エピローグ:魔猫編 ~ハッピーエンド!~
用事を済ませ!
見事に地球を救った天才ニャンコな私――。
大魔帝ケトスは肉球ステップでトッテトッテトッテ!
ラストダンジョン、魔王城の温かい廊下を歩いていた。
いや、違うね。
魔王陛下のお膝を目指して、猛ダッシュだね!
各地への根回しが終わったので、魔王様が帰ってきているのである。
そんなわけで!
ラストダンジョンを駆ける肉球は加速していて。
「ケトスさまが荒ぶっておられる!」
「然り……!」
「急ぎ、対ケトス様用にゃんこ結界を! 早く……っ!」
幹部連中の防御結界の波動を感じながら。
駆けるモフ毛が風に靡く!
鼻の頭を輝かせ、紅き魔性の瞳をギンギラギンにした私は、ずびしっ!
『くははははは! 素敵な我が家! 魔王城到着である!』
次元を裂き。
魔力暴走した竜巻を起こしながらも無事帰宅!
なんとか私のお出迎え結界を展開した幹部連中が、急いで整列。
ボロボロになった、対最終にゃんこ用お出迎え装備を整えながら――。
すぅっと頭を下げる。
「お帰りなさいませ、大魔帝ケトス様」
「麗しの君」
「魔猫の王」
「我等、魔王軍幹部魔帝の集い、ここに揃っております」
古参幹部は私のお出迎えを無事完了した事で、ご満悦。
まあ、魔王様を求めて暴走気味に帰還する私を出迎えるには、レベルが結構必要だからね。
うん。
なんつーか、魔力砲を受け止めるようなもんだからね。
『にゃはははは、ご、ごめんねえ! 魔王様がお帰りになってるって聞いて、飛んで帰ってきたから。だ、大丈夫だった?』
ちゃんと部下を心配する私。
とっても上司だね?
幹部連中の中から、二人の側近が前に出る。
悪魔執事のサバスくんが、礼節を感じさせる仕草で頭を下げ――。
「ケトス様。我等が魔猫の君。お帰りをお待ちしておりました」
『ああ、サバス君にも苦労を掛けているね。いつもありがとう』
ねぎらいの言葉に、悪魔微笑で山羊の顔を輝かせる。
「こちらこそ、ありがとうございます。いつもあなた様には責任ある仕事をお任せしてしまい……恐縮しているのですよ。今回も魔王陛下、そして兄君の迷える魂の救出。誠にお疲れさまでした」
『魂の救出? まあ、そういう詩的な表現もできなくもないけど……』
あれって、ただの魔性の暴走だよね?
ネコ眉をうにゅっとさせる私に、サバス君の横の美女。
焔のドレスに身を包む、炎帝ジャハルくんが頬をぽりぽり。
燃えるネックレスを輝かせて、困った声で告げた。
「あー……ほら。異界の魔兄、レイヴァン神様はその……謎の存在により、操られて世界を危機に陥れていた! ってことに、なってるじゃないっすか? 公式な文書でもそう捏造……じゃない、えーと、改竄でもない、と、とにかく! 絶対に責任を追及しない風にしたじゃないっすか! ちゃんと話を合わせてくださいっすよ!?」
その頬に浮かんだジト汗が、炎の身体の熱で蒸発していく。
古参幹部連中も、ジト汗である。
『なーるほどねえ、魔王様。帰還した早々に、お兄さんの資料を魔性の暴走のせいじゃなくて、悲劇の冥界神の記録に書き換えたのか……。サバス、悪いけれど仕事を頼むよ。後で陛下が捏造した部分の資料を一応、私の部屋に転送しておくれ。いつかその情報が必要となる未来があるかもしれない、真実はどこかに残しておいた方がいいからね』
「畏まりました」
恭しく礼をする悪魔執事サバス君を見て。
私はそのまま、平伏する皆に視線をやる。
『大魔帝たる私の留守の間、魔王城を守ってくれてありがとう。とても感謝しているよ』
冷静で大人のネコ。
神父モードの声が自然と漏れていた。
『陛下を御守りするには君達の協力が必要だ。君達がいるからこそ、私はこの魔性の心をコントロールできているといっても過言ではない。本当に、頼りにしてばかりで悪いが、これからもよろしく頼むよ』
告げて私は、魔王軍を支える皆に頭を下げる。
モフ耳がぴょこんと揺れて、とってもかわいいね?
