進撃のネコ神 ~邪神は高らかに笑う~その1
やってまいりました、異世界散歩!
誰の仕業か知らないが、世界が繋がっていたので私達は大迷宮を遡り――異世界転移。
無事に移動を完了していた。
大地から天を貫いているのか、それとも天から地を貫いているのか。
ともあれ。
辿り着いたのは――魔力を帯びた巨大な光の柱が特徴的な、ダンジョンファンタジー世界である。
『なるほどねえ、あの光の柱の地下に大迷宮が出現。様々な世界と繋がる魔境と化している世界なのか……武具屋に鍛冶屋。魔道具屋にギルド酒場に、宿屋。そして教会と寺院。まあ典型的なダンジョンと共に成長していた世界ってところかな』
空をふよふよと浮かびながら冷静な声を上げるのは――強大な力を持つ魔獣。
光の柱から発生する魔力を浴びて、獣毛を輝かせる黒猫。
大魔帝ケトス。
そう、私である!
脚の付け根のもこっと膨らんだ猫毛も、イイ感じに風に揺れている。
憎悪の魔力が溢れている。
ようするに、人間や知恵ある亜人が生活をしているという証拠だった。
知恵ある種族が存在すると、やはりどうしても一定の憎悪の感情が浮かぶから仕方ないね。
ちょっとイラっとするだけでも、負の感情が浮かぶわけだし。
さて、魔力の補充も簡単にできそうと分かり一安心。
ささっと、グルメを受け取るための準備を進めたいのだが。
鑑定のネコ魔眼を輝かせながら、私は周囲をじぃぃぃぃ。
そんな素敵な私のモフ毛を横目で眺め――キョロキョロ。
覚えたての浮遊魔術をなんとか扱う青年が言う。
「ダンジョンゲームでありがちな国家だけど、どういうことだろうねえ――地球世界のクリエイターがこういった世界を模して、類似するゲームを作ったのか。それとも地球のゲームの影響を受けて新世界が誕生したのか。なあ、駄猫。そういう世界創生の認識って、おまえほどの魔族の中だとどうなってるんだ?」
と、案外深い事を聞いてきたのだが――彼は元引きこもりで、現在私の生徒となっている細面の貴族青年。
ヘンリー君である。
ちなみに。
冥界の王子で神の息子で、憤怒の魔性の弟で――ついでにあの転生魔王陛下の実質的な弟子。
スペックだけならわりと特殊な存在だったりする。
本人は色々と拗らせていて、どうしようもないバカ王子だったのだが!
なんと!
この私の指導で! だいぶ、まともな性格となっているのであった!
そう、全ては教師としての私の実力の賜物。
いやあ、我ながら自画自賛しちゃうよね~!
体力は底辺だがそこそこ頭が回る頭脳派タイプである。
生い立ちも複雑そう。
母親が人間だったらしいので、自分もニンゲンだと言っているが。
ともあれ。
質問されたからには、答えないと教師ニャンコとしての沽券にかかわる。
『んー、どうなんだろうね。世界同士は時間の流れが違うし、そもそも魔術法則や物理法則も異なる事が多いからね。ただまあ――あくまでも私の見解、違う可能性もあると前置きしたうえで――と』
インテリ猫教師の顔で私は続ける。
『魔王様がかつて魔術のない時代の地球から転生なさり、楽園の住人として生まれ変わった。その時に変革、つまり魔術という概念が発生した事は知っているかい?』
「は!? 魔術の始まりの歴史!? そんなの知ってるわけないだろう!」
もうその時点でヘンリー君が表情を崩し、ものすごい顔で驚愕しているが。
構わず私はネコの口を蠢かす。
『まあ、もしかしたら知らないかもしれないけど、魔王様起源説が正しい学説だとして話を進めるよ? 魔術の祖であるあの方の誕生により、世界は生まれ変わった。全ての魔力の源となっているプラズマ魔力球と共に、魔術という概念が生まれ世界にバラ撒かれた。冥界神レイヴァンが語った逸話を私も確認している、それは確実だ』
「冥界神レイヴァンって……おいおい、また大物じゃないか……」
ここまでの話は序の口だからね。
相手がまだ話について来ている事を確認し頷いた私は、魔術式を展開。
