校舎襲撃 ~魔術と科学とドヤ猫と~その2
ちょっと大きな会議室程度の広さの場所に、敵は二十人弱。
軍人なのか、それとも異能力者組織のような団体か――正体は不明。
対するこちらは細面の社長さん――。
金木白狼くんとその契約魔物かつ、進化中のグリーンスライムくん。
更に影の中から遊びにやってきた影猫達。
そして!
この私、モフモフ素敵で優雅なニャンコ!
天下に名高き大魔帝ケトス、その人である!
私が攻撃を仕掛けるよりも前に、相手のリーダー女がバッと手を翳し。
宣言した。
「ミッション発令! 捕獲対象、異能力者――金木白狼。そして、異世界ネコ魔獣のC。生死は問わず、素体さえ確保できれば良しとする! 全員、近接戦闘――構え!」
モニターからの光を反射させ、黄金色に輝くブロンド髪を靡かせ――。
演説を締める口調で、キリッ!
「細かな行動は各自の判断に任せるわ! 正義は我等にあり!」
「正義は我等にあり!」
「我等にあり――!」
まーた、正義だって……。全員の瞳が狂気で染まっている。
たぶん、例の扇動者の力を受けているのだろうが――鼻で笑いながら言ってやる。
『正義ねえ? 民間人と、丸腰なネコちゃんを相手に銃を構えて、正義かい? 君の国の正義は随分と安いんだね?』
ツッコミを入れる私に、相手側の反応は薄い。
無視である。
イラっとするが、ここはこっちが大人になるか。
「一斉掃射!」
命令と同時に、二十人弱のニンゲン達は行動を開始!
カチャチャチャチャ!
ズダダダダズズズザザザザ!
銀の銃弾による、攻撃である。
音だけはすさまじい銃撃戦が始まったのだが。
まあ、なんつーか。
ただ獣特効の銀を付与しただけの銃弾が、私に効く筈も無い。
えぇ……どうしよう。
これ、痛がったフリとかした方がいいのかな?
汗を浮かべた鷲鼻男が、吠えるように言う。
「ボス! なんかやべえですぜ! 銀の散弾がまったく効いてねえ!?」
「構わん、畳みかけろ!」
更に、奥の数人が、重そうな機械でこちらを攻撃。
ブォォォッォッォォォォォォガガガガガ!
もふもふもふもふ!
回転式の……ガトリングガンっていうのかな? 魔術師なので、重火器に詳しくない私には分からないが、高速で撃ち続ける銃弾が私のモフ毛を甘く撫でていた。
熱を帯びた濃い硝煙が煙幕となる中。
鉛と銀の香りが広がる部屋。
反射するモニターの光を受けて――私はカカカカカ!
首のモフモフ部分を、後ろ足で掻いてやったのである!
そのままモコモコと巨大化していき、くわっと牙を見せつけ唸りを上げる。
『くくく、くはははははは! 脆弱なる人間どもよ、所詮はその程度か! つまらん、つまらんぞ! 人類よ!』
なんとなくボスっぽい反応をしてみた。
相手は私のボスっぽい空気に反応し、だんだんとギャグ空間に呑み込まれていく。
「なんだこのモフモフは、バ、バケモノか!?」
「怯むな! 必ず効いている筈だ! あれは、そう、やせ我慢だ!」
ビシっと指差すブロンドリーダーに、周囲はえぇ……、と困惑気味。
ギャグ空間に取り込んだ理由は単純。
正義洗脳が解けてくれることを期待したのだが、解除されないね。
『んー……どこでファンタジーな属性を聞き齧ったかは知らないけれど、レベル差による影響さ。いくら獣特効の銀を混ぜたところで、無駄。蟻んこがどんだけ頑張って体当たりしても、高層ビルは倒せないだろう? それと同じことだよ』
瞳をギラギラギラ。
銃弾をまったく気にしない私であるが。
絵面としてはこれは、ネコちゃんに対するいじめ。
証拠はバッチリと撮影済み、完全にアウトである。
声を失いつつある人間達を眺め、ふっと宣言する。
『さて、んじゃあ悪いけど――今度はこっちの番かな。開け次元の扉! ネコちゃんを虐めた罪は重し! それ相応の罰を与えさせて貰うよ!』
告げた私の身体が――スススス……ぽちゃん!
