ドウェルグ族のセクハラ ~もふもふだから許される~
エルフの聖騎士ローラさんに案内されてやってきたのは、地底の王国。
ドウェルグ族達。
ドワーフに似た種族が住まう、地下深くに建設された城下町だった。
直接目にしたドウェルグ族の印象は、まあウサギ。
だろう。
これ……ドワーフはドワーフでも。ドワーフラビットじゃん……。
以前、勇者の関係者だったウサギ人族のウサギ司書と出会ったことがあったのだが。
彼女をちょっと大きくしたような種族だったのだ。
ようするに、でっかいモフモフウサギである。
まあ確かに。
ウサギはああみえて筋力がそこそこある。
四足歩行も二足歩行も可能なようで――、あちらこちらにウサギさんがピョコピョコぴょん♪
ヒナタくんが言っていたように、わりとガッチシとした体格でもあるが。モフモフなので、見た目は本当にただの巨大ドワーフラビットである。
これは、だいぶ想像していたイメージと違うな……。
まあドウェルグ族がドワーフウサギでも、別にいいけどね。
錬金術により生み出された地底の壁には、魔力の灯りが灯っている。
眠らずの常闇王国。
そんな言葉が浮かんだのはおそらく、ネオンに似たピンクの看板のせいだろう。
エルフの住まう国とは別の場所にあるのだが――、まああっちに寄る義務もないからね。
冷たい土を、ぷにぷに肉球で歩く私!
このニャンコ大魔帝は、周囲を興味津々にチラり!
連れである女子高生勇者ヒナタくんも、周囲を見渡し。
「へえ、二百年前はこんな地下王国なんてなかったのに、凄いわねえ」
『魔力に満ちた土で守られているようだね。魔導太陽と魔導月光。時間によって切り替えれば、朝と夜も作ることができる――か。まあ、魔竜に襲われにくいって点でも悪くない発想だ。ただ――』
私はジト目で、ギラギラと輝く街並みに目をやって。
じぃぃぃぃ。
ドウェルグ族ことドワーフウサギどもを更に、じぃぃぃぃっぃ。
ウサギ手で器用に掴んだ大ジョッキを、ぐっぐっぐ、ぷわぁ!
酒はうめえなあ!
と、ファンタジーな見た目とは裏腹に、豪快に飲んで食って遊んでいるのだ。
月が出ているが、時刻的にはまだ昼間。
『ねえローラさん。なんでこのウサギさんたち、昼からお酒飲んでるの……?』
「ドウェルグ族は欲に忠実、奔放な種族だからな。ただすまないが、アタシと同行している時はあまり店には寄れないからな? 酒場は……まあいいのだが。キャバクラやホストクラブなどは……、そのぅ……違法営業なので、あまりアタシが目をやるわけにはいかんのだ」
違法だと分かっていても見逃している。
ということか。
『ていうか、なんでドウェルグ族の長はそういうお店を禁止にしているんだい? 奔放な種族のリーダーなら、禁止にしても無駄、余計に反感を買うだけだって分かるだろうに』
言葉を選ぶように……彼女は唇を動かす。
「禁止にしているのは我等の女王陛下。この地下と、魔導太陽と魔導月光――三種の魔道具をドウェルグ族に貸しているあの御方なのだ……。禁止の理由は、まあ……表向きは宗教上の理由さ。陛下曰く、こんな歓楽街は女神ヒナタ様の教義に反するということなのだが……まあ、実際は陛下の主義に反するという事だよ」
『全然守られていないようだけどね。エルフの女王陛下とドウェルグ族はあまり良い関係ではないのか』
女王に仕える騎士である彼女は、それを否定しない。
無言の肯定か。
ともあれ。それはいいのだが。
周囲を見渡し露店を探す私の横。
女神ヒナタといわれて、正体を隠しているヒナタくんが顔を真っ赤に染め上げていた。
涙目になって、口元がぷるぷる震えている。
「お嬢さん、どうかされたか?」
「いえいえいえいえ、ローラさん。あははははは、うん、なんでもないから。まったく全然、問題ないから。気にしないでくれると、嬉しいなあ? みたいな?」
まさかこの大陸で女神と崇められているご本人様が、ここにいるとは思わないよね。
ウサギ天国の地下王国を見渡し。
もう一人の連れ、カーマイン君が歓楽街を睨みながら淡々と言う。
「しかし、賑やかなのは良いのですが――ドウェルグ族は少々、そのなんというか……奔放過ぎませんか? 許可なく女性の肌に触るなど……我が大陸では、考えられません」
街の灯りで頬が赤くなっているのか、それとも……。
ともあれ、瞳と耳先を赤くするカーマインくんを――ちらり。
ローラさんが眉を下げる。
「文化の違いと考えるしかないでしょう、カーマイン殿。あなたのような高潔な方には、少々この街の灯りは眩しく見えてしまうのでしょうが。どうか、ご容赦願いたい。ドウェルグ族のクリエイト職としての力は本物。あまり敵対したくはないのです」
彼女に言われると、まあ仕方ないかというしかない。
実際、案内をしてくれた聖騎士ローラさんは被害に遭いまくり。
道行くドウェルグ族に、本気で怒るまではいかない微妙なセクハラを受けていたのだ。
今もただ道を歩いているだけで、即セクハラ。
人工の魔導お月様の下。
酒場のラウンジで盛り上がっているドウェルグ族達が、ガハハハハハ!
