もふもふ探検隊! ~ラスボスが味方にいるとゲームがぶっ壊れる~その3
黒幕を引きこもり結界に閉じ込めたまま、大迷宮をわっせわっせ♪
我等もふもふ探検隊。
魔王様を護衛する大魔帝こと私! ネコ魔獣ケトス達は今日も行く!
ビシ!
ふっ、魔王様の腕の中でも素敵ポーズが決まった!
ドヤる私。
最高にかわいいね?
そんなカワイイてんこ盛りな私の喉を、さすさすしながら魔王様が微笑む。
「満足したかい?」
『ええ、とても――ニャハハハハハハ!』
おっといけない♪
魔王様と一緒なので、ついついテンションが上がってしまった。
ダンジョン探索は順調!
今はダンジョンゲームで表現すると中盤ぐらいか。
奥に進むための面倒な仕掛けもあったのだが、これだけのメンツが揃っているので、ねえ?
まあ大抵はなんとかなってしまった。
既に攻略を開始してから四日ほどが過ぎているが、問題なし!
準備もしてきたし。
途中何度か、魔力と体力回復をかねて休憩キャンプを行ったからね。
温野菜と鶏肉のチーズフォンデュ鍋を楽しんだり――テントを張って、ボードゲームに興じたり。
ぐっすり休んだりと観光気分♪
メイド騎士の本領発揮と、マーガレット君がいっぱいグルメを作ってくれたこともあり、私も大満足!
ついうっかり、私が間違えて食材にドラゴン肉を提供してしまい。
それを食べたモンク僧カインくんの、覚醒イベントもあったのだが――。
まあ地味だったので割愛。
このダンジョンで手に入れた皇帝拳の力も使いこなしてきているようで、なにより。
それなりの戦力になってはいる。
ヘンリー君はというと――大いなる導きのサポートを受け、毎日、定期的に黒幕を閉じこめる引きこもり結界を維持。
敵さんを強制引きこもり状態にしていた。
まあ、魔力と体力をけっこう使っているのでヘトヘトのようだが、これも修行の一環である。
そのおかげで、いまだに敵さんは最奥に閉じ込められたまま。
どこの誰かは知らないが。
今頃、めっちゃキレてるんだろうなあ。
さて、そんなわけで迷宮内を探検する私達は、和気あいあいと進んでいく。
松明を片手に進むのは、氷塊エリア。
氷の壁と氷の床という、とっても冷たい空間なので――私は魔王様を見上げ、じぃぃぃぃ。
「おやケトス、どうしたんだい? ああ……寒いならワタシのコートの中に入るかい?」
『あー、寒いから仕方ないですよね~! それじゃあ、遠慮なく――よいしょっと』
冬の季節。
スマートなネコちゃんが、ご主人様のセーターの中に入る場面を想像して貰えば、たぶん今の状況とピッタリあっているだろう。
いつものように、服の中から顔をニョコっと出しカワイイ私を演出。
「はぁ、やはりケトスはかわいいなあ。キミがいるということだけで、世界に絶望した日々を忘れる事ができる。ネコ、もふもふ、ああ、イイ。実にイイ。いっそ世界がもっと猫で満ちれば、戦争なんてなくなると思うんだけどねえ」
『ああ、じゃあいっそ。人類すべてをネコ魔獣に変えちゃいます? 大魔王ケトスもやろうとしてたんで、本気でやろうと思えばできると思いますよ?』
二人の会話を冗談だと思ったのだろう。
何も知らないモンク僧カインくんが声を上げて笑う。
「ははははは、お二人は本当に楽しい御方ですな。拙僧、冗談だとは分かっているのですが、ついついそんな未来もあるのかもしれないと、妙な映像が脳裏に過ってしまいましたぞ」
ちなみに。
私と魔王様をよく知っている大いなる導きは、困り顔で頬をぽりぽり。
そう。
彼女は本当にそういう未来の可能性もあると、知っているのだろう。
マーガレット君に至っては、あたしはどんな猫になったらケトス様が喜んでくれますかね~っとキシシシシ。
決意されても困るからと話題を変えるつもりなのだろう。
死神貴族のヘンリー君が、人類ネコ化計画を想像する私を見て、ぼそり。
「おまえ、そうしてると本当にただの猫みたいなんだな。うわあ、偉そうなドヤ顔をしやがって」
『魔王様を可愛さで癒す事。これも大魔帝の役目だからね』
ただ問題が一つ。
ゴロゴロゴロと鳴る喉の音で、ダンジョン内を揺らしてしまったからだろう。
その振動が魔物を引き寄せたようだ。
奥の角から氷の上を滑って敵が来た!
相手は亡霊系の魔物。
迷宮に魂を囚われた人間の亡霊たち。人間を辞めた途端に、そこそこ強くなっているというなんとも皮肉な存在である。
前に出たのは魔王様!
