魔猫王の帰還 ~オムライス会議~
キリンさんと和服乙女な巫女さんと、スーツ姿の社長さん。
異能力者の面々。
統一感のない彼らを連れて帰還したのは、リターナーズの学校だった。
異世界転移帰還者たちの学び舎。
異世界にいた影響で狂ってしまった常識や、失った時間で欠けている学業など。
そういった生活基盤。
転移した先で失ってしまった部分を、丁寧にサポートするための教育施設である。
そして私こそが素敵でスマートな猫魔獣!
この学校を設立した偉い魔族、大魔帝ケトスである!
ででーん!
『と、まあそんなわけで――彼らもしばらくこの学校に出入りをするから、よろしく頼むよ』
とりあえず学食に集合し、空いたオムライスのお皿を山積みにしながら、私はブニャン!
女子高生勇者のヒナタくん。
そして死神貴族のヘンリー君に事情を説明したのだが。
私はスミレ君を紹介するように、皆に向かいネコ髯ごと猫口を動かす。
『彼女には巫女となった影響で途絶えてしまった学業。そして、長年生きていたせいで狂ってしまっている戸籍を捏造……じゃなかった。なんとかして貰うために、メルティ・リターナーズの力を借りる予定になっているからね。しばらくここで預かることになるんだけど……ヒナタくん、どったの? なんか、また増えたかぁ……みたいな顔をしてるけど』
聞き終えたヒナタくんが、なぜか腕を組んでキリンさんと巫女スミレくんを見て――。
じぃぃぃぃ。
将来かなりの美女になるだろう顔を、げんなりさせ。
「なるほど、ケトスっちよ! アンタは、まーた! スナック感覚で人を救って……新しい現地妻と、神クラスの最上位アニマルを連れて来たって訳ね……!」
ビシっと指差された巫女スミレくんが、薄く塗られた紅を輝かせ。
おっとりと言い返す。
「まあ、現地妻だなんて嬉しい誤解ですわ。阿賀差スミレと申します。ふふふ、大丈夫ですよ。たしかにケトス様には大変お世話になりましたが、ネコ様とそういうロマンチックな関係になろうとは思っておりませんから。素敵な殿方だとは、思うのですけれど」
胸元にそっと指をあてて、微笑む巫女スミレくんはなかなかどうして大和撫子。
だいぶおしとやかで、けれど華やかに見える。
出会った時に見せた傲慢さは、もはや微塵も感じられない。
しかし。
なぜだろうか。ヒナタくんが頭の上にハテナを浮かべて言う。
「あれ? ケトスっちとロマンチックをしたらなんかまずいの?」
「素敵な方だとは思いますが、種族差があり過ぎますでしょう?」
腕を組んだままのヒナタくんが、怪訝そうな顔をし問う。
「ねえ、スミレちゃん。確認したいんだけど。もしかして、ケトスっちの神父姿を見たことない感じ?」
「神父姿……ですか? ああ、ネコさんにコスプレさせる飼い主さんも、たまにいらっしゃいますわね。ワタクシは自然のままの方が好きなので、あまりそういうのは……」
きょとんとする巫女スミレくん。
その顔を眺めたヒナタくんが、やっぱりと頬をポリポリ。
「ははーん! ねえねえ! ケトスっち。ちょっと神父モードになってよ!」
『ん? 構わないけれど、どうしてだい』
言われた私はそのまま闇の霧を纏い。
ざぁぁぁぁぁぁぁ!
ケチャップを頬につけたまま、いつもの美丈夫ニンゲン神父モードにチェンジ!
