説得(攻城戦) ~第三世界とギャグ属性~
大魔帝ケトスこと最強のネコ魔獣が、玉座型のクッションに埋まり。
くはははははははは!
唐揚げうまし! 唐揚げうまし!
と、闇のキャットハウスに封印される中。
魔王様が入り込んだのは、かつての故郷。
滅んだ楽園。
魔王陛下と三毛猫魔王様の合成魔術で荒野となった地が、再び再生している。
神話再現魔術――。
アダムスヴェインにより生み出された神話の傑物達も、同じく再生されようとしていた。
リポップしているのだ。
魔王陛下が興味深いといった声音で、再生する神々に目をやった。
私の魔王陛下が、唇を動かす。
「この邪魔者たちは――楽園フィールドが在り続ける限り、再生し続けるって事かな」
「すぐに兄さんを起こし、説得したいのだが――厄介だね。この神話の怪物達はおそらく第一の世界、魔術の無かった頃の世界で神話として語られた存在。神や悪魔をアダムスヴェインで再現したモノだ」
三毛猫魔王様の言葉を聞き。
キィィィン。
鑑定の魔眼を発動する私の魔王陛下が、言葉を繋げる。
「かつて存在した第一の世界。ネコに転生する前のケトスが暮らしていた、魔術の無かった時代の地球の神話か。第二の世界、大魔王ケトスが滅ぼしたキミの世界。そして今の世界、ワタシの大魔帝ケトスが存在するこの第三の世界にも、存在しない神々。文字通り、ワタシたちよりも古い神々って事になるのかもしれないね」
三毛猫魔王様も、鑑定の魔眼を発動。
「原初神と呼ばれる神々、僕たちが利用する原初の力の源が彼らなのだろう。もっとも、ここにいるのはあくまでもアダムスヴェインで再現されたコピーだろうが……」
狂った女神リールラケーがリリスの力を原初としていたように。
シュラング=シュインク神がロキの力を原初としていたように。
そして。
レイヴァンお兄さんが、終末黙示録で語られるアバドーンことアバドンや、太陽神アポロンの堕ちた姿アポリュオーンの原初を力としたように。
楽園の住人は、第一世界で語られた神の力を受け継いで生まれていた。
そういうことだろうか。
魔王陛下の誕生でそこに魔術が発生し、その原初も力を持つこととなり……。
……。
大魔帝こと私は、唐揚げのおいしい脂のついた肉球をぺろぺろしながら考える。
つまり、今の第三世界。
正確に言うのなら、大魔王ケトスの手により”第二世界の欠片と融合した第三世界”には、リリスやロキといった神々は存在しない。
アダムスヴェインにより力を引き出す事は可能でも、その本体は既に観測不能。
どこを探しても会う事ができないと思っていいのだろう。
正確ではないが便宜上――古き神々と呼ばれる楽園の住人は、第一世界の神の転生体と考えることができる。
もちろん、あくまでも魔術的な意味でだが。
人々の心や書物の中でだけ伝承され、実在せずとも人々に畏れ敬われた彼ら。
いや、実在したのかもしれないが常人には見る事の出来なかった神々。
その逸話に弱点を見出せば――或いは。
……。
アバドンって最後、どうなったの?
あれ、たしか……。
かつて地球にいた頃。
転生する前に、おそらく神父教師として教鞭をとっていただろう記憶を、ウニュウニュっと引っ張り出す。
深くは語られてないんじゃないかな……黙示録に。
じゃあアポロンの方はというと。
うにゅうにゅっと記憶の渦を辿って私は、耳と眉を下げる。
たしか、そっちも死とか最後は語られてないんじゃないかな……。
……。
弱点、見つからないね。
にゃぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ!
せっかく楽園の秘密に辿り着いたのに、いやあくまでも仮説だけどさ!
まったく、意味無いじゃぁぁぁぁぁあああぁぁっぁん!
ともあれ!
