、強力な神性の召喚かいわということで。

 ここは儀式で作り出した闇空間。

 既に教会フィールドではなく、一種の結界空間に入っている。


 大魔帝ケトスたる私も、闇の魔力でモフ毛を毛玉のように膨らませ。

 玉座の上で、むふー!

 相手が魔王陛下の母君だとしても! その態度も偉さも変わらない!


 だって、私は猫だもの!

 というわけで――!

 母上様を見下ろす形で、ふふーん!


『それで! 魔王陛下の母君がいったいここでなにをやっているのさ。この世界を維持しようとしているってのは、なんとなくわかったけど。さあ、我に語ると良いのだ!』

「あいかわらず偉そうねえ……まあいいわ! ちょっと待ちなさい! 今、華麗に顕現してやるんですから!」


 光は会話のためだろう、形を作り出していく。

 闇系統の女神だと思っていたのだが、その服装は宗教画にでてくる女性……。

 というか、まんま聖母像である。


 問題は……その姿。

 モコモコな白い毛を持つ。


『……なんで、白い山羊なの?』

「なんでって……仕方ないじゃない。この世界ではシュブ=ニグラスちゃんの神性を纏っているんだから。あぁぁぁぁ! ちょっと、あんた! こっちは黒山羊の姿じゃあ宗教的にまずいと思って、なんとか白山羊の姿で顕現してやったっていうのに文句を言うのね!」


 そう。

 聖母の異装を纏った、山羊さんなのである。

 一瞬、羊かとも思ったのだが、角があるしヤギで間違いない。


 穏やかな笑みを浮かべているが。

 その微笑みはどこか作り物染みていて、うすら寒さを感じてしまう。

 山羊スマイルだからね……。


 ヤギって、目が笑ってないよね。

 結構モコモコだけど。

 温かい後光を放ちながら聖母は語る。


「改めて自己紹介をさせて貰おうかしら。あたしは聖母マリア。あんたが名を奪った息子の母親よ! 聞いて驚きなさい!」


 ビシっと蹄で私を指さし、聖母はふふーんと白山羊ドヤ顔を浮かべる。


「あたしの原初は聖母! 大魔帝ケトス、あんたが第一世界と呼んだ世界、魔術式の存在しない地球。その全ての母たる神の力を原初とするもの! 母たる概念の女神なのよ! すごい女神様なんだから! さあ――今度こそ平伏しなさい!」

『うわ、あいかわらず偉そうだね』


 後ろに下げた耳が、イカっぽい形になってしまうのである。


 大いなる光といい。

 女神様って上位になるとなんかこう、アレな性格が多くなるよね。

 大いなる導きは一見するとまともだけど、ラスボス系女神だし……。


 鑑定の魔眼を発動させると――。

 うわぁ……たしかに、原初の力が聖母マリアってなってるよ。

 聖母って、”あの”聖母様だよね? かつての世界で多くの聖職者が信仰していただろう、存在を産んだ。


 それが白山羊って……。


 いや、まあ……。

 あくまでもリールラケーのように、力だけを受け継いでいるだけなので。

 本人では全くないのだが。


 ドン引きする私に代わり、ロックウェル卿が告げる。


『なるほどのう。こやつは一種のシャーマン。聖母や地母神、そういった神の力と心を自らの身体を依り代にし、降臨させることができる山羊なのであろう』

「あまり山羊山羊って言わないで頂戴! 本当のあたしはもっと美麗で美しくて、超絶美形の女神なんだから!」


 いや、でも今は白山羊だし。

 しかも、無駄に清楚な聖母の衣装をまとった。

 もはやギャグなんだよね、これ。


 ともあれ私は玉座の手すりに肘をつき、ぶにゃっと問いかける。


『それにしても母たる神全てを原初、ようするにアダムスヴェインで使えるって……ちょっと魔術属性を盛り過ぎじゃない? 多くの女神は同時に母としての側面も持つ。ほぼすべての女神の力が使えるって事じゃないか。魔術式は破綻する。その力を維持できるとはとても思えない、さすがに無理があるだろう』


