魔猫論文:魔術世界の真実 ~世界リセット~
ダンジョン領域日本の青い空。
いや、訂正!
黒く染まった世界には、カシャカシャブギイギギィィィィィン!
翅を擦り合わせる、けたたましい音が鳴っていた。
その八割を黒く染め上げている存在こそが、魔力蝗。
ラスボスお兄さんの眷属。
一匹一匹が並以上のモンスター。人間冒険者を食い殺せる以上の魔力虫が、一般人に襲い掛かっていたのだが――。
当然、皆さんもご存じの通り。
この世界は様々なゴタゴタとゲームを通してのレベル上げで、強化済み。
私、大魔帝ケトスの作戦によって被害はまったく起こっていなかった。
ホワイトハウル配下の街の警察犬が、ワォオオオォォォォン!
既に主人に習った結界術を展開。
守りは完璧と言っていい状態になっている。
『ダンジョン領域日本に慣れた一般人たちに任せていても、問題はなさそうだが。時間がかかるし。なにより無限に湧き続けるイナゴは厄介!』
なので!
モフ毛をぶわりと輝かせる私は、ポンと顕現させた猫目石の魔杖を装備。
赤き魔力波動に尻尾を靡かせ――ビシ!
『ちょっと派手に一掃しちゃうからね!』
図にすると、黒く染まったイナゴ色の大空を指差す、麗しの黒猫。
といったところか。
女子高生勇者のヒナタくんが、私の魔術から周囲を守る結界を展開し始める。
空飛ぶ私を追走し、彼女も虹色に煌めく聖剣を装備。
ヒナタくんの髪も服の裾も、魔力の流れに従って――バササササ!
にひぃ!
太陽のような笑みで、ビシっと宣言する。
「おーし! ケトスっち! 反動はこっちで引き受けるわ! 蟲ってそんなに好きじゃないし、遠慮なくやっちゃいなさい!」
『んじゃ、カバーは任せたよ!』
広範囲かつ、破壊効果も高い魔術を使うと周囲への影響も大きい。
けれど、ヒナタくんがその辺をカバーしてくれる宣言をしてくれたのだ。
つまり!
遠慮は必要なし!
三毛猫魔王様とヒナタママも地上で既に戦闘を開始している。
次元の狭間から待機している大魔王ケトス達が見ているので、あの二人の安全は保障されている。
ようするに!
後は私がぶっ飛ばすだけで、この最初の接触イベは終了する!
ニャッフフフフっと満面の笑みを浮かべ。
私は猫目石の魔杖を翳す!
ザザザ、ザアアアアアアァァァァアアアァァァァァァ!
大魔帝セット一式を完全顕現!
蝗の群れに向かい、玉座の上からふんぞり返った私は牙を光らせた。
『さあ蝗の王に従う黙示録の災厄よ! 我の劫火に呑まれ狂い、等しき滅びを貪り喰らえ!』
《ゲヘナの劫火》の魔術を発動!
地底深くから血に染まった腕が顕現し、ガッコン!
死者の国の扉を開き――その重い戸の隙間から、青と赤の煉獄が吹き荒ぶ。
刹那――。
クオオオオォォォォォッォォォッォオオオオ、ゴガガゴォォォオオオォォォ!
死者を引き込む性質のある冥界の焔が、イナゴの群れを覆いつくす。
空で跳ねるイナゴの群れを、嘗めるような炎の舌で焼殺しているのだ。
効果は、極々普通のロールプレイングゲームでよくある最上位レベルの魔術。
火炎耐性を貫通できる獄炎魔術である。
今の魔術による激しい爆熱が、空を駆け続けるせいだろう。
まだランチタイムになっていない時間なのだが、周囲は夕焼け色に染まっていた。
当然、熱気もかなり溜まっている――それを利用するのが魔術師というもの。
『更に続けて! 我はケトス、大魔帝ケトス――! 以下呪文省略!』
《コキュートスの冷笑》の魔術を発動!
名乗り上げによる詠唱で、術のタイムラグを大幅短縮。
名乗りが必要なレベルの高等魔術と、思って貰っていいだろう。
再び、地底から開いた重い扉から、今度は液体窒素もビックリな凍てつく白い霧が発生する。
効果は死の属性が付与された、超広域の瞬間冷凍魔術。
ビシビシビシシシイィ!