影の泉の中に消えていく。
影猫達もまた、影の中に消えて、クスクスクス。
相手側からしてみると、こちらはスライムに覆われたスーツの男に。
影に溶ける無数のネコ。
なかなか意味の分からん光景だろう。
ギリっと周囲を見渡したブロンド髪のリーダー姉ちゃんが、険しい表情で命令を下す。
「影を撃て! ヤツは必ずそこにいる!」
「イエス。マム!」
私は影猫達に向かい、スゥっと息を吸い。
にゃはり!
とりあえずやることは決まっている! 嫌がらせである!
『さあ! みんな、ここにいる全員の影に入り込んで、帰路をハック! 自宅に潜入! 通帳と口座と、スマホとパソコンを盗んできておくれ! で! 隠しフォルダとか、削除されたウェブの閲覧履歴を掘り起こして報告を!』
私の悪戯な気配を察したのだろう、影猫達は瞳をギンギラギン!
ニャニャ! 分かったニャ!
と。
宣言に従い影に入り込んでいく影猫達。
そのモッコモコな背を眺め、敵のリーダーっぽいブロンド髪のお姉ちゃんが声を漏らす。
「な……ッ! わ、わたしの美少女コレクションが!」
「お、おれの、美少女コレクションが!」
鷲鼻男も続いて同じ言葉を漏らすが……上司と部下で、趣味同じなんかい!
まあ、この二人だとちょっと意味が異なってくるが……まあいいや。
キュインキュイン!
おそらく、自宅に侵入者があったときにスマホが鳴る仕掛けになっていたのだろう。
アラーム音が、敵さん全員から響き渡る。
カチカチカチ、ヴォン! ヴォン! ヴォン!
ダダダダ、ターン!
マウス音と、キーボード音も、周囲に響き渡る。
影猫達が、盗んだパソコンを操作し次々とこちらのモニターに情報を送信。
画面には、それはもう恥ずかしい個人情報が浮かんでいた。
これぞ、必殺!
現代社会に生きる者達への、特効攻撃!
人類のパソコンなど、忍び寄るネコちゃんにかかったら一発開示なのだ!
影から再び姿を現した私は、ふふーんとドヤ息を漏らし哄笑を上げる。
『ぶにゃははははは! ファンタジーな世界観の戦いには慣れていないのかい? 空間転移なんてお手の物、ちゃんと自宅も結界で覆っていないなんて、まだまだ甘いね!』
「わ、わたしのカレンちゃんの情報が……じゃなかった、パソコンから情報を抜き取られるとマズい! 全員、ターゲットCに集中砲火!」
ターゲットCとは私だったようで。
一斉に砲撃が開始される。
が――!
すかさず私は肉球をパン!
硝煙と銀を利用して、錬金術を発動!
相手の手元を黒い靄で覆ってしまった。次の瞬間。
敵さん達は、一斉に驚愕する。
「銃が……消えただと!」
『ねえねえ、そんなサトウキビを掴んで何をやってるの? 早く次の攻撃をしないと、このまま倒しちゃうよ?』
既にここは私の影の中。
詠唱も名乗り上げも不要で、錬金術ぐらい発動できてしまうのだ。
敵さん全員の手には、銃の代わりにサトウキビ!
あのチューチュー吸ったり、齧って甘さを楽しむアレである!
「これは、催眠か……っ!」
『いや、ただ君たちが持っている重火器を錬金術で変換しただけだって……』
モフモフなネコ顔に、ぎゅぎゅっと皺を寄せ。
『ふーむ、どうやら本当に君達は、私に対する対処法を何も考えていなかったようだね。ちょっと興醒めかな。ねえ、そろそろやめにしないかい? 弱い者虐めって、あんまり好きじゃないんだよね。ここまで力が離れすぎてると、ちょっと可哀そうになってきちゃったよ』
挑発ではなく、本当に降伏勧告だったのだが。
まあ、そうそう話を聞く筈も無い。
こういう場合、なんか偉そうな敵さんがやってくる行動パターンは見えている。
どうせというか、なんというか。
強引な戦術を好む暴走気味な部下が、弱く見えるハクロウくんを狙う……。
まあそんなところだろう。
案の定、動きは直後にあった。
鷲鼻の男が豹のように駆け――ハクロウくんに向かい一直線!
