表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
506/701

楽園 ~その者、黒きモフ毛を纏い、気高く~前編



 その日こそが、伝説の始まり。


 異界より顕現した三柱の獣神。

 大魔帝ケトス、白銀の魔狼ホワイトハウル、神鶏ロックウェル卿。

 かの獣達により――狂える神が浄化され、正しき神へと姿を戻した、あの日。


 古き神々により作られたこの箱庭世界で、新たな神話が作られた日。

 記念日となったあの儀式の日から、二週間ほどが過ぎていた。


 長きに渡る神の支配。

 繰り広げられた聖戦。

 迷宮国家クレアリスタの騒動は、一つの終わりを迎えたのだ。


「いや、駄猫……終わりを迎えたのだ! じゃないだろう! これ、完全にネコに支配されてるけど、どうするつもりなんだよ!」


 叫ぶヘンリー君の声をモフ耳で受け流し、私は報告書代わりの記録クリスタルを再起動。


 もちろん私達三獣神の魔導儀式は成功!

 迷宮と共に育ったこの世界は、明確な転換期を迎えていたのである。


 再誕した聖父クリストフは自らの罪と傲慢を認め、民たちに謝罪。

 今現在。

 契約に従い、クレアリスタの民を支える神としての生活を送っている。


 さすがは魔王様の父上で古き神、その力も本物だった。

 ようするにだ。

 既に治安は安定しているのである。


 クレアリスタはネコと人間と亜人種が共存する、一つの楽園となったのだ。

 うんうん、と納得する私に再び襲うヘタれ王子の視線。


「都合よく書き換えるな! 楽園は楽園でも、ネコの楽園なんだよここは! ここに暮らす民たちの生活の中心が、ぜんぶネコになっている。その事実から目を逸らすな! 報告書に虚偽の情報を意図的に混ぜ込むのはやめろ!」

『えぇ……別にいいじゃん。みんな幸せそうだし……それに、ここのネコ魔獣達は楽園の番人で、護衛みたいなもんだろう? ネコちゃんがいないと守り切れないだろうし、ちょうどいいんだよ。うん、いま、そう決めたの!』


 ベンベンとぽかぽかレンガの壁を叩き熱弁する私に、ヘンリー君が肩を落とす。


「よーく、見てみろ? 道を歩く猫に、ははぁ……って土下座し崇める民が大勢いる国って、どこか変じゃないか?」

『う……っ、でも、まあ全員がネコ信徒ってわけじゃないし……ギリギリセーフ、じゃない?』


 ま、まあ確かに。

 ちょっとネコ魔獣が増えすぎて……、というか。

 ネコ様を神以上の存在と崇める人間が増えすぎて……若干、神の代わりにネコに支配されている国……みたいになっているが。


 気にしない!


 そんなわけで!

 黒きモフ毛の偉大なるニャンコ!

 大魔帝ケトスことお節介魔猫な私も、まだこちらに滞在中。


 のんびりとした日々を送っていた。


 とてとて歩く同行者のヘンリー君と、そして麗しき魔猫な私のモフ毛を揺らすのは、王国の民たちの黄色い声!


「ケトス様ー! バター醤油焼きとうもろこしー! 持って行ってくださいねー!」

「おお! 神よ! どうかこのフキノトウの佃煮をお納めください!」

「グルメ魔獣ケトスさま! どうか! どうかウチの店にもお寄りください! この信仰を、どうかお受け取り下さい!」


 今まで古き神に送っていた信仰を、こうして私達、特にネコちゃんに向けているのである。


 そう! 私はこの世界を救った英雄猫!

 神でもあるので、超大人気なのだ!


『無理しなくていいんだよー! でも、せっかくだから貰っておくね! ありがとう!』


 むろん、誘われて断るのは失礼にあたる!

 私はニャハニャハしながら全ての貢物を受け取って、にんまり♪


 ご馳走を肉球で抱えて、にゃは~っと瞳をギラギラさせる私の横。

 ヘンリー君が人間達に言う。


「なあ、あんたら……駄猫こいつは別にあんたたちのためだけに、この世界を救った訳じゃないんだからな? そこまで熱心に拝まなくてもいいだろう」


 説法を受けるような顔で聞く人間達は、少し寂しい顔で口を動かす。


「それでも、あたしたちには……まだ、神様が必要ですから」

「今さら習慣も変えられないからねえ」

「ネコ様を崇めていると……不思議と心が落ち着くんですよ」


 ネコに魅了された顔で、ほわほわほわ♪

 それぞれに、口にするのは――まだ古き神に利用されていた時の習慣を匂わせる言葉ばかり。


『まあ、本当に長い間。神様を崇めることがこの世界のルールで常識になっていたんだ。信仰対象を定めておかないと、落ち着かないのも事実なんだよ。ほら! そこで輝くのは! 我らがネコ魔獣! ウチの猫達も信仰を受けて、感謝を受ければちゃんと神の奇跡や見返りを施しているだろう? うんうん、これは立派な共生関係さ!』