地獄の熱により膨張していた空間を、今度は冥界の冷却魔術で凍り付かせたのだ。
結果として起こるのは、魔術式の消失による空間の崩壊。
重力の極大圧縮。
本来なら無限に湧き続けるイナゴ、その増殖のメカニズムを根本から壊す作戦なのだが。
……。
「どうしたのよ、ケトスっち」
『あれ? 何も起こらないな。計算だと膨張した空間が縮んで魔術式がロスト、結果として重力崩壊が発生して……その重力崩壊の影響で、プチ超新星爆発が起きる筈だったんだけど』
と、モフ耳をピョコンと動かした。
次の瞬間。
周囲に散らばっているイナゴの粒子が、微動し始める。
イナゴの復活。
全てを喰らい尽くす眷族としての役割を果たそうと、再生しているのだろう。
それが、きっかけとなり。
不安定となった黄昏の空に、ヒビが入る。
「いや、小さい超新星爆発って……そんなもん、こんな地球で放ったら……って! なんか凄い力が発生してるじゃない!」
言って、ヒナタくんが面白いほど仰天しながら聖剣を両手で握る。
ギギィィッィィィイイィィィィィイイィィィィ――ッ!
ガラスが粉々に割れるような音が発生し。
夕焼け色に染まっていた空間が、崩壊していた。
音が消え。
そして。
チョゲチョゲゴガガガガギギギギブギギッギギィィィン!
再び音が発生する。
聖剣結界を維持するヒナタくんがグギギギギギ!
歯を喰いしばって、空に踏みとどまる。
「ぎゃあぁあああああああああぁぁぁ! あんた! なんつー、大爆発を起こしてるのよ!」
地上では三毛猫魔王陛下と勇者ヒナタママが。
警察ワンコとダンジョン領域日本のプレイヤーが。
そして、空では現役地球勇者のヒナタくんが、それぞれに限界出力で結界を展開。
三毛猫魔王様が、アスファルトに肉球を踏みしめ叫ぶ。
「いかん……っ! 全力で防がないと吹き飛ばされるぞっ」
「あんた! 大丈夫かい!?」
風に飛ばされそうになった三毛猫魔王様を抱っこしたヒナタママが、ギンと地面に聖剣を突き刺し。
強固な結界を展開。
三毛猫魔王様の揺れる尻尾はとても美しいので、パシャリと撮影!
後で三毛猫魔王様写真コレクションでも作ろうかな~♪
ダンジョン領域日本のみんなは、既にこんな光景にも慣れている。
まーた、ランカー猫の大魔帝ケトスがなんかやってるよ。
と、なかなか和やかなムードだったりもするんだよね。
落ち着きまくっているプレイヤーたちを見て、ヒナタママが私に唸る。
「魔帝ケトス! おまえっ! 絶対に普段からこんなことばっかりやってるだろう!」
『失礼な勇者だねえ。普段じゃなくてたまにだよ、たまに』
ひらひらと肉球を見せながら手を振る私。
とっても可愛いね?
◇
最初の戦闘は終了した。
私による破壊のエネルギーを、なんとか抑え込むことに成功していたのだ。
当然、あの規模の空間崩壊にイナゴが耐えられる筈がない。
敵は全滅である!
雲一つない晴天となった空。
玉座の上で杖を握る私は、肉球をみせる形でネコ足をびにょ~ん♪
くくく、くははははははは!
まさに一掃である!
『ふぅ、これでこの辺りのイナゴは全滅かな! いやあ、さすが私! 滅ばぬモノさえ滅ぼす魔性の猫! 思わず自画自賛しちゃうね!』
「ちょっとケトスっち! さっきのはさすがに、やりすぎじゃないっ!?」
といいつつも、私の発生させた大崩壊を結界内だけで完結させたヒナタくん。
その腕は、さすがの一言である。
地上からネコ手を伸ばしていた三毛猫魔王様も、感嘆とした息を漏らす。
イナゴが再生する気配も無くなっていた。
殲滅を確認した私は、聖者ケトスの書を顕現させ、バササササ。
場を清め、冥界神の眷属イナゴが発生しないように厳重に聖域化を開始した。
三毛猫魔王様が、モフ毛をぶわっとピンピンにさせている。
たぶん、私の神聖なる祝福の御手を眺め、驚愕しているのだろう。
こんなもん……かな!
