話し合い(物理)~アメリカンドッグの串は鋭い~その2
ビル風が目立つオフィス街。
昼飯前の騒動が一つ!
それは異能力者集団との接触を図っていた最中、突然の襲撃だった。
大魔帝ケトスことフワフワ猫魔獣な私は、瞳をギラーン!
尻尾をもっふぁー!
膨らむ魔力で毛も靡く!
連れの男を結界で完全防御しながら、周囲をチラリ。
社長さんで同行者。
異能力者のハクロウくんに、丸い私の猫口が問う。
『囲まれているけど、んー……どれが敵でどれが無関係な相手なのか、ちょっと分かんないね』
「だ、大丈夫なのですか? というかあなた、今、アメリカンドッグの串で弾丸を叩き落としましたよね? 喋るネコという時点でおかしいのに、非常識過ぎませんか?」
緊張の吐息が私のモフ耳をピョコンと立てる!
猫目は輝きだし、にへらぁ!
おお!
これは! ド、ドヤァァァタイム!
『そりゃそうさ! 私は魔術師でもあるけれど、実は武術にも長けていてね。飛んできたライフルを打ち払うなんて朝飯前! この私を狙うなんて! 朝食のホットミルクに入れる砂糖よりも甘いのさ!』
ハクロウくんの腕からジャンプ!
アメリカンドッグの串を振って、空に巨大な魔法陣を展開!
詠唱を妨害するという発想は、相手にもあるのだろう。
アスファルトに降りた私の身体を狙うのは――無数の射線。
察したのだろう。
ハクロウくんが爬虫類顔を驚愕させ吠える!
「退避を! 狙撃されます!」
言うや否や、既に敵は私を容赦なく狙っていた。
異能力による射撃なので、消音魔術的なモノは働かないのだろう。
轟音がダダダダっと私を狙う!
ダダンダン、ダガガガガガァ――ッ!
ドゥゥゥッゥ――ガガガ!
ズゥウゥゥゥゥッゥゥゥゥゥン!
それぞれ異なるビルの屋上に三体。いや三人か。
攻撃してこない相手を含めると、もっといるかもしれない。
「なにやってるんですか!? やられますよ、ケトスさん!」
『平気平気。これで確定かな、狙われているのは私だね』
ゆったりと告げながら、私は静かに瞳を閉じる。
アメリカンドッグの串で、全ての弾丸を叩き斬りながら。
ここ。
静かなるドヤポイントである。
ビルの屋上から、声が届く。
「なっ――!」
おー! 驚いてる、驚いてる!
燃える弾丸がアスファルトの上で、粉みじんとなって消えていく。
そんな硝煙の香りと残り火の中。
私は言った。
『なかなかどうして、容赦がないじゃないか。まあ、その方がこっちも遠慮しなくていいしやりやすいけれど。さて、どうしたものか』
ハクロウくんが崩れた現代アートのような顔で、頬をぽりぽり。
「えぇ……また……斬ったのですか? あなたを心配しているワタシが馬鹿みたいじゃないですか……」
『はははは、心配ありがとう。やはり人間には、他人を心配する心ってモノがあるんだね。こちらの世界もあちらの世界も同じ。善人も悪人もいるってことか。そういう所は、まあ嫌いじゃないよ』
さて、これ以上一般人の心に近い彼を、銃撃の不安に晒させるのは可哀そうか。
実際、ちょっと怖がってるしね。
ヒタヒタヒタと、歩く肉球の先から魔力が滲む。
アスファルト舗装された地面が、逆に溶け、水で溢れ始めているのは物理的な現象。
私の放つ魔力振動により、液状化現象が起こっているのだろう。
ぴちゃん……ぴちゃん。
水の広がっていくオフィス街で、私は言った。
『大いなる光。彼を頼むよ』
「ふぁぁぁぁ……しょーがないわねえ。はいはい、分かったわよ。高級寿司を食べるためにちゃんと護衛すればいいんでしょ」
既に私の張った防御結界があるので、敵からの攻撃を受ける事はない。
ではなぜ?
わざわざ大いなる光に彼を頼むのか!
その理由は単純。
私の攻撃の余波を受けないように、守ってニャン♪
そういう意味である。
いやあ、敵からの攻撃はともかく……私の攻撃なら危ないからね。
シリアスとギャグの狭間の中で、私は宣言した。
『よし――! と、正当防衛の過程は記録クリスタルに刻んだし――じゃあ一応警告だ!』
ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴォォオオオォォォッォォ!
