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進撃のネコ神 ~邪神は高らかに笑う~その3



 こいつらはつかえる!

 そう。

 賢きニャンコが確信したあの瞬間から、三十分ほどが過ぎていた。


 大きな動きは一つだけ。あの後――とりあえず私達学園側と迷宮国家クレアリスタとで停戦協定を結んだのだ。

 敵対をしないという。

 そういう単純な魔導契約を結んだのである。


 単純であるが効果は絶大。

 これであのヤンキー少女がここの国の民を扇動して、私達の学園に攻め込ませるという手は使えなくなったという事である。

 いやあ。

 一般市民を騙してこっちに攻撃させるとか、ああいうパターンってすごい面倒だからね。


 手加減って、苦手なんだよね……。


 その芽を事前に潰せたのは大きい!

 さすがは私、大魔帝ケトスである!


 ちなみに、いしのなか状態解除と人質返還の対価――。

 グルメはまだ準備中。

 宴という形で執り行われる事となっているのだが……盛大にしようと思うと、それなり以上に時間がかかってしまうようだ。


 なので今は軽いグルメが並んだ状態で、じぃぃぃぃ。

 ニャンコ、高級クッションの上でドヤり待機中だったのである!


 そりゃまあ突然やってきたわけだから、仕方ないけどね。今、私達の話し合いの裏で全力で用意されているとのことだが――。

 そこでトラブルが発生。

 誰にも破られない筈の結界が突破され、食糧庫がナニモノかによって荒らされていたらしい……。


 獣一匹が侵入できるほどの隙間ができていたとのことだが。

 どうやらセキュリティは完ぺきではないようである。

 んー、大丈夫かな?


 ともあれ!

 くっちゃくっちゃと口の周りについた林檎の汁を、舐めとった私は考えたわけだ。

 暇だなぁっと。


 宴までの時間を有効活用することにした私は、ブニャン!


 宿屋から女神様とヘンリー君を緊急召喚。

 とりあえず和解できそうな僧兵たちに、仲間を紹介していた。


 事情を察している死神貴族のヘンリー君が、組んだ腕の上で長い指をトントン。

 若干、額に青筋を浮かべながら薄い唇を動かす。


「なるほど、それでボクたちを召喚したわけか――で? おまえはなんで事前に召喚するって合図をせずに、いきなり転移魔法陣を飛ばしてくるんだ? ふつう、事前に確認をしないか?」

『異世界は常識が異なる世界でもあるからね、いついかなる時でも気を抜いてはいけない――これはそういう気構えの授業でもあるんだよ』


 おー! なんかイイ感じに言い訳もできた!

 大いなる導きは、ふふふっと女神スマイルのまま――この世界の人々に後光を見せつけながら、ゆったりと手を振っている。

 さすが、異界で祀られている主神だけあって貫禄は十分。


 微笑する女神の図は、それなり以上に様になっている。

 ちなみに。

 場所はそのまま祭壇の上。


 光の柱の下に埋まるあの大迷宮。

 異界と繋がるダンジョンを作りだしたと伝承されている謎の神――これからちょっと調べようと思っている異神を祀る大神殿である。


 グルメを待つ間の話し合いはわりとスムーズに進んだ。


 ヘンリー君たちは状況を把握していたので問題なし。

 そして相手側も――問題なし。

 私では細かい部分を伝えるかどうか心配だからと、ヘンリー君がモンク僧カインに言う。


「こちらの事情はだいたいこんな感じだね――滅びの未来を回避するために動いているってわけさ。そこに謎のヤンキー少女が入り込んでいて、アンタたち迷宮国家の連中を扇動しこちらを見張らせていた。まあウチの駄猫が透視を察知し、いしのなか送りになったのはアンタたちも知っているだろう? そのあと、その少女も姿を消してしまってね。ボクたちはそいつが怪しいと踏んで、追っているってわけだよ」

「つまり――拙僧らと戦う意志はない、ということですかな?」


 肯定するように、ヘンリー君は出された盃のジュースをごっくん。

 これは相手を信用している、という合図でもある。


 まあこれは毒が入っていないと私も確認して、メッセージで伝えてあったおかげ。

 なにより毒を生み出す魔術も、今の僧兵さんらは禁じられているからね。


「で? アンタたちはどうするつもりだ? こっちは無駄に争うつもりはない。欲しいのは情報だ。大人しく今までここに集っていた神とやらの情報を渡すって言うのなら、治療に協力してもいい――そういう話でいいんだよな? 駄猫」

『ああ、この都市の様子をざっと調べてみたけど神の奇跡が必要な病人は確かに多い。放っておくわけにも、ねえ?』


 大いなる導きも、肯定するようにペカー!