よお! エルフの騎士さん、俺の嫁にならねえか?
いやいや、ボクの所にきてくださいよ。
なんて、今も樽にも似た大ジョッキを掲げて、絡んでいるのである。
これ、見た目がかわいいドワーフウサギじゃなかったら、エグイ事になってたな……。
大魔帝な私。
紳士ニャンコなネコ魔獣としては、なんとも反応に困ってしまうのである。
うわぁ……と酔っ払いウサギどもを眺めて、私は言う
『そういえば――すまなかったね、ローラくん。まさかこういう歓楽街だとは思っていなくて』
「構わぬよ。もう慣れている。ドウェルグ族は鍛冶や錬金術、いわゆるクリエイト職のスキルが得意なのだが――いい意味でも悪い意味でも豪快な連中でな。彼らにとってはこれが普通の挨拶なのだ」
と、長い耳を僅かに下げる、エルフ騎士のローラさん。
まあ、こっちはいいのだ。
私は恩人だし、その恩に報いるためには我慢もするし、なによりもドウェルグ族のセクハラには慣れていると笑っている。
もふもふウサギにセクハラされても、大きな怒りにはならないのだろう。
まあ。
見た目もかわいいしね、このウサギたち。
で、何が問題かって言うと。
私の横。
魔力の灯りを浴びて――黒い髪を淡いオレンジ色に輝かせるヒナタくん。
「ちょ! 待ちなさい! あんた、そこの糞ウサギ! エルフの姉ちゃんの尻を触っておいて! まさか、謝りもしないで逃げるつもりじゃないでしょうね! 触ったなら金ぐらい置いていきなさいよ!」
『いや、金って……そっちの方が微妙に失礼じゃないかな』
ガルルルルルと唸る彼女は、そのまま叫びに怒りを乗せ。
ぐわ!
「なによなによ! なんでローラさんばっかりセクハラされて、あたしには全然、まったく、これっぽっちも手を出さないのよ! あたし、これでもちょっとした美少女なのよ!? そりゃ、大人の魅力的なアレは……そう、なんつーか、アレかもしれないけど! ノータッチはそれはそれで、むかつくじゃない!?」
そう。まったくセクハラを受けずに唸る彼女の方が問題なのだ。
地下王国に足を踏み入れた際。
ヒナタくんがいやあ、セクハラされちゃったら困るわよねえ! なんて言っていたのに、まったくのスルー。
それが、彼女のプライドを微妙にじわじわと傷付けているようなのだ。
でも、勝手に触ったらそれはそれで大爆発だろうし。
ニャンコ的にはどう反応したらいいか困り、同じ女性であるローラさんに目線をやる。
ローラさんが気まずい顔で、そっと目線を逸らし。
「その、お嬢さん。すまないがあなたは……まだ子供なので――。ドウェルグ族も冗談で手を出してはいけないと、分かっているのだ。あのウサギの見た目だから分からないだろうが、寿命はエルフ族とそう変わらないからな。長命種なのだ、子どもには優しい……」
「子どもには手を出さないって言うんでしょ!? それがムカつくって言ってるのよ! そりゃあたしだって分かってるわ! けどねえ、大人とは言わないけど、もう子どもって歳じゃないのに! なによなによ! ちょっと胸が大きいからって! 勝ったつもりじゃないでしょうね!」
ぐぬぬぬぬと、面白い顔をしているヒナタくんが、ビシ!