魔力を纏い大ジャンプ!
空に浮かびビルの強風を受ける私は、ニヒィ!
亜空間からグギギギギと取り出した魔導メガホンを装備。
尖るオヒゲの目立つ丸口にメガホンをあて、こほんと咳払い!
『あー! あー! テステス! ただいまメガホンのテスト中! ねえねえー! 大いなる光ー! 私の声ー! ちゃんと聞こえてるー!?』
「大丈夫よー! この辺にー! 隠れてるー! 全員に届いているんじゃないかしらー!」
白き翼をバサササっとさせる彼女を見て、頷き。
ライフルを問答無用にぶっ放しやがった相手の方角を向き。
構え!
『あのさー! 一応、話し合いに来たんだけどー! これは宣戦布告ってことでいいのかなー! こっちはこっちの事情を説明したいんですけどー! 私ー! けっこう強いんですけどー!』
呼びかけに反応はない。
まあ、狙撃手がこちらの声に応じるってのもおかしい話か。
失敗したかなって思っていたら、不安そうに見守るハクロウくんの頭上に浮かぶ白い鳩さんが。
ぶわははははははは!
「プププー! やーだ、無視されてるじゃないあんた!」
『そこ、笑わない! ていうかもうちょっと神の自覚とか、威厳とかそういうのはないのかい!?』
問われて鳩さんは、ポポポポっと首を横に倒し。
ハッと気づいた様子で言う。
「やだ、ごめんごめん。けれど、ふふふふっふふ。そうね。いやあ、異世界ってすごいわねー。あの大魔帝ケトスを無視できちゃうんだからー! ほら! こっちは正当防衛! 少しぐらいやりすぎちゃっても問題ないわ! さあ、いけ! モフモフにゃんこ! やっちゃいなさーい!」
『君、主神だってこと……いま、忘れてただろ』
バッサバッサと翼で羽ばたき、煽り続ける主神で女神様。
彼女を見て、私はじぃぃぃぃ……。
ウチの世界……これが主神ってすごいよね……。
社長さんもなんだこのイキモノは……って顔で鳩を見てるし。
しかし。
その瞬間、呆れる私に向かい白鳩が一瞬だけ――ウインクで合図を送ってきた。
前にも……一度、似たようなことが……そう、あれは異世界に共に行った時の話。
……。
まあいいや。
『それでは、忠告も警告も終わりってことでいいかなー! じゃあ警告終了! 命までは取らないつもりだしー! もしうっかりヤッちゃったらさあ、一応蘇生してあげるから安心しておくれー! 文字通り死ぬほど痛いかもしれないけど! 治るから―! ちゃんと治るから―! じゃあ、始めるよー!』
警告も終わり――私はアメリカンドッグの串杖を振り下ろし。
赤き瞳を、ぶわぁぁぁぁっと広げ。
告げる。
『魔力――解放。フィールド上書き、輪廻反転。さあ――君達の悲鳴を聞かせておくれ』
杖の先端から生まれる闇が、周囲を包み――。
暗澹とした暗黒結界で覆っていく。
既にここは、仄暗い世界。
水と暗闇の世界に落ちていたのだ。
フィールド名は、暗黒オフィス街。
空気が変わる。
ゾゾゾゾゾっと鳥肌の浮かぶ音が、周囲に広がる。
音がない現象なのに、それが分かるほどに人間の動揺が空気を揺らしたという事だ。
続いて――。
まだ若い男の声……まるで機械越しのような音声が、私のモフ耳を揺らす。
「こいつ……! ナニかがおかしい!」
隊長と思われる存在が、慌てて指示を出そうとしたようだ。
撤退か、それとも交渉か。
ともあれ――もう遅い。
既に狩人としての本能を働かせた私は、うにゃにゃにゃ!
ビルの隙間を走り――ブニャン!
『くははははははは! くははははははははは! ああ、狩りか! それはいい。ネコの本能を刺激される素晴らしい遊戯だ!』
かわいいネコちゃんの身が、水溜まりの中にシュン!