「まあ平和なのは間違いないけどさ。ネコの楽園ねえ……これ、どうなんだろうな……」


 ヘンリー君が心配するのも、まあ無理もない。

 ちょっとここの人たち、ネコに支配されてなんか喜んでる気配すらあるし。


 まあそのうち、彼らの生活も落ち着いてくる。

 ……。

 筈である!


『さて、ヘンリー君。君はそろそろ大いなる導きによる修行の時間だろう? 君の明日のためにも、さあ! 行け、若者! 立派な死神に、君はなるのだ!』


 ビシっとゲームのナレーション風に言ってやったのだが。

 ヘンリー君はなぜか、私の顔をじっと見ている。


「なあ、はっきりと確認しておきたいんだけどさあ。そろそろ教えて貰ってもいいか?」

『なにがだい?』

「あんたと大いなる導きには、ボクの未来にナニが見えているのさ」


 今回の騒動でかなり成長したヘンリー君だが、その滅びの未来が全てなくなったわけではない。

 生存の道や、幸せになるだろう未来も選べるようになってはいるのだが……。

 歩む未来次第では、やはり彼の道は閉ざされている。


 結論を言うと、彼の未来はまだ不安定なのだ。


 瞳を閉じて、私は言う。


『賢い君の事だ。それを聞くって言う事は、もう自分でも半分ぐらいは分かっているんだろう?』

「そうだな……まあ、ボクを心配してくれているって事と。今回の冒険でおまえたちが見えている未来にも、明るい兆しが増えているって事は分かった」


 結局は自分が成長するしかない。

 そんな表情を覗かせ、彼はぎゅっと拳を握っている。


『おや、前向きだね。出会った頃の君だったら、うわぁあボクはもう駄目なんだ、ほっといてくれぇ~とか喚き出しそうだったのに』

「そりゃあ……どっかの暴走駄猫にかなり鍛えられたからな……精神的にも、レベル的にも。いやほんとに……」


 そう、彼はもうかなり成長している。

 それなのに滅びの未来が完全に消えないという事は――外的要因のせいもあるのだろう。


 彼よりも強い――。

 それこそアン・グールモーアや金色のカナリア姫のような、魔性に近い何者かが彼の未来に関わっている可能性が高い。


 だから、今できる事は!

 修行なのだ!


『そういや大いなる導きが最近、妙に遠くを見ていたり……ふっと思い出し笑いをしたり、かと思えば急にぼぅっとして、花を見つめていたりするんだけど。なにか心当たりある? 彼女の心は本気にならないと読めないし、マナー違反だろうから読んでないから、理由が分かんないんだけど』


 言われたヘンリー君は何故か顔を、ぼぼぼぼぼぼっと赤く染め上げて。


「ボ、ボクに聞くなよ! なにもないよ! なにもなかったっ!」

『ど、どうしたんだい?』


 な、なんだろう。

 修行をずっと一緒にしているから、私よりも詳しいだろうと思い聞いただけだったのだが。


「なんでもないって……いいか、その話は忘れろ!」


 表情と顔を隠すように。

 ちょっと大人になった腕で、前髪に手を当て続けるヘンリー君。

 その心も読むのは……まあ、やめた方がいいかな。


 大人の余裕な息を漏らし、私は言う。


『喧嘩とかじゃないなら別にいいけど。まあいいや。それじゃあ、ちゃんと修行を積んでおくれよ~。私はカピバラさんの様子を見に行ってくるからね~』


 告げて私は瞬間転移!

 空気を読んで、彼を一人にさせてあげたのだが。


 もしかして、あの二人……。

 にゃは、にゃは~!

 まあ、そうなったとしたらそれはそれで面白いので!


 しばらく干渉しないでおこう!

 いやあ、なんつーか……。

 私が変に関わると……フラグ的ななにかを、ボギって折っちゃいそうだからね。


 ◇


 転移した先は、大迷宮の内部。

 ここは既に私の領域――自由に出入りができるようになっているのである。


 ここも既にネコの縄張り。

 ニンゲンもネコも忙しそうに働いている。

 当然、このエリアでもネコである私は人気者!