 ゆったりとした貫禄の女神スマイル。


「全ては導きのままに――わたくしは迷える子らに道を授けましょう」


 あくまでもスマイルして道を授けると言っているだけ。

 これ――助けるとは約束してないんだよね。

 明確に同意したわけじゃないって後で言い張れるから、けっこう便利だな……。


 まあ今回は普通に同意しているようだが。

 モンク僧カインと老いた大司祭が、揉み手で近寄り――ずずずずっ!

 狂信者スマイルで瞳と歯を輝かせ。


「なるほどなるほど、そうでありますか! いやあ! ネコ神様以外にも、異世界の女神様に、冥界の運び手、舟守カロン神の末裔の若者とは――! これまた素晴らしい!」

「これもワタクシどもの祈りのおかげでありますな!」


 私とは更に別の神の降臨と聞いて、他の聖職者の方々は瞳をギラギラギラ!


 神の加護を得ようとそれぞれが魔道具をガチャリ。

 祈りを捧げ。

 聖書やら十字架やら、数珠やら錫杖やら水晶ドクロやらをぎゅっと握っていたのだ。


 いやあ法具って色々あるんだねえ。


 治療ができる神ならば、とりあえず狂信してくれそうな聖職者ということもあり、なんとも扱いやすくはある彼等。

 まあちょっと、目が怖いのだが――彼らを信じさせることは簡単だった。


 怖い視線にドン引きしつつもそれぞれ、例の台座の上に乗り――チェック!

 当然、全員がちゃんと神属性持ち!

 異界の神だと証明したもんだから、三人共に大歓迎を受けていたのだ!


 とりあえず。

 宴会までには時間がまだあるし――。

 他の聖職者にも力を見せるという事で、負傷している中から重傷者を確認――緊急治療を行うことにしたのである。

 が。


 ヘンリー君がぼそりと私にだけ聞こえる声で言う。


「おい、いいのか駄猫。そりゃ確かに重症者がいるなら治療は早い方がいいだろうが、もう少し引っ張った方が、もっと有利な交渉ができるだろう?」

『まあ、負傷して苦しんでいる者や、病魔に侵されている一般人は心配だしね。駆け引きの裏で、誰かの大事な家族が間に合わなくて死んでしまいました~! なんて後から聞かされたら嫌だろう?』


 眉を下げて言う私に、ヘンリー君は頬をぽりぽり。


「そりゃあ、まあそうだが――」


 しょうがないお人好しな駄猫だな、と。

 妙に嬉しそうに、私の頭をわしゃわしゃと掻いて撫でるヘンリー君。


「すぐに治す必要のある負傷者がいなくなると、交渉は少し――不利になるかもな。ニンゲンは喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物だって、おまえならよく知ってるんだろ?」


 彼は彼なりに頭を働かせてくれているのだろう。

 その心配を解いてやるために、私は大人ネコの顔で言う。


『まあね。でも――それはそれでいいじゃないか。後からなんか難癖付けてきたら、国ごとふっ飛ばしちゃえばいいんだし』


 すごくイイ感じに考えを口にしたのだが。

 なぜか。

 この場にいる全員がビシっと固まり、空気も沈む。


「駄猫さあ……。おまえ……異世界でいつもそんなことをしてるのか?」

『いつもじゃないよ? まあたまにはそういうこともあるけど……五回に一回ぐらいだから、うん、たぶん大丈夫だと思うけど?』


 その返答で、場合によっては国ごとふっ飛ばすことを悟ったのだろう。

 聖職者たちが気を引き締めて、ザザザっと土下座を強化している。


 ヘンリー君がなにやら思い浮かんだのか。

 皆にも聞こえるような声で呟く。


「なるほど。無駄に交渉を引き延ばそうとしたら、制裁。ネコの裁きが下る。恩を仇で返す国に遠慮など不要――そういう理由で先に治療を行うってことか」


 ……。


 周囲を見渡した私はモフ耳をピーンと立て、ぶにゃっと瞳を開く!

