ラスボス発覚! ~ああ、やっぱりそうですよね~
ラスボス狩りを行った翌日。
大魔帝ケトスたるモフふわ魔猫な私が立ち寄ったのは――、次元の狭間にある狐のマークのコンビニ。
顔の広そうな商人。
色欲の魔性に相談しに来ていたのだ。
商品在庫が眠る闇の倉庫の中。
焼き立てチーズケーキに肉球を伸ばし――もぐもぐ♪
端っこの、焼き目がついたパリパリ部分。
サクっとモチモチ感をむしゃむしゃと味わいながら、私はネコ鼻頭を輝かせる。
『《かくかくしかじか》――発動! というわけで。ねえねえ! 何かいいアイディアはないかな?』
ちなみに。
私のモフ毛は、チーズケーキの甘酸っぱさに歓喜!
モコっと綿あめのように膨らんでいた!
相談相手は二人。
かつて死の商人であった魔狐。現在は様々な世界を渡り歩く豪商。
そして、キツネ印の魔道具を提供している天才錬金術師。
まあ、フォックスエイルとファリアル君である。
魔女風のニンゲン姿ではなく、焦げたパン色の足をした狐状態。
フォックスエイルは肉球で、頬をポリポリ。
狐口を開いて、尻尾をぶわりとさせながら彼女が言う。
「んー、あなたにはお世話になっているし、協力はするつもりだけど。ラスボスになりそうな知り合いねえ」
『いろいろな世界と商売を始めた君なら、偶然そんな噂を拾ってきたりしてないかな~って思ってるんだけど。何かないかな? 些細な事でもいいんだけど』
フォックスエイルは揶揄うように瞳を細め。
「あら? ラスボスっていうとあなたが最初に浮かぶのだけれど?」
『もう、それはやったよ! 相談する相手がみーんな、そう言うんだよねえ』
くすりと妖しく笑んで、狐さんの口が三日月の形を作る。
「でしょうね。あなた、ダンジョン領域日本を作り出してからますます強力になっているみたいだし。まあ、それはいいけれど……ラスボス、か。転生された魔王陛下と、かつての勇者とのお子さんに待つ死の運命。真面目な話……アタシの知識の中でも該当者が存在しないわ。少なくとも、アタシよりは強力な存在なのは確かでしょうし……色欲の魔性よりも上位の存在となる三獣神も魔王陛下も、今更そんな運命に巻き込まれるとは思えない」
考え込む狐さんの横。
稀代の錬金術師で絶世の美貌の持ち主。
憎悪の魔性の卵である血染めのファリアルくんも、ふむと考え込み。
外道三分クッキングな空気で、凛と告げる。
「そうですね――該当者がいないのならば。いっそ、どこか適当な世界の殺してもいい巨悪を捕まえて来て、強化、ラスボスを作り上げてしまったらどうでしょうか? 外道な手段とはなりますが、それで勇者を……まあ、言葉は悪いですが、ヒナタさんを一度殺させて死の運命を世界に観測させる。即座にラスボスを討伐。その後にヒナタさんを蘇生してしまえばいいのですから」
『事前に蘇生準備をしておけば、可能ではあるんだよねえ』
ファリアル君らしい意見である。
もちろん、普段の彼ならば私に気を遣って、そこまで過激な発言は避けるだろう。
私のポリシー……女性と子供の死を避けたがっている事を知っているからだ。
ただ今回は、私が外道なアプローチでもいいからと相談したので。
まあ、この回答である。
『んー、それで世界が勇者ヒナタの死と認識して、納得してくれるならいいんだけど』
「納得してくれないなら、ヒナタちゃんは死に損ってわけね。それもちょっとねえ?」
「でしょうね。ならばやはり、ケトス様の力で一度全てを破壊して、即座に再生。あなたが新世界の神となり、全てを牛耳れば宜しいのでは?」
うわ。
私の裏技と同じこと考えてるでやんの。
ファリアルくんがかつての血染め時代の顔で、冷淡な笑みを浮かべる。
「そして、その世界復活地点を新紀元とし、ケトス様歴元年と制定! 後の時代に世界に生まれてくる魂を、全てネコ魔獣とするのです! さすれば世界はネコで満たされ、もふもふ天国! 恒久なる平和もついでに約束されるのではないか! そう思うのですが?」
フォックスエイルは呆れた様子で苦笑しているが。
ファリアルくんの目はけっこうマジだったりする。
こう、なんつーか。
人生に苦労した人間って、ネコ汚染が進みやすいからなぁ……。
『世界をネコ魔獣で満たすのはつい最近やってきたばっかりだから、却下だよ、却下……。てか、君、前よりネコ好き度上がってない?』
「油断すると、ウチの商品にもネコ要素を付け足したがるのよねえ……」
むろん、ファリアルくんの意見には、フォックスエイルも呆れ顔。
ネコもいいけど、狐のモフモフも忘れないでくださいね?