はい、きた。このパターン。
月並みな反応である。
「この猫は明らかに何かがおかしい! ボス! こっちの男を確保します!」
「バカ者! 迂闊すぎるぞ! それはスライムを使役している!」
ブロンドリーダーお姉ちゃんの制止が響いたが。
鷲鼻男は、そのまま――ダッダダダダダダ!
「知ってますぜ、ジャパニーズのスライムは雑魚! ネットで勉強しましたから!」
「バカ者! それはゲームだけの話、データベースにあるスライムは最強クラスの魔物で! いいから、戻れ! 死にたいのか!?」
伸ばすリーダーさんの手は、ちょっと遅かった。
対人戦闘には慣れているのか、前かがみになって駆ける鷲鼻男の姿は様になっているし、それなりに早いのだが。
これはファンタジーもある世界観での戦闘。彼らの常識も定石も、通用しない。
突撃してくる敵を見て。
進化を続けるスライムくんが、体液の亀裂からムシューっと息を漏らし。
「ほう、やっと出番、カ!」
「はっはー! まずはスライムごと――そこの社長さんとやら、てめえを人質にしてやるさ!」
魔術カードを構えるハクロウ君を制止するように、スライム君がニヒィ!
体液で作られた亀裂の口を、ぐじょりぐじょりと上下させる。
「畏れよ! 人類ヨ! ワレこそが進化したモノ。《冷笑を浮かべし反逆者》。かつて、古き者に支配されしソンザイ! エンペラーの名を冠するショゴスの皇帝なり!」
ショゴスの皇帝?
ショゴスエンペラー……。
モンスター名かな。
ネコ眉を歪める私の前で――ショゴスエンペラーの粘膜の塊が、ぐじゅり♪
八重の魔法陣を展開する。
鷲鼻男も、その異様さにようやく気が付いたようだが。
「……な……っ――……話がちが……ぅ」
「盟約に従い、キサマを、討トウ。さあ、ワレと共に。古き、支配者からの、カイホウを願おうではナイカ!」
テケリケリケリ!
歪な鳴き声と共に、向かってきた鷲鼻男をそのまま。
パックン!
スライム結界とは違う空間に、ウェルカムイン!
ぐじゅる、ぐじゅる。
冷笑を浮かべるエンペラーの名を冠するショゴススライムくんが、げっぷ!
それは大変に美味しそうな、げっぷを漏らしましたとさ。
おしまい。
めでたしめでたし……じゃないよ!
『あぁあああああああああぁぁぁっぁ! ストップ、ストォォォォップ!』
これ、まずいかも!?
慌てて肉球で空を走る私は、スライムくんの腹から男を抜き出そうとするが。
手遅れ! プニンプニンと空間干渉を跳ね返されて、取り出せない。
「どうシタ? やべえ、魔猫の王ヨ」
『どうした? じゃないよ! 殺さないって宣言しちゃったし、殺人はまずいよ! 私が嘘ついたみたいになっちゃうからヤダし! 急いで吐き出して!』
毛を逆立て狼狽する私もカワイイわけだが。
進化スライムくんがきょとん?