ローラさんの胸の谷間を指差し。
自分の胸を見て、がくん……。
「いや、ていうかあたしがそもそも間違ってたわ。その爆弾サイズに勝てるはずないモノね……」
彼女が項垂れるのも当然か。
なにしろその……ローラさん、鎧を脱いだら結構凄かったのである。
ちなみに、ヒナタくんも最近は成長していて――たぶん平均よりは上のバストだとは思われる。
相手が規格外なのだから仕方がない。
ともあれその爆弾……。
じゃなかった。
ローラさんは騎士の口調で、けれど困ったようにハハハと笑う。
「爆弾といわれるのは……色々と複雑なのだが。まあいい。どうかドウェルグ族を許してやって欲しい。あれが彼らのコミュニケーションなのだ。本気で嫌がるラインは絶対に超えない。そういう信頼感がアタシと彼らの中で結ばれているんだよ」
「つまりあたしの場合は、触られたらメチャクチャ怒るって分かってるって事か」
実際、セクハラを受けたらヒナタくんは激怒。
周囲一帯をマグマに変換するぐらいはするだろうし、ねえ?
あのもふもふドウェルグ族はよく見ている。
「さて。そろそろ目的地さ。この酒場の奥に鍛冶工房がある。ドウェルグ族の長がそこでお待ちだ。聖騎士カーマイン殿がいると伝えたら、ぜひ会いたいとのことだからな。それとケトス殿。酒場は貸し切り状態にしてあるそうなので、寛いでいってくれ。代金はアタシ持ちだ、遠慮はいらないよ」
紛失させた聖剣の製作者が待っている。
そう言われた紅の聖騎士カーマインくんが、うぐっと背を跳ねさせていた。
陶器のようなマネキンフェイス。赤い瞳とよく似合うその白い肌に、薄らと汗が滴っているが――。
まあそりゃ、大事な聖剣をロストさせたらそうなるよね。
ともあれ気を取り直し。
カーマインくんが騎士として頭を下げる。
「ありがとうございます、聖騎士ローラ様。いずれまた」
「ああ、聖騎士カーマイン殿。ぜひ一度、貴殿と戦ってみたかったが――我等はいまだ魔竜達と交戦中。そのような余裕ある平穏な時代になるまで、待つとするよ。それでは道化師ケトス殿、此度は大変世話になった。女王陛下との謁見は正直勧めぬが……我等の国にも訪ねてきて欲しい。正式な礼もしたいのでな」
プライベートであっていたのなら、きっと。
彼女ももう少し柔らかい口調になっていただろう。
そういう雰囲気が伝わる、優しい言葉だった。
『ああ、またね。とりあえずはしばらくここで宿を取るから、何かあったら黒猫を探しておくれ』
「それでは。そちらのお嬢さんも、いずれまた」
ローラさんが聖騎士の顔で、頭を下げ。
ビシっとちょっとだけカッコウイイ敬礼をし、街の中に消えていく。
ウサギ軍団にセクハラを受けながら雑踏へと消えたエルフの背を見て。
ヒナタくんがぼそりと言う。
「行っちゃったわねえ。愛想は良かったけど、もうちょっとゆっくりしていっても良かったのに」
『仕方ないだろう。彼女は指揮官。先の戦闘の報告もあるはずなのに、こちらの案内を優先してくれたんだ。今頃、そのエルフの女王陛下とやらのもとに、大急ぎで戻っているんじゃないかな』
私の言葉に、カーマイン君が赤い瞳を光らせる。
「この大陸を治めるエルフの女王、ですか……。我が主とは違い……残念ながらあまりいい噂は聞こえてきませんでしたね」
『それほどあの狡猾腐れ商人ヴァンパイアは、まあうまくやっているって事だろうね。実際に、ほとんどの魔物……この世界ではもはや彼らが神の眷属なのか、ともあれ――敵はちゃんと駆逐できているわけだし。あれでもうちょっと性格がよければなあ……』
ああ見えて。
やるべきことはやっているのだ。
人類すべてが不死なる吸血鬼になる事で、滅びを回避した地。
ミドガルズ大陸。
あの大陸に残しているカピバラパパからも、伯爵の評判はイイらしいとの連絡がきているしね。
民から支持を受けているのだ。
しかしこちらは――。
本来なら地上にあるエルフ王国。
その民たちだと思われる集団の不平不満の声が、あちこちから漏れ聞こえていた。
今も目線に映る酒場のラウンジ。
ウサギの店員がエルフの客に、ビールを差し出す姿が見えた。
エルフはあきらかに祖国の愚痴をいっていた。
「ここはいいよなあ……あの女王様がいなくてよ」
「よせよ、もし女王の耳に入ったらどうするつもりだ」
「大丈夫だ。ドウェルグ族達はチャランポランに見えて、義理堅い。女王への不敬がバレたら処刑だろ? それを口にする程、非常な奴らじゃない。遊び人だし、男女問わずセクハラ大好きなウサギどもだが、最後の一線は絶対に超えないのさ」
と、ドウェルグ族を信頼するエルフの男性客。
そのお尻を店員のドワーフウサギがべちんと叩いて、ウササササササ!