 そう。

 これはあくまでも作戦!


 これで変な難癖をつけてくることは無くなった筈!

 念のため言っておくが。

 これは――最初からこういう作戦だったのだ!


 と、いうことに捏造して。

 記録クリスタルには刻んでおこうと思う。


 ◇


 治療は開始された。

 余命少ない者の休む場所に、神殿から直接亜空間を接続。

 遠距離治療で無事解決!


 女神の導きと死神の能力に従い、死がより近いモノを優先し回復。

 とりあえず一ヵ月以内に、負傷や呪いが原因で死んでしまうモノはいなくなった。


 本当はもうちょっと先まで治療を行いたかったのだが、それはヘンリー君と大いなる導きが反対して保留。

 大いなる導きは人にそこまで力を貸し過ぎるのは、堕落を招くといい。

 ヘンリー君は、やはり――言い方は悪いがある程度の人質ともいえる存在を残しておく方が、互いのためになるだろうと判断したようだ。


 ちなみに――私がもうちょっと先まで治療を行いたかった理由は単純。


 どうせ最終的にはここを去る前に、気になって全員を治療して帰るんだろうからね――だったら、とっとと、治してしまった方が、楽。

 治療タイムを何回にも分けずに済んで手っ取り早い。


 そういう、めんどうくさがりな性格によるモノである。


 そこで間を取って、一月以内に確実に死ぬ命を救った。

 というわけである。


「で? 駄猫。なんでボクが異世界人の治療をやっているんだ?」


 そう。

 私はパパパっと彼に回復の奇跡と治療魔術を授けて、にゃは!


 彼に治療神のような役割と力を引き出し、仕事を任せているのである。


『なんでって、君のレベルアップと信仰値稼ぎのためだけど? 回復の奇跡をニンゲンに使うと、けっこう簡単に信仰値を稼げるからね~! もしかして忘れちゃったの? 私、君のお父さんに君を成長させてくれって頼まれてるんだよ?』


 前金代わりのグルメももう食べちゃってるし。


「いや、成長って……そういう意味での成長だったか? それに自分で言うのもなんだが、もうだいぶ経験を積んで常識を学んだ気がするんだけど……って!? ボクの話、全然聞いてないな! なに美女クレリックに肉球をマッサージさせて、葡萄酒を飲んでるんだよ!」


 言葉を聞きながらも、ふぅ……っと私は瞳を閉じる。


 死神とはニンゲンの死と身近な存在。

 それはすなわち、死へ至るプロセスへの造詣も深く、死に至る流れを理解している者ということだ――それを回復の力として利用できれば。

 結果はご覧の通り。


 既にヘンリー君は一人前のヒーラー。

 並の最高位司祭よりも、回復の腕に自信を持っている事だろう。


 信者たちは私達の力を本物と認め、五体投地で崇め奉っている。

 ちなみにその他、私達ネコ神と女神もサボっているわけではない。


「ボクにばっかり働かせてないで、おまえも働けよ!」


 言葉を受け流し、私は話題も逸らし。

 ニヤリ!


『主神クラス以上の神である私と大いなる導きがいるからね。そりゃ普通の一生解けない呪いぐらいなら、奇跡で簡単に解除できるってもんさ。で。傷の治療は死神ヒーラーの君がいる! まさに、我等は治療神! いやあ! もっと崇め奉ってくれてもいいよね!』


 まあ完全なる土下座を見せる信者たちの背中には、私の登場で召喚されたネコ魔獣たちが「おお、座布団にゃ!」と、乗っているわけだが。

 とりあえずは気にしないことにしているようだ。


 魔導契約をする前に、私の告げた言いつけを守っているのだろう。

 この国の聖職者たちに「一方的に猫を攻撃したら、その時点で契約は破棄する」そういう約束をさせたのだ。


 まあこれはネコの安全ってよりは、相手側の安全だね。

 前にも言ったが、この猫達……。

 見た目と反してめっちゃ強いからね……。


 ネコ魔獣の反撃イコール、ニンゲン大虐殺ショーになってしまうのである。


 差し出された追加の酒をグビビっと飲み干し、上機嫌でモフ毛を揺らした私は――。

 ぶにゃははは!