「食べ残し。ダメ。悪い文化では?」
『それには全力同意だけど、そもそも食べ物じゃないんだって! いや、たしかに色んな種類の魔物がニンゲンを食べるけどさあ、今回はダメ! 残ってる部分だけでいいから、ペっしておくれ、ペっ!』
スライム君は考え込み。
「……、どーしても、か?」
『どうしても!』
意外に美味しかったのか、嫌そうに考えこんで。
「もう、溶けて……ルガ?」
『ちょっとくらいは残ってるだろう! ペっだよ、ペっ!』
しょーがないとばかりにため息を漏らし。
元グリーンスライム君が、ぺっと塊を吐き散らかす。
その塊を見て、ハクロウくんがうっぷと唸りながらも――。
冷静にぼそり。
「これは……ああ、遅かったようですね」
そう。もう遅かった。
一瞬にして鷲鼻男は排出されたのだが――。
カランカランカラン……。
そこにあったのは。
筋肉組織をほんのちょっとだけ残した骨。
あー、やっちゃった……。
さぁああああああぁぁぁぁっと。
空気が一瞬にして凍り付く。
そりゃ――いままで生きていた人間が。
一瞬でこんな骨と筋肉だけの塊になって排出されたら、こうなるよね。
とりあえず、モザイクを魔術でかけておくか……。
私のギャグ空間で上書きしていたシリアスが、不意に蘇ってきたのだろう。
ここの人たちは皆、完全に狂気と恐怖に呑まれている。
まあ、正義扇動状態も解除できたから……それはそれでいいのだが。
私とスライムくんは、どうしたもんかと肉の塊を見て、コミカルに腕を組んだまま。
そして――だんだんと私にも慣れてきていたのだろう。
ハクロウくんもマイペースに、頬をぽりぽり。
「ケトスさん。なぜ、ただのグリーンスライムがこんな事になっているのですか。説明願いたいのですが」
ペチンと肉球で、ネコ鼻の上を押さえて私は……うにゃ~。
『ああ、ごめんごめん。しまったなあ……経験値を与えすぎちゃったのかもね。スライム君さあ……君、なんか深く覗き込んじゃいけない狂気神話の存在。ショゴス……スライムの原初ともいわれてる狂気的な奉仕労働生物の皇帝と、疑似接続しちゃってない?』
ショゴスとは……まあ、簡単に言うとゲームでスライムという魔物が生まれるより前に記述された、粘膜生物系魔物の始祖みたいな存在である。
魔物カードというちょっと特殊な存在。
この世界への存在の仕方が、普通とは異なっていたスライムだったせいか。人々の信仰と関心を集める新たな神話を、一つの世界として認識、影響を受けやすかったのかもしれないが。
まさか、ショゴスの皇帝に進化しちゃうとはね……。
あくまでもショゴスという魔物カテゴリーをコピーした進化で、本物ではない。
と思う事にしておこう――後でロックウェル卿に怒られるのも嫌だし、はっきりさせないほうが都合もいい。
それにしても。
ああ、食べちゃったよ……。
「ナンダ、この空気。ワレ、なにかしてしまったか? オソッテキタ。攻撃。それを食べて防ぐ。どこが悪い? 一方的に、オソワレロと?」
もはや名前をあんまり口にしない方がいい上位存在に進化してしまった、元グリーンスライム君を見て。
私はウニャっと口を開けて、ビシ!
『そうそれだ! これは正当防衛! いやあ! 君は悪くないよ? うん、悪くない! だってこっちはちゃんと警告したもんね――!』
と、言いたい所だけど。
完全に戦意を喪失している敵さん達を見て……尻尾を揺らしてしまう。
『んー……でも、一応殺人はまずいかあ。どーするかなあ。この場所と証拠さえ消しちゃえば、一応問題ないとは思うんだけど……倫理的にはまずいよね?』
問いかけに答えたのはハクロウくん。
彼はスライム結界の中で、ふむと考え込んで――経営者としての顔で告げる。
「しかし相手は銃を構えていました、それも多勢に無勢。学校内への盗撮疑惑もある変質者。裁判でも勝てると思いますし、そもそもこれは仰る通り、正当防衛が成立するのでは? ウチには優秀な弁護士もいるので、任せていただければと」
必ず無罪を勝ち取ってみせますよと、やる気満々である。
なかなか個性的なツッコミを入れるハクロウくんであるが。
なんというか天然だよなあ……。
まあ、変に狼狽されても困るけど。
『まあ弁護士はともかく。証拠は消しちゃうに限るね。しょーがない。無条件な慈悲は一回だけだよ?』
告げて私はこほんと咳払い。
亜空間を、ぐぎぎぎぎぎっと捻じ曲げ開き。
大魔帝セット一式を召喚。
紅蓮のマントに輝きの王冠。
猫目石の魔杖を装備して――と。
『えーと……影世界にここを落としたのは五分ぐらい前だから……この辺に、ああ、あったあった。魔力――解放!』
十重の魔法陣が展開されると――。
空気が、再び変わる。
「……――!?」
「ホゥ。コレが異世界の魔法陣。ワレとも法則の異なる、魔法形態」
誰もが魔力の重圧に圧倒されているのだろう、全員の視線が――床に落ちた。
顔を上げられないようである。
……。
いや、まあショゴスエンペラーくんだけは、おもいっきし興味津々だけど。
ともあれ、私は猫目石の魔杖を翳し。
紳士の声で――告げる。
『さて、それじゃあ始めるよ。我、悠久の時を生きる魔猫の王。汝、その死を憐れみ時をかける肉球の信徒。我願うは汝の再生、我駆けるは次元の扉。開かれ招いて、顕現せよ――その時、汝は知るだろう。其は平伏し、我に屈せよ。我が名はケトス、大魔帝ケトス! 尽きぬ憎悪を滾らせる、永遠の魔性なり!』
地を走る魔法陣が、キュインキュインキュイン!