 ここに来たのは当然!

 信徒となっているニンゲンからチヤホヤされる生活や! サボってお腹を上に向けて、ぐーすか眠る生活を満喫したい!

 からではない。


 目的は確認。

 なにしろあの聖父カピバラさんがちゃんと奉仕活動をできているのか、しばらく監視する必要があるからね。


 サボっているわけではないと、分かってくれるよね?


 ヘンリー君と大いなる導きは、先ほどの出来事で分かると思うが――まだこちらに滞在。

 私と共にここに来たこと。

 そして、私だけでいると何をするか分からないから、残っている!

 とのこと。


 麗しの魔王様とマーガレット君。

 そしてロックウェル卿とホワイトハウルは既に帰還していた。


 もちろんあの後、三日ぐらい大宴会をしたけれどね!


 そうそう! 魔王様と、目覚めたお父様本来の魂との感動の対面!

 ……とはならなかった。


 互いにまだ顔を合わせるには時間がかかるようである。

 魔王様は聖父クリストフの魂を宿したカピバラさんと、あまり会話をしなかったのだ。

 既にたもとを分かっていたようだからね。


 魔王様の御言葉ではないが、まあ色々とあるのだろう。


 ただカピバラさんの事はともかく――今回の迷宮探索は、魔王様にとっても良い息抜きになったのだろう。

 すっかり気分もリフレッシュ。

 今は悪魔執事サバスくんの監視の中、判子押しを繰り返す日々を送っている。


 ちなみに、ちゃんと抜け出した事へのお説教はされたようである。


 まあ、魔王様が判子を押すのに時間がかかっているのは、サボリではなく。

 ひとつひとつ内容を確認しているからだろう。

 許可を出した結果どうなるか、そこまで考えるのでサインに時間がかかってしまうのだ!


 何故そう思うのかって?

 私もそうだったからである!

 ……。

 と、いう事にしておこうと思う。


 今回の事件の報告は――まあこんな感じで大丈夫かな?


 記録クリスタルに記述しながらダンジョンを歩き、今、ぽかぽか魔導太陽の下を進む私は周囲をチラリ。

 先ほども言ったが、ここは既に街ではなくダンジョン内。

 あの大迷宮だ。


 それなのに、まるでここは新しき街。


 ネコ魔獣の棲み処となった大迷宮。

 役目を終えたこの地には現在、人間とネコが共に住まう新市街をクリエイト中なのである。


 目的は二つ。

 ネコとニンゲン達との共存と、迷宮に湧く生活必需品の確保。

 そして安全のためだった。


 なにしろこの迷宮――実はけっこうヤバイ作りになっている。

 古き神々が、色んな場所に侵略できるようにと作った迷宮なのだ――各地の異世界とダンジョンを通じて繋がっているからね。

 危険な場所でもあるのだ。


 実際、モンク僧のカイン君たちはこの大迷宮を通して、私の世界を攻めてきたわけなんだし。


 なので! 強力なダンジョンネコ達の縄張りとして登録、がっちりとガード!

 そのリーダー兼、主神としてあの聖父カピバラパパが着任!

 異界からの侵略を防いでいるのである。


 まだ名もなき大迷宮タウン。

 グルメ街となるはずの予定地を、私は肉球でぷにぷに。

 探すのはもちろん、あの珍獣。


 おそらく、この辺で働いている筈なのだが――。

 おー、いたいた!


 働くその背に、私は声をかけた。


『おや、ちゃんと働いているようだね――ってことは、残念カピバラさんじゃなくて、魔王様のお父様の魂の方がその身体を動かしているのかな』


 振り返るのは。

 ぶわぶわタワシボディの聖なる獣。


 大迷宮内の管理と連絡、治安維持などを行っている迷宮国家クレアリスタの新しき主神。

 聖父クリストフである。

 まあ、見た目はあのカピバラだけどね。


 聖父カピバラパパは、まるで聖人のような瞳で私を見る。


「やあケトスくん、おはよう。その様子だと、昨日はぐっすりと眠れたようだね」


 無辜な口調のカピバラさんは、まるで子供を諭す保護者の顔でこちらに微笑み。

 獣の口をもごもご。

 聖人の声と、ファンシーなカピバラさんの顔がなんともミスマッチ。


『う……っ、たしかに、グッスリだったけど――嫌味かい?』

「そうじゃないさ。まあたしかに、昨日は国王となったカインくんと一緒に飲んで。一日中騒いで、ぐっすりと眠ってしまったようだからね。目覚めが昼過ぎになってしまうのも無理からぬこと。我等は気にはせぬよ」


 やっぱり、ナチュラルな嫌味でやんの。

 しかし。

 私のネコの瞳は、目の前の巨大ネズミをじっぃぃぃぃぃっと見てしまう。


 フゴフゴと、カピバラさんの顔でシリアスな声を出しているから、反応に困る。


 そうそう!

