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大陸征服 ~すべてがネコになる~



 異界の邪神たる私。

 大魔帝ケトスの眷属! 黒マナティー軍団と愉快な仲間たちに、街の制圧を任せ――。

 じゃなかった!

 保護を任せ、私は転移魔法陣を発動。


 ちょっと海底神殿の最深部に攻め込んで大戦争。

 三大魔竜ミドガリウムを回収していた!

 あまりにも楽勝だったので、その様子は割愛!


 で、今はその帰り道。

 亜空間の中で地上の様子を眺めていた。


 私達の遠見の魔術に映るのは、無人となりつつある巨獣人族達の都市。

 沿岸地域の拠点である。

 潮騒の音が、静かな町を包んでいる。


 ……。

 まあ、静かすぎるんですけどね!

 その理由も単純! 私のせいである!


 モニターに映っているのは、黒い無貌の人魚の群れ。

 暗黒色に染まっていく空で泳ぐ、モキュモキュモキュと可愛く鳴く黒マナティーである。

 その周囲には、血塗られた栄光の手もピョコピョコと泳いでいる。


 当然、空を浮かぶ彼らの下。

 地上には影が発生するわけで。


 生まれた影からこんにちは!

 大量の影猫魔獣が顕現して、草原や街を駆け回っている。

 いわゆる大陸征服である。


 あの後、私は魔竜を鎮圧。

 更に!

 王が誘拐されたと騒ぐ、地方の巨獣人の貴族たちをついでにネコ化。


 大半はネコ魔獣と化し、運よく逃れた民も黒マナティー化。


 ホムンクルスたちには全員、自我を与えて反乱を促し。

 各地に魔王様信仰の受付会場を設置。

 着実に信者の数をゲットしていた。


 巨獣人族も魔竜も共に敗走中。


 かつてホムンクルスだった猫から逃げ。

 かつて巨獣人族だった巨大ネコ魔獣からも逃げ。

 黒マナティーからも逃げ。

 栄光の手からも逃げている。


 そんな、カオスな状況が生み出されているのである!


 街の中。

 走り回る巨獣人族達が叫んでいた。


「ネコがでたぞぉぉぉおおおおおぉぉぉ! 逃げろっ! 追いつかれたら、食料品も装備も所持金も、全部奪われるからな!」

「何故! 何故、ネコ魔獣がこのように大量発生をしておるのだ!」


 と、吠えて。

 ペタペタドスドスと一緒に逃げるのは魔竜。


 静かな街には、声を殺し息を呑む住人がまだ多くいる。

 巨獣人族と魔竜で溢れかえっているのだ。


 そこら中で簡易パーティーを結成、魔竜と巨獣人族達とが仲良く走っているのだが。

 彼らは今、共に王を失い混乱中。

 共通の敵であるネコと黒マナティーから逃げるため、協力関係を作っている者が多いようだ。


 駆ける彼等が路地裏に足を踏み入れると。

 ざざざざ――ッ!

 レンガを肉球で踏みしめ、奴らが来る。


 肉球が、ぷにんと大地を揺らす。

 ネコ牙の輝く咢が、ぐぎぎぎぎっと開かれた!


「ニャッハハハ! 見つけたぞ、愚かなる旧人類、そして旧々人類どもめ!」

「この大陸の新人類は我等ネコ!」

「封印されし神に作られし汝等に、居場所などナイのニャ!」


 長いひげをピンピン!

 うにゃはははと哄笑を上げる、すばらしきモフモフ!

 敵を追い詰めるのは私の眷属!


 元巨人のジャイアントワイルドキャット。

 そして、元ホムンクルスのワイルドキャット達である。


 既に彼らは魔王様信者!

 過去の関係を忘れて結託。

 仲間を増やそうと、かつての仲間を襲っているのだ。


「い、命だけはお助けを!」

「安心するといいニャ! 貴様らも古き身体を捨て、至高なる種族、ネコへと進化できるのだからニャァァァ!」

「ブブブ、ブニャハハハハッハ! ケトス様に栄光あれ! 魔王様ばんざーい!」


 宣言と共に、魔猫化の洗礼を与えるべく。

 空を覆いつくすほどのネコが――。

 跳んだ!


 画面がモフモフネコ毛で埋め尽くされて――。

 ザザザ、ザァァッァアアァァァァッァア!

