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大ピンチ? ~魔猫の弱点~


 これ、ヤバイやつだ。


 魔王軍の幹部として、かつての私は何度も死を迎えた。

 魔王様を殺そうとする勇者を噛み殺す。

 ただそのためだけに、何度も死に、リポップし、喰らいついた。

 あの時の死。

 その感覚が脳を過っているのである。


 ダメージ。

 久々に味わう感覚。

 死を意識させる刺激が猫ヒゲをうねらせ、私の身は竜の吐息の直撃に飛んだ。


 ズゥゥゥン!


 空が見えた。

 所詮私は猫魔獣。

 普段は憎悪の魔力で無敵であるが、それが解けてしまえば……。

 肉体的なダメージには弱い。


「ケトスさまあああぁぁぁああああああ!」


 遠くで。

 メイド長女メンティスの声がした。

 伸びるその腕が吹き飛ばされた私の身体を受け止め、衝撃を堪えようと大地に突き刺す白銀の剣が摩擦熱で紅く燃えていく。


 すかさず前に出た賢者と皇帝ピサロが。


「「風よ、母なるその息吹にて我らを守りたまえ!」」


 グィィン!

 完璧にシンクロさせた詠唱で、風の結界を張り巡らせる。


 視界の中に。

 今にも泣きそうな顔の女騎士が映る。


 心優しい人間。

 メンティスか。

 どうやら無事のようである。


 私は白百合騎士の腕の中で。

 痛みをこらえるように猫の額に手を当て、唸る。


『あたたたた、まさかあいつ……っ、こんな卑怯な手を使ってくるとは。油断していたよ』


 私が声を出せることに安堵したのか、周囲はわずかに息を漏らす。

 まあ本来は敵対関係にある魔族だとしても、助けられておいて心を痛めない狭量な人間はいなかったのだろう。


 魔竜は今の攻撃を連発はできないのか、僅かに身を下げ力を溜め始めている。

 まずい。

 もう一発、やる気だ。

 私は、腕の中でキッと目に力を込める。


「わたし達を守るために……っ、無理をなさらないでください。いま、傷の治療を」


 私の身体を探るメンティスの手が、止まる。

 猫毛をさわさわ、しっぽの先まで確認し。

 その目がきょとんと点になる。


「って……あれ、ケトス様。全然平気じゃないですか」


 反面。

 私はキリリと本気の顔を作っていた。

 渋く、苦々しさを噛み締めながら。

 私は唸った。


『そんなことないさ。この世界の基準でなんていうのかは知らないけど。今、大魔帝たるこの私が……、1ポイントもダメージを受けたんだからね……これは、天地がくつがえるぐらいの大事件だよ』


 そう。

 最近、私の防御を貫通してくるほどの相手と対峙していなかったので、ちょっぴり驚いてしまったのである。


「え、えーと。1というのは、あの1ですよね?」

『そうさ、この私に1もダメージを与えるなんて、強敵だよ……彼は』


 ここは――。

 シリアスをするしかない。


「ちなみに……ケトス様、生命力はどれくらい……あるのですか。ほ、ほら。最大値が20とかでしたらさすがにちょっと危ないかなあ、という気もしますけれど」

『さあ。正確には分からないけれど……この世界に憎悪の魔力がある限りは無限に近い筈だ』


 皇帝が口を三角にして、はぁ!? と振り返り、賢者が呆れた様子で私をちらり。

 魔竜も、はぁぁぁぁっ!?

 と、大口を開けていた。


 これは油断を誘う罠か。

 こちらは瞬時に万単位で自動回復するとはいえ、相手は1もダメージを与えてくる存在だ。

 もはや遊んだりなどしない。

 痛いのは猫的に嫌いなのである。


 仕方あるまい。


『油断せず、全力で立ち向かうしかないね』


 言って。


 肉球で空を駆けた私は、十重の魔法陣を空一面に展開する。

 呆然としながらこちらを目にしている魔竜を睨み、キシャアアアアアと警戒の唸りを上げる。


 そんな私の猫耳を犬の声が揺らす。


『ま、待てケトス! 我の話を聞け! あー、もう、これだから獣ベースの大物は!』


 すかさずこちらに跳んできた白銀の魔狼、神獣であり聖獣ホワイトハウルが防御の唸りを上げた。


『だから我は恐れていたのだ……そこの人間たち! 敵も味方も、いまは問わん! 死にたくなかったら我の傍に寄れ! こやつの本気は世界を壊しかねんほどの、マジ超、ヤバイやつなのだからな!?』


 元大魔帝ホワイトハウルの獣属性の防御結界は人間たちを完璧に包み込む。

 なんか、人を暴走野郎みたいな扱いにしているけどさ。

 こっちとしては、おまえがいうなと言ってやりたい。


『大丈夫さ、今の私は人間の常識を覚えたんだ。本気の手加減ってものをみせてあげるよ!』


 ザアアアアアアァァァアアアアアア!