慇懃に頭を下げ。
紳士な礼をしてみせる。
『やあ――この姿では初めまして。これが大魔帝ケトス、その人間モードさ』
神父の朗々たる声で、自己紹介をしてやる。
あまりの偉大さに驚愕をしているのだろう。
キリンさんも社長のハクロウくんも、そして巫女のスミレくんも私の貌をまじまじと覗き――絶句。
声を失っている。
カードゲーム会社社長として、美壮年にチェンジする麗しい魔猫には興味があるのか。
商売欲に目を輝かせたハクロウくんが、ぼそり。
「凄いですね。これは《進化の心》を使ったのですか? しかしケトスさん、いくら変身魔術が使えるとはいえ、その貌は……いささか作り過ぎではないでしょうか?」
『いや、どうやらかつて人間だった時の私の姿が、これだったようでね。一切、手を加えていないんだよ。いつか、自分の痕跡も辿ってみたいと思ってはいるんだけど、なかなかね』
もう戻っていいかと、黒猫モードにぶにゃん!
なぜだろうか。
全身をトウガラシのような赤色に染めてしまったのは、巫女スミレくん。
まるで金魚のように口をぱくぱく。
「こ、これがあの大食いネコちゃん!? ケ、ケトシュさまっの別のおしゅがた!? ご、御冗談が過ぎますでしょう……っ」
「ね? なんかすごいでしょケトスっちの人間モード。ライバルも多いから、本当にそういう感情があるんなら、頑張らないと負けちゃうわよ? あたしはまあ、ぜーんぜん、そういうんじゃないから。関係ないんだけどね――……うん、ぜんぜん。関係ないし?」
なにやら女子同士の話が進んでいるようだが。
会話に入るように、ハクロウくんが名刺を差し出し頭を下げる。
「ヒナタさん、でしたね。金木白狼と申します。先日は不肖な弟が大変失礼いたしました、一応、ワタシもいるので――連れてきたのは、女性とアニマルだけではありませんよ?」
ハクロウくんのトカゲ貌を見て、腕を組んだヒナタくんが考え込み。
「よーし! 合格!」
「……なにがですか?」
たぶん、顔面イケメン指数と年齢のチェックが入ったのだろう。
ハクロウくん……まだイケおじって言われるには若い年齢なのだが、色々と苦労しているから渋く見えるのかなあ……。
ちなみに――。
キリンさんは長い首を擡げ――パカラパカラ!
今日の食堂当番である猫コックと、野菜系メニューについて真剣に話し合っている真っ最中である。
麒麟に祝福されし野菜フルコースを料理レシピとして合成。
調理師のネコ魔獣達が、これは新しい挑戦ですニャ~♪
と、結構乗り気でやっている。
私が言うのもなんだけど。
こいつら、まとまりねえなあ……。
ものすごい話が逸れそうだったのだが。
元引きこもりのヘンリー君が、いつものように空気を読んで介入した。
「はいはい、そこまでにしてくれ! そういう和気あいあいは、各自でして貰うとしてだ。シリアスな話に戻るから、帰ってきてくれないかな?」
前は影が薄かったヘンリー君。
最近はちゃんと、こういう風に――必要な時にちゃんと存在感をだせるようになっていて、何よりである。
「まあだいたいの事情は分かったよ。つまり、白狼さんの弟さんとこちらの……巫女! スミレさんの部下たちの共通点が気になるって事だよな?」
『ああ、両方共に私をチート呼ばわりして、正義の名のもと、一方的に襲い掛かってきているからね。まるで何かに扇動されているかのように――これって、絶対になにかあると思わないかい?』
サブカルチャー大好きなヘンリー君にとって、巫女は特別。本物の日本巫女に大変興味があるようだが。
あえてそこには触れず流す私。
とっても偉いね?