 ぶつん……っ。


 遠見の魔術の映像が途切れる。


 おそらく、視界をジャックしていた巨獣人族がネコ化されたのだろう。

 私の口から安堵の息が漏れる。


『よし、これであの街の安全は確保できたね』


 転移亜空間の中。

 モニター前で、うんうんと頷く私。

 とっても神父でダンディーだね?


 大陸地図に赤丸をつけて、私が言う。


『沿岸都市は制圧完了っと。これで死者が出る事はないだろう。ってどうしたんだい? 驚いたネコみたいに、口をあんぐりと開けたままになってるけど……』

「ちょ、ちょっとぉおおおぉ! なんなんすか!? このホラー映画みたいな光景はっ! 完全に悪役じゃないっすか!」


 と、騒ぐのは共に行動しているトトメス帝。

 肉感ボディを薄い布で包む、女性ファラオといった姿の転生者である。

 既にその肌を光る魔術紋様の効果は切り替わっている。


 労働用ホムンクルスの王として、巨獣人族の存続を優先させる行動を強制され続けていたのだが。

 まあ、そんなもんを残しておくのも可哀そうだからね。

 能力向上の魔術紋様に書き換えたのだ。


 指をピンと立てて、チッチッチ。


『君は勘違いしているようだけれど。私は魔王軍の最高幹部だよ? 元からラスボス前に控える悪の大ボス。行動としては間違っていないだろう?』

「これ! 元に戻せるんすか!? 戻せないなら、種の根絶じゃないっすか!?」


 彼女が騒ぐ中でも、各地で戦いは起こっている。

 魔王様の信者と化した魔猫部隊が、残っている魔竜も住人も取り囲んでいたのだ。


 空からは黒マナティーがモキュモキュモキュ♪

 遠距離攻撃を全反射!

 タッチマナティーをしかけて、仲間を次々と増やしていく。


『安心しておくれ、ちゃんとネコ化は戻せるから』

「ふぅ……ならいいんすけど……って。ん? ネコ化は? いま、あえてネコ化はって言いましたよね!? 絶対、なんかあるっすよね!?」


 意外に鋭いツッコミである。


『黒マナティー化も戻せるよ? うん、戻す方法はある』

「なんで目を逸らしてるんっすか!?」

『いや、うん――治せるけど、私ひとりじゃ不可能でね。ロックウェル卿に協力を頼むにしても、素直に協力してくれるかは……どうなのかなって。巨獣人族たちって、まあ言い方は悪いけど――異世界からの誘拐で生活基盤を築いていた、犯罪者集団みたいなもんだし……』


 この大陸では大魔帝ケトスの名が伝わっていた。

 するとおそらく、ロックウェル卿の名も伝わっていると思われる。

 案の定。

 ビギギギシっと、彼女のアヌビス仮面が揺らぐ。


「あの、魔帝ロックっすか!? 大魔帝ケトスよりある意味でヤベエ、絶対に手を出すなって色んな異界魔導書グリモワールに注意書きと警告がされている。あのロックウェル卿っすよね!?」

『私の友達さ。彼は私の冒険を眺めるのが好きだからね――きっと今頃、キミを睨んでいるよ』


 苦笑し告げると、一瞬だけ転移移動亜空間が歪む。

 見ているぞ、という合図だろう。


『さて、それはまあいいとして。このムースベース大陸で大規模な戦闘が始まるからね。安全を確保するためにも魔竜も巨獣人族もホムンクルスも、全員を変化させておく必要があるのさ』


 トトメス帝が、声のトーンを変える。


「戦闘……っすか?」

『ああ、おそらく相手も相応な準備をしている筈。油断はしない方がいいからね』


 一番困るのは、住人を人質にされること。

 で。

 手っ取り早いのはこうやって侵略。全員に私の眷属化を行い強化する事なのだが、絶対にヒナタくんとシュラングくんは乱暴すぎると止めただろう。


 彼らがドリームランドで眠っているうちに、事を進めておきたいのだ。

 まあ。

 眠らせた理由は、他にもあるんだけどね。


 ◇


 亜空間を抜けた先は、空に聳える楽園世界。

 トトメスさんを連れて邪聖剣エデンへと帰還したのだ。


 当然、空から地上を見ていたエデンの住人は大騒ぎ。

 私の帰還と共に、ダダダダダ――ッ!


