話し合い(物理)~アメリカンドッグの串は鋭い~その1
異能力者集団組織のリーダーで、カードゲーム会社の社長さん――。
金木白狼くんの案内のもと、我等は仲良くいざ行かん!
他の異能力者と接触!
話し合いができればなあ、と思っているのだが。
魔王様の愛猫たる私は――黒きモフ毛をぶわりと輝かせ、ビル風に揺れるシッポをモコモコ!
さすがは大魔帝ケトス!
モフモフ毛玉な素敵ボディはオフィス街にいても、目立ってしまうようだ!
うわあ、偉そうなドヤ猫というお声も届くが気にしない。
そんな素敵ニャンコを腕に抱きながら歩くハクロウくんは、肩にたけた白鳩さんと私の頭を交互に見て。
何故か大きなため息を一つ。
まだ太陽が昇り切っていない、オフィス街。
ランチタイムにはちょっと早い時間である。
「なぜワタシがこのようなアニマル達を運んでいるのか、理解に苦しむのですが」
『なんでって――今日は気温が高いし太陽もギラギラだし、オフィス街のアスファルトって結構熱くなるだろう? ネコちゃんが素足で歩いたら火傷しちゃうかもしれないよ?』
熱属性は無効なので、実際は大丈夫なのだが。
誰かに運ばせる。
しかも地位の高い存在に移動係りをさせるのは結構、偉そう!
というわけで。
やぶさかではない私は猫耳をピーンと立て、それっぽい理由をつけて言ってやったのである。
トカゲのような細面を僅かに歪めた社長さんは、じぃぃぃぃっぃぃ。
肩でバランスを取りながらも眠る白鳩さんを見て。
ぼそり。
「では、この白鳩はなぜワタシの肩で休んでいるのですか? 鳩なのですから、ご自慢の翼で飛べばいいでしょうに」
『あー、彼女は分霊体だからね。本体が飛ばす魔力を受信する端末みたいなもんだから、用がない時は寝てるんだよ』
代わりに解説する私。
とっても偉いね?
「そもそもこの鳩は何者なんですか? もしかしたら説明されたのかもしれませんが、申し訳ない……昨夜、あなたたちと飲み始めた後の事を、まったく覚えていませんので」
『君。だいぶ飲んでたからね~』
よーし!
飲み食いしまくったグルメ代金の事も、覚えていないようだ!
『君との対戦の最後に、私は自身を神だと表現したよね?』
「ええ、実際にあなたは神の御業の如き豪運をみせてくれました。その言葉は信用に値するものだと判断しておりますが」
『この鳩も神様だよ。それも主神……世界を支える神さ』
オフィス街を歩いていた社長さんの長い脚が、止まる。
「あなたの世界は……どうぶつ王国なのですか?」
『え? あ、ああ……そういや今の見た目は両方ともアニマルか。普通のニンゲンも棲んでいるよ? もちろん、君達日本人が大好きなエルフやオークやホビ……いや、今は名前を言っちゃいけないのか、小型の人間種もちゃんといる』
「なるほど、それは興味深い。ドラゴンもいるのですか?」
ドラゴンと言われ、尻尾をバタタタタタタ!
私はあからさまにげんなりとしてみせる。
『ああ、いるよ、いる。魔竜っていうんだけど、私と相性が最悪でね。出会ったら何かとトラブルになっているんで、あんまり好きじゃないんだよね。食べると美味しいけど』
「ふむ――ドラゴンと戦う黒猫ですか、絵としては悪くないですね」
どうやらカード商品のことを考えているようで。
その足は歩みを再開するが、意識は他所にあるようだ。
「そういえば確認していなかったのですが、あなたがたはなぜこの世界にやってきたのですか? 理由も無ければ、わざわざこのような汚れた世界になど来る必要もないでしょうに」
汚れた世界って……。
わりと悲観主義なのかな。まあいいや。
『他の異能力者集団との話し合いの時に、一緒に伝えても良かったんだけど……先に伝えておこうか。実はさあ、この世界。なんとかしないと確実に滅びちゃうんだよね~!』
「またまた御冗談を」
ははっと笑う社長さんの腕の中、私は肉球で頬を掻き。
『あー、冗談だったら良かったんだけどねえ』
「……まさか、本当なのですか?」
『異能力者集団の知り合いに予知能力とか、未来観測とか、そういう能力者もたぶんいるんだろう? 私達の魔術やスキルでもそういう先を見る力があるんだけど、未来を変えない限りは終わるだろうね。全てを見通す偉大なる御方と、ニワトリさんが共に滅びを観測していてね。どーにかしないと、ここ。壊れちゃうんだよ』
あまりにも唐突だったからか。
社長さんはまだ信じていないようで。
「にわかには信じがたいですね」
『だろうね。それが正常な反応だろうさ。じゃあそうだね、君は五秒後にガムを踏んで、その爬虫類っぽい顔をピキっと苛立たせると思うよ?』
「ありえませんね、どこにもガムなんて――」
言葉の途中で、ゴミを漁っていたカラスが空から生ごみをぽろりと落とし。
社長さんの高級そうな革靴さんがソレを、べちゃり。
『ね? 残念ながら私の未来予知は百発百中にはならないけど、この程度の近未来予知なら可能なのさ。ちゃんと予言通りになっただろ』
ガムを踏んでぐぬぬぬとしている社長さんの代わりに、私は肉球を翳し。
シュシュシュンシュン。
ガムを綺麗に剥がして、ちゃんとゴミ箱に転移させる。
「理屈は分かりました。そうですか、滅びるのですか……って! めちゃくちゃ大事ではありませんか!?」
『そうだよ? 実際、ここ最近、二回ぐらいこの世界に大きな異変があっただろう? あれは世界の滅びの原因を取り除く戦いの余波さ。更に言うなら、このダンジョン領域日本はそもそも破壊から世界を守るための結界。これでも私、既に二回もこの地球を救ってるんだよねえ』
よくよく考えたらさ。
この世界の人類、もっと私に感謝しても良くない?