私が打開策を考えている間にも、楽園での動きは進んでいる。
神話として語られ伝承された敵達も、その姿を原初へと戻していた。
ぬいぐるみモードではなく、禍々しくも神々しい神の姿をとっているのである。
一度、ダブル魔王様に吹き飛ばされたので本気をだしているのだろう。
神話の怪物達で埋まる楽園の空。
眠ったままのレイヴァンお兄さん。
そして――。
全身を神器で固めた、皇帝風の魔王陛下。
三毛猫魔王様もご一緒だ。
我が主人。
麗しの君が魔を統べる王としての貫禄をオーラとして纏い。
朗々と――黄昏の空に向かい、宣言した。
「聞け! 再生怪人どもよ! 兄さんとの再会を邪魔するならば、容赦はしない! 再び滅ぼされたくないのなら、道を開けよ! ワタシはあの強化兄さんを研究し、量産計画を完璧にすると心に誓ったのだからね!」
うわ、魔王様。
再生怪人って言っちゃったよ。
しかも、微妙にまだ、あの情けない計画を諦めてないし。
七つの燭台状の杖。
メノラーを周囲に飛ばし、楽園の傑物達に向かって魔術放射。
続けて!
三毛猫魔王陛下も、魔王様の肩に掴まり――肉球をビシ!
「アダムスヴェインより生まれし原初神の模造品よ。あるべき世界へと帰るといい。汝等の世界は既にここにはない、大人しく滅びたまえ」
おお、三毛猫魔王様の方が、なんかそれっぽいぞ!
楽園に――。
凛とした、渋い大人ネコの声が響く。
「待っていておくれ、兄さん。いま――僕が迎えに行くよ」
「待っていておくれ、兄さん。いま――ワタシが研究してあげるからね」
うちの魔王陛下の声も、一応続く。
というか、たぶん……うちの魔王陛下にはあの最強属性。
ギャグ属性が付与されてるんだろうな、これ。
逆に三毛猫魔王陛下にはギャグ属性は付与されていない……。
まさかそれが第二世界と第三世界の差、なんてことはないだろうな。
なにはともあれ。
再生した神話生物と、魔王陛下コンビの戦いが再開された。
◇
相手はかつて神と呼ばれていたモノのコピー。
アダムスヴェインで再現された召喚獣に過ぎないにしても、その力は女神リールラケー程度にはある。
いわゆる、リールラケー基準である。
それが楽園の空で大群を作っているのだ。
本来ならそれなりに苦戦する筈なのだが。
魔王様はそれはそれは爽快な顔で、絶念の魔性だったことなど忘れたように大騒ぎ。
楽園に向かい、何かを散布。
そのまま手を翳し、赤い稲妻を這わせながら大地を揺るがす。
「神話改竄――アダムスヴェイン!」
楽園の土に大量の魔力薬品の粉と、陛下自身の血と魔力を注ぎ。
魂無き土人形を作成。
精度の高い操り人形、壊れても問題のない無数のゴーレム達が顕現する。
見た目は――遮光器土偶に似ているだろうか。
三毛猫魔王様が、うにゃっと上顎を覗かせる程に口を開く。
「これほどの量のゴーレムを一斉に召喚? 異界の僕は、僕も知らない魔導技術を持っているのか」
「最近のワタシはケトスと日夜、魔術について語り合っているからね。あの子は魔王軍最高幹部であり、魔術の頂点を極めし魔猫。智謀の王にして、知識の探求者。我が愛猫、大魔帝ケトスとの語らいはそれだけで魔術の修行となる――ワタシの技術も向上しているということさ」
うわ、魔王様。
異界の自分相手にものすっごいドヤ顔である。
三毛猫陛下も、若干、ぐぬぬぬっと悔しそうにしているが。
ともあれ、これには敵も怯みだしている。
ゴーレムの数は一個師団を超える。
三万程か。
あり得ない量の大量召喚だが、まあ魔王様だからなあ……。
「さあ我がゴーレム達よ、ワタシの命令は――分かるね? 最終作戦だ」
楽園の怪物達の中でざわめきが起こる。
わずかに緊張が走ったのだ。
それは魔王陛下の生み出したゴーレムの性能を読み取ったのか、はたまた楽園の土から作られた人型の人形を、ニンゲンの始祖アダムと誤認したのか。
楽園ゴーレム達は八重の魔法陣を展開し、進軍を開始する。
見た目はちょっとファンシーだが。
三万ほどの数の土偶が、八重の魔法陣を展開しながらドスドスドスと、走り出す姿は強烈。
三毛猫魔王様が、魔王様の頭で自分の身体を支えながら問う。
「確かに、凄い軍勢だが――なにをさせるつもりなんだい」
ビシっと指差し、燭台の杖の七つの先端から破壊術式を放ち続けながら、宣言。
「決まっているだろう。楽園の土より生まれしゴーレム達よ! 兄さんの所まで駆け寄って、その顔に魔導ペンで落書きをしてくるんだ! いつもそうだったからね。こうすれば必ず兄さんは、起きる!」
起きる! 起きる! 起きる!