事象を証明するための計算式を空一面に広げて、記述していく。
『ほら、ここの魔術式を見て欲しい。これが大規模な転換点。全ての始まりとされる楽園から、世界に魔術が散った瞬間なわけだね。そこで起こったのが宇宙誕生と同等のエネルギーと想定される、魔術的なビックバン現象さ。魔力大爆発は宇宙の法則を書き換え、高次元にまで影響を与え――世界の概念に新たな数式を取り込んだ。それこそが魔王様より生まれし式、魔力と魔術。同時に魔術は時を遡り、干渉し始める。なにしろ魔術とはなんでも許容する方程式、いままでの法則を無視した力と概念だからね? もし魔術があった世界だったら? そういう概念と魔術式が暴走を始め、使用者を宇宙と認識し自動発動し、宇宙創成時代にまで時間逆行――元にあった世界を書き換え、また魔術という無限の可能性によって再計算された。生まれ変わった新世界が、およそ三千世界ほど、つまり――千を三乗した数に近い魔術世界が生まれ――……』
「ストーォォオップ! ボクが悪かった! そういう歴史的にも貴重すぎる話は今度、落ち着いた場所でしっかりとした書記がいる時にしてくれ!」
夢中になって動いていたネコの口が止まり――。
私の目の前には顔を青褪めさせて、ぜぇぜぇ息を荒くするヘンリー君。
はて? 聞かれたから答えたのに。
なんだろう。
横で聞いていた女神、大いなる導きも現代アートみたいな変顔をしてるし。
『え? 今からあの地球が、実は魔術概念が生まれた後に生まれ変わった――二度目の転生地球なんじゃないかって説を力説して、そこからゲームに似た世界の誕生のメカニズムを……』
「だから! ボクが悪かったって言ってるだろう! 今は敵地の上空にいるようなもんなんだ! 長い話は今度にしよう! な?」
現在、冒険散歩の中で私が得た知識から、考えられる可能性を整理し――そこからなぜゲームに似た世界が生まれているのか。
その疑問を解明していこうと思ったのだが。
『えぇええぇぇ? 私の魔術と世界理論の新説をちゃんと聞いてくれる人って少ないから、私、ちょっと期待してたのに! 私、もっと語りたいのに!』
「駄猫……おまえさあ……。実はドン引きするぐらい魔術オタクなんだな……」
うわぁ……っと引き気味に言う彼に続き。
ぼそり。
美しい女神で、楽園関係者の大いなる導きが羽衣を揺らし。
「それにですが……おそらく、混沌とするこの三千世界の真実を追求する事は、狂気を追求する事と同義。並の精神力しか持たぬ存在では正気度が失われていきますので――それくらいにしておかないと、たぶん、ヘンリーさん……脳が溶けますわよ?」
「は!? そんな危険なことをボクに聞かせるつもりだったのか、駄猫!」
そんなつもりはなかったのだが。
たしかに。
ふと私の様子を俯瞰的に見てみると――。
意味が分からないほどに複雑で、精密な魔術式の海の中。
赤き瞳を輝かせ、闇の衣のごとく獣毛をモコモコに膨らませたネコ魔獣が――開けてはいけない扉の前で謡うように両手を広げ、ブニャハハハハハ!
世界を揺らすほどの魔力を操り。
グギギギギギ……ッ!
肉球を光らせ、朗々と口を蠢かし。
くはははははははは!
世界を語ると共に全てを暗澹とした闇に包んでいく。
そんな。
けっこう怖い図になっていた。
あー……夢中になり過ぎて、魔力が溢れていたんだね。
それはさながら、暗黒神話の一ページ。
邪神といわれても仕方のない光景になっていて――。
あ……。
なんか、地上の人々にめっちゃ指差されてる。
これ、こっちの世界の住人に……。
なんか、すげえヤベえ邪神が降臨したって完全に誤解されただろうな。
ふと賢い私はモフ耳を動かし考える。
……。
まあ、別にいいか! と。
『ニャハハハハハハ! ごめんごめん! いやあ、たしかに、そんな事をしている場合じゃないか。早くグルメも回収したいし! とっとと必要な場所を制圧しちゃおうか!』
私は宙に浮いたまま、尻尾をくるり♪
猫目石の魔杖を召喚して、ニギニギ!