『くははははは! 良いぞ! 良い! 我をもっと褒め称えて構わぬのだ!』


 大魔帝ケトスたるこの私も大満足!

 葡萄酒の次は、ついにお待ちかね!

 亜人種が飲むマタタビ酒をびちゃびちゃ舐めて、とってもいい気分なのである!


 辮髪べんぱつモンク僧のカインくんが、私の盃にマタタビ酒をぐびびびび!

 勢いよく注いで、ニコニコ顔。


「さすがは異界より降臨なされた救世主様。いやあ、飲みっぷりも豪快で御座いますな~! して、ネコ神様? そろそろこの、目の前で灰となっている冒険者の蘇生の方をお願いできれば、拙僧ら、とても助かるのでありますが?」

『うむ、では――グルメの分は奇跡を発動してやるとするかニャ!』


 言って私は聖者ケトスの書をバサササササ!

 精神を集中!

 冒険者の装備と、朽ちた灰を眺め――息を吐く。


『我はケトス! 大魔帝ケトス! 白銀の魔狼、ホワイトハウルの試練を突破せし聖人なり!』


 周囲にネコ魔獣が集い始め――全員同時に瞳をクワ!

 赤き眼で、灰を囲い念じ始める。

 ニャンコマークな十重の魔法陣が広がり、回転。


『ネコは囁き祈り願う。汝、敬虔なる信徒よ――ネコと共に詠唱せよ、ネコにその心を捧げ――そして、肉球に念じろ!』


 この詠唱も実は――いつもの演出。

 名乗り上げの時点で、発動は可能。

 既に詠唱は完了しているからね。


 では、なぜそれっぽい詠唱を追加しているのか!

 答えは単純。

 ニンゲンって、こういう詠唱を加えた方が効果があると勘違いしやすいのである。


 ただの演出ではあるが、それっぽい方が人間も安心するんだから別にいいよね?

 ともあれ。


 聖者ケトスの書を片手にモフモフネコ手を翳す私、そして集うネコ魔獣の肉球の先から光が輝き。

 パァァァァァァ!

 神殿が光で満ちていく。


 十重の魔法陣が更に回転する中、ネコ魔獣たちがなんとなくそれっぽいダンスを舞い始める。

 むろん、演出である。

 同席している大いなる導きも共に、舞い。


 ヘンリー君はというと、死神の面を被り死神名簿を起動させ――死者をチェック。


 実は蘇生する相手から情報を抜き出しているのだが、怪しまれる様子はない。

 彼は正真正銘の冥界の住人。

 これでも死神の王族だからね――死者蘇生の場面にいると、結構見栄えがするから不思議なもんである。


 灰が人の形を作り、かつて装備していた鎧の中で再生を始める。

 術は――成功だ。


『さあ、目覚めるといい――汝、迷いし魂と朽ちた骸に道を閉ざされた戦士ベイオウーフよ。おめでとう、君の魂は見事にこの地に舞い戻る事ができた。その奇跡を喜びなさい。魔猫に感謝をなさい。猫こそが至高なる存在であると、第二の人生に刻むがいい。そしてなにより……我が魔術の師であり主人、魔王陛下に、絶対なる感謝と畏敬の念を抱く事をお勧めするよ』