 私達の疑問に答えるように、聖母は魔導書をガジガジしながら言う。


「あら、何を言っているのよ。あなた達は今、それが可能な世界にいるじゃない?」

『コケカカカ……夢の世界ならば、その膨大な魔術式とて許容できる、か』


 魔術師の顔で翼をバサリとさせて、ロックウェル卿が渋い顔を作り出す。

 おそらく、矛盾を考えているのだろう。

 楽園にいた時も、幼い魔王様の夢の中に入り込んでいたのだろうか。


 分からないが。

 彼女はその力ゆえに、ひどく不安定な存在なのかもしれない。

 私もまた魔術師の顔で、目の前の山羊聖母を睨んでいた。


『母と伝承される異神の力をインストールする力、か……。それも暗黒神話の世界を再現できるほどの力。さすが魔王陛下の母君といったところではあるね』

「あら、よく分かったわね。ここはそう、あたしだけの城。あの子の夢だとしてもあたしの世界。壊させはしないし、誰にも渡さないし、誰にも利用させないわ!」


 伝承にあるシュブ=ニグラスは偉大な母とも称される神性。


 女神アスタルテの神性もまた、豊穣多産の神。

 聖書の一節でも語られ、後世にて悪魔アシュタロスへと貶められた存在。

 そして、シュブ=ニグラスとも関係性があると一説では語られる事がある。


 そういった強大な母の力、聖母を原初とすることで操れてしまうのだろう。

 いわゆる、さすが魔王様のママ。

 さすママである。


 山羊だけど。


『それで山羊の君は……』

「頭が高いわよ? あたし、お母さんよ? 聖母と呼びなさいよ」


 イラっ!

 モフ毛を逆立てつつも、話が進まないので私は言う。


『で? 聖母たる君は何を企んでいるんだい』

「マリアと呼んでいいわ。それが一番しっくりくる名ですもの、あの子の名を封じている貴方なら、分かるでしょう?」


 わずかに空気が変わる。

 相手が変わったのではない、私の方が変わったのだ。


 闇の泉となった床から、影の渦が生まれ。

 ざぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 猫目石の魔杖を顕現させた私は杖を握りながら、聖母を睨む。


『いや、あえて聖母と呼ばせて貰うよ――』

「そう、それでも構わないけど。あんた、すっごい顔になってるわよ? そんなに名を独占していたいの?」


 再び、どこから取り出したのか分からない魔導書をモシャモシャし。

 ごっくん。

 呑み込んだ聖母を睨んで、私は告げる。


『あの方の名を解放すれば、おそらく多くのモノがその影響を受ける。私はそれを許容しない。このまま、封印しておくことが正しいと、私はそう判断している。これだけは譲らないよ。誰にもね』


 告げた私もシリアスかっこういいのだが。

 聖母もまた、わすかに山羊の瞳をシュゥゥっと細めていく。


「えぇ、別にいいんじゃない? 前みたいに楽園の民から崇拝される状態に戻って貰っても。我が息子ながら、輝いてた。全ては在りし日の幻想、けれどあの日々は真実だった筈。あたしは、忘れ得ぬ望郷を大事に思ってるもの」


 そう微笑む聖母の顔にあったのは、狂気。

 なるほど――。

 暴走していた状態の聖父クリストフパパのように、彼女もまた魔王様に魅了されているのだろう。


 聖母は、昏い微笑を湛えたまま。


「生意気ニャンコ。あんたはあたしの目的が聞きたかったのよね? まあいいわ、答えてあげる。一つは簡単。夢の中で働く労働力、ショゴスの減少によって不安定となったこの夢世界を立て直す事。これはあなたたちのせいでもあるってのは、知っているでしょう?」

