ネコ無双ふたたび ~光の柱と勝利のマタタビ酒~その1
なんやかんやとあったが、とりあえずはモンスター退治!
国の平和を守るため。
我等、神属性三人衆は街に繰り出しモフ毛をぶわぶわ!
迷宮国家――。
クレアリスタのレンガの道を、黒き肉球がプニっと駆け巡る!
大迷宮からあふれ出した魔物を一掃するべく、大魔帝ケトスは今日も元気!
くははははは! っと、優雅に轟き叫んでいるのである!
ビシ!
さて、自己紹介も手短に――私はてかげんを最優先した魔術を選択中!
浮かべた魔導書で効果説明を閲覧。
いやあ! こういうのって、説明を呼んでる時が一番ワクワクするよね~!
この世界の魔術を使ってみたい!
そんな誘惑にウズウズ♪
ネコのかわいいお鼻をスンスン!
可愛く浮かれる私に、空を舞う大いなる導きが後光を放ちながら。
「ケトス様、わたくしは逃げ遅れた民の転移を。そして戦いに参加している冒険者の方々の援護と、支援を行ってまいりますわ」
『ああ、頼んだよ!』
主神によるバフを受ければ、力の足りない冒険者だとしてもだいぶ戦力になる筈。
ついでに大いなる導きの信仰値も稼げるだろうし、一石二鳥!
彼女も再臨したばかりの女神様だからね。
人々からの信仰を得られるのなら、この機会を逃すのは勿体ない。
そして残るヘンリー君は負傷者の回復を行おうと、キリリ!
回復の書を片手に、更に――キリ!
シリアス顔でキョロキョロしているが――。
「って!? これだけの魔物が溢れているのに! 怪我人もいないし、逃げる時に転んでかすり傷を負ったぐらいの傷に、最上位の回復魔術を使ってるネコ魔獣で溢れてるし! ボクの役目がないじゃないか!」
『本当にこのネコ達はそれなり以上に強いからね。縄張りを守ろうとする動物の本能は知っているだろう? この街の安全はもう確保されているから、まあ、気楽にいこうじゃないか』
告げて私は、習得した異世界魔導書を閉じ。
ふふふふ。
にゃふふふふふふふふふ!
足元から極光色の魔法陣を展開!
グググ、グゥオォォゥゥゥゥン!
天を衝く光の柱の横。
十重の魔法陣を空に浮かべ、覚えたての異世界魔術を解放!
『我はケトス! 以下、呪文省略! 初級睡眠魔術――ヒュプノスの腕!』
この世界の魔術師が最初に覚える、初歩の睡眠魔術を詠唱。
魔術シーンを格好よく披露するために、私はダダダっと猛ダッシュ!
モフ毛を靡かせてぇ、大ジャンプ!
ああ! 太陽に照らされる私のモコモコな獣毛が、実に見事に輝いている事だろう!
風に揺れ靡く、首もとのふかふか柔毛も!
ぶにゃっと開く猫の手も、とってもテカっている筈!
こんなにかわいいんだから、私って罪なニャンコである♪
ドヤシーンを演出する私にヘンリー君が唸る。
「って! その魔術! ボクも確認したけど、発動にジャンプする必要なんてないだろう!」
『ぶにゃはははははは! 甘いのニャ! これは作戦! 魔術はわざと目立ち、敵を引き寄せる挑発効果もあるってことさ!』
実際、範囲睡眠魔術を使おうとしたら敵は妨害しに来るだろうしね。
そこを白兵戦で返り討ちにする、なんて手もある。
『悪いけれど、眠っていてもらうよ!』
ターゲットを指定し、初めての異世界魔術を発動!
対象は――。
おそらく群れのリーダーに従う習性を持つ、枯れ木のような巨大昆虫人族のモンスターたち。
肉球の先から生まれたのはピンク色の煙。
その魔力煙が睡眠神の腕の形へと変形していき、魔物の群れを抱き上げて。
ぐじゅ――!