 死に絶え灰となり、蘇生もほぼ不可能だった冒険者の魂と肉体が再構築されたのである。


 さすがに、驚いたのか。

 聖職者たちが声を失い、奇跡に目を奪われている。


 これはあくまでも特例。

 ダンジョン世界専用の蘇生の儀式。


 ダンジョンという特殊な空間で死んだ者にしか効果のない、例外である。

 冒険者の魂を迷宮に留めたままにする大迷宮、そして装備に宿る死者の魂と心――二つの条件を満たした上で発動する《復活》である。

 なんでもかんでも、無条件に蘇生できるわけではないとは覚えておいて欲しい。


 まあ本当は、時間が経った死者の蘇生など成功確率が著しく低くなるのだが……。

 私、大魔帝ケトスだからね。

 魔術や奇跡の確率判定なんて意味をなさない、豪運でどっちの結果にも簡単に操作できてしまうのである。


 ヘンリー君が死神の面の裏で、演出のくぐもった声を出す。


「さあ聖職者たちよ――これで我等の力は疑いようがなくなった筈だ」


 突然声を掛けられて驚いたのだろう。

 老賢者が杖を落としかけながら、言う。


「あ、ああ。すみません……っ、呆然としてしまいまして。まさかこんなデ……いえ、愉快でなまいき……ではなくて、えーっと……自信に満ちたドヤ猫様が、本当にここまでの蘇生の力を扱えるとは。冥界の王族、死神貴族のヘンリー様、でしたな? そしてそちらの麗しく妖艶な女神様が大いなる導き様。お二方もありがとうございます」


 言葉を受けて、ヘンリー君が仮面を赤い魔力で輝かせ。

 ぼそり。


「礼など要らぬ。我らが欲するのは異界の神の情報。以前にいたとされる神の情報を渡して貰えるな?」

「畏まりました。しかし、今宵は資料を預かっている司書が不在ですので――明日になりますが、それでよろしければ。もちろん全力で協力はさせていただく所存であります。なぜなら……、そう。何故ならば! あなたさまがたは、これほどまでの奇跡の儀式を扱える神なのですから! それはもう! 五臓六腑すべてを投げ出し差し出す覚悟で協力させていただきます!」


 告げて――ぎょろりと魚のように瞳を輝かせ、フンフンと鼻息を荒くしている老賢者。

 彼は言葉通り、全力で協力してくれる気なのだろう。


 と……途中までは、気高き賢者みたいな雰囲気……だったんだけどなあ。

 この国。

 ヤベエ奴しかいねえな。


 ヘンリー君が、仮面越しに私に目線を送る。

 ニンゲンの心を見る……つまり、嘘を見抜く能力をもつ私とヘンリー君はアイコンタクトで嘘がない事を確認。

 物わかりのいい顔で、私が言う。


『こちらも曖昧な情報より正確な情報が欲しいからね。それで構わないよ。しかし凄いね、この冒険者、いつから灰になっていたんだい?』


 私が目線をやるのは――老いた冒険者。

 彼は灰から復活した若き戦士の仲間だったのだろう――狼狽しながらも復活を悟り詫びる若き戦士の身体を、涙ながらに抱きしめている。

 魂から察するに二人は同じ年齢。

 けれど――既に青年と初老の中年ぐらいの年齢差になっているように見える。


 私達に何度も何度も頭を下げていたが。

 いったい、どれほどの間――蘇生を待ちわびていたのだろう。

 あのダンジョンは特殊な空間。

 蘇生ができる可能性が生まれてしまうということは……良い事ばかりではないのかもしれない。


 私が悪意のある神ならば。

 ……。

 そこを利用するに決まっている。


 脳裏に浮かぶのは、人間の心を悪用し――卑劣な手段で信仰値を稼いでいた大いなる輝き。

 天才ニャンコの冴えた名推理が、ニャニャニャっと脳内で輝いている。


 これ。

 絶対に、古き神が暗躍しているだろう、と。


 さきほどの私の問いかけ。

 いつから灰になっていたかの質問に辮髪べんぱつモンク僧カインくんが、少し言いにくそうに言う。


「それが――以前にいた神々は気まぐれな方々でして。顔が気に入らないからという理由だけで、蘇生を延々と拒否することもありましたので……正確な時は、把握できていないのですよ」