『ああ、私達のせいかもしれないね』


 何故かロックウェル卿とホワイトハウルは私だけを睨んでいる。

 ま、まあ実はロックウェル卿とホワイトハウルは関係ないんだよね。

 私と魔王様のせいなんだし。


 というか、やっぱり……。

 私達の世界でショゴスとかを呼ぼうとすると、魔王様の夢の中に接続されて、ここから召喚されてたってことなのかな。

 少なくとも私達とこの世界にとってのショゴスは、夢世界を維持する細胞のようなもの。

 夢で働く彼らを、私と魔王様は知らずに召喚しちゃったわけである。


 私達が勇者召喚を誘拐と表現したように、彼らにとってはこちらが誘拐犯と言えなくもないわけだ。


 もっとも、ショゴス達に関してはこの世界での労働過多による離反。

 ようするに本人の意思による逃走なのだ。

 この夢世界の維持が困難になってきたのは、自業自得な気がするけど。


 しかし。

 その考えが正しいのなら。


 私は魔術師の顔で考える。


 あくまでも私達の宇宙。

 第三世界での話ではあるが……。

 我等の魔王陛下こそが、この世界ウルタール、ドリームランドの魔皇アザトースにあたる神となるのではないだろうか。


 魔皇アザトースとは世界を生み出した力そのもの。

 醒める事のない夢を見続ける者。

 あの神話における世界は、魔皇が見る夢――全ては終わらぬ夢の中で蠢き生きる、小さき者達の物語なのである。


 もっともこの世界は既に独立しているので――魔王様が夢を見る事を止めても、問題なく継続……。

 ……。

 できるはず、である。


 答えを得ようとネコ頭をフル回転させる私に、静かなる声が届く。

 白山羊さんの声である。


「話を続けてもいいかしら? もう一つは……ふふふふ。あの子達にお願いされたからよ」

『お願い?』


 猫腕を組んだままでオウム返しする私。

 超絶プリティだね?


「今回のあなたたちの冒険は全部そう。これは、あの子達の願いをかなえるための夢冒険。千の眠りの中で見る、長くて甘い……恋人たち。その再会の物語なのよ」


 思いのほか優しい声音で告げて。

 聖母は後光を放ち始める。

 結界で守られている、見習い魔女のラヴィッシュ君の方を向いたのだ。


「深淵の底にあったこの子の魂を、この姿へと転生させること。それがあの子達との約束。だからもう、なんつーか。うん、企みは終わってるのよねえ、そりゃあ外から入ってくるクトゥルーのアダムスヴェインを操る連中の侵入も困ってるけど、それはあんた達がなんとかしてくれるんでしょう?」


 急にフランクになった白山羊さんの話に割り込み。

 いままで観客状態だったラヴィッシュ君が、慌てて髪を揺らす。


「あ、あたし!? ど、どういうことよ」

「さあ、知らないわよ? あたしはあの子たちの願いを叶えただけだから」


 無責任な言い方をし、白山羊さんは後光を纏いて口をモゴモゴ。

 それはまさに神の顔。

 楽園の聖母としての、超越者たる貌なのだろう。


「小動物の如き小さき存在が人へと転生した理由なんて、あまり興味がないの。ただ、その企みが我が子らの願いであるからこそ、あたしはこうして今、ここにいるのよ。興味があるのなら――ここからでて、あの子に聞いた方が早いんじゃないかしら」

『魔王様たちの願いが、ラヴィッシュ君をこの姿へ転生させる事? いったい、どういうことだい。分からないね。彼女の前世は何か重要な役割を担っている、ということなのかい?』


 理解ができない私に、山羊さんは妖しく微笑んでみせる。


「さあどうなんでしょうね。ごめんなさいね、ネコちゃん。本当にあたしも詳しくは知らないの。けれど、まああの子達の願いなのですから、きっと大きなナニカが動いているんでしょうね。そう。だから、これはとても重要な企み。そして同時に危険な企みでもあるわ。だって、安定していた破壊神の心を乱す可能性もあるのだから」