『ま、ここはダンジョン領域日本。普通の空間なら今のでとんでもないことになっていただろうけど、決戦用に作ったフィールドだからね。よほどの規模であっても、頑丈に耐えてくれる筈さ』
「おい、こら! あたしはあたしの心配をしてるのよ! 制御できなかったら、今の大崩壊の反動があたしにも届いちゃってたでしょうが!」
私は猫スマイルで、にひぃ!
ヒゲと猫口を三日月の形にする。
『君なら大丈夫さ! なんてったって、私達、三獣神の弟子だからね! 君だって、正直、今の爆発よりもホワイトハウルとロックウェル卿の訓練の方が、きつかっただろう?』
言われて彼女は引き攣った笑みを浮かべ。
「そ、そりゃあ、そうだけど! まあいいわ! で? そのレイヴァンおじさんのクローン体はどこにいるのよ。そのお兄さん本体がどこにもいないじゃない」
『どこかに隠れる。または相手の実力を探り慎重に行動する理性は残っている……という事かな』
んー……。
理性が残っているうえで、狂って暴走している。
それが一番困るパターンなんだけど……。
「目的はいったい、なんなのかしらね」
『ふむ……ちょっと試してみるか』
静かに瞳を閉じ、私は玉座の上で瞑想する。
呟くヒナタくんの言葉を受け、未来視と自分の知識をフル活用しているのだ。
更にいつかの異世界で学んだスキル。
剣を極めた先にある頂のスキル、答えを得る能力を発動させ……。
ゆったりと私は瞳を開く。
『全ての世界を終わらせて、世界を最初からやり直す。って可能性があるね』
「うわ……、なによその、どっかのラスボスみたいな発想は……。って、本当にラスボスなんだったわね、そういや」
三毛猫魔王様も空を駆けて来て。
私の発動したスキルの性質を読み取り、尻尾の先をくるりと回す。
「なるほど、それは剣聖系列の極み――途中経過を無視して解答に手を伸ばすスキルだね。異界のケトスは芸が多彩で、凄いね」
『いろいろな冒険散歩をしてきましたからね。様々な人との出会い、心の触れ合いが今の私を作っているのでしょう』
シリアスに告げる私の憂い。
冒険の記憶をたどる私はたぶん、本当に渋いイケニャン顔になっていたと思う!
いや!
私はいつだって、渋くてイケニャンだけどね!
三毛猫魔王様がそんな渋い私を、スマホでパシャリ。
既に、その画面には黒ケトスという名のフォルダが作成されている。
あれ?
めっちゃ私の写真が撮られてるんだけど。
三毛猫魔王様、もしかして戦闘よりも私の写真撮影に集中してた?
『魔王様、けっこう余裕ありそうですよね』
「まあ、僕が冷静でいた方がいいだろう? 君の世界の僕はその……兄さん量産計画とかいう、ちょっと残念な研究をするほどに、気が抜けているみたいだからね。そして僕の白ケトスはとても可愛いが、不安定だ。レイヴァン神に取り込まれる可能性も考慮して、あまり前にはだせない」
う……っ。
返す言葉がない。
私の魔王様、リラックスして自由に生きてるからなあ。
なにしろ、本当に平和になったからね、あの世界。
そして、大魔王ケトスが前線に居ない理由も理解できる。
白ケトスこと、一度大暴走したあの憎悪の魔性が、相手側に取り込まれたら大問題。
洒落抜きで私ですら対処できなくなるから、その判断も正しいと私は考える。
「だからね、ケトス。これは僕の気を落ち着かせるためにも必要な事なんだ」
言って、三毛猫魔王様は私をパシャリ!
魔王様はやっぱり魔王様、ということだろう。
その時だった。
私のにゃんスマホがメッセージを受信する。
あんまりワタシの魔王様を独占するニャ!
