さいごのたたかい! その3
生命の樹を背景に、楽園に舞う敵を迎え撃つのはこの私。
大魔帝ケトス。
現在、神父モードで戦闘中!
今の目的は、魔王様のためにもダブルレイヴァンお兄さんを蘇生させる事!
冥界神としての力を一時的に奪う意味でも好都合。
そのために私は容赦なく、彼らに向かい蘇生の魔の手を伸ばしていた!
……。
いや、蘇生の魔の手って意味不明な言葉だけど。
事実だから仕方がない。
『さあ君達、おとなしく再誕したまえ! 魔兄レイヴァンお兄さんセットを、お目覚めになった魔王陛下にお出しする、それが今の私の使命なのさ!』
告げる私の言葉が戒めの呪怨となって放出!
楽園の象徴ともいえる生命の大樹が、ざぁぁぁぁぁぁあっと揺れる。
白の冥界神こと、私もよく知るレイヴァンお兄さんが叫ぶ。
「耳を塞げ! 話術スキルだ!」
『無駄だよ。終わりにしよう、お兄さん。神話再現、アダムスヴェイン――! 光導く女神、汝の名はアメノウズメ。我はケトス、大魔帝ケトス! 大いなる導きよ、君の原初神の力を貸しておくれ』
翳す私の腕の先から招来されるのは、新たな神話再現。
《鎮魂舞踊:光求める獣大宴会》を発動――!
既に金糸雀の朝焼けで満ちる空。
その黄金のオレンジ色に、更なる陽ざしが上乗せされていく。
大いなる導き、その原初の力を借りた神の奇跡を発動させたのである。
アダムスヴェインの奇跡ヴァージョン。
むろん、私のオリジナル技術だったりする。
ついつい自慢したくなってしまうが、今はシリアス。
我慢できる私、とっても大人だね?
魔術効果は時間加速。
朝にしてしまえばこちらの勝ち!
時属性の魔術を同時に操りながらも、私のアダムスヴェインは機能を開始する。
七福神の格好をした影猫が、私の影からズボっと顕現!
生命の樹の天辺に登り、踊り出す!
その中央には麒麟に扮したキリンさんが、ドヤ顔で舞踊を披露。
このキリンさんは畏怖の魔性の力を借りた、あのキリンさんの分身端末である。
麒麟は神聖な存在。
神聖な存在である大いなる導きとも相性が抜群!
キリンさんが、ほれほれ!
舞う度に太陽が楽園に頭を出し、かわいいアニマルショーを見ようと時間加速。
夜を殺しにかかる。
「七柱の土着神に、動物神! それにこれは……っ、大いなる導きの原初の力か!」
「俺は知らねえがっ、夜や闇を殺す神話の再現だろうな。こいつ、一体どこからそんな神話の知識を……っ」
夜を殺す。
つまり――朝になっちゃえばお兄さん達、自動的に蘇生されるからね。
「まずは時間加速をしているあの麒麟を! 麒麟を……って! はぁぁあぁぁぁぁぁ! ふざけんなよ! 麒麟じゃなくて、動物のキリンじゃねえか!」
白のお兄さんが、ぐぬぬぬっと奥歯を噛み締める。
そう。
生命の樹で時間加速をさせるコスプレにゃんこ達は、かわいいモフモフ。
そして麒麟さんの正体は、ムシャムシャ樹を食む、あのキリンさん!
神の遣いである麒麟は攻撃できても、キリンさんはかわいい動物!
お兄さん達は攻撃できない!
「人間モードのケトスめ……っ、アダムスヴェインを完全に使いこなしてやがるな」
「それにギャグにみせかけて攻撃がえげつねえ……っ、たく、ウチの弟はなんつー極悪野郎を育てちまったんだよ!」
文句を吐きながらも、お兄さん二人は鑑定の魔眼を発動。
黒き翼をバサリとさせながら、赤い瞳が輝きだす。
鑑定を受けながらも、私はひるむことなく聖書と魔導書を開き続ける。
『おや、鑑定かい? 今更だと思うけれど、そうだね。形態変化が行われたボスの再チェックは重要だ。悪くない判断だよ――けれど、もう手遅れさ!』
ビシっと指差す私の手から、蘇生の波動が襲いかかる!
キリンさんが蘇生の波動を強化するように、偶蹄類の歯茎を覗かせ。
ンモォォォオオオ!
キリンさんによる麒麟神の加護を受けた私の蘇生魔術が、オーロラのように空に広がる。
キリン神は長年信仰されていた神。
冥界神の二柱にとっては異教の異神――その力は未知の情報となって、行動に制限が与えられる。
オーロラ状の蘇生の波動が、神雷となって冥界神に放射された!