巫女スミレくんが、赤くなっていた頬を戻しながら言う。
「あの後、あの子たちにも話を聞いてみたのですが――あの時、なぜ、あそこまでケトス様を敵視していたのか、今となってはとても不思議だと言っているのです。やはり、誰かに扇動をされていたと見るべきなのでしょうが……扇動を得意とする異能など、存在しませんので……。こちらでは犯人の目星はまったく。ハクロウ社長さんの方の異能では、どうなのですか?」
言われて社長さんは難しい顔で。
「ふむ――カードの異能としては洗脳に分類される種類のカードもあります。ですが、相手の意識を保ったまま――思考の方向性をズラすなどという、都合のいい力。扇動カードに該当するデータはありませんね」
口元に曲げた指をあて考えるスミレくんとハクロウくん。
コックやシェフ、パティシエのネコ魔獣達と交流を深めていたキリンさんが、首だけを伸ばしモシャモシャ言う。
「自分の意思だと誤解させたまま相手を都合よく動かす力、扇動であるか……。ふむ、そのような外道な力、この世に存在するとは思いたくはなかろう。なれど、世界は広い。下劣で稀少な力といえど、所持者は必ず存在する筈。まずは扇動などという、禁じられた力を持つ者を探すべきやも知れぬな」
キリンさんが、神視点で語る中。
猫と女子高生は、汗ジトとなって目線を逸らす。
そんな異能力者達の前、私とヒナタ君は互いに顔を見て。
『あぁ……あるねえ、扇動系の能力。ていうか、私、使えるねえ……』
「使えるわねえ……、おもいっきし、あたしも使えちゃうわねえ……」
黒猫と黒髪美少女で、互いにテヘペロをしてみせる私達。
客観的に見ると、とってもかわいいね?
ヘンリー君が言う。
「扇動の力は、この駄猫とその世界の関係者、ヒナタ嬢の持つ力だね。いわゆる統率やカリスマ、そういった能力の頂点に存在する――勇者の能力の一種さ。つまり、相手は勇者か、例外的に存在する言霊使いのどちらかって、ところなのかねえ」
解説者と化すヘンリー君を見て、細い瞳を尖らせハクロウ君が息を漏らす。
「勇者? ヒナタさんはまあ分かりますが……ケトスさんも勇者なのですか?」
「ああ、信じられないだろう? この駄猫が、伝説の勇者、ぷぷぷ、あははははは! 駄目だ、いつになっても信じられなくて、このボクでさえ口を開けて笑ってしまうね」
腹を抱えて笑うヘンリー君を、ビシ!
『はいそこ! 失礼な笑いをしない!』
「悪かったよ、駄猫。まあ外道な力であってもそれは勇者の力。この学園には勇者がかなりいる。そして、そもそもだ。駄猫がここに戻ってきた理由は、この学園にまだ侵入者がいるってカピバラ神に言われたから。色々と残念な神だったけど、力は本物だった。たぶん、神託に間違いはない。扇動と侵入者と神託。この辺は全部、一つの案件として繋がっているんじゃないかな」
話がなかなか進まないが、ハクロウくんがまたもや息を漏らす。
「カピバラ……神?」
『あー、まあそんな意味わかんない顔になっちゃうよね』
私も他人からカピバラ神とか言われたら。
たぶん、こんな顔になる。
考えをまとめるように、ハクロウくんが眉間に皺を刻み。
「扇動の能力者がワタシの弟と、そして麒麟神社の若者を操作しケトスさんを襲わせた。そして例外があるとはいえ、扇動の力は勇者の力。この学園には異界から帰還した勇者が多く存在し、かつ、カピバラ神の言葉では学園に何かが潜んでいる。そういうことになりますよね?」
『ああ、まあそうなるね』
「でしたら、ワタシのカード能力で侵入者を看破したらいかがでしょうか? 相手の手札を見るカード能力を変革させれば、おそらく可能かと」
とても前向きで、良い意見なのだが。
私とヒナタくんとヘンリー君は、がくりと肩を落とす。
代表して私が言う。
『かなり有効な作戦だと思うけれどね。そういう能力はもうあるんだ。死神名簿って能力で……まあ詳細は省くけど、情報を抜き出す能力の一種で……実は、もう侵入者を特定はできているんだよ』
「はて。ならばその犯人を問い詰めれば済む話では?」
至極真っ当な意見である。
秘書のような立場になりつつあるヘンリー君が、すかさず死神名簿を発動させる。
皆の情報が記載されているのだが。
よいしょと、肉球で本を開く私に皆の視線が集まる。
『備考欄を見て貰えるかな? なんて書いてある?』
言われてやはり、皆の視線が備考欄に。
そこには、魔力持つ者なら誰でも読める文字が刻まれている。
「異界からの間者。侵入者……と書かれていますね。この生徒が誰なのかは知りませんが真っ黒なのでは?」
『まあ普通はそう思うよね。じゃあ、次のページを捲ってみて貰えるかな』
言われて死神名簿を読み進めるハクロウ社長の顔が、ビシっと歪む。
死神名簿を読み進める度に、その貌に汗が滲んでいく。
「なんですか、これ。全員異界からの侵入者。スパイじゃないですか!」
『そういうことさ。そもそも彼らは――元からほぼ全員が侵入者。私という強大な魔が日本に顕現した異常を察知し、異世界から緊急帰還、潜伏していた存在なのさ。そこを私が無差別強制召喚したもんだから、全員がスパイと言える状況なんだよね』
オムライスのお代わりを味わいながら、言う私に。
ため息に言葉を乗せるハクロウくん。
「つまり、ワタシの能力で侵入者を探っても」
『うん! 全員がチェックに引っかかって、結局特定できないってことさ。木を隠すなら森の中とは、よくいったもんだね!』
ニャハハハハハ!