皆、かわいいニャンコに魅了されているわけだが。
ジャハル君だけは、私をじぃぃぃっと不思議そうな顔で見ていた。
結い上げた炎の髪を指先で整えながら、んー……っと睨んでいるのだ。
『どうかしたのかい?』
「いえ、すみません。まじめな所、悪いんすけど。最初、この魔王城で出逢った時のアンタとまったく違うっていうか、大人で冷静沈着なネコになったっていうか。まるで本物の魔王軍最高幹部みたいだなって……改めて思っちゃいまして」
私はムッとネコ髯を揺らす。
『それじゃあ最初の私が、魔王軍最高幹部っぽくなかったみたいじゃないか』
「いや、あんた……いきなりオレの目の前で暴走して。オーク神のオーキストをボッコボコにしましたよね?」
そういえば、そんなこともあったかもしれない。
幹部連中の中から、オーキストがヌッと巨体を前に出す。
「良いのだ、炎帝よ。当時のことはワタクシが悪かったのだからな。今はこうして、ケトス様と共にあの方を御守りできることを嬉しく思っている、まあ、あの時の恐怖は今でも覚えているがな。戦士として、あの偉大なる恐怖も良き経験であった」
意外にもワタクシ口調で、パパ魔帝なオーキストが、あの日の事件を良い思い出として語っている。
皆もそれがおかしいのだろう。
温かい笑みがこぼれていた。
私も変わったが、魔王軍も変わった。
そんな穏やかな空気の中で、ジャハル君が焔のドレスを揺らし言う。
「魔王陛下がお待ちしております。どうか、向かってあげてください。後でシャンパンとチーズをお届けしますので」
『ああ、ありがとう。それじゃあ悪いね君達、私は行くよ』
幹部モードの静かなる顔を鎮め。
ぶにゃ!
私は再び、全速力で廊下を駆けた!
◇
ぎゃぁぁぁぁああぁぁ! 全力で廊下を走らないでください……っ!
なんて幹部達の悲鳴を残し、私はウズウズうきうきで道を進む。
弾む肉球が、モッキュモッキュと魔力音を鳴らす。
思わず鼻歌も漏れてしまうのだ。
『私は~、最強ネコ魔帝~♪ 今日は一日、お休みで~♪』
まあ、ダンジョン領域日本はまだ続いているから、休暇が終わったら教師生活に戻るんですけどね!
だが、しかーし!
今日はじっくり、魔王様成分を補充できるのだ!
『魔王様♪ 魔王様♪』
大魔王ケトスも三毛猫魔王様の方に戻ったし!
ライカくんも、ペンギンさんの作る学食が食べたいと登校中!
つまり!
私の独占状態!
今まで我慢した分を解放!
いっぱいモフモフして貰うんだと、くはははははははは!