と、白いモフモフ大魔王が肉球印の画像付きで忠告をしてきたのだ。
ふふふ、やっぱり嫉妬しているのか。
まあ、私も私の魔王さまを占有されてちょっと嫉妬していたからね。
その気持ちはわかる。
静かに瞳を閉じた私は、大魔帝ケトスとしてのシリアス声を上げる。
『さて、そろそろ真面目な話に移りましょう。私のスキルによる観測では――完全体の悪食の魔性、レイヴァン神の目的は、世界のリセットだと思われます。それを軸に作戦を練り直す必要があると思うのですが、どうでしょうか?』
ヒナタくんが言う。
「世界のリセットって言われてもねえ。本当にそんなことできるの?」
『ああ、可能だね』
告げて私は猫手を組んで考える。
思考の海へと落ちていったのだ。
一人で再計算する私に、三毛猫魔王様が言う。
「世界リセットが可能だとそう思う、根拠を聞かせて貰ってもいいかい?」
『構いませんが、長くなりますし――あくまでも仮説。正しいとは限りませんよ?』
ヒナタママも空をぷかぷか浮いてきて。
「聞かせてくれてもいいじゃないか、ボクも気になるしね。魔帝ケトス、キミを疑うわけじゃないが――どういう手段と理論で敵が世界リセットをしようとしているのか、それを把握しているしていないではこっちの行動も変わるだろう?」
「ちょっと、お父さんもお母さんもストップ! ケトスっちにそういう理論を語らせると、ものすっごい長くて、意味の分からない頭の痛い話に……って! ケトスっち、なんであんた教師モードの顔をしてるのよ!」
ヒナタくんが慌てて手を伸ばすが、もう遅い!
神父ケトスの顔で、私は両手を広げる。
『さて、ダンジョン領域日本の諸君。この世界の真実を私は語ろう。けれどおそらく長くなる――もちろん面倒なら聞き流してもいい、信じなくても構わない。けれど、気になるモノはどうか私の理論に耳を傾けておくれ』
「ぎゃぁあああああああぁぁっぁあ! 始まっちゃったじゃない!」
この世界の人々も、ソシャゲイベントとしてこの空間を見守る中。
私は語りだす。
イナゴの代わりに覆った一面の魔術式が、空を文字と記号で埋め尽くした。
◇◆◇
この世界はおそらく、既に二度生まれ変わっている。
そんな仮説が私の頭の中をめぐっていた。
それを私は説明する。
はじめの世界は魔術も魔導もない世界。
おそらく、普通の世界だった場所。
西暦で時を記す地球だ。
そこに私も住んでいた。そして、おそらく人間だった頃の魔王様もそこの出身。
一度目の世界の生まれ変わり――。
世界転生の原因は、おそらく魔王様だ。
あの方がなんらかの原因でお亡くなりになり、楽園へと転生。
そこで一つのターニングポイントが発生した。
魔王様の誕生と共に魔術も誕生したのである。
おそらく、その時点で普通だった筈の地球は一度、消えた。
一度目の世界リセット。
魔術がある世界へと、地球も一度生まれ変わったのだ。
何故そう思うのか。
理由は様々にある。
一番決定的だったのは、この地球に私の記憶の残滓が見つからなかったことだ。
私は日本に住んでいた人間だった筈。
なのに、ここは地球で日本なのに歴史や知識に多少のズレが発生していた。
どこかが微妙に違うのだ。
それは望郷の魔性、ライカくんの件でも確認していた。
史実に、僅かな誤差がある。
順序にすると、魔王様が楽園に転生なさった「二番目の世界、最初の魔術世界」がそのまま進むと――大魔王ケトスの世界になっていたのだろう。
魔王陛下が勇者に殺され、大魔王ケトスが誕生し……三千世界を滅ぼすルート。
二度目の世界リセット。
ここで世界はもう一度生まれ変わり、やり直した。
世界自体の転生。その概念は、世界生物論で証明できる。
世界は世界を維持しようとする性質があるからだ。
大魔王によって滅ぼされたことをきっかけに、宇宙誕生からやり直したのである。
その世界が、今なのだ。
はじめの世界は、普通の地球――魔術のない世界。
二番目の世界は、魔術のある地球――大魔王ケトスが終わらせた世界。
魔王陛下が勇者に殺されたルートの世界。
そして。
三番目の現在が、この私――大魔帝ケトスが存在する世界。
魔王陛下が勇者に殺されなかったルートの世界である。
もしこの仮説が正しいとすると。
三千世界をもう一度壊せば、世界は四番目の世界を再構築する筈。
つまり、また楽園の最初からやり直すことが可能なのだ。
結果として――勇者に殺された二番目世界の魔王陛下の死を、リセットできる。
むろん、今更そんな事をしても意味がない。