 それは、享楽を楽しむ女神の声だった。

 どう世界がこれから変動するのか。

 それを楽しんでいるのだろう。


 やはり、何かを隠していると見るべきか。


 考えても分からない。

 少女の転生。それに一体、何の意味があるというのだろうか。

 いやそれよりも問題なのは――。


『しかしだ、分からない事だらけだね。なぜ――君はいまだに、この世界にとどまっているんだい。目的は達成したんだろう? それに、女神アスタルテを名乗っていた君はこの世界の安定を保つよう動いていた。その意図も理解できない。この世界に居続けるつもりってわけでもないんだろう? 君の行動には芯がない。まるで気まぐれで動いているようにしかみえない』

「あら? どうして理解できないの?」


 聖母はやはり硬質的な微笑を浮かべたまま。

 山羊の顔を黒く染めらせる。


「全ての答えはここに辿り着くわ。息子のために母が動く、それっておかしい事かしら?」


 ふふふっと妖艶な声を漏らす山羊。

 うーみゅ、これが神々しい聖母の姿ならそれなりに様になったのだろうが。

 山羊じゃあねえ……?


 そんな中。

 ずっと話を後ろから聞いていた神狼。

 ホワイトハウルが獣の息を漏らす。


『あなたならば、おかしな事と言えるのではありませんかな、聖母マリアよ』


 カシャリ……。

 魔狼の爪が、闇の中で音を鳴らす。

 ガルルルルルゥゥゥと、空気も次元も揺らす唸りが漏れ始めていた。


『ホワイトハウル? どうしたんだい、そんな怖い顔をして』

『言ったであろう、我は女神に用があると』


 告げたワンコの足先。

 肉球から聖なる光が波紋となって闇に広がり始めていた。


「裁定の獣。森の番人。第一世界より転生せし、法の守り手。あら、あなたは。もしかして――あたしに何か文句でもあるのかしら?」


 かつて楽園に住んでいたもの同士、なにかあったのだろうか。

 途中で会話を放りだされたラヴィッシュ君の元に、私とロックウェル卿は集合。

 観客モードで彼らを見守る。


 煌々と照る光を纏いながら、ホワイトハウルが瞳を赤く染め上げていく。


『貴女は魔王陛下がお悩みになっていた時も手を差し伸べなかった。ただあの方を神と仰ぎ、追放されるあの方を眺めていただけ……そして、兄君であるあの男、レイヴァンが殺される時とて――助けなかった、見殺しにした。そう我は記憶しておりますが』


 あれ?

 なんかホワイトハウル……ちょっと怒ってる?


「レイヴァン、あの子のことは……そうね。あたしの過ちね。まさか狂信者達が、ああも狂ってしまうとはあたしもあの人も想像していなかった。けれどね、あの子のことも愛していなかったわけじゃないのよ? だからレイヴァンのため……こうして、あの子の頼みを聞いてあたしは今、ここにいる。これはあたしの子どもたちの願いでもある」


 夢世界に留まっている理由だろうか。

 正直、情報が断片的過ぎてよく分からない。


『願いだと? ふざけるな聖母よ! キサマは一度たりとも魔王陛下を見ようともしなかった。ただその上辺だけを眺め、満足していた。楽園の崩壊も、あの方の絶望も全てはキサマにもかかわりのある事! 敵のままならば許せた。もはや過ぎた話と我も見て見ぬふりをした。なれど、なれどだ! あの日、あの兄弟を助けなかったキサマが! 何をいまさらに陛下の味方を気取る!』