最終戦争状態の楽園。
その黄昏色の空に、魔王様の宣言がこだまする。
むろん、シリアスは死んだ。
致命的なダメージである。
こんな場面でも己を曲げない、その精神の強さ、さすが魔王様である。
私はうんうんと感心し、更なる忠誠を誓う。
なぜか二柱のロックウェル卿が、感服しながら観戦する私をじっと見ているが。
気にしない。
魔王様によって作られたアダムゴーレム(仮)たちは、高性能故に知恵があるのだろう。
自らの主人が発した命令に、困惑。
しかし、命令には従うのか、わっせわっせと土偶フォルムの三万部隊が突撃する。
魔王様の謎能力、シリアスブレイカーの効果が切れたのだろう。
ハッと目を覚ましたように、敵も動き出す。
おそらく、ラスボス闇落ちレイヴァンお兄さんに、起こすなと言われているのだろう。
ゴーレムの進撃を止めるべく、魔術閃光が迸る。
その瞬間、三毛猫魔王様の偉大なるお声が空に響く。
「いけないね、君達。まずは兄に起きて貰わないといけないんだ、邪魔はさせないよ」
告げた三毛猫魔王様が、モフ毛をぶわっと膨らませる。
靡く尻尾が、ぶほぶほぶほ――っと強風に煽られる天日干し毛布のような音を鳴らし。
黄昏の空に、三毛猫魔王様の用いる魔術式が広がる。
「聖剣飛散! さあ、アダムスヴェインの怪物達よ――我が集めし秘宝のレプリカ。存分に味わうといい」
魔王様の頭の上で、ドヤ顔を我慢する三毛猫陛下が、すぅっと猫手を下ろす。
すると、空が割れて――亜空間が顕現。
私達が扱うアイテム収納魔術と似ているか、ようするに割った空に繋いだ亜空間から、大量の聖剣を放出しだしたのだ。
ズジャジャジャジャァァァァァアァァキキキキキキィィィン!
聖剣、名刀、妖刀、魔剣。
様々に伝承される幻や神話の武器が、雨となって楽園に降り注いでいるのである。
おそらく、奥さんであるヒナタママに聖剣を授けるため――伝説の装備をかき集めていたのだろう。
その研究段階で作り出した剣のコピーを、遠距離攻撃の弾として使っているのだ。
うわ、これもなかなかエグイ。
三毛猫陛下もやはり魔王様。
その手口は、実は結構派手かつ大胆である。
三毛猫魔王様の丸い口の端が、ニヒィっとつり上がっている。
楽園内は空前絶後の大聖戦。
空を逃げる天使と悪魔でカオス状態だ。
私の魔王陛下が操作する、自動破壊魔術式を放つ燭台の杖。
そして。
三毛猫魔王様の放つ伝説の剣の放射攻撃。
地上では、三万個のアダムゴーレム(仮)がレイヴァンお兄さんを起こそうと、進軍。
マジックペンを片手にわっせわっせ♪
神話の怪物達がレイヴァンお兄さんの睡眠を邪魔させまいと、戦う!
ボガボガズゴゴ!