「じゃあ次の敵はワタシがやるからね、習得した魔術の実験がしたいんだ。みんなは手を出さないでおくれ――って、どうして既に大いなる導きの結界の中に隠れているんだい?」
「ふふふ、それはクリストフ。あなたが既に何度もフロアごと敵を大魔術で吹き飛ばしているから、でしょうね」
ヘンリー君も引きこもり結界で大いなる導きの結界を強化。
カインくんも胸の前で指による複雑な印を切って、結界を強化。
マーガレット君はいつかのキャットタワー結界を展開。
巻き込まれないための完全武装を眺め、魔王様が口を逆のへの字にして。
はははははは!
「心外だねえ。キミ達には一切傷をつけていないだろう? ほら、問題ない。まあそうやって多重結界を張る練習になるのは悪い事じゃないね。つまり、ワタシのおかげでキミ達は連携ができるようになっている、そういうわけでもある。だからねケトス。ワタシは悪くないね?」
『ニャハハハハハ! 嫌ですよ、魔王様。魔王様がなさることは全てが正しいのですから、もし間違っているのなら世界の方が過ちを犯しているんですよ』
肯定を受けて、頷く魔王様。
もはや、お約束になりつつあるジト目の残りのメンバー。
ともあれ。
書類仕事に追われていた魔王様も、気分爽快なのだろう。
陽気な鼻歌まじりに荒ぶる敵を視認。
私を服の中で抱っこしたまま、この魔術式は……魔力精霊……ダンジョン内に住まう精霊の力を借りた核融合魔術を詠唱。
まあ核融合といっても、その破壊力だけを再現する魔術だろうが。
……。
これ、危なくない?
私はこっそり、全員の結界を強化する。
「迷宮に住まう精霊よ――ワタシに力を貸しておくれ」
魔王様を中心に広がるのは、魔力波動。
世界の法則を乱す魔術式が、滝のような轟音を立て響き渡る。
魔力波動を受けた私は魔王様の服の中で、モフ毛をもっこもこに輝かせる!
『ぶにゃははははは! 愚かなり魔物どもよ! ここに御座す御方をどなたと心得る。畏れ多くも我のご主人様! 魔王陛下であるぞ!』
「なんだこの光景……」
呟くヘンリー君に言われ、ふと考える。
ネコを服の中に入れて、とてつもない規模の魔術を操るラスボス様。
まあ、たしかに。
冷静になってみると、ちょっと変な光景かもしれない。
魔王様が魔力精霊に呼びかけ、詠唱を再開。
「風よ、光を運び集いて……違うな。闇夜膨らみ、道を翳し――……、んー……、なんか違うなあ。詠唱はテキトーでいいか。まあ、そのなんだね――発動したまえ」
ものすっごい詠唱破棄をした後。
十重の魔法陣が急速展開。
ティルティルティル……と、原子を収束させていく独特の音を立たせ。
ドッカーン!
私達を守る結界以外の全てが蒸発し、階段だけが残る。
敵を一網打尽にしたのだ!
新しく習得した、この世界の最強魔術を発動させご満悦!
「どーだい! 凄いだろう!」
『って! あれ、なんか中ボスっぽいのが大量にやってきてますよ!』
氷が解けたフロアに響くのは、無数の足音。
どうやら大量の魔物の追加オーダーのようだが。
マーガレット君が何かに気付いた様子で、言う。
「あー、あれじゃないっすか? このフロア自体が罠。氷の中に強力な魔物が封印されていて、本当は火や断熱魔法を使わず……氷封印を解かずにこっそりと抜けていく……。そんなエリアだったかもっすねえ」
『あー、たまにあるよねえ。その段階だと倒せない敵が配置されてるダンジョンギミック』
和やかに会話する私に、ヘンリー君が唸る。
「って! 落ち着いている場合か! これ、無限に湧き続けてるぞ!」
「もしやと思ったのですが、拙僧に思い当たることが。先祖より聞いたことがあります。静寂のフロアには隠されし死の魔竜が棲んでいる。彼の氷帝こそが最強の魔竜。その氷棺からけして目覚めさせてはならない、それは無限に再生し、無限に同胞を呼び続ける恐ろしき魔物なのだから、と」
汗を浮かべていうモンク僧カインくんに、マーガレット君がくわっ!
「そーいう大事な事は、もっと早く言ってくださいっすよ!」
「す、すみませぬ。まさか静寂の言葉が氷を意味していたとは、拙僧も想定しておりませんでしたので。しかし、これだけの数。広範囲の殲滅力を行使できる魔導で退治するのが、王道かと思われますが――如何なさいますか?」
ドドドドドっと大地が揺れる。
カイン君の言う通り、これこそが氷帝で死の魔竜。
このフロアの大ボス達なのだろう。
いかにも伝説の魔竜でーす、みたいな。
ゴテゴテした、ゲーム後半で手に入る召喚獣のような魔竜が次々と湧いて出てくる。
まあ大ボスといっても、あくまでもこの階層のボスなだけ。
黒幕はちゃんと引きこもり結界で、いまだに監禁済みである。
うっかり氷を解かしてしまった魔王様は頬にジト汗を浮かべつつ、キリ!