あ、マジで女性のドウェルグ族は男性エルフにセクハラしてるでやんの。
なるほど。
だから大人の女性で、笑って許してくれるローラさんにはセクハラをするが。
長命である彼らにとって、完全に子ども同然であるヒナタくんには、一切のセクハラをしなかったのだろう。
ま、まあヒナタくんにとってはそれもイラっとポイント。
完全に子どもだと思われてアウト判定にされているのが、気に入らないわけで。
乙女心は複雑なのだろう。
ともあれ。
周囲の言葉に眉を顰めるヒナタくんとカーマイン君に向かい、私は明るい声で言う。
『とりあえず、長と会って謝っちゃおうか。私も何か食べたいしね!』
エルフ族がわざわざドウェルグ族の歓楽街で、愚痴を漏らす。
なんとも悲しい光景を眺めつつも、私達は酒場の扉を開けた。
◇
ドウェルグ族の長がいるという酒場に入ったのは。私達。
ニャンコと女子高生と、吸血鬼騎士。
もちろん、代表して酒場の扉を開けたのは私――大魔帝ケトスである。
本日は休みだったのか。
それともアポイントメントを取ったので、臨時休業になっているのか。
酒場の火は灯っていない。
雰囲気は冒険者ギルドの酒場にちょっと似ているかな。
そのまま案内役の小さな空飛ぶ妖精に連れられて、ドウェルグ族の長と対面を果たしたのは良いのだが。
カーマイン君が聖剣について謝罪すると。
「はぁああああああああああああああぁぁぁぁぁ!? 妾の生み出した聖剣、ドウェルグミキサーを紛失したじゃと!?」
地底王国そのものを揺らすほどの雷声が、カーマイン君に直撃していた。
ちなみに。
私とヒナタ君はおもいっきし無関係な顔のまま、貸し切り状態の酒場でお食事中。
熱々鉄板でこんがり焼いたウィンナーと、きめの粗いマッシュポテトを同時に頬張りながら。
むちゃむちゃ。
ヒナタくんが言う。
「カーマイン君も大変ねえ。やっぱり怒られてるじゃない」
『可哀そうにねえ。でもカーマイン君だけが悪いわけじゃないんだよ? あの装備を作った人が、ちゃんと錬金術不可属性を付与しなかったせいなんだし。しかもあれ、食事不可属性もついてなかったからね? ただ不壊属性を足しただけの二級品じゃ、いつか壊れても仕方なかったんだよ』
「あんたねえ、なに他人事みたいに言ってるのよ……」
あ、カーマイン君がこっちに来た。
『お説教はどうだったかい? 許して貰えたかな?』
「それがその……経緯を説明したのですが……」
訴えるような目で、私を見ているカーマインくん。
その心は読まなくても、なにがあったのかは理解できる。
『どうせ、君の話が本当かどうか分からんから。その聖剣を爪とぎに変換しやがった大魔帝ケトスとやらを連れてこい! その聖剣はなんだ!? バンブーニードル? とっとと、その職人を連れて来やがれって、胸倉を掴まれたって所かな』
「何故分かったのですか!」
なぜって。
声はちょっと聞こえてきてるし、職人気質な鍛冶屋があの聖剣……バンブーニードルを見逃すはずがないし。
ハッキリ言って自慢だが、私、鍛冶スキルも神話領域だし。
いやあ、修行時代にアイテムクリエイトにハマって、片っ端から合成しまくっていた懐かしい日々を思い出してしまったのである。
思い出に浸ろうとしていたのだが。
ピョコピョコピョコっと、ウサギの足が酒場の床を跳ねる音が響く。
現れたのは、もふもふ三割増しの魔力を纏ったドワーフウサギ。
おそらく。
彼女がドウェルグ族の長なのだろう。