効果は単純、相手を眠らせる。ただそれだけ――。
の筈だったのだが。
……。
『あ、あれ? 眠らせるつもりだったんだけど、調整ミスったかな……潰しちゃった。これじゃあ永眠だね』
目の前には、赤黒い血の池がシトトトト。
良い子のネコちゃんには見せちゃいけない、グロいオブジェが転がっている。
ていうかこいつら、体液は赤いんだね……。
なんかどっかで見た事のある枯れ木っぽい昆虫人間だが、まあいいや。
惨劇に気付いた周囲の魔物は唖然と驚愕。
睡眠ではないものの、恐怖状態となって行動を制限されているから。
結果的には問題ないかな?
『さ、作戦どーり!』
「嘘つけ!」
まあ次行ってみよう!
ということで、この世界の狩人が扱うスキルを参照して――いざ!
ウキウキるんるん♪
モフ毛をぶわぶわっと膨らませてスキルの書を読む私を、ヘンリー君のジト目が襲う。
「なあ……なんかもうパターンが読めて来ちゃったんだけど? 今度は大丈夫なんだろうな?」
『大丈夫さ!』
自信満々に答えてやったのである!
とりあえず、空に飛んでいるガーゴイル。
翼持つ石像悪魔の群れをターゲットにして。
『えーと、弓矢がなくても発動できる遠距離攻撃。低威力の魔術の矢を飛ばすスキルか――やりすぎ注意だし、ちょこっと……指で弾く程度に……とりゃ!』
肉球で、ちょんと空を叩いた。
次の瞬間。
初級スキルだった筈の矢飛ばしが、何故かスキル変化を起こし。
スキル名が世界に登録されていく。
そして同時に専用スキルもこの世界に登録されたのだろう。
空に、魔術文字が浮かびスキル名を刻み始める。
《称号:信仰されしケモノ》
《スキル:大魔帝の剛弓激》
《承認しました――使用者:大魔帝ケトス。現在最も信仰されし神》
大いなる光とは違う女神の機械音が鳴り響いている。
モフ耳を立てて、私は犬歯を覗かせ――ウニャ!
『システム音声!? やっぱり! この世界、古き神が作り出したゲーム結界を用いたダンジョン領域だ!』
「ああ、ボクの世界でも使っていた、師匠が残したゲーム結界魔術か」
懐かしさを滲ませた青年の声を受け。
私のモフ耳と心が動く。
ん?
ヘンリー君の師匠が残したって……じゃあ、これ。
この世界に使われている魔術も、あの方の遺産?
冥界でアメントヤヌス伯爵も使っていたゲーム化現象が、妙に強力で、なぜ超格上である私にまで効果が及んでいたのか――ちょっと疑問だったのだが。
そういうことか。
ゲーム化魔術の最初の開発者はおそらく。
北の賢者。
つまり、私の魔王様と同一存在ともいえる異世界の魔王様である。
既に転生なされた異世界魔王様の残留思念が世界に残した、布石。
というか……悪戯みたいなものなんじゃ。
あの人……魔術を使ったイタズラ好きだからなあ……。
となるとだ。
あ。
これ、絶対ヤバい――そう思い、ヒゲをぴくっとさせた時には既にスキルは発動していた。
◇
ふよふよふよと、シッポとおヒゲが揺れている。
爆音が、後から遅れてやってきた。
光と音の速度は違う。
だから、遅延が発生しているのだろう。
うん。
それはいいのだ、別に。
ただ――。
私がちょこんと、肉球の先で叩いて発動させた初級スキル。
《矢飛ばし》が、何故か《大魔帝の剛弓激》っていう、専用スキルに昇格していて。
ギギギイ、ギィィッィィィィイイイイイイイイィィッィン!
私の爪の先から生まれた魔力は矢というよりは、レーザー光線となって空を薙ぎ。
バゴギ!
更に――モフ耳を揺らす鋭い音が鳴り。
シャキィィイイイイィィン!