嗤う私の正面、背の高い男の影が覆う。
誰かが屈んで、こちらを見ていたのだ。
酒と煙草に灼けた声が響く。
「よぉ! 元気そうだな、ケトス」
『おや、お兄さんじゃないか。えーと、でも君は……第二世界の方のお兄さんか』
冥界に封印されていた、異界の冥界神。
大魔王ケトスによって滅ぼされた第二世界の死者を、翼の裏に抱えている方のお兄さん。
今回のラスボスだった魔兄だ。
「んな顔すんなよ。異界の俺様とイケてるワイルドな俺様、どっちだって同じようなもんだろ」
『いーや、違うね! あっちのお兄さんは私にグルメもくれるし、なんだかんだで、チョロいし。いつも色々と手伝ってくれるからね!』
日本に繋がるゲート研究の協力だったり。
オオウミガラスの魂を回収してきてくれたり。
最後の最後で魔性として暴走した件を除けば、基本的に人畜無害でお人好しのお兄さんだし。
そんな私と異界の自分の信頼に苦笑して。
蘇生された古き神……黒のレイヴァン神は眉を下げる。
「ま、過ごした時間が違うってヤツか。まあいい。あー、なんだ。一度しか言わねえからな」
きまりが悪そうな顔で。
けれど、私をまっすぐに見て今回の黒幕が言う。
「助かったわ、暴走していた俺様を止めてくれてな。なんつーか、アレだ。あんなに暴走しちまったのは初めてで、まさか自分でも世界を終わらせて、リセットしようだなんて思ってなかった、つーか……。まあ、なんだ。感謝してるって事だけは、伝えておこうと思ってな」
『おや、素直じゃないか。まあ感謝は受け取っておくよ』
言って私は肉球をクイクイ♪
「んだ、その手は」
『決まっているだろう? グルメだよ、グルメ!』
「ったく、異界の俺様が言っていた通りの駄猫だな。ほらよ、これで文句はねえだろう」
呆れた様子でレイヴァン神が差し出したのは、林檎だった。
魔力のこもった、とても力のある林檎である。
『これは、ああ、楽園の生命の樹に生えていたのかな』
「俺様が一人であそこにいた時にな。イナゴを送りまくっていた時に、まるで説教するように頭の上に落ちてきやがったから、取っておいたんだよ。たった一個のリンゴだが、これでも貴重な品だ。お前さんにやる。感謝しろよ?」
食べると不老不死になる伝説の林檎だろうが。
私、元から不老不死だしね。
だれかが間違って食べたら大変だし、まあ私が預かっておくことは悪くないだろう。
受け取った私は亜空間の保存箱にリンゴを奉納し。
ふと、モフ耳をピンとさせた。
『ねえ、君。なんでこのリンゴをあの戦い、決戦時に使わなかったのかい? 一応、あの時でも、無理やり食事ぐらいはできたんだろう? 供物としての属性を付与すれば、死者でも食べられるんだし。これを食べれば力ももっと出せたと思うんだけど』
お兄さんは大きな手で髪をガシガシと掻き。
「ああん? さあな、暴走していた時のことだし。よく分からねえな。食べたくなかったから、食べなかったんじゃねえか? 供物のフルーツって硬くて、あんまり美味しくねえからな」
その言葉はおそらくウソ。
嘘をついた理由は……ああ、そうか。
きっと。
この男は、世界リセットを迷っていたのだ。
心優しい神なのだ。
可能ならば、誰かに止めて欲しかった。
そんな心もどこかにあったのだろう。
しかし。
ウソを見抜く能力のある私は、あえて、その言葉を口にはしなかった。
『ま、何かに使えそうだからね。君が使わなかった分は、私がいつか有効利用してあげるよ』
告げる私に、魔兄は笑う。
「あいつを支えてやってくれ。ネコの弟には嫁さんがいて、しかも仲がいいときてる。けど、ここの魔王にはお前さんしかいないからな」
『そんな事はない。魔王様には私以外にも多くの仲間がいる。もう、寂しい思いをすることもないさ』
ホワイトハウルもロックウェル卿もいるしね。
魔王城には魔王様に拾われ、忠誠を誓っている部下も大勢いる。
昔とは違うのだ。
私の言葉と瞳の中に、自分の知らない平穏な歴史を垣間見たのか。
魔兄レイヴァンはゆったりと瞳を閉じる。
淑女すらもうっとりするほどの美麗な顔で、兄たる微笑を漏らしたのだ。
「そうか……なら、あいつはもう二度と、楽園を滅ぼした時に見せた全盛期の力は発揮しねえかもしれないな。あいつは絶念の魔性。おそらく、絶望を忘れれば忘れる程……幸せになればなるほど弱くなる。それが良い事なのか、悪い事なのか、俺には分からねえが――まあ、おまえさんがいりゃ大丈夫か」
……。
いや、戦いの終わったお兄さんが眠っている間に、ね。