「ええーい! 異世界の職人とやら! さっさと妾の前に姿をみせるのじゃ! そして、妾の聖剣をロストさせたその罪を詫び、平伏すと良かろう!」
長だけあって、かなり偉そうである。
まあ、ウサギが胸を張ってるだけにしか見えないけど。
「呼ばれてるわよ、ケトスっち」
『えぇ……だって、私今回はあんまり悪くないし……食事を優先したっていいんじゃないかな』
「いや、あんた。聖剣を爪とぎに変えちゃったのって……たぶん、結構悪い事よ?」
見解の相違なのだが。
仕方がない。
私はマッシュポテトとポテトサラダのお皿を抱えたまま、ウサギの長に言う。
『平伏しはしないけど、私はここだよ。で? 何の用なのさ』
「魔猫!? ほう、そなたが――なるほどのう」
椅子の上でドヤる黒猫を見上げる、ウサギさんの図である。
なんだこれと思われてしまうだろうが。
実際、相手がウサギで私がネコなんだから仕方がない。
妾口調のウサギさんが、カーマインくんのお尻に微妙にタッチしセクハラしながら。
ビシっとこちらを睨み言う。
「勝負じゃ! 異界の職人よ! 内容はこの者、カーマインに渡す聖剣の作成。優劣をつけようではないか! 妾もドウェルグ族の長、鍛冶の腕は誰にも負けるわけにはいかぬのじゃ!」
聖剣やら防具やらを作って、どっちが優れてるか。
なーんていうイベントをやるつもりなのだろう。
先が見えていた私は、ポテトサラダに埋まっているキュウリをムチムチ齧りながら言う。
『え? 嫌だけど?』
「ほう、臆したか? ならば妾の不戦勝ということで構わぬな?」
『うん、いいよ』
必殺! 挑発受け流し!
即答する私に、ウサギさんは瞳を真っ赤に染め上げる。
「たわけが! キサマには職人としての矜持がないのか!」
『悪いけど、私の本業は魔術師。クリエイト能力はオマケだから……職人魂とか、そういう話になると正直、ねえ?』
突き放したような言い方をしてやったのだが。
ウサギさんが、床をダンダンダンと足で叩いて。
ついには床に転がり、まるで駄々っ子のようにジタバタジタバタ、転がりだす。
「嫌じゃ、嫌じゃ! 妾は聖剣制作バトルがしたいのじゃぁ!」
あ、長なのに泣き出しちゃった。
騒ぎを聞きつけたのだろう、奥からウサギの群れがやってきて。
はぁ……と、大きなため息を漏らす。
「まーた、長が駄々をこねていらっしゃる……」
「すみませんねえ、カーマイン殿。長は我儘姫でいらっしゃるので」
慣れた様子の部下達を睨み、長うさぎが魔力を滾らせ――。
カカカカカカ!
「たわけ! 今度の我儘は我儘ではない! なにしろ、おそらくこのモノはあの大魔帝ケトス。伝承の邪神なのじゃぞ! この機会を逃すのは職人の恥。お前達もクリエイターなら分かるであろう!」
おや、エルフと違い彼女には私の正体が分かってしまったのか。
ま、本当にクリエイターとしてのレベルはかなりのモノみたいだし……我儘ウサギに見えて、人を見る目が備わっているのだろう。
しかしだ、駄々っ子をする長って……。
ともあれ、床の上で短い手足をバタバタさせる長ウサギさんの言葉。
それがきっかけになったのだろう。
お付きのウサギが、モフ毛をぶわっとさせて。
口を開く。
「異界の邪神? ほぅ、すなわち、異界の技術」
「我等も知らぬ技術。それは確かに、大変興味がありますな」
「そうであろう! ならばお前たちもこの魔猫に頼むのじゃ! 妾! 聖剣制作バトルがしたいのじゃぁぁぁぁぁ!」
言葉と共に、赤いウサギの瞳がギラギラギラ!
店の外でも、なぜか赤い光がギラギラギラギラ。
周囲の空気も――変貌した。