だが、遮光器土偶にあえなく敗退。
ギャグみたいな見た目だが、このゴーレムはあの魔王様が、楽園の土から生み出した召喚獣。
そんじょそこらの土偶ではないのだ。
この間のサマエルといい。
ちょっと可哀そうになってきたぞ、これ。
土偶の群れの一部が、生命の樹を彷彿とさせる林檎の樹に到着。
翼を丸め眠るお兄さんの頬に、その魔導ペンが走る!
キュッキュッキュ♪
あ……。
その頭を赤く塗って、頬に三対の線を引いている。
これ、魔王様が百年のお眠りについてる時に私がやった悪戯だ!
こうすると猫っぽくみえるんだよね~!
ラクガキをされた冥界神。
ラスボスお兄さんの肩が揺れる――。
顔に猫のヒゲを書かれた、その口が薄らと開く。
そして。
やっと周囲の異変に気付いたのだろう。
「んだよ、うるせえな……なんだこの揺れは! まぁぁぁた! あの極悪ニワトリどもが、石化させた太陽でも降らせてきやがったか!?」
バサバサっと翼を怒らせながら、唸るお兄さん。
しかし。
いま、なんか変な事言ってなかった?
石化した太陽って。
観戦していた私はじぃぃぃぃっ。
首のモフ毛を向けて、ロックウェル卿と魔帝ロックを睨む。
『ねえ、石化させた太陽を降らしてたって……どういうこと?』
ニワトリさんはコケっと、二柱同時に首を横に倒し。
『ん? 天体を複製し余の魔力で石化、石の星として召喚し――嫌がらせに降らしていたのだが?』
『さしものレイヴァンめも、慌てておったのう!』
どうやらこの極悪コンビ。
嫌がらせってレベルを超える嫌がらせを続けていたようである。
『クワワワワッワ! 我等にかかれば!』
『魔兄レイヴァンなど恐るるに足らず!』
言って、魔王様を援護するように黒白ニワトリさんが尾羽を振る。
楽園では、未曾有の魔術波動が襲い。
中にいる神話生物たちの身体が、ビシビシっと石化していく。
まあ、またすぐに再生、リポップするのだろうが。
この二柱。
ものすごい手慣れた攻撃である。
あれ?
これレイヴァンお兄さんが眠ってたのって、気怠いダウナー気取りで寝ていたんじゃなくて。
この極悪コンビが昼夜を問わずに、嫌がらせをし続けていたから。
単純に寝不足だったんじゃ……。
あ、お兄さん。
目の下に、すっごいクマがある。
このニワトリさん。
私にとっては良い友。
仲良しもふもふアニマル仲間なのだが。
皆がロックウェル卿が一番ヤバい、ガチでやばい、あれは敵にしたくない。
そう言っていた理由がなんとなく分かった気がする。
と、ともあれ!
やっと目覚めた事により、ダブル魔王様との再会は叶いそうだ。
レイヴァンお兄さんの瞳の色が変わる。
「お前さんたちは……まさかっ」
「やっと起きてくれたんだね、兄さん――」
三毛猫魔王様も、目覚めた兄を向いて。
瞳をゆったりと閉じる。
そして私もまた、瞑想するように静かに瞳を閉じた。
死んだと思っていた、いや実際に死んでしまった弟との再会。
魔性として暴走してしまうほどに嘆き悲しんだだろう、魔兄レイヴァン神。
もう一人のレイヴァン神に、その嘆く魂を封じられていた荒魂。
彼はこの再会に、何を想うのだろうか。
賢き私はこう思った。
まあ、どうせ――説得は失敗するんだろうなあ。
と。
いや。だって、あそこまでロックウェル卿に嫌がらせをされたら。
うん。
たぶん、今頃、メチャクチャ怒ってるよね?
お兄さんが、背中に炎を纏い。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――!
白目を剥きそうな程の三白眼で――ぎろり!
ダブル魔王陛下を、鬼の形相で睨む。
「うがぁあああああぁぁぁぁあぁぁぁぁ! てめえらっ! 部下の教育はちゃんとしやがれ――ッ!」
あ、やっぱり。
額にびっしり怒りマークを浮かべ。
歯茎を剥き出しに荒ぶるお兄さんが、飛翔した。