知らないモノ。
知らない攻撃に対しては、どうしてもタイムラグが発生する。
並の存在ならこれで蘇生できるのだが、はたして。
「くるぞ……白い俺、避けやがれ!」
「ちぃ……っ!」
二柱は蘇生攻撃をギリギリで回避。
蘇生を拒み逃げる、なんとも珍しい光景だろう。
その間にも二人は私の鑑定を進め、弱点を探っているようだ。
空間転移を繰り返し反撃の隙を狙う黒の冥界神こと、ワイルドお兄さんが叫ぶ。
「がぁあああああぁぁぁぁぁ! こいつ! 幸運値をデバフで下げたのに、ぜんぜん強いままじゃねえか! どうなってやがるんだよ!」
「おそらくニンゲンへと形態を切り替えた事で、デバフを解除しやがったな……っ」
二人して牙を覗かせ、ぐぬぬぬぬ!
あー、ラスボスがモードチェンジすると、掛けていたデバフが解けるってこと。
よくあるよね。
しかし今回は違う。
幸運値はちゃんと下がっているのだ。
ただ下がった所で豪運は豪運。
学校のプールいっぱいに溜まっている水から、コップ一杯だけ水を抜いたところで、無意味。
ほとんど変化がない。
そんな状態なのである。
それもデバフは時間が経てば解けていく。
大魔王ケトス戦でもそうだったように、既に解除されつつあるのだ。
ま、勘違いしてくれてるならそれでもいいんだけどね。
そんなわけで!
私は新たなアダムスヴェインを詠唱開始!
その逸話はライカ犬のもの。
宇宙開拓の始祖とも言える、哀れなワンコの逸話魔導書をバササササ!
今の彼女を記す逸話魔導書のタイトルは……。
『《ワンちゅ~ぬって、素晴らしい!》。……って、なんだいこのタイトルは。あー、ライカくん……。魔王城でめちゃくちゃ甘やかされて、モフモフわんこライフを送ってるからなあ』
逸話書を確認する私の目が、ジト目になる。
そういや魔王様、毎日液状オヤツをあげまくってたな。
古参幹部連中も、フォックスエイルの店で購入してプレゼントしてるみたいだし。
別に嫉妬はしていない。
していないが。
後で古参幹部連中の前で、ごろんと転がってオヤツを貰ってこよう。
うん。
ともあれ、その望郷の魔性の力は健在!
正義扇動の力を強化した、一種の洗脳波動が周囲にこだまする。
『降伏したまえ! 君達はただ復活するだけ! なーんも痛い事なんてないのだからね!』
私の勧誘電波に呼応するように、ペンギンさんとカナリアさんが――ビシ!
翼を合わせた拍手喝采で、パチパチパチ!
蘇生を受けよう!
と、ガアァァァガァァァ、ピピピピピピ♪
『その通りだね、皆。さあ、お兄さんに生命の賛歌を送ろうじゃないか』
教育番組のわざとらしい演技よろしく。
私とアニマル達は冥界神に向かい、蘇生を受けようと電波を送信!
ギャグみたいな見た目だが、効果はなかなかにえげつないんだよね、これ。
くわんくわんと怪音波を受けた二人の身体が、グギギギギっと痙攣する。
ワイルド裏お兄さんが、再生させた腕で口元を押さえ。
うっぷと気持ち悪そうに肩を揺らす。
「精神感応系の魔術? いや、洗脳攻撃か……っ!?」
『魔王様は君達の再誕をきっとお望みになっている。あの方はずっと君達の死について悩んでいた。本当にずっと……私はね。その心を癒して差し上げたいんだ。たとえそれが、絶念の魔性としてのあの方の力を、完全に断つことになってしまっても』
ゆったりと瞳を閉じて、穏やかに私は語り掛ける。
お兄さんがぐっと奥歯を噛み締める。
『あの方の苦悩が一つ、消える。それはとても良い事だ。お兄さんも復活すれば、ちゃんとグルメを味わえるようになるんだろう? 兄弟そろって、共に食卓を囲む。そんな当たり前の幸せすら、魔王様には残されていなかった。けれど、これからは違う。私はね――あの方の魔猫。魔王陛下と魔兄レイヴァン神、君達兄弟の幸せのためにも今、行動している』
言葉が光となって闇を包む。
朝焼けが、世界を覆う。
死んだ魔兄を現世へと引き上げようと、光で満たしていく。
「くそ……っ、電波をレジストできねえっ」
『だから、すまないね――私は手段を選ぶつもりはないよ。君達に付与された、徐々に蘇生状態にも気付いているんだろう? タイムリミットは間近だ。諦めるんだね』
もう、夜は終わる。
楽園で起こった悲劇に、一つの結末が刻まれるのだ。
それは希望であって欲しい。
明るい未来であって欲しい、私はそう願っていた。
その心を、そのまま私は口にする。
『皆が平和で、幸せでありますように――』
きっと世界には心地良い私の声が響いているだろう。
ま、洗脳電波なんですけどね。
これは扇動の能力の一つ、宣教師魔竜も用いていた話術だ。
このままだと空気に呑まれる、そう悟ったのだろう。
すかさず白の冥界神――。
なにかと器用に立ち回る表お兄さんが、冥界神の竪琴を顕現!