ちゃぱんと沈み。
顕現したのは――狙撃手の足元に溜まっていた水たまり。
ごく、ふつーの転移能力である。
『やあ初めまして、異界の民よ――私はケトス。大魔帝ケトスだよ』
おそらく。
相手の瞳には――水の中から飛び出してきた黒猫の、憎悪の赤い瞳がギラギラギラギラ。
輝いて見えているだろう。
私からも相手は見える。平均的な慎重な男。
魔力の波動が異なる……というか、ほとんど感じられない。
おそらく現地人だろう。
『通販のサバイバルスーツにガスマスク? 能力で強化されてるのかもしれないけど、なんか意外にショボいね……まあいいや』
「ショ! ショボイだと!」
ゴーグル越しに揺れる男の瞳を眺め、私の瞳はスゥっと細く締まっていく。
『まずは君かな――』
瞬間転移で顔に近づき。
男のガスマスクゴーグルにびっしりとネコの額を押し付けてぇ。
にひぃ!
ゴーグルの中が狼狽で歪む。
「瞬間転移能力者……! SSR!? そんな稀少なスキル、ありえん……っ、だろぅ!」
『あれ? あり得ない現象を現実化させるのが異能だろう? 君、自分が使っている力すらも理解できていないのかい?』
告げてそのまま私の口は言葉を続ける。
『この装備さあ。大事にしているんだね?』
「わ、悪いか!」
『悪くないよ、うん、道具や装備を大切にするのは良い事だ。けれど――いや! だからこそ! 我はそこを攻撃する!』
アメリカンドッグの串で、ゴーグル部分だけをべちべちべち!
ヒビを作ってやる!
むろん、これは視界を遮るだけでしかない――ただの嫌がらせである。
「ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁっぁぁ! こ、こら! やめろ糞ネコ! これ! コンビニでバイトして、やっと買ったんだからな!?」
『バイト? あれ? 君、学生さん?』
思わず漏れた私の声に、男はビキっとマスクを外し。
まるで女性のような声で言う。
「はぁぁぁぁぁああああぁぁ!? どうしてバイトだと学生なんですかあぁ!? どうしてそうやって決めつけるんですかぁぁあ!? 大家さんとおんなじことを言いやがって、絶対に許さない、許さないんだからね!」
『え!? 君、女の人だったの!?』
しまった!
なんかアーミーオタっぽい相手だったし、声が男の声だったから勘違いしてたけど。
この人、変声機で声まで変えてた男装さんだ!
『それならそうと早く言っておくれよ! おもいっきし、やり過ぎる所だったじゃないか!』
「ちぃ……、かまわん! こっちはなんとか自力でかわす、一斉射撃しろ!」
同じ装備の再召喚も異能力の一種なのか。
再び別のガスマスクを装備し、変声機を発動し面倒な指示をだしやがった。
何が面倒って、これ私がなんとかしないと跳弾が絶対にこの女隊長に突き刺さるじゃん!
訓練された集団なのか、女隊長の指示に従いビルというビルから銃撃が飛んでくる。
が。
やはり全ての銃弾を、華麗にパリイ!
『はーっはっはっは! どうしたんだい君達! ぜーんぜん、当たっていないじゃないか!』
案の定!
女隊長さんが驚愕の声を漏らす。
「なに……!? 全てを弾いた! しかも、アメリカンドッグの串で!? どーなってるんだ、キサマ!」
『異能力者なんだから、いちいちこんな事で驚かないでおくれ』
ビシっと肉球で指差す私、格好いいね?
それでも続く散弾にも似た銃撃の雨。
やはり、私は肉球で掴む串を翳し、キキ、キンキン!
キキン……ギギ! ぐぎ、ぐぎぎぎいぃぃ……ずじゅぅぅぅ……。
弾かれた弾丸が、ビルの屋上を溶かしながら消えていく。
だんだんと、ざわめきが起こり始める。
空気が再び……。
徐々に、徐々に……暗く暗澹としたものへと変貌していく。
本当に、全てを剣技のみで撃ち払っているのだ。
ありとあらゆる角度から飛んでくる銃撃を、一つも避けることなく切り払う。
『くははははは! 甘い、甘過ぎる! 踏み込みが足りんのニャ!』
偉そうに吠えながら切り払い続ける私。
やっぱり素晴らしいね?