 ドウェルグ族のもふもふウサギなカグヤくん。

 そして城で待機していた吸血鬼。

 聖騎士カーマイン君が、猛ダッシュでやってくる。


 陶器のような肌に汗を浮かべたカーマイン君が、赤い瞳を輝かせた。


「この騒ぎは……っ!? いったい地上で何があったのですか!? それに、そちらのジャッカルの面を被った方は……」

わらわには見覚えがあるぞ、カーマインよ。巨獣人族の長であるな。かつてその仮面を制作した時に会ったことがある……と、いってもかなり昔の話じゃが……」


 ウサギさんがトトメス帝をちらり。

 海底神殿探索で、髪もアヌビス仮面もボロボロにさせた彼女は、ぜぇぜえ。

 落ちかけた衣服を直し……ぼそりと応じる。


「この身体では初めまして、カグヤ様。ワタシは……って!? それどころじゃないんすよ!」


 話に割り込み、私は聖書で神聖属性の結界を構築する。


『事情説明は後でするよ。それよりも――君たちには早急に難民の受け入れ態勢を作ってもらいたい。対象は全て眷族化済み。ネコと黒マナティーとなっているからね、種族間のトラブルは起きない前提で話を進めて問題ない筈さ――頼めるかな?』


 急いで告げる私を見てやってきたのは、耳の長いネコ。

 人語を話せるようになったネコ聖騎士ローラくんが――キリリ!

 前より凛々しく、頼りがいのあるネコ顔で言う。


「エルフ達の受け入れと同じ状態にするのだニャ? いえ、するのですね。了解しました、それはこちらで手配いたしますが……いったい、何をなさるおつもりなので?」

『ここらで黒幕さんに登場して貰おうかって思っているだけさ。君の暮らしていた大陸、アーレズフェイムにも関係している話となるね』


 ローラさんの、ネコ眉の上の長い毛が、ぴこんと跳ねる。


「なに? 黒幕だと!?」

「どういうことなのですか?」


 カーマインくんが動揺した声を上げ、更に続ける。


「これでムースベース大陸も一応の平和を取り戻したのですよね? アーレズフェイムも休戦中で、和解状態に近いですし……我等のミドガルズ大陸は邪竜の消滅により、平和となった。世界が平和になったのでは……」

『そうだね。まるで誰かの描いた筋書きのように三大大陸は全て、安定した状態にはなったかもしれない。カーマイン君。私はね、それもちょっと気に入らないのさ』


 告げて私は、城の庭園フロアに移動不可属性を追加する。

 これで中からも外からも大きな干渉は出来ない。


 空から地上を見下ろし。

 モフモフなウサギ毛を膨らませたドウェルグ族のリーダーは、モチモチと歯を鳴らし。


「ふむ……とりあえず、わらわはドウェルグ族を率い、行動を開始するぞ? この邪聖剣エデンに新たなネコ魔獣が住めるスペースを、なんとかすればよいのだな。居住フロアを追加で建設してくるが、ケトス殿、構わぬな?」

『ああ、必要な建材は聖父クリストフに頼めば召喚してくれる筈だ』


 頷き、ウサギさん達はウッサァァァァァァ!

 仕事だぜ!

 建てるぜ! 建てるぜ!

 と、ぴょんぴょん跳ねて、この場を後にしようとするが。


『ああ、すまない。カグヤくんだけは、もう少しだけ待って欲しい。ドウェルグ族の長として、君にも証人になって欲しいんだ、ローラくんにもね』


 ウサギさんとフォレストエルフキャットのローラくん。

 二人は互いに顔を見て。


「どうしたというのですケトス様。ネコ化させた住人を、大急ぎでこの天空城に回収するものだとばかり思っていたのですが――」

「妾もそう思うておるのだが?」


 ダブルもふもふに向かい、私は眉を下げる。


『ああ、回収するよ。ネコとなり、魔王陛下に忠誠を誓ったモノは仲間だからね。けれど、その前に。そろそろこの物語の主役に再登場して貰おう、そう思っているのさ』


 言って私はカーマイン君をじろっと睨む。

 既に包囲は完成している。

 逃げる事は不可能。


『そういうわけさ。もういいだろう? チェックメイトだよ』


 睨まれたカーマイン君が後ろを見て。

 何もいないのを確認すると……慌てて、自らを指差し。


「え? は? な、何の話ですか!?」

『いやいやいや、君じゃないって――君がずっと持っているその手帳。用があるのはそっちの方――さ!』


 宣言と共に、私の黒髪が揺れる。

 赤い瞳で睨んだ、その先にある報告書用の手帳に闇の楔を投射!