「洗脳電波を一時的に音色でかき消す、黒い俺! もうこうなったらこっちも本気だ! さっさと勝負を仕掛けるぞ!」
「おいおい。本気って……なにさせるつもりなんだよ」
だんだんと立場が逆転してきたのか、私のよく知るお兄さんがビッシリと額に青筋を浮かべ。
ガルルルルル!
クワっと犬牙の奥まで覗かせ、叫ぶ。
「冥界神の権能、即死の力を解放するんだよ。もうこのモフモフに容赦はしねえ! たまには年長者の威厳ってもんをみせてやらねえとな!」
「お、おう……。ま、まあ権能を使うのは賛成だが……なんだそりゃ。おまえさん、いままでどんだけこの神父猫野郎にバカにされてきたんだ」
残念な同一存在に苦笑を零す、黒いお兄さんの言葉。
渾身のジト目である。
だがそこに――羨望にも似た、温かみが滲んでいたことを私は見逃さなかった。
きっと、もう滅んだ第二世界を抱いたままのお兄さんの氷も解けている。
けれど、勝負は勝負。
私はこの戦いに決着をつける!
裏ボスお兄さんが、肌に浮かべた血の紋様を輝かせ。
瞳を赤く染め上げる。
「まあいい。せっかくここまで暴れたんだ! 最後まで悪あがきはしてやるよ! 悪いな、ラスボス神父! ここからは即死攻撃を解放する、せいぜい死なないように頑張るこったな!」
上空に飛んだお兄さんの魔術が発動。
せっかく明けかけていた空が、曇り始める。
大空一面に、冥界神の紋章が刻まれたのだ。
冥界神としての、凛とした覇者の声が戦場に響いた。
「認めよう、おまえこそがラスボスだ。だが――これで終わりだ! ゲヘナの海に沈んで溺れよ、大魔帝!」
掲げていた腕も血の紋様を刻み、大きく筋張った手の上で赤い玉となる。
それは上空で弾け、力となって解き放たれた。
血の雨となって降ってきたのは、紅い蛇となった死者の魔力だ。
構わず私は結界内で待機。
雨音に似た即死効果のエフェクトが、光結界に弾かれていく中。
白の冥界神、私もよく知るお兄さんがニヤリ!
「ひっかかったな、ケトスよ! 権能解放――《子羊たちの悪食》! そのまま即死の海で、溺れやがれ!」
冥界神の奏でる竪琴の音色に誘われ。
ふわふわモコモコな黒羊が顕現し、メェェェェェェ。
ムッシャムッシャと私の結界を喰らい尽くしていく。
コンビの攻撃はなかなかに見事。
しかし!
むろん、私は初めて見る技に興味津々。
鑑定の魔眼を発動させている。
『これは、悪食の魔性の力と音楽神の力による弦楽器スキル、そして冥界神の権能の合成能力か。効果は強制魔術解除、私の結界を破るつもりだね』
「って、バカ! 避けねえと本当に即死するぞ!」
さすがお兄さん。
自分で結界を破っておいて、こっちの心配をしてるでやんの。
本当は私が結界を放棄し、逃げると予想していたのだろう。
しかし。
構わず私はそのまま待機。
血の雨を浴びながら、トドメとなる魔導書を顕現させる。
血の滴りを受けながらも、平然としている私に驚愕したのか。
ぎょっ。
ダブルお兄さんが、ダブルで狼狽した様子をみせる。
「なっ……! てめえ、どういうことだ!」
『どういうって。君達も理解が遅いねえ。だーかーらー、私は君達を蘇生させて魔王様ポイントを稼ごうと……だね』
魔王様第一主義。
そこだけは絶対に変わらないのだが。
「違う! なぜ即死攻撃を喰らって死んでねえ、いや、なぜ、死の海にいるのに生き続けていやがる!」
『いまさら、何を言っているんだい? って、ああそうか。君は異界のレイヴァン神。私の基本スペックを知らないのか。いいよ、せっかくだから説明してあげよう。私はね、この世界に生を受けた時に一つの特権を授かっているのさ。死なない体、ようするに不死なんだよ』
そう!