同行者であり女神の大いなる導きに目をやり、問う。
『ねえねえ! ちょっと聞きたいんだけど、近くに古き神の気配はあるかい? 相手が弱すぎると私、感知できないっぽいんだよね~』
「ふふっ。砂利を見分けるようなモノになってしまうそうですね、あの方も昔、そう仰っていましたわ。懐かしいですが、思い出語りはまた今度、ゆっくりと……それでは、わたくしが調べてみましょう――」
ペカーっと奇跡の波動を纏いながら、艶やかに彼女は舞う。
シャランシャラン。
腕に巻く神器からは魔王様の魔力波動を感じる。
おそらく、再会した時に護符となるブレスレットを贈られたのだろう。
舞う事で効果を発揮する、スキルと奇跡の合わせ技が発動されたのか。
世界に光が広がっていく。
浮かび上がる光の粒は生者の魂――、急ぎヘンリー君が死神名簿を開き高速で登録しはじめている。
悲鳴を上げながら専用固有スキルを発動しまくるヘンリー君を横目に。
私達は状況を探る。
「あら、困りましたわね。少なくとも、わたくしの感知範囲。光の柱を中心とした迷宮都市の内部にはいないようですが……」
口元に指をあてる彼女はしばし考え込んでしまっている。
光の粒にジャレないように我慢!
必死でこらえつつも、尾をモフっと膨らませながら私は言う。
『ん? いないならそれでいいんだけど――何かあるのかい?』
「いえ――杞憂ならばいいのですが……わたくし以上の力の持ち主が本気で魔術を行使――隠匿状態になっている可能性もありますので。確実とはいえないかと。それと迷宮内部の奥地に潜んでいる場合には、別の世界判定となっている可能性もありますわ。わたくしの導きでは安全とでておりますが、保証はできない、といった所ですわね」
可能性を告げる女神さまはこちらに判断を任せると、にっこり。
『主神であり、私の召喚補正を受けて強化されている君よりも強い存在、だった場合か。もしそうなら絶対搦め手も使ってくるだろうし、あんまり相手にしたくないね……』
尻尾を下げて、げんなりと耳まで後ろに下げる私も可愛いのだが。
死神名簿登録を終えたヘンリー君が呑気に言う。
「なあ駄猫。たしかアンタは前にも何度か異世界を侵略しているんだろう? その時はどうやってたんだよ。成功例を参考にするってのは単純だが、まあ悪くないとボクは思うぞ」
『んー、何度か占領やら破壊やらしているけどねえ。まずは……周囲の魔力を全部食べて――領域の乗っ取りと占拠。そのままダンジョン領域を作成するパターンが多いかな。御城を作ったり、神殿を乗っ取ったり――拠点を作って徐々に、主神を返り討ちにしたりするんだよ』
思い出そうと肉球を顎に当てる私に、ヘンリー君と大いなる導きが顔を見合わせる。
ジト目でヘンリー君が腕を組みながら、問う。
「いや、それ徐々にってレベルじゃないだろ。主神を返り討ちって……どういう状況だ。その世界、どうなったんだ?」
記録クリスタルを検索しながら、私のネコの口が動き出す。
『大いなる輝きっていう女神だったんだけどねえ。いきなり私が世界の魔力を奪って魔猫王城を建設したもんだから、その前後に異変を察知して飛んできたんだよ。その時は確か、向こうから先に十重の魔法陣で攻撃してきたんだけど――私は無事。んで、なんだかんだあって……ニンゲンをわざと争わせたり、王族に呪いをかけていたり、四大脅威ともいえる大魔族を作り出して人を襲わせたり――まあ邪道な手段で信仰値を稼いでいた外道だって分かったから、ニャハハハハ! なんか気に入らなかったし最終的には、うん! 消しちゃったんだよ!』
意味が理解できないのか――。
変顔をし、ヘンリー君が自らの頭をぺちり。
「いや、その途中の”なんだかんだ”が謎過ぎるんだが? つか、話が飛びすぎだろ……」
告げながらも、魔力波動でバサササササ!
ヘンリー君は確認するようにスキルを発動!
死神名簿を開き。
「しかしまあ、本当のようだな。なるほど、それで主神殺しの称号が名簿に記載されてるのか……ボクの知る逸話にはなかったから、つい最近の出来事ってことだよな。十分、大人なくせに……なにやってるんだか。まあいい、とりあえず――こっちの準備は完了。今の女神の情報開示で、全ての民は記録された。ボクの死神名簿にこの国家の人間の情報はすべて記述されたってことだ。怪しい奴を発見すれば、すぐにその情報を出せるようにはしといたからな」
やはり割と優秀で、先生としては誇らしいのである!