実は全盛期の力を、ダブルで発揮しかけていたんですけど。
弱くなっても、それが幸せならば……みたいな。
イイ感じなセリフだけど。
本当につい最近だからね、絶念の魔性として暴れかけた大事件は。
まあ、シリアスでしんみりな話だから、あわせておくか。
空気が読める大魔帝。
これも私の成長だろう。
『ああ、必ず守りきるよ。約束する。だから安心してくれていい。これから少し、休むんだろう?』
「ちっ、なんでもお見通しかよ。本当にしばらくの間だけだ――さすがに暴れ過ぎたから眠るだけだっつーのに。実はもう、この城に寝室ができてやがるんだよ。もちろん、あいつの手配だ」
その目線の先には、大神殿が浮かんでいる。
……。
メチャクチャ豪華な施設である。
『うわ。なんだいこれ……、ファラオでも住んでるの?』
予算、どこから落としたんだろ。
魔王軍最高幹部としての私が、経費について苦笑する中。
魔兄は翼をバッサバッサとさせて、困った顔で言う。
「いやな! 断ったんだぞ、俺は!? 眠るならあの楽園の動物や、神話生物に囲まれてりゃいいだけなんだし。でも、もう二度と、兄さんを失いたくないって半分脅されてな。だから! この費用は、俺様のせいじゃねえからなっ!」
『分かっているよ、ああみえて強引な所も魔王様らしいね』
私は大神殿に目をやる。
魔王様が百年のお眠りについていたように。
異界のお兄さんもしばらく、眠りにつくのだ。
三毛猫陛下も、私の魔王様も。
きっと、そのお目覚めを待ち続けるだろう。
私があの方の目覚めを、ただ静かに……待ったように。
……。
いや、幹部連中が聞いていたら、静かじゃなかったですよね?
と、突っ込まれそうだが、気にしない。
「そっちの俺、元冥界神のレイヴァンにはよろしく伝えてある。ウチの弟どもは、頼りになるが……ああ、なんつーか。残念な所も多いだろう? だから、あいつを頼りな。この俺様の同一存在だ、頼りにしていいのは間違いねえよ」
『そうするよ、前から頼っているしね。本当に安心して眠るといい』
告げる私に、元冥界神は苦く笑う。
「おっと、そろそろ時間だな。俺は用意された部屋に戻る。ああ、そうだ。一応、伝えておくぞ。寝ているとはいえ俺様も、たまには意識が目覚めたりもするだろうからな――誰にも相談できないようなことがあったら、俺の上で眠るといい。愚痴や、相談ぐらいは聞いてやるよ……」
キシシシシと嗤うお兄さんの身体が透けていく。
タイムリミットだろう。
この身体も、眠るお兄さんが飛ばしてきた思念体だったようだ。
透けていく自らの手を眺め、男は微笑んだ。
本格的な眠りにつく前に、私に伝えたかったのだろう。
光の霧となって、去っていくお兄さんが最後に言った。
「本当に、ありがとう。すまなかったな――色々と」
『感謝は起きた時、またグルメで返してくれればいいだけさ』
チェシャ猫スマイルで言ってやる。
「ふふ、ふはははははは! ああ、おまえさんになら……あいつを任せて、俺も、ゆっくり眠れるな! せいぜい、振り回してやれよ! あいつがお前さんに振り回されて驚く顔は見ていて、おもしろかったからな!」
嗤い声を残し去っていったお兄さんの身体が、完全に消えてしまった。
意識が、眠るファラオ御殿の中に戻ったのだろう。
これで一つの事件は完全に終わった。
しばらく、平和になるだろう。
さて、私の魔王陛下も待っている筈だ!
今回はいっぱい頑張ったし!
今日はいっぱいモフモフして貰うのだ!
と、私は陽気なステップを踏み。
魔王様が大好きなぷにぷにな肉球で!
あたたかい廊下を走るのだった!
◇ゲームクリア◇
殺戮の魔猫:裏エピローグ ~魔猫編~(完結)
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「殺戮の魔猫 ~くはははは、知らんのか! チーズは空気に触れると鮮度がおちる~」
(裏ステージ)は、今回の更新にて完結となりました。
ケトス様の(裏)冒険散歩に長い間お付き合いいただき、
ありがとうございました。
現在、隠しステージ(毎日18時更新)が追加されております。
まだケトス様の散歩が見たい!
という方は、
引き続き――モフモフあにまる達の冒険散歩にお付き合いいただければ、幸いです。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
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