 ズガジャッ、ズジャジャジャジッァァアアアアアアァァァ!


 トトメス帝とローラ君が、錫杖と魔剣を召喚し装着。

 戦闘の気配を察したのだろう。


『今の内にその場を離れたまえ、カーマイン君!』

「は、はい!」


 ヴァンパイアの能力で身体を霧に変えて、ザァァァァァァ!

 彼は一人だけ非戦闘員なドウェルグ族、その長のカグヤくんを守るように再顕現!

 私が授けた突聖剣、バンブーニードルを握り――。


「な、なぜわたしの手帳が……っ、このような膨大な魔力を」

『魔道具に意思や人格を転写させる。トトメスくんの人格をコピーしていたあの魔導書と、似た原理を使っているのかな』


 言葉を肯定するように、手帳がひとりでに動き出し。

 ぎしり。

 赤い血を吐き出しながら、ページが開く。


 音が、響いた。


「いやはや、参りましたな。気付いておられたのですか」


 浮かぶ報告書。

 魔力が滲んだメモ帳。

 目の前のこれを何と形容するべきか悩みつつも、すぅっと息を吐く。


 私は肩を竦めて、言ってみせたのだ。


『そりゃあ気付くさ。本や魔道具に自らの魂の分霊体を潜ませる、それくらいはどこの世界でもよく見かける手品だからね』


 本のページが口となり、その先端から生えだしたのは――。

 吸血鬼の牙。

 本は悪びれもなく、語りだす。


「しかし心外ですな。あのような劣化コピーと同じにして貰っては困るのですが、まああなた様は、強大過ぎる存在。俗物が扱う魔導技術など、どれも同じに見えるのでしょうか。ならば、ふむ、仕方なき事なのでしょうね」


 本から赤い魔力があふれ出す。

 放つ魔力は分霊だと思われるのに、九重の魔法陣に匹敵する。

 これを、あくまでも遠隔操作で操っているのだとしたら――。


 神父姿のままの私は、聖書を翳しバサササササ!

 皆に防御結界と能力向上結界を展開。

 不意討ちにも耐える状況を生み出す。


 そして。

 この男の名を呼んだ。


『闇王にしてかつての勇者の供。ブラッティ=マリアン=ヴァージニア。血の伯爵――やはり裏で糸を引いていたのは、君だったんだね』


 周囲が息を呑む。

 皆が知っている名だったからだろう。


「これはとてもありがたいですな。天下に名高い大魔帝殿にフルネームで覚えて頂くなど、ワタクシも捨てたモノではなかった――という証でありましょう」


 本が、くくくくっと微笑する。


 カーマイン君にとっては寝耳に水。

 まったく予想していなかったのだろう。

 開いた眼で報告書の本を眺め、その唇が言葉を漏らす。


「まさか……ヴァージニア陛下……なのですか?」

『ああ、本体じゃないけれどね。今頃、彼の本体はミドガルズ大陸で戦争の準備でもしているんじゃないかな? 君が報告書をまとめる度に、こちらに干渉。ずっと……というわけにはいかないだろうけど、ちょくちょくとこちらを眺めていたのさ』


 表情を失った聖騎士が、唇だけを動かす。


「なぜ……」

『一連の事件は全て、彼の計画で話が進んでいた。それだけの話だよ』


 ヴァージニア伯爵。

 彼の立場を説明する最適な言葉を、私は知っていた。

 それは――。


 黒幕。


「いったい、何が目的で……! いえ、それよりも陛下はどうしてっ、どうしてわたしにお伝え下さらなかったのですか!? 信用して下さらなかった? そういうことですか!?」

『いーや、違うよ。君は命令されていた筈だ、私達の監視をね。そして伯爵は君がそれを守る事を知っていた、だから信用はされていた筈さ。問題は、もっと別の所にある。君の信用をヴァージニア伯爵、彼が裏切っていたという事さ』