「さあ、ケトス! ワタシに今のキミの力を見せておくれ! そう、ワタシはキミの力が見たいから、あえて彼らの封印を解いたのさ! ワタシはちょっと手、というか耳が離せなくてね。いま、さっき力を借りた精霊たちに、あんな物騒なもんをいきなり使うなって説教を受けているから、た、頼むよ?」
魔王様……魔力精霊とも話せるんだ。
こういうダンジョンの精霊って実体のある炎帝ジャハル君たちとは違って、けっこう特殊な立ち位置の存在なのだが。
ともあれ。
普通のレベルのまま、ここで強敵を出されていたら詰んでいたのかもしれないが。
こっちは既にレベルが上がりまくりだからね。
『じゃあ、御言葉に甘えて。ここは私がやっちゃいますね~!』
御指名を受けた、私はニャハ!
魔王様が無双をしたので、今度は私の番なのである!
魔王様の服の中から手をにょこっと出し、頬のモフ毛をぶわぶわに膨らませ。
いざ!
ダンジョン宝箱で発見した、聖樹トネリコの杖を翳す。
『我はケトス! 大魔帝ケトス! 魔王様のすてきな愛猫なり!』
ちなみに、この杖も伝説の装備。
ちょっと価値の分かるファンタジーよりの人間世界で売ったら、それなりに栄えている大陸の国家予算ぐらいの金額にはなるだろう。
名乗り上げの詠唱で聖樹の先端に、魔力球をセット。
そのまま上に打ち上げ。
魔力球に魔術を吹き込み、魔術名を宣言!
『無差別殺戮魔術! 《荒ぶる猫光弾》!』
世界に新たな魔術が生まれた瞬間である。
炸裂式の無差別砲台となった魔力球を暴走させ――くははははははは!
氷がなくなって水蒸気が起こるフロア全体に、暴走魔力球が駆け巡る。
見た目は――。
ネコちゃんが遊びそうな空飛ぶ光る蹴鞠から、殺戮光線が放たれ続ける――そんな感じのカオスなのだが。
さすがにこの魔術の回避方法を氷帝竜たちは知らないのだろう。
次々と撃ち抜かれ、その滅んだ身が氷の結晶へと変わっていく。
魔王様が魔術師の顔で、じっと見て。
「なるほど、あえてコントロールをしないことで術の破壊力を追求。ランダム軌道なので回避をしにくい攻撃……死の魔弾を半永久的に打ち続ける光の玉を召喚する魔術かな」
さすがは魔王様。
わずかな時間で私の生み出した即興魔術を見抜いている。
『あの魔竜たちが無限に湧き続けると言っても、限度がありますからね~。これで安心です。このフロアを放置……いえ、平和のために見なかったことにして、先に進んじゃいましょうか』
「うん、それがいいね。ワタシたちは正義のために進んでいるのだから――こんな所で足を止めてはいけないね」
なぜか早く先に進みたがっている私達を見て。
聡いヘンリー君が悟ったのだろう。
「で、駄猫教師――この魔術。どうやって止めるんだ?」
いつものように、私の誤魔化しを見抜くヘンリー君はまあさすがである。
ギクっと頭の毛を尖らせる私も、ちょっとヤバいな~と思っていたのだ。
実はこれ。
氷の魔竜が滅んだあとも動き続ける今の魔術のせいで、阿鼻叫喚。
なにもないだだっ広い空間で、延々と殺戮光線を放ち続けるヤベエ魔術が残り続ける、そんな死のエリアの完成を意味していた。
魔王様の魔術で氷の壁が消えた事により、遮るモノは何もなく。
荒ぶる猫光弾は、自由に暴れ続けるだろう。
控えめに言って地獄のようなフロア――と化してしまっているのだが。
『まあ、なにもないエリアには気をつけろ。そこには荒ぶる光が常に無差別攻撃をし続けているのだから――的な伝承を残して貰って、それを注意して貰えばよくないかな? ほら! 氷の魔竜は倒しちゃったから、あの伝承ももう無駄になるんだし! そう! 新しい伝承で上書きすればいいんだよ!』
魔王様はうんうんと頷いて納得してくれたが。
何故か他の人は、同意をしてくれなかった。
結局、まだ大ボスの氷帝魔竜が湧くかもしれないと、そのまま魔術を放置し――私達は出発した。
後で止めに来るから先を急ごう。
と、なったのである。
まあこんな大事、忘れるわけがないかとヘンリー君は納得したようだが。
私が覚えていられるかどうかは、謎である。
たぶん、魔王様も忘れる。
私達は更に奥へと進んだ。
そろそろ本格的に敵も罠も強力になってくるだろうが、まあ問題ないだろう!