 世界が揺れる。

 嫉妬の魔性としての力、そしてアマテラスを原初に持つ大いなる光の後継者としての神性。

 主神ホワイトハウルとしての魔力が、周囲の次元を裂き始めていた。


「味方も何も、母親なのよ?」

『母親を語るならば何故あの時! 陛下が本当に辛かった時に抱きしめてやらなかったのだ!』


 叫びは、既に攻撃の魔力を孕んでいる。

 ロックウェル卿と私は慌てて二人の間に立つ。


『ちょ、ちょっと君達。楽園の関係者だけで話を進めないでおくれよ!』

『まったく、落ちつかんか。ホワイトハウル、おぬしらしくもない……!』


 私達の仲裁に、ホワイトハウルは膨らませていた口を鎮め。

 しかし。

 敵意を込めた眼差しで、聖母を睨んでいた。


『全ての母たるマリアよ、ケトスを巻き込み今度は何を企んでおる。あの時、あの楽園での失敗――我は忘れぬ。まだ陛下と我の間にも距離があったとはいえ、もっと関わっておくべきだった。もっと声をかけておくべきだった。我はあの日々を後悔しておる。陛下が全てを滅ぼしになるほどに、世界に絶望し、絶念の魔性となってしまったあの日をな!』


 暴走する魔性の力を、光の神たる神聖な力で制御し。

 ホワイトハウルは夢世界でありながら、膨大な力を放ち始めていた。


『故にこそ、我はキサマに問う! 答えよ! ケトスを夢世界に引き込み、何を企んでおる!』


 返答次第では、その喉笛を噛み千切る。

 そんな勢いである。

 ホワイトハウルは――聖なる光と共に、邪悪な波動を纏い始めていたのだ。


 おぉ……ガチギレのホワイトハウル。

 マジで威圧感あるでやんの……。

 眉間の皺がすごい。


「ねえ、ニャンコ。なんでこのワンコはこんなにガチギレなわけ?」

『んー……君の夫になるのかな、聖父クリストフの件もあるからねえ』


 グハハハ笑いのカピバラパパさんを思い浮かべる私に、白山羊さんが言う。


「あら、あの人がどうかしたの?」

『どうかしたもなにも、って、本当に知らないっぽいね。楽園が滅んだあとにレギオン化して――ずっと暗躍してたり、魔王城に急襲計画を立てていたり。今は改心してるけど、まあそれなりに悪役をしていたのさ』


 しかし、聖父クリストフのことを知らないという事は……。

 この聖母はカピバラパパとは行動を共にせず。

 楽園が滅んだあとは、別行動をしていたのかな。


 一触即発のホワイトハウル。

 ワンコに注意を向けながらも、私は聖母に問う。


『それで、本当に私を魔王様の夢の中に呼んで何をさせるつもりだったのさ。救世主を召喚しようとしていたみたいなことを言っていたのは、嘘だったのかい?』


 ウソを言えば魔狼が牙を剥く。

 そんな空気を察したのだろう、白山羊さんは諦めたようにメェとなく。


「ウソじゃないわ。救世主を探していたのも本当。この夢世界を放っておくと外部からの影響で滅びるのも本当。ショゴスが労働を放棄し、この世界のバランスが破綻しかけているのも本当。ついでに、クトゥルー神を原初の力とする古き神の血族に、この地が攻められているのも本当。全部、事実、ウソなんて言ってないわ?」


 嘘を探知する能力のあるホワイトハウルが噛みつかない。

 ならば、嘘は言っていない筈。

 しかし。


 私は探偵が犯人を追い詰める時の顔で、ニヤリ!


『ウソではないが、知っている事を話していない。そういうことだってあるだろう』


 そう。

 おそらくまだ、この聖母は隠している。

 その指摘に満足したのか、白山羊は聖母の異装を翻し――転移。


 闇の泉を揺らしながら、声を漏らした。


「秘密は秘密のままだから美しいのよ。全部暴いてしまったら、美しくなくなってしまう事だってある。駄目よ、まーだ教えてあげないんだから!」

『逃げるか! この痴れ者が!』


 吠えるホワイトハウルを威圧するように、白山羊の声が響く。


「ふふふふふ。ワンちゃんとも後でちゃんと話をしてあげるし、聞いてあげます。けれど、今はこの世界をどうにかする方が重要よ? もう、きっと目覚めてるわよ。彼」


 預言めいた声が、私のモフ耳を揺らす。


『彼?』

「ええ、娘を石化させられ沈められ、黙っていられる父親なんてあまりいないでしょう? 強いわよ、彼は。この世界を守るために頑張りなさい。アレを滅ぼすなり、封印するなりしてくれたら。ちゃんと全部話してあげるわ! じゃあねえ!」


 言って、メェェェエエエエエェッェェエ!