モフ毛が華麗に揺れる銃撃戦の中。
遠くから聞こえる兵隊たちの声が、私のモコモコ地獄耳を揺らす。
「お、おい……なんか、ヤバくねえか」
「ああ、手が震えて、足が……なんか、動かなくなって……」
それは本能的な恐怖。
得体のしれない黒猫への畏怖が、彼らの行動を戒め始めているのだろう。
「な……なんだ、おまえ……いったい、なんなのよ!」
素人目に見ても、それが異様な光景だと理解し始めているのだろう。
男装女隊長さんも、ようやく私という存在の怖さに気付き始めたようだ。
おそいよ!
「攻撃やめ! 攻撃やめろぉおおおおおおぉぉぉぉ! は、話し合いに変更だ!」
『ええ? もうちょっと遊ぼうよ。どれ……君のお仲間さんは、ああ、よかった。ちゃんと男の人みたいだね』
言って――。
ネコ髯をむっは~♪ 私は蜘蛛の足のようにオヒゲを広げ、魔法陣を展開。
太もものモフ毛まで、モコっと膨らませ!
てい!
瞬間転移!
座標は、ビル風も届かぬ空!
狙撃手は慌てて武器を取ろうと手を伸ばすが、それらは全てチクワへと素材変換されている。
むろん、私の仕業である。
名も知らぬ兵隊が言う。
「チクワ!? ちょ! な……っ、これは――!」
『いやあ、ネコちゃんを狙って攻撃するなんて外道だし? 自分から攻撃を仕掛けたんなら、やり返される事を想定していたんだろうし? このまま空中から落っことされても文句は言えないよね』
アメリカンドッグの串杖を振った私は、ちょいちょい♪
ガスマスクゴーグルを外し、性別を確認。
オッサンを空に浮かべ、ズズズズっとビルの屋上から移動。
さすがに。
地面のない場所で無防備に浮かされるのは恐ろしいのだろう。
脚をバタバタ。
男は首を横に振って、空に向かって細い息を漏らす。
「ひ、ひぃ……!」
「ちょっとあんた! ウチの兵士になにするつもりなのよ!」
叫ぶ女隊長さんのビルに向かい。
ニャハニャハニャハ!
空いた片手で手を振ってみせる。
『そりゃあー! 敵なんだからー! 一人一人、掃討するつもりなんですけどー!』
「待て、まさか! こ、このまま落とすつもりじゃないだろうな――!」
叫ぶオッサンの声を聞きながら――。
チェシャ猫スマイル!
『正解! それじゃあ、来世でまた会おう。私は長生きだから、いつか会える日もあるだろうさ』
身体を支えていた魔力を解除。
すると起こるのは当然――落下。
ごひゅぅうううううううううううううぅぅぅっぅぅぅぅぅぅ!
男の叫びがビル街に響き渡る。
「ぁああああああぁあああああああああぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ……っ」
「があぁああああああああああっぁぁぁ! 兵士四号が!」
ついでに叫ぶ女隊長さんが、へたりと座り込んでしまう。
いや……。
先にライフルで襲ってきたのはそっちだし。
数度、警告もしたし。
「そんな……どうして、こんなことに……だって……。こうなるなんて、だれも、言ってなかったじゃない……っ」
ようやく。
手を出してはいけない相手に手を出した、そんな現実を悟ったようだが。
えぇ……いまさら被害者ムーヴされても、なんか釈然としないんですけど。
『しょーがないなあ……なんか君達も、遊び感覚の延長っぽかったのかな。今回だけだからね』
はぁ……と呟き、私は手を上げる。
落下し、ビルの谷間に消えていった男は哀れ――このままだとケチャップ色に染まるのだろうが。
そこはそれ。
優しい私は地面に落ちる直前。
『はいはい、緊急転移。こっちに戻っておいで』
オッサンが死を覚悟した瞬間に肉球をくい!
再度転移で元のビルの屋上へと戻す!
『やあ、お帰り! どうだい、一度死にそうになった気分は……って、気絶しちゃってるね。……じゃあこの人は脱落って事で。さて次は誰にしようかな』
キョロキョロとコミカルな仕草で周囲を見渡し。
ニヤリ!
隠れたつもりになっている相手をそれぞれチェックして。
転移と落下!
救出。
転移と落下!
救出。
襲撃者、ほぼ全員に――死の直前を体験させて、無傷で帰還させるを繰り返す!