『なるほど。それも神の情報だ。代価として受け取っておこう』


 得られた情報は、ここにいた神は人間を道具として見ていた可能性が高い事。

 複数存在した事。

 今は神そのものがいなくなっている事。


 そして。

 こうして復活の奇跡をエサに……信仰をかき集めていた事。

 やり口も見えてきたかな。


「ところで、ケトス様? 大変申し上げにくいのですが――実はまだ、灰となっている者がたくさんおりまして……そのぅ……。あなたさまの偉大な御力を……ですね? 借りられたら、このモンク僧カイン、とっても……」

『分かっているよ。それで、例の約束のグルメと、宴の準備は進んでいるんだろう? そろそろ落ち着いた場所で宴を楽しめたらいいな~って、ネコである私は思うわけだが、どうだろうか』


 蘇生してやってもいいが。もうそろそろグルメもいいよね?

 そう言っているのである。

 ちなみにこれは、前の神が使っていた手段を確認しているだけであって、私利私欲は半分ぐらいしかない。


 言葉を魔導契約と受け取ったのだろう。


 頷きサインで応じたモンク僧カインくんが、パンパンと手を叩き。

 命令と支援を同時に伝える号令スキルを発動し、手を翳す!


「宴だ! 盛大な宴をもってして、ネコ様を歓迎せよ! やはり大魔帝ケトス様はおだてに乗りやすい性格! パターン接待、極上グルメだ! このついでにギルドに登録されている長年放棄されていた冒険者の灰をかき集め、おだてて全て蘇生させるのだ!」


 微妙に失礼なことを言っているが。

 まあ欲……というか目的に忠実なのだろう。


 この男は、死んでしまったモノの中で蘇生可能なモノを……。

 一刻も早く呼び戻してやりたいのだと思う。


 たしかに。

 あの長い間、仲間の蘇生を願い独り、老いていった冒険者の心を想うと。

 ……。

 その気持ちも分からなくもないんだよね。


 出逢った時はただの無礼な僧兵にしか見えなかったが。

 ニンゲンにはこんな裏の部分もある。

 一概に判断できるほど、ニンゲンの心とは単純ではないのだろう。


 良いも悪いも複雑で――こうして、新たな一面が見えてくる。

 すると、ただの蟻にしか見えなかった塵芥から変化し。

 一つの魂として認識できるのだから……。


 ニンゲンって、本当に不思議なイキモノだよね。


 ◇


 あの後、蘇生可能なモノの復活儀式を終えた私達は――更に歓待を受けた。

 グルメ大宴会が行われたのだ。

 蘇った者の祝いも含めて――という側面もあり、国中が盛り上がったのである。


 次々と運ばれてくるグルメもわりと手も込んでいて、好き嫌いの多いヘンリー君でも納得できるほどの料理達ばかりだった。


 どうやらこの世界。

 迷宮を通じて様々な世界と繋がっているようで、グルメの文化も異世界からかなり取り込んでいるようなのである。

 と、いっても――異世界の魔術やスキルの流入のついでに広がり、発展したと見るべきかもしれない。


 グルメの契約は果たされ、我等は和解!


 迷宮国家クレアリスタの民――。

 多種族かつ、さまざまな宗派の聖職者たちから歓迎の宴と、歓声を受け!

 ひとまずの和平を結ぶことができたのだ!


 そんなわけで。

 今は一時の静寂の時間。


 宴会も終わり――特設の宿屋。

 ロイヤルスイートな部屋でぐっすり眠った私達は、朝になり集合――集めた情報を整理中。


 ビシっと立ち上がった私は、尻尾をモフモフ。

 カカカっと紅い瞳を輝かせる!


『さて、これからが頭脳タイム。つまり――私大活躍の時間だね!』


 ネコと女神とお坊ちゃん。

 それぞれの名推理が始まろうとしていた!



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ケトスにゃんの蘇生呪文 囁き、祈り、詠唱、念じろ が入っていて笑えるw
[一言] モンク僧の発言からするに おだてられてブラック労働させられて 逃げた神も居たんじゃなかろうか?
[良い点] 相も変わらずすごいぞ!ケトス様!《*≧∀≦》 [一言] ダンジョン専用蘇生魔法なんてあるんですね。 一段落ついたようですしグルメをお楽しみください!《*≧∀≦》
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