的な顔をしている。
麗しくも神々しい狐の尻尾が、ぶわんぶわんに膨らんでるし。
この狐さん。
出会ったときよりも、だいぶ丸くなったよなあ。
『しかし冗談と人類ネコ化計画はともかく、だ。世界ごと全てを一度破壊する作戦は、一応プランとしては私も考えている。それはまあ、最終手段だね』
「ということは、やはり既にお考えではあったのですね。あなたが全世界の神となるならば、それはとても幸福なネコ世界。世界のためにも丁度いいと思うのですが……あなたはそれをお望みにはならないのでしょう」
ファリアル君もだいぶ、性格が丸くなっている。
殺伐としていた彼らの人生も、変わったのだ。
二人はもう一度深く考えて。
フォックスエイルの方が言う。
「魔王陛下にはご相談なさったの?」
『相談しに行こうとしたんだけど、新しい魔導研究の途中みたいでねえ。まず、その研究ラインを止めてから話を聞いてくれるってなってるんだ』
事件が事件だけに、もちろん相談はしたのだ。
協力も得られそうなのだが。
ファリアル君とフォックスエイルは、もしやといった表情を浮かべ。
「ねえ、ケトス様? 魔王陛下の研究って、いったい何の研究をしていらっしゃるのかしら」
『ん? さあ……魔導士が他人の研究を横から見るのはマナー違反だからね。完成してから聞いてみようとは思ってるけど、研究途中で何か誤作動を起こしているらしいし。魔王様も魔王様で、一旦、研究を止めるからちょっと待っててくれって……。それに邪魔しちゃ悪いから、後で空いてそうな時間をみて詳しく相談しようとは思ってるけど……って、二人とも。どうしたんだい、その苦すぎるコーヒーを口にしたみたいな顔は』
あー、確定だわ。
みたいな顔をしているのだが。
ファリアル君が錬金術師としての顔で言う。
「あぁ……ケトス様。大変申し上げにくいのですが」
「たぶん、ラスボス。研究だと思うわよ……」
私はモフ顔を傾ける。
魔王様がラスボスなわけないし。
『何の話だい?』
「宜しいでしょうか? ケトス様が関わっている事件でのラスボス、それもヒナタさんという転生なされた魔王陛下の御息女とも関わる案件。まず間違いなく、普通の存在では力不足。ラスボスにはなれないでしょう」
しかしです、とファリアル君は冷たい美貌を尖らせる。
「魔王陛下の魔導研究ならば話は別です。なにしろケトス様のお師匠でもある、あの魔王陛下ですからね。トラブルメーカー……いえ、少し破天荒な部分もそっくりですし。世界がラスボスを作り出そうとしているのなら、おそらくはその研究を利用する筈です。そして陛下は……そのなんというか、研究に没頭なさると……」
『なるほど……たしかに、周りが見えなくなるタイプだからねえ、魔王様』
しかし魔王様の研究が、なんらかの事件を引き起こすのなら大問題。
あの方は私以上に魔術に対してのこだわりが強い。
世界がそれを察知して、これ幸いと魔の手を伸ばしたら……。
…………。
やばいかも。
じわっと汗が浮かぶのは、肉球の表面。
私はたぶん。
梅干を口いっぱいに詰め込んでしまったような顔をしているだろう。
『ごめん、二人とも! ちょっと急いで止めてくる!』
告げて転移したその次の瞬間。
魔王城。
ラストダンジョンに爆発音が響き渡った。
◇
私による緊急防御結界が間に合ったのだろう。
魔王城は大規模な爆発にもかかわらず、ほとんど被害は起こっていない。
まあ、魔王様の研究所はボロボロ。
各地から土煙がモコモコと上がっているし、天井からは小さな瓦礫が落ちてきている。
しかし!