世界がリセットされて最初からになるだけで、二番目世界の魔王陛下の死そのものが消えるわけではない。
けれど、暴走した魔性がそれを理解できるかは……。
あの大魔王ケトスを思い出せば分かるだろう。
もう、理論や正論など関係なくなってしまうのだ。
それが魔性の暴走。
壊れた心の暴走だ。
レイヴァン神は世界をリセットするため、世界を破壊する。
そのために今、動きを開始した。
まあ、結局は机上の空論。
今の私の説が正しいと言い切るつもりはまったくない。
そしてここからは蛇足。
単純に魔術師としての知識の追求だが――おそらく、もうはじめの世界。
魔術のない世界は存在していない。
魔術の発生と共に、上書きされてしまっている筈。
もしかしたら、その魔術のない世界はまだどこかに残っているのかもしれないが……。
私がその、魔術のない世界に帰る事は、もうない。
戻る手段が残されていないのだ。
本来なら三番目世界の発生の後。
二番目の世界、大魔王ケトスの世界も消滅していた筈。
ホワイトハウルこと、ブラックハウル卿が慰めに作り出した世界も、そのうちに消滅していたのだろう。
しかし――そこに一匹の天才魔猫が乱入したせいで、話は変わってしまった。
私が割り込み召喚で裏技的に介入してしまったせいで、全てが変わってしまったのだ。
そのうちに消える筈だった二番目世界。
その避けられない滅びの運命を、私が捻じ曲げたのである。
その結果。
今のこの世界、私達の世界はとても不安定な状態になっている。
大魔王ケトスと大魔帝ケトスが同時に存在するという、世界にとってのバグ、イレギュラーが発生してしまっているのだろう。
更に深く、魔術師として考えるともう一つの仮説も見えてきた。
バグがあるからこそ、この世界には無限ともいえる魔術式と魔術法則が存在するのだ。
おそらく世界の不具合を利用しているのだと思う。
それがこの世界の魔術の真実。
魔術は時すらも操作できる力。
大魔王ケトス世界と、大魔帝ケトス世界。本来なら両立しない筈の世界の融合。
この融合世界が確定している時点で、魔術法則も過去へと遡ることができる――。
結果として、過去でも世界のバグを利用した魔術の発動が、可能となっているのかもしれない。
魔王様の誕生によって生まれた二番目世界の魔術式。
大魔王ケトスと大魔帝ケトスの両立によって発生した、バグを利用した三番目世界の魔術式。
この二つが、この現在の世界を維持しているのだと思う。
それも北の賢者が蒔いた種のおかげなんだろうけどね。
ただし、やはり全てはあくまでも仮説。
細かい部分の矛盾も発生している筈。
実際は全然違う可能性もけっこうあるということだ。
もし、この記録クリスタルを閲覧している者がいたとしたら、要注意!
この「世界は三番目説」を魔導書にまとめようとしても、真偽の責任を取れないのであしからず。
ぜんぜん的外れだったとしても、私のせいじゃないのだ!
◇◆◇
長々となってしまったが!
レイヴァン神は三千世界を破壊することによって、世界のリセットをもくろんでいる。
これだけが分かれば問題ないのである!
『というわけさ。理論としてはこうなるんだけど――あれ? なんで三毛猫魔王様以外の人たち、頭を抱えて蹲ってるの?』
思考の海から戻ってきた私は、ヒナタくんと三毛猫魔王様をじっと見る。
「いや、だぶんそれ……誰も理解できてないわよ?」
「そんな事はないさ。僕は理解ができている、一見すると矛盾と破綻の多い理論だが……一定の正解をついているだろう。二つの酷似した世界、同一に近い存在の二匹のケトスが存在する理由にも、説明がつく。偶然似た世界が存在していたというよりは、説得力があるだろう?」
言われてヒナタくんが、同意できずに頭の上に、プスプスと湯気を浮かべている。
「と――とにかく、世界リセットをしようとしている! ってのは分かったわ! ねえ、お母さん!」
「ああ、ボクもそこだけは理解できた!」
はっはっは!
勇者親子は高らかに笑みを浮かべる。
魔術師の三毛猫魔王様は、そんな似た者親子に苦笑していた。
さすが魔王様。
この方だけは、私の理論を理解しているのだろう。
そして、私のにゃんスマホも鳴って、白き美丈夫となった大魔王ケトスがメッセージを送ってくる。
おそらく、それが正解だろう、と。
私達ケトスズと、三毛猫魔王様だけは理解しているようだが。
んーむ。
説明って、けっこうむずかしいよね?
かくして、イナゴ大量発生は解決したが。
レイヴァン神は出現せず、私達は次の行動を開始したのである。