 生み出した闇の瘴気の中に姿を潜ませる。

 本来、猫は姿を隠し獲物を狩る生き物なのだ。


 魔竜が闇を睨んで。


「小癪な、クソ猫がぁあああああ!」


 魔力閃光の唸りを上げた。

 直線状の魔力の一閃が闇を切り裂く――が。


『あー、無駄無駄。その程度の魔力じゃあ私の闇は払えないよ』

「卑怯者がぁぁぁ! 姿を現せ!」


 叫ぶ魔竜が強靭な爪で闇を裂く。

 しかし、やはり闇は払えない。


『ぷぷー! なんだいそのヘナチョコ引っかきは、ネイルアートでもしたいのかな?』

「な、な、ななにをぉ!」


 挑発は魔術効果となって魔竜の動きを制限する。

 これも精神デバフ(状態異常)の一種である。

 これでとりあえずターゲットはこちらに強制固定されただろう。

 魔竜は人間を襲うよりも先に、私を殺すまで襲うことを優先するようになったのだ。


 さて。

 蠢く闇の中で。

 姿を隠したまま私は手を翳した。


『我はケトス! 憎悪を力とする怨嗟の魔性、大魔帝ケトス也!』


 名乗りを詠唱とし、魔杖を振るう。


 十重の魔法陣から生み出す予定なのは幻影の召喚獣。

 魔猫が得意なのは誘惑、幻影、そして隠れてからの卑怯な攻撃。

 そう。

 姿を隠したまま、こそこそと、こちらは一切のダメージを喰らわずに。召喚獣やら遠隔攻撃やらで、ちまちま攻めるのが本来の戦い方なのである。

 普段は大魔帝という位を預かっているから、あまりこういうせせこましい戦い方はしないが、今回は特例だ。


 なにしろ相手は1もダメージを与えてくる強敵。

 侮っていては何が起こるか分からない。


 魔杖を宙に浮かせ。


『来たれ、我が眷族!』


 肉球で肉球をパンと叩き。

 十重の魔法陣に膨大な魔術理論を構築させていく。


 現れたのは。

 巨大な猫のコックさん。


 ぶにゃああああああぁぁぁん!


 幻影の猫の嘶きが女神の双丘に響き渡る。

 猫コックが手にするのは超硬化石アダマンタイトすらも切り裂く、牛刀。


「な、なんだこのおびただしい魔力の幻影は!?」


 魔竜はその猫コックに恐れ慄き、戸惑い暴れるが。

 そのターゲットは闇の中に潜む私に固定されているため、逃げる事すら叶わない。


 ジャキン! ジャキン!

 意味もなく闇を切り裂き続けている。


「ええーい、なぜだ! なぜオレ様は逃げられん!」


 一切のダメージをカットする闇の中。

 安全安心な瘴気の中でキシャア、キシャア! と私は唸り。

 怒髪天なネコ逆毛で、ビシっと猫コックに命令する。


『やっちゃうニャ! 生意気にも私にダメージを与えたそいつを、美味しく料理するんだにゃ!』


 魔猫としての本能が強く出てしまうせいか。

 ついつい口調が猫語になってしまうのは、まあ勘弁してほしい。

 最近、ちゃんとニャニャニャ言葉にならないようになっていたんだけどなあ。

 私の命に従い。

 猫コックが、ぶにゃあああっと細い目を開いて敵を見る。


「ちょ、こんな! 卑怯だぞ! 正々堂々と戦わんか!」

『そっちが先に卑怯な手を使ったんだろ、バーカバーカ! ドラゴンのバーカ! 滅べ、滅べ! とーっとと滅べ!』


 再び、挑発は魔術効果となって魔竜の動きを戒める。

 真面目な話。

 こうして闇の瘴気の中で挑発をし続けていれば、どうあっても負けないのである。

 そして既に召喚獣は顕現している。


 この勝負。


『どう足掻いても、私の勝ちだね。君が人間を先に狙うなんて手を使わなかったら、見逃してあげても良かったんだけど。まあ、仕方ないよね』


 言って。

 私は肉球を鳴らす。


 猫コックが頷き。

 じゅるりと舌なめずり。

 きっと、どう料理するのか考えているのだろう。


「やめろ……やだ、もう、ドラゴンステーキは、いやだああああああああ!」


 まあちょっとかわいそうだが。

 コレのせいで、無関係な人間が不幸になったのだ。

 自業自得である。


 ぶにゃん♪

 猫コックは解体の角度を決めたのだろう。


 シュピィィィイイイイイィィィィイイイン、ズダン!


 その牛刀が。

 魔竜の首を撥ね飛ばした。



『にゃーはっはっは! これぞ魔猫の華麗なる戦い!』


 腕を組んで勝利宣言。

 闇の瘴気を解除し、ふよふよと、ホワイトハウルと人間たちのもとに戻ると。

 なぜだろうか。

 人間たちが、うわぁ……という目でこちらを見ている。


『せっかく勝ったのに、君たち、どうしたんだい?』


 首をきょとんと傾ける私に。

 自らの額に犬肉球を押し当てながら魔狼が言った。


『そりゃおまえ、こやつらは人間だぞ。将来的にきさまと敵対する可能性はゼロではないのだ。このような反則戦術を見せつけられては、色々と……なあ?』


 なるほど。

 私のこうどなせんじゅつに、恐れ慄いたのか。

 猫口がついつい、喜びにほころぶ。


 にひぃ! これぞ大魔帝の貫禄か!


『まあ私と敵対しない道を選んだ皇帝さんに感謝するんだね』


 言って。

 私は召喚した猫コックの調理を、戦いの終わった女神の双丘で見守るのであった。

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