あまりにも強いので普段はまったく役に立ってないけど!
私、一応、不老不死能力者なんだよね。
血の海の中。
常に死亡状態を付与するダメージを我慢し、こっそりと詠唱。
そのまま逸話魔導書に魔力を送る私も、精悍なわけだが。
きっと、今頃。
にゃんスマホを通じて、このラストバトルを中継モニターで見ている者達――ダンジョン領域日本のプレイヤーはこう思っているだろう。
こんなラスボスどうやって倒すねん――と。
まあ死なない私をなんとかして倒したところで、リポップするんですけどね。
たぶん一定期限内に千回以上は倒さないと、今の私は消滅しない。
つまり。
どうあっても負けるつもりなど、ないのである。
本当にこれで終わり。
最後の魔術を私は解き放つ。
『これで終わり。チェックメイトだよ――今だ!』
手にする書のタイトルには――こう書かれている。
《懺悔の書、我が子らへの贖罪を》。
と。
呼びかけにより召喚されたのは――タワシボディの齧歯類。
カピバラさんの群れだった。
シュラング=シュインク神の世界と接続し、大量のカピバラさんをついでに召喚!
そのリーダーは皆さんご存知の、聖父クリストフ。
カピバラモードで顕現である。
ぼわぼわタワシボディをふふんと輝かせ。
ドヤ!
ハート型の肉球を、ビシっとさせた父が唸る!
『ガーハハッハハハ! せっかく蘇らせてくれると言うておるのだ! ボヤボヤしてないで、とっとと蘇生されてこんか、我が息子よ!』
そう。
実のお父さんである。
ダブル冥界神は完全に虚を衝かれたようで、狼狽しまくりである。
「はぁああああああああああぁぁぁ!? てめえ、まさか、親父か!?」
「いまさら、なにしにきやがった!」
『当然であろうっ、父の顔を忘れたとは言わさんぞ!』
いや、顔はカピバラさんだし。
「は? てめえ、ふざけんなよ!」
「忘れてたわ。ああ、そうだ。そうだよな! 世界をリセットする前に、てめえの顔をぶん殴ってやんねえと気が済まねえ!」
そりゃカピバラの顔で偉そうに言われたら、怒るよね。
案の定――ダブルお兄さんが、カピバラさんの登場で完全挑発状態となる。
そのまま悪食の魔性としての力をフル発動。
六対の翼の先に赤い魔力を漲らせ、なりふり構わずに空を飛翔する!
完全に思うつぼである。
周囲には蘇生の罠が無数に存在するのに、綺麗さっぱり忘れている。
カピバラさんが、そんな息子を眺めて。
ニィ!
齧歯類の歯を覗かせ、ゲハゲハゲハと嗤いだす。
「グワーハッハッハ! 詫びは後でたっぷりとしてやるわ。だから、今は大人しく負けを認めるのだな! この聖父クリストフ、逃げも隠れもせん! キサマが蘇った後で、ちゃんと怒られてやるわ!」
ひとしきり邪悪に嗤い。
その直後。
「だから、お願いだ……我が子らよ。どうか、ケトスくんが伸ばした救いの肉球を受け入れておくれ」
その口から、本音の悲痛が漏れる。
……。
まあ、遠い目をしてシリアスな言葉を送っても、顔はカピバラさんなんですけどね。
ともあれ。
これで終わり!
死なせてしまった息子に、蘇って欲しい。
それは純粋な願い。
父の本音は、彼らの心を貫いていたのだろう。
彼らの時は、止まっていた。
これが私の残していた奥の手。
最後にして最大の切り札。
トドメの一撃だ。
今まで散々にクレバーに立ち回っていた表お兄さんも。
三千世界を吸った力で暴れていた裏ボスお兄さんも、同時にハッと息を呑んで。
けっこう間抜けな顔をして、ワイルドな顔を崩し叫ぶ。
「しまったぁぁぁぁあぁぁぁ、クソ親父に気を取られて……っ」
「だぁあああああああぁぁぁ! どうすんだよ! おい! もう避けられねえぞ!」
戦いの終わりを示すように、楽園に光が満ちていく。
悪夢の終わり。
長い夜が明けるのだ。
『さあ、蘇り給え冥界神よ――君達の冒険も、ひとまずはここで終了だ!』
ラスボスこと私の放つ最後の一撃。
蘇生の波動が直撃した!