あとは、もうちょっと成長してくれて――自分の運命も切り開いてくれるといいのだが。
ともあれ。
『んじゃ、始めようか!』
魔力と空気を切り替えた私は――くはははははは!
魔杖の先端で世界に楔を刻印。
魔力を撫でるように円を描き。
綿あめを作るように――魔力の渦をぐーるぐる♪
世界を守る魔力さえも杖に巻き込み、さっと蜂蜜を垂らし。
伸ばす猫の影の口を、カパッ――と開く。
『我はケトス! 大魔帝ケトス! 全てを喰らう憎悪の魔性なり! というわけで! ここらの魔力は、私のモノ! ぜーんぶ食べちゃうからねえ!』
影の猫が、魔力を全部喰らっていく。
まあいつもの一時的な魔力封印である。
魔力うまし! 魔力うまし!
モフ毛をもこもこにさせて、くははははははは!
『あー! やっぱり! 遠慮せずに魔力を喰らい尽くすのって気分がいいよね~! こう、なんていうか! 世界の広さと美しさを感じるって言うか! 全てが私の所有物っていう感じがするし!』
嗤う私の横で――ぷしゅぅぅぅぅ!
なにか、風船から空気が抜けたような音が響いて。
ひゅぅぅぅぅぅぅ……。
ん? なんだろうと目線を下ろすと――そこには落下していく人影。
「うわぁぁぁぁぁ! おい、こらぁぁぁぁ! ボクもこの世界の魔力を使ってるんだから! 全部食べちゃったら落ちるだろうぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉ!」
ああ、なるほど!
そりゃ魔力を食べちゃったら、落ちるよねえ!
私みたいに、世界に沈殿する憎悪の魔力を直接使用しているわけじゃないだろうし。
にゃははははは!
ははははは!
はは……。
あぁあああああああああぁぁぁっぁあ!
いつも、この段階の時は単独行動だったから!
忘れてたニャァァァアアアアアァッァァ!
世界の魔力を全部食べてる最中だから、今動いたら大爆発が起きるだろうし!
まずい!
それを察したのは、女神様!
「あらあらまあまあ! ふふっ、ここはわたくしが――」
『ごめん、頼むよ――!』
魔力ではなく聖なる光と自らへの信仰値を力とする大いなる導きが、飛翔。
奇跡による転移で先回りしたのだろう。
落下するヘンリー君をちゃんとキャッチ!
「女神様か――す、すまない……助かったよ」
「ふふ、どういたしまして。ヘンリーさん。あなたは軽いですから、心配ありませんわ」
女性に軽いと言われるのは心外なようだが、助けて貰ったのでそれは言えないのだろう。
ヘンリー君が私をギロリ!
彼女の腕の中で、お怒りの王子様が牙を剥き出しに手足をバタバタ!
「駄猫! おまえは本当に!」
『悪かったねえ! お説教は後で聞くよ――! とりあえず、続けちゃうから!』
妖艶な姿の女神様に、震えながら捕まる王子君の完成である。
……。
これ、大いなる導きが同行してなかったら、一回ここでヘンリー君……死亡してたんじゃないだろうか。
まあ、その場なのと、肉体が完全に残っていて本人の魂がその場にあるので、ふつうに蘇生は可能だっただろうが。
……。
違うのである。
そう! 違う! 違う!
これはあくまでもレベルアップのため!
修行の一環なのだ!
と、言う事にしておこうと思う。
実際、真面目な話をするとだ。
このまま途絶えてしまう彼の未来を変えるためには、これくらいの荒療治も必要なのだ。
さて、責任を追及されても面倒だし。
侵略を始めよう。
いつものように魔導メガホンと魔導マイクを装備して――っと。
『あー! あー! ただいま魔導マイクのテスト中! えー、異世界の皆さまこんにちはー! ちゃんと聞こえているかなー!?』
ざわざわざわと、混乱の声が聞こえてくる。
さっきの邪神が、またナニかやりやがった!
もう世界は終わりなのか……っ。
主よ――どうか我等の道に新たな大地を……っ。
そんな、悲鳴の数々である。
ふむ!
なかなか良い反応だ!
我の降臨にふさわしき驚嘆よ!
『えーと~! もう偉い人たちは知っているだろうけど! 待ちきれないからこちらから来ちゃったんだー! わたしだよ、わーたーし! 大魔帝ケトス! 約束のグルメを受け取りに来たんだけどー!? わーたーしー! どこで受け取ったらいいか分からないからー! とりあえずー! 一番重要そうな施設を、貰っちゃうことにしたから~!』
告げて、肉球あんよで空をポンポンと叩き。
あえて派手な演出をするように――空を闇の霧とモヤモヤで覆っていく。
バチバチバチと、黒きモフ毛に魔力を這わせ。
ニヒィ!