空と次元を裂いて飛んで、どこか別の異世界へと壁を突き破り、消えていった。
当然。
空に居たガーゴイルの群れは瞬殺。
そう。
ここまではいいのだ。
いや、本当は良くないんだけど。
ともあれ。
別に、次元を裂いて別の異世界に魔力の余波を飛ばすことなど――いつものことなのだ。
問題はこっち。
空は綺麗に掃除されていた。
味方の負傷者はゼロ。それもいい。
ただ、空がきれいに掃除されているということは。
大迷宮の頭上に突き刺さっていた例の光も、綺麗に掃除されてしまった訳で。
空を見上げて。
賢き私は思う。
なんにもないね、と。
……。
『にゃあああ、あ、あああああああぁぁぁああああぁぁ!? やらかしたあぁぁぁぁ! 光の柱! 折っちゃったぁああああああああああぁぁぁ!』
そう、この世界にあったモノがなくなっている。
うん、何か知らないけど――この世界を象徴していた光の柱。
ポキっと逝っちゃったね。
間違いない。
これ! 昨日、灰から冒険者を蘇生させたことで、既にこの世界での私への信仰値はマックス状態。信者たちの信仰が、私の力に加算されてしまっているのだろう。
そりゃ。
散々放置されていた死者の灰たちを、たった一晩で、全部蘇生させたらこうなるよね!
にゃはははははは!
ははははは。
はは。
ど、どーしよう。折れた光の柱。
ま、まあ――ネコちゃんの、ちょっとした失敗。
いつものこと。
かわいいミスというやつである。
しばらく、皆が空を見上げていた。
空を見ていたネコ魔獣たちも、犯人である私を見て。
え? いいの? あれ? 大丈夫なのニャ?
と、肉球に汗を浮かべて困惑中。
冒険者たちは大規模過ぎる現象に腰を抜かしているし。
街の人々は、何もない空を見上げて茫然。
ここで賢い私は考えた。
代用品で誤魔化そう、と。
『わ、わっわわ……我はケトス! 大魔帝ケトス! なんかすっごい素敵な異世界の魔性である!』
緊急なのと焦っていたので、微妙に変な名乗り上げ詠唱になってしまったが。
詠唱自体は成功している。
溜めた魔力を肉球に集め――ポン!
かつて光の柱が聳え立っていた空間に、天を衝くほどに大きなキャットタワーを建設。
ネコちゃん達が自由に登れて、なおかつ落下しないように安全装置もつけて。
っと。
『あとは、光らせるイルミネーションでキャットタワーを輝かせれば、よし問題なし! ああ、一時はどうなるかと思った!』
光のネコ塔、完成である!
地上のネコ魔獣たちは皆、目を輝かせて興奮気味。
人間達を助けたらさっそく登ろうと相談し始めている。
そりゃ、異世界の魔猫王大魔帝ケトスが作ったキャットタワーだからね!
ネコちゃん達は大喜びだよね!
うんうん、良い事をした!
そんな、誤魔化しを終えた私を見て。
ヘンリー君が手をワキワキしながら、絶叫する。
「だぁああああああああああぁぁぁ! なにやってるんだよ駄猫! 大魔術なんか使ったら街の人を巻き込むだろう! そ、それに! あ、あれ! いいのか!? 光の柱、消えてなくなっちまったぞ!?」
『だ、だって! 私は悪くないよ! この異世界の魔術は初めてだから、ちょ、ちょっと加減に失敗しちゃっただけだし!』
ついつい逆ギレしてしまう私も、とってもかわいいね?
こんな事態の対処は既に慣れている。
私はシリアスな顔をして、尻尾をふぁさり♪
『しかし、今はこんなことを議論している場合じゃないね。敵が今の騒動で固まっているうちに、早く残敵掃討を――』
「いや、そりゃ、たしかにそうだが! 誤魔化されないからな!」
んーむ。
どーもヘンリー君は私の必殺技、シリアスな空気で誤魔化す! が通用しにくいんだよな~。
ともあれ、やることは決まった。
問題を追及される前に、とっととあのヤンキー少女を見つけ出す!
発見すれば必ず、話が逸れる。
この光の柱崩壊事件を有耶無耶にするため!
偉い私は、サーチ機能をフル稼働させた――。