輝きと光が、私の貌をイイ感じにライトアップ!
ネコちゃんの、毛の一本一本が際立っている筈!
杖の先端から、ネコの瞳が開かれる。
展開した十重の魔法陣が――時計と逆さに回る。四次元の法則を超えた上位次元に接続し、下位次元の法則を捻じ曲げ――魔術式を再構築。
グギュギュギュギュギュ!
テープを逆に戻すような音を立てて、骨となっていた鷲鼻の男が再生していく。
おそらく、この中でこの規模の魔術を理解できたのは、やはりショゴスエンペラーくんだけ。
……。
いや、元グリーンスライムくんしか理解できてない決めシーンってなんかもったいないけど……しょーがないよね。
私はモフ毛をモコモコモコ!
尻尾も、ぶわわわわ!
『時間逆行魔術:《消費期限が切れる前に!》』
即興の魔術なので、名前は思いをそのままに設定したのだが。
なぜかショゴスエンペラーくんが、うわぁ、テキトー……と粘膜の亀裂でツッコミを入れている。
杖の先端から生まれた雫が、ぽつん!
落ちたその時。
溶けて消えていた男の身体が、ショゴスエンペラーくんの口から吐き戻され元に戻っていた。
『うん、成功だね。まあ、ぶっつけ本番にしては良い魔術だったかな!』
自画自賛である!
そう。
私は証拠隠滅……じゃなかった、蘇生に成功したのである!
これはあくまでも特例。
この領域を私の支配下に置いたことにより発生する、裏技。
最初に私の影の世界に落としてあったからね。
ダンジョン領域日本が、セーブポイントに戻れるようになっている原理と同じ。
このスライム君に突撃して、ぐじゃぁぁっと飲まれ溶かされた鷲鼻君の時間だけを戻し。
結果として蘇生させたのである。
ぬめぬめスライム体液だけを名残にし、鷲鼻男が床を掻き毟りはじめる。
まあ、蘇ったとはいえそれなりに恐ろしかったのだろう。
「ぎゃあぁあああああぁぁぁぁ! あつい、痛い……っ、あ、あぐ、な、なんだ、お、おれは死んだのでは!?」
『やあ、お帰り。一度死んだみたいだけど、殺人罪で逮捕されるなんて面倒だからね。蘇生させて貰ったよ』
死者の蘇生。
それは現代社会に生きる者達にとっては、インパクト特大!
それなり以上に、驚愕する結果となったようだ。
完全に沈黙している人々は、私に目をやっている。
玉座にピョンと飛び乗って、えっへん!
ふんぞり返って黒いモヤモヤを発生させ――。
ザァァァァアアアアァァァッァア!
既に戦意を喪失させている彼らに、私もまた冷笑を浮かべ告げる。
『さて、君達にも自己紹介をしておこうか。私はケトス、大魔帝ケトス。まあ、言っても知らないだろうけど、かつて殺戮の魔猫として名を馳せたお伽噺の大魔族だよ』
玉座の上で、王者の貫禄を滲ませ私は言う。
『戦いが中途半端な所で終わってしまったけれど……もういいよね? リーダーさん。少しはこちらの話を聞いてくれる気になったかな?』
「あ、あなたは……いったい」
『うーん、そうだねえ。まあ君達の世界の言葉で言うのならば……』
漏らす言葉への答えは……やっぱり、これかな。
『神だよ』
条件付きとはいえ、人間を蘇生したのだ。
その言葉に違和感はなかったようで、彼らはようやく降伏を宣言した。
はてさて。
校舎を襲撃してきた、あの謎の部隊の事も含めて――。
色々と聞かないとね。