これで怪我人はなし!
いやあ、私ってば優しいなあ。
なんか悪戯ネコの血がうずうずしちゃうし。
これくらいは、うん……たぶん、平気だよね?
『ぶにゃはははははははは! ネコちゃんを狙う悪者だからねえ、仕方ないねえ!』
と、だんだんと仕返しが楽しくて遊んでいたのだが。
慌てた白鳩さん、大いなる光が真顔で飛んできて。
ペカーっと女神モードに変身。
人々を守るように、苦言を呈する。
「大魔帝ケトス、確かに突然狙撃され、あまつさえ同行者であるハクロウを危険に晒してしまった……今回はその点に大きな相手の過失、軽率さがありました。憤るあなたの気持ちもわかりますが……やりすぎではありませんか? 彼らはもう十分、反省したでしょう。これ以上は、看過できなくなりますよ」
『え? なに、急に真面目モードになって。だって怪我はさせてないよ?』
こてんと首を横に倒す私に、女神は女神モードのまま。
ペカー!
「ここは異界。あなたとわたくしの世界とは違う、異なる常識とルールの世界。我等もその常識に歩み寄る必要があると、女神として主神として、わたくしはそう思うのです。わたくしの慈悲に免じて、この場はこれまでに致しませんか?」
かなりの真面目モードだ。彼女は片目でウインクをしてみせる。
んー……。
そろそろいいってことかな?
こほんと咳ばらいをし、ちょっと大げさに私は言う。
『ええ! だって、あっちが一方的に襲ってきたんだよ! 私、悪くないよね!』
「それでもです。よく周りを見てごらんなさい?」
ふとそれぞれのビルを見ると、そこには泣き崩れる人間達の群れ。
ハクロウくんも、うわぁ……っとした顔で、召喚したデーモンに守られながらドン引き気味。
全てが順調で、うーむなんか拍子抜けしてしまうのである。
『ねえー! ハクロウくーん! ビルからの落下、繰り返しって、やりすぎたかなー! 無傷なんだから、セーフだよねー! だってー! ライフルが当たってたら君は死んでたんだよー! 怖かったよねえ―! 同じことじゃないかなー!』
全員に聞こえる声で告げる私に、周囲もようやく私の怒りを察したのだろう。
向こうのビルで、女隊長がハッと顔色を変える。
大いなる光は、ふふっと微笑し……。
ペカー!
私が包んでいた暗黒空間を破り、虹の橋を作りながら両手を広げた。
「人の子らよ、あなたたちは今、恐怖と過ちを知りました。そう、あなたがたが行った事もまた、今の恐怖と同じく恐ろしき行為。今は確かに、争いとなりました。けれど、まだ間に合う筈です。我等には言葉があるのです、心があるのです。互いに無益な争いは止めにいたしませんか? そう……わたくしは提案いたします」
後光が広がっていく、これは女神の祝福だ。
まあようするに状態異常回復スキルである。
恐怖状態になっていた襲撃者達の心を、優しさで蝕むように包んでいく。
それはきっと。
……。
心の奥まで届いただろう。
「わたくしは女神。闇すらも光で包む主神、大いなる光。異界の人の子らよ、あなたがたにも我等の照らす光の祝福があらんことを――わたくしだけはあなた方を信じ、慈悲なる光で守りましょう」
女神様ぁぁぁぁ!
女神様ぁぁあぁ!
と、死の恐怖を知ったばかりの男たちが、跪いて祈りだす。
さて。
作戦は成功だ。
これで私という恐怖の暴走魔猫から守ってくれる、優しい女神様。
そんな図が完成した。
そう――。
これ、私と大いなる光が組んだ自作自演。
これからの話を円滑に進めるための、シナリオだったんだよね。
なんだかんだで、彼女とも付き合いは長いからね。
こういう打ち合わせは、なんとなくできてしまうのである。
ただ一人、事情を察した様子のハクロウくんこと社長さんは、私と女神を交互に見て。
エグすぎませんか?
と、ぼそりと呟いていた。
が――私達がそんなことを気にする筈もなかったのである!
女神と黒猫は密かに嗤う。
よく考えたら、正真正銘の主神と主神クラスの大魔族の結託だからね。
これくらいの詐欺行為、簡単にできちゃうんだよね。