嗤う私に、彼は言う。
「というか、全員が侵入者なのにそのままって、どうなんですか? それ……」
『どうなんだろうね?』
他人事みたいに猫口を動かす私に、社長さんはおもいっきり深いため息を漏らす。
そんな社長さんに目をやり。
ヒナタくんがもはや慣れた顔で言う。
「まあ心配しなくても大丈夫っしょ。ケトスっちが帰ってきてるなら、トラブルが向こうの方からやってくる筈だし? そこを起点に、なにか手掛かりも掴めるでしょう」
と、勇者の少女はにっこり笑顔のブイサイン!
不本意ながら私は自他問わずのトラブルメイカー。
実際。
今回も、トラブル側からの行動を目当てにしているのも事実。
そう、それはある意味で私の持つ能力。
そして。
強大な勇者が持ってしまう、特殊能力でもあった。
勇者とは、世界規模の危機を救う存在なのだ。
救うべき存在ともいえる。
言い換えてしまうと、この現象はこうとも言える。
勇者に危機を救わせようと――危機の方からやってくる。
世界がまるで、勇者を活躍させようとするように――。
ゆえに、トラブルメイカー。
世界を救った後の勇者が追放されたり、迫害されたりする。
そんな悲しい伝承や逸話を目にする機会があるが……そういった事情のせいもあるのだろうと思う。
勇者が在り続ける限り、トラブルは無限に引き寄せられるのだから。
ヘンリー君が、なにもいわずに私に目線を寄越してくる。
……。
私は、視線のみで応じて――まだ早い、そんなアイコンタクトで返していた。
一瞬、私とヘンリー君との間に浮かんだ空気を吹き飛ばすように。
私はスプーンを掲げ、宣言!
『まあ、なんとかなるって! そんなことより、今は事件が起こる前に平和を満喫しないとね! そのためには、そう! オムライスなのさ!』
「そういうことよ! ねえ! ニャンコたち! 新野菜メニューもいいけど、お代わりもよろしくねえ!」
二人の勇者は、ニヒィと微笑む!
それぞれの前には、粒すら残さずに食べきったオムライスの皿の山。
厨房では、美味しいキノコと鶏肉を炒める音がジュジュジュ!
匂いもジュジュジュ!
「まだ食べるのですか? なんですか? 大食いキャラなのですか?」
「ボクも驚いたけどね。こいつらにはこれが普通らしいよ、まったく……見ているこっちまでお腹がいっぱいになっちゃうよ」
「なるほど……ケトス様と将来を歩むのでしたら、ご飯をいっぱい作れるようにならないといけないのですね」
小食なヘンリー君とハクロウくんが、うわぁ……と、引いているが。
スミレくんはなにやら別の決意に燃えている。
ともあれ何事も前向きに!
そう、これも重要な能力なのだ!
とりあえず、巫女スミレくんの生徒登録を済ませ――。
私達は学食オムライスを味わったのだった!