魔王様の前には、ブワブワブワっと毛を膨らませた私がいる!
御守り成功!
尻尾がイイ感じに靡いている!
研究所の内装は、まあ大規模な理科実験室を想像して貰えばいいだろうか。
本当なら魔王様ご無事ですか!
と、泣きつく場面なのだろうが、今の私は魔王軍最高幹部でもある。
魔王陛下に次ぐ権力の持ち主として、ジト目で猫口を、うなうな。
『で? 魔王さま、今度はなにを爆発させたんですか……?』
私の後ろ。
守られる形となっているのは、偉大なる御方。
土煙と魔力の風に髪を揺らし、魔王陛下がハハハハハ。
完全徹夜モードなのだろう。
妙に高いテンションで、赤い瞳を曇らせ――ドヤ顔。
「ひどいなあ、ケトス。それじゃあワタシがいつも何かを爆発させているみたいじゃないか」
『いえ、その言葉の通りなんですけど』
眷属である魔猫にお説教される魔王様も。
素敵だね?
魔力爆発の原因と思われる巨大な試験管が、確かに中央に鎮座している。
もっとも、それは既に崩壊しているが。
中には強大な残留魔力の反応が発生している。
中にいたモノが、逃げた。
そう考えるべきか。
私の赤き瞳が、シリアス色に染まっていく。
魔王軍の二本柱。
悪魔執事サバス君と炎帝ジャハルくんに影を飛ばし、緊急連絡。
非常事態モードを発令する。
超まじめな顔で、私は猫口の膨らみを上下させた。
『魔王様、冗談を言っている場合じゃなさそうですね。すぐに対処いたしましょう。何の研究をなさっていたのですか』
陛下も空気を読んだのだろう。
シリアスに告げる。
「ワタシはね、ケトス。ただちょっと兄さんを増やそうとして……いや、ほら。兄さんの分裂計画があっただろう?」
……。
どうしよう。
シリアスに告げられても困る内容だった。
『いや、魔王様。そんな、さも当然知っているだろう? みたいな言い方をされても、微妙に困るんですが……』
ふと記録クリスタルを辿ってみると。
ああ。
たしかに、そんな計画もあったのかもしれない。
絶念の魔性としての面影など、バッサリと切り捨てて。
にひぃ!
魔王様は魔導研究者の顔で、ハハハハハ!