 羊にも似た声を上げ、白山羊聖母は完全に転移。

 そのまま逃走しやがったのだ。


 魔王陛下の母君の撤退で、空間が教会フィールドへと戻っていく。


 平和な空気に戻った空間で、私はジト目を作り。

 ネコちゃんのお口をうなんな。


『うわ、逃げやがったよ。あの女神』

『ふむ、しかし――クティーラの父親となると厄介であるな』


 唸るホワイトハウルに代わり告げるロックウェル卿、その言葉もごもっとも。

 今回の冒険のラスボス決定、といったところかな。

 話についていけず、けれど微妙に関係者っぽいラヴィッシュ君が困惑した顔で言う。


「それで、なにが来るっていうのよ」

『水の大神クトゥルーを原初の力とする、楽園の住人。私達の世界の第三勢力――海底国ルルイエで眠っていた者の首領、おそらくかなりの強敵さ』


 カッコウ言い回しをしたのだが。

 少女は呆れた声で言う。


「あのねえ……あたしはあなた達の事情に詳しくないの。もうちょっと分かりやすく言ってちょうだい。陛下にも先生にも報告書を作らないといけないの! これ! そのまま言っても理解されないでしょうが! もうちょっと聞いてる方とか、報告書を読んでる方を考えてよ!」


 怒った少女を眺めて、ちょっと懐かしさを覚えつつ。

 私はドヤ顔で、ニャハ~♪

 もう一度、なんかそれっぽいセリフを言うチャンス!


『ようするに、君達が水の大神と認識している偉大なる異神(アウターゴッド)。外なる神の一柱。娘の石化に怒り狂い目覚めたモノ』


 告げて私は、魔術ビジョンを展開。

 知りうる限りの情報を投射!

 モニターの光を受けながらモフ毛を、ぶわぶわ!


 玉座の上で、格好よく言ってやる!


『クトゥルー神による侵攻の始まりさ――』


 教会の木漏れ日。

 ステンドグラスから零れてくる黄昏を背景にする私。

 とっても凛々しいね?


 組んだ足から覗く肉球も、イイ感じに光ってるしね!


 当然。

 ラヴィッシュ君は頭を抱え込んだまま。

 げんなりした声を漏らす。


「うわぁ……勘弁して頂戴よ。敵対している神の降臨って事? それってめちゃくちゃ大事件じゃないの」

『たぶん……封印されていながらも、様子を眺めていたんだろうね。で。敗北した娘の事がきっかけで再臨しちゃったんだろう。まあクトゥルーを司る神は、私達にとっても敵。ついでにちゃんとこの世界も守ってあげるさ。不可能を可能にする、夢世界を乗っ取られても困るしね』


 まあ、落胤の姫クティーラを迎撃しなかったら、それはそれで復活していたんだろうし。

 そもそもこの世界で恐怖と狂気を集めるために、暴れていたんだし。

 結局は戦う事になっていただろう。


 つまり!

 私達のせいではない!


 どこで目覚めるのかは分からないし、どこに現れるのかは分からないが。

 とりあえず。

 事情を説明して王様たちとも連携を取るしかないか。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ホワイトハウル様が珍しくガチ怒りだっ! !Σ( ̄□ ̄;) [一言] 魔王様の願いはつまりコゲパンちゃんを人間として転生させるって事かな?(^-^) まぁ母親なのに何にもしなかった…。…
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