 おそらく。

 ダンジョン領域日本でしばらく暮らしていた影響を考慮したのだろう。

 吸血鬼眷属としての強制支配力は弱まっている筈。


 だから、何も知らされていなかった。


 カーマイン君の揺れる瞳を静かに横目で一瞥し――。

 私は魔書ヴァージニアに向かい言う。


『私はね、主神シュラング=シュインクの過去を見た。それは酷く寂しい男の、孤独な物語だったさ。そして、私は見た。その記憶の中に……赤い瞳の部下を見たのさ。彼はきっと、主人であるシュラング神に同情をしていたのだろう。感謝をしていたのだろう。私が魔王陛下に忠義を尽くすように……彼にとってはシュラングくんこそが絶対的な存在だったのだろうね』


 あの主神は……あまり認めたくないがまともな神だった。

 ならばこそ、その手に救われた民もかつては多く存在したのだろう。

 その中に、彼が含まれていたとしても不思議ではない。


 私の口は過去をなぞるように動き続ける。


『けれどだ。忠義や忠誠、主人を思う道は千差万別。部下は部下でも種類は様々にある。命令に従うだけが忠義ではない。命令を盲目的に遵守する部下とは違う在り方を、彼は選んだのだろうね……。主神の手に拾われ救われ、真祖となったその男は――主人のために、自らで考え、行動する部下だった』

「もしや、その男とは……」


 カーマイン君も理解したのだろう。

 周囲も、もはや言わんとしている事を察している。


 主人のためならば、何を犠牲にしてでも――それは、私にも理解ができる感情だった。

 だから。

 私は魔書を睨み、言った。


『ヴァージニアくん。複雑に絡み合った一連の事件とは逆に、君の目的は極めてシンプルだ。かつて主人が見た光。心乾いた主神が欲した美しき心。その持ち主と輝きを、主人の意志など構わずに届ける事。たとえシュラング神に見捨てられようとも、動き続けていたのだろう? その心だけは素直に賞賛し、尊敬すらしてもいい――けれど、すまないね。理解はできるが納得は出来そうにない』


 それは――。

 言葉にすると、本当に一言程度で終わってしまう。

 けれど、そのために――この世界は混沌と化した。


『目的はただひとつ。魔王陛下の娘にして真なる勇者――ヒナタくんと、敬愛する主神を再会させること。それだけだね?』


 空気が、固まる。

 カーマイン君が、震えた眼で魔書に目をやる。

 きっと、否定して欲しかったのだろう。


 だが。

 本は偽りのない言葉を語りだす。


「お見事ですよ、ケトス様! いやはや、実に素晴らしい! さすがはワタクシと同じく、主人をこよなく愛する哀れなる魂。少しだけ、ええ、少しだけ――気付いていただいたことを嬉しくも思っておりますよ」


 そう。

 これは愛を知らぬ主神シュラング=シュインクが、とある少女に恋をしてしまったが故に起こった。

 事故のような悲劇。


 主人が想う相手を、その傍に……。


 そのためだけに、手段を一切選ばなかっただけの話。

 大魔帝としての私の鼻梁が、黒く邪悪に染まり上がる。


 人とネコと魔。

 全ての心が合わさった大魔帝たる私の影が、唸り声を漏らす。


『貴様――それだけのために、いったい何人の無辜なる魂を犠牲にした』


 問いかけに応じて、魔書が空気を揺らす。


「さあ、もう覚えてはおりませんな。けれど、構いませんでしょう? どうせ、この世界の人類は魔竜やワタクシも含めて全員が歪んでいる。下品な言葉を敢えて使わせていただきますと、クズばかり。存続する価値など、殆どない――不完全な失敗作なのですから」


 それが問いかけへの答えだったのだろう。

 彼は、数えきれないほどの魂を冒涜している。


 だからこそ。

 私は二人をドリームランドに封印した。

 この現実しんじつを知ってしまうのは――あまりにも哀れだったから。


 魔書ヴァージニアとなった報告書が、壊れた笑みを浮かべるように。

 ぎしり……。

 重なるページの中に、歪んだ亀裂を生み出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] あっちゃー こりゃワリとマジでケトス様ブチ切れッスかね 巨獣人族こそ死と言う名の滅亡かと思ってたらやっぱりニャンコ化だったwww
[良い点] あら、黒幕あんたなの!((o(^∇^)o)) [一言] ひょっとしたらこの人、実はケトス様に似ていらっしゃるのでは?((o(^∇^)o)) ケトス様があの人を嫌ってるのは実は似た者同士…
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