「兄さんから素材の提供を受けられなかったからね。とりあえず原子レベルから寸分違わぬ兄さんのクローンを自作したのさ! けれど……うん、その試験型レイヴァン兄さん零号機が消えているんだよね」
人々を魅了する、実に良い声でのセリフである。
普段なら私もうんうんと、頷き同意するのだが。
私は鑑定の魔眼を発動させる。
魔術式を追って……。
研究の過程を探り……。
『あれ? でもこの魔術式を読み解く限り……魂がないと動かない筈ですよね。なんで動き出しちゃったんですか』
「そうなのさ! ワタシもだから油断していたのだけれど、いったい、どういう事なのか」
悩む私達はそれぞれ顎に手を当てて。
んー……と魔術師の顔で考える。
そんな可愛いとカッコウイイのダブルセットな空間を乱したのは――、空間に強制アクセスしてきた強大な魔力。
ブシュッゥゥゥゥウッゥっと、っ床から血の腕が生えてきて
次に、ガチャンと重い扉が開き。
まるで、地獄の底からやってくるように、ソレは現れた。
翼持つ堕天使。
ちょっと強面だが、お人好しな冥界神。
魔王陛下の実兄のレイヴァンお兄さんである。
なぜか厳格な皇帝を想わせる、冥界帝王モード。
いわゆる本気の姿での顕現なのだが。
お兄さんは顕現した直後、全ての状況を察したのだろう。
ビシっと陛下を指差し、銜えタバコをピコピコさせながら唸った。
「だぁああああああああぁぁぁ! てめえ! このバカ弟! やっぱりお前の仕業か!」
「本物の兄さん!?」
これは……どうやら本物である。
逃げ出した研究個体ではないようだ。
魔王陛下が見間違うはずないからね。
本物のお兄さんが、怒髪冠を衝く勢いでツバサをバッサバサ!
内包する魔力蝗を赤く輝かせ、マジギレしている。
『久しぶりだね、レイヴァンお兄さん。それでちょっとこっちも立て込んでるんだけど、いったい何をそんなに怒ってるんだい?』
ちなみに、魔王様は私の後ろでお兄さんに会えて喜んでいるが。
現在、研究のせいで若干見境がなくなっている真っ最中。
絶対にお兄さんの地雷を踏む気がしたので、私が前に出たのである。
「冥界で封印していた最重要危険人物の魂が、脱走してやがったんだよ! んなことができるのはケトス、おまえさんか、そこの完全徹夜モードで暴走してるバカ弟か。ニワトリかワンコか、小賢しい光の女神ぐらい……いや、口にすると結構多いじゃねえか。んなことはどうでもいい! とにかく、てめえの仕業か、バカ弟!」
うわぁ……。
唾を飛ばす勢いで、怒っていらっしゃる。
『ねえ、いったいなんの魂が逃げたのさ』
「異界の俺様。つまり……魔王である弟を勇者に殺されて、完全に暴走しちまった異なる世界のレイヴァン神。全ての死者の魂を内包した冥府神、完全体となった悪食の魔性だ」
ぬーんと、ネコの眉間に皺を刻んだ私は考える。
ようするに、三毛猫に転生した魔王様の世界のお兄さんだろう。
そりゃあ、そうか。
大魔王世界には私達三獣神や、魔王陛下や勇者も存在したのだ。
お兄さんがいないとは考えにくい。
そういやあの世界。
大魔王ケトスが全部壊しちゃったからね。
滅んだほぼ全ての魂は、冥界の番人で主人であるレイヴァン神に吸収されるわけで……。
とても危険な存在だったのは間違いない。
どういう経緯か知らないが、それをこちらの世界のお兄さんが封印していたのだろう。
実際、お兄さんは古き神の封印を続けていたからね。
あー……そんな封印状態だった中で。
入り込める肉体を発見して、憑依……。
しちゃったのか。
そりゃ、ギャグキャラに思われがちだけど冥界本気モードのレイヴァンお兄さんは、トップクラス、いわゆる本物の最高神。
それくらいできちゃうよね。
異界のレイヴァン神。
しかもなんだかんだで大切に思っている魔王陛下を、勇者に殺された世界でのガチギレ状態。
更に大魔王に滅ぼされた三千世界、全ての命を吸った状態の冥界神か。
……。
あのお兄さんがいかつい顔を尖らせて。
翼の毛先まで逆立て、ゴゴゴゴゴゴ!
めちゃくちゃ怒っている所を見ると、ガチでヤバい案件だろうな……これ。
ヒナタくんとも、親類にあたるだろうし。
まじで関係者がラスボスでやんの。