頬に僅かな汗を浮かべるハクロウくんに向かい、私はシリアスな顔で言う。
『お礼に、あそこのコンビニでアメリカンドッグを買ってくれてもいいよ?』
「世界を二回も救った報酬がそれでいいのですか……随分と安いのですね」
そうは言うが。
全員からアメリカンドッグを買って貰ったら、約一億個のアメリカンドッグを貰えるわけで。そこまで悪くないと思うんだけどなあ。
ともあれ。
我等はコンビニに出陣!
『そんなわけで、こっちの世界の異能力者にも一応、事情を説明しておこうと思ってね。侵略が目的ってわけじゃないと伝えておかないと、このダンジョン領域日本を悪意による結界化だと思ってる人もいるだろうし……。そこで繋ぎを取れる人材を探していた所に』
「ワタシの弟が暴走しそちらの学園に迷惑をかけ、コネのあるワタシまで辿り着いた――とそういうことですか。アメリカンドッグ……これですか。フレンチドッグはないのですね――ケチャップよりも砂糖。凡人には何故それが分からないのでしょうか」
と、ぶつぶつ文句を言いながらも店員さんに注文する。
コンビニでホットスナックを購入する高級スーツの社長さん。
わりと奇妙な光景である。
大いなる光は高級お寿司に興味はあるが、ホットスナックには興味がないようで――肩にたかったまま、スヤスヤスヤ。
……。
こいつ、昨日飲み過ぎて眠ってるだけじゃないだろうな。
まあいいや。
「しかし不思議です。なぜ、異世界人のあなたが地球をわざわざ救うのですか」
『いやあ……液状ネコちゃんオヤツってあるじゃん? 最初はアレと、知り合いの娘さんだけを回収できればいいかなって思っていたんだけど、ははははは。まあその後は成り行きでね。こっちにも知り合いができちゃったし、なにより……』
そう、なにより……。
おそらくここは生まれ変わる前、私が生きていた場所。
私のネコの瞳はコンビニ店内の様子を見た。
商品を見た。
望郷とも違う、不思議な感情が猫の胸の中に膨らんでいる。
私は――。
どんな人間だったのだろう。
ふと思う瞬間があるのだ。
この世界にきたら、それを突然思い出すのではないだろうか?
そんな僅かな期待と不安もあった。
けれど何も起こらなかった。
それが良い事だったのか、悪い事だったのか。
私のネコの頭では理解ができなかった。
ただ少しだけ。
そう、少しだけ寂しいとそう思ったのだ。
「どうしたのです?」
『いや、なんでもないさ!』
きっちりとアメリカンドッグを購入させ、とりあえず大満足!
ケチャップとマスタードをべっちゃりつけて、ムフー!
コンビニから出て、私は言う。
『ところで聞きたいんだけど、君の部下や組織の知り合いに――スナイパーライフルでかわいいネコちゃんの頭を狙おうとする、そんな能力者はいるかい?』
「そんな変な輩……まさか!」
私の言わんとしたことを理解したのだろう。
私を片手に抱いたまま、社長さんは召喚カードを手にし周囲をギリっと睨む。
その時だった――。
ズジュゥゥゥッゥゥッゥゥゥン!
異能によって放たれただろう弾丸を目で追った私は、ニヒイ!
おそらく。
遠距離から私を狙っていた狙撃手の瞳には、スコープ越しに黒く嗤ったチェシャ猫スマイルが映っていただろう。
齧り終わったアメリカンドッグの串を杖とし、物理的に弾丸を弾き!
私は告げる。
『我こそが魔王陛下の愛猫。我こそが世界を覆う黒き混沌! 偉大なりし御方の忠臣、大魔帝ケトスである!』
滾る魔力でモフモフな獣毛が、もこもこもこ!
防御結界を展開!
蟻んこのような気配がありすぎて、把握できてないけど……たぶん。
『囲まれているようだね』
「これは、ワタシとあなた。どちらが狙われたのでしょうね」
急襲には慣れていないのか、その声は緊張している。
心臓の音も大きい。
この辺りが異能力者と異世界人の違い……一般人よりの精神、なのだろう。
『さあねえ、けれど両方という可能性もある。でもどちらだっていいのさ。既に相手は敵対行動をとった。つまり! ここからは全て正当防衛が成立する! イコール私は悪くない!』
記録クリスタルにバッチリ録画済み!
もう、何をしても大丈夫なのだ!
たぶん。
どこらへんから過剰防衛になるとか。
そーいうむつかしいことは、ニャンコには無理だからね。
うん。
とりあえず、殺さない程度にふっ飛ばそう。
オフィス街に突然鳴り響いた銃声。
ソシャゲ世界だからまたイベントかと反応も薄い街並みで――猫はギシリと嗤った。