 そういや、そんなに大したことじゃないから割愛したけど。

 モンク僧のカインくんは大出世!

 王国とは名ばかりで王不在だったこの国の、初代王になったんだよね。


 理由は単純。

 あの冒険でメチャクチャレベルが上がって、ちょっと人間離れしちゃったからね。


 恩人ネコ神である私と共に聖戦を生き抜いた! そんな伝説も加わったことで、民たちからの信頼も厚い。

 聖職者たちから王になれと推薦された彼も悩んだようだが、私の後押しの末、王となる事を承諾したのだ。


 念のために言うが。

 私の後押しは王不在の国の未来を憂いたからであり、別に国王誕生を祝う宴のグルメが目当てだったわけじゃない。


 あぁ、あの祝い真鯛まだいの塩釜焼き……おいちかったニャ~♪


 身が引き締まって、けれど脂がぶわっと口の中で蕩けて……ほどよくしょっぱい。

 健康的な玄米ご飯が思わず進んじゃったね!

 じゅるりと垂れるヨダレを、ネコ手でフキフキ。


 よし、バレてない!


 ともあれ――!

 私は聖父カピバラパパを見て、頬を肉球でぽりぽり。


『あー、ちょっと神形態になって貰っていいかい? カピバラさんの身体だと、何を語ってもギャグにしか見えないし……』

「な、なんだと! 我をギャグキャラ扱いするでない! これだから近頃の若いネコ魔獣は……って、なんだキサマ! 居候の分際で、こら! この身体はそもそも本来は我のモノって! 主導権を握るな! ぐぬぬぬぬ! 絶対に、この身体の主導権は渡さんぞ! 渡さんといってるだろうに! こら、やめ! 我の魂を擽るな!」


 残念パパモードの声がしたが、気にしない。

 今、このカピバラさんには二つの魂が入っているからね……。


 こうやってどちらが前に出るか、主導権を取り合っているのである。

 私の場合は、意思疎通ができている。

 というか、結局は全部私なんだし、そういう器の取り合いはあんまりないんだけど。


「はは、待たせてすまないね。聖獣カピバラパパはああいう性格だから、うん、たまにこうして喧嘩になるんだ。働いている時は基本的に、魂の裏側でお腹を向けて眠ってるんだけど――ちょっと大事な話なようだからね――しばらく大人しくして貰って……って、痛いな、君。噛まないでおくれ……」


 自分の魂内で器用に喧嘩しているようである――まあ、極たまに私もネコキックで主導権を奪うし。

 似たようなもんか。


 魂の制御ができたのだろう。


「待たせたね――今、かつての姿に戻るよ」


 カピバラさんの身体が輝き、頭上に浮かんだ聖父クリストフが降臨。

 そのタワシボディとずんぐりむっくりな顔を、二足歩行の神へと転身させていく。


 ぱぁぁああああああぁぁぁ……!

 ダンジョン内に、光が満ちる。

 古き神の降臨に反応しているのだろう。


 まばゆい光が大人しくなってきた頃。


 目の前に現れたのは、無数に重なり合う翼を持つ男。

 イメージとしては、炎の柱を背に抱く厳格な大天使――。

 といったところか。


 ちなみに、麗しの魔王様と、一応、女受けがよろしいらしいレイヴァンお兄さんの父上だけあって、かなりの美形である。

 再誕の儀式を目撃した聖職者たち曰く。

 天に輝く太陽よりも眩しい美貌。


 だそうだ。


 メイドモードで澄まし顔状態だったマーガレット君が思わず。

 うわ、マジっすか!?

 と、驚愕したぐらいの美形だと思って貰えば、その凄さは分かるだろう。


 まあ、別に張り合うわけじゃないが。

 私の方が美形ですけどね!


 黒猫と聖父との話は、まだ続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 猫の楽園…。何か出来上がってらっしゃいますね~♪《*≧∀≦》 [一言] クリストフパパはやはり美形でらっしゃいましたか!《*≧∀≦》 そりゃあ魔王様やレイヴァン兄さまのお父様ですもんね~…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