語り掛けによる詠唱を開始!
『我招くは、無限の同胞! 来たれ! 影に潜みしネコ魔獣! 我が呼びかけに答えよ! 供物は世界に漂う神への信仰! さあ、神に捧げられしグルメを横取りするのニャ!』
即興オリジナル魔術の構成は単純。
この世界に溜まっていた神への信仰値を窃盗スキルで強奪。
その力をそのまま召喚の魔術へと変換して――それぞれの神聖スポット、教会や祈りのための寺院などの施設に、私の眷属のネコ魔獣を大量召喚したのである。
まあこれもいつもの、眷族による拠点制圧である。
さすがにもう手慣れてきてるからね!
ふっふっふ!
私、偉い!
徐々に――世界に、赤い光。
魔力を伴った魔獣の輝きが広がっていく。
「まあ、この紅き魔力は全て――猫の瞳、なのですね」
『ああ、この世界の神様がどんな存在かは知らないけど、先に手を打たせて貰ったよ。彼らへの信仰心は既にこちらの魔力に変換済み。ついでに流用した魔力をこちらへの信仰値に強制変換、信仰を贄とし召喚されるのはネコ魔獣たちだね。彼等が顕現したら最後、今頃は神殿や寺院で暴れ……いや、速やかに制圧した筈さ。既に神の力を頼った奇跡や祝福は使えなくなっているんじゃないかな』
なんか仰々しい格好をした大司祭とか教皇とか、賢者とかがお祈りする場所に、ぶにゃん!
いきなりネコ魔獣が大量に顕現。
ここはわれらが占拠するニャ! 縄張りから、でていくにゃ!
と。
実力行使で魔力スポットを奪取!
十字架や神仏像の代わりに、魔王様や私の像を作成!
武具屋や宿屋。
酒場も勿論、ネコで溢れ――今頃ネコの店主が、ネコのために新しく商売を始めているだろう。
いわゆる、にゃんにゃんパラダイスである。
モフモフにゃんこが楽しく街を制圧している姿を想像して貰えば――まあ、だいたいそのままである。
命は奪っていないし、ケガもさせていない。
ネコちゃんは可愛いから、多少の我儘も許されるしね。
ちょっと最高クラスに強いネコ魔獣なので、並みの神程度じゃ勝てないだろうから――それなりに極悪な進軍なのだが。
まあこれも同上。
かわいいから、多少のわがままは許されるべきなのである。
うん。
ともあれこれで第一段階は終了。
この地の神の力を、剥奪して回ることに成功したはずだ。
今、地上の人々は魔術も奇跡も封印されている状態。
いわゆる。
詰み――である。
「信仰値って神の力の源なんだろう? 最上位の窃盗スキルとはいえ……奪えるモノなのか?」
『さあ……? まあ実際できてるんだから、奪えるモノなんじゃないかな?』
他人事みたいに言う私に、やはり二人は顔を見合わせて困惑顔。
『あれ? もしかして二人とも、異世界侵略ってあまり経験なかったりするの?』
「ないのが普通なんだよ! なんだ! その驚いた顔は!」
ぷるぷると震えたまま、女神様に掴まるヘンリー君に目をやり。
じぃぃぃっぃぃぃぃ。
ネコの瞳が、うにょ~ん♪
『やーい! 抱っこ王子! ぶにゃははははは! 役得ですニャ~』
「誰のせいだと思っている! 誰の!」
揶揄する私を逆に指さし、ぐぬぬぬぬぬ。
「おまえなあ! いつもこんなことばっかりしてるから、阿呆な逸話ばっかり伝承されてるんだろ! 少しは反省をしろ、反省を!」
耳まで赤くし怒るヘンリー君であったが、その姿はまあ案外元気そうだった。
いつかこれも大魔帝ケトスの逸話となる。
彼はその物語の中の登場人物になれているのだから。
心のどこかで、今の状況を楽しんでいるのかもしれない。
さて。
とりあえず先手は打てたから――次はお偉いさんの所に直接乗り込むかな。
事情も聞けるだろうし。
なにより私に献上する筈だったグルメの場所も、知っているだろうしね。




