来訪者 ~誤算と紅茶とジャムクッキー~その2
紅茶と蜂蜜、そして苺ジャムクッキーの香りが広がる学園長室。
そのふかふかソファーの上で、私は悠然と構えてドヤァァァ!
素敵にゃんこな大魔帝ケトス。
オヒゲをぴんぴんにさせて、貫禄のお客さんお出迎えポーズである。
召喚陣の発生で生まれる魔力波動と煙の中。
徐々に、招かれた客の姿が浮かび上がってくる。
私の部下で学長のヒトガタ君が、スゥっと私の前に立ち――魔導書をバサササササ。
周囲の景色を玉座の間に変換していく。
演出というやつだろう。
私のふかふかソファーもいつのまにか、煌びやかな玉座に代わっている。
私を王と崇めるように、並ぶのは異界の魔物達。
ヒトガタ君の従える、強力な闇の眷属だった。
おお!
強大な魔物に囲まれ玉座に座る――凛々しくスマートな魔猫王の図、完成である!
とってもダンジョンっぽい!
ヒトガタ君によくやったのニャ! の合図を送り、ビシ!
転移魔術を利用し招いた来訪者。
彼等の結界を破りつつ、私は肉球をクイ!
煙を払い――その全貌を明らかにしていく。
『くくく、くはははははは! さあ――招かれざる客人よ、君たちに名乗る権利を与えよう。我に平伏せ! 我に媚びよ! ネコちゃんを崇め、存分に言い訳と詫びをするがいい!』
ふ……っ、決まった!
玉座の上から偉そうに言ってやったのである!
さて、相手はというと――。
なんかいかにも聖職者集団といった感じの、人間や亜人類の混合パーティーである。
僧侶やらビショップやら聖騎士やら。
ロードや聖女や巫女。
まあ、洋の東西を関係なしに、神聖魔法を扱える聖職者を集めました~! みたいな集団。
冒険者っぽい存在なのだが。
はて。
これはこちらの世界に潜む異能集団というよりは、どこかの異世界からやってきた存在と思うべきか。
ワーウルフやドラゴン人間。妖精やハーフエルフ。
いわゆる現在地球には存在しない、ニンゲンじゃない種族も混じっているし。
頭に浮かぶイメージは、宗教国家。
ニンゲンと似た文化を持つ中で、一番、厄介そうな連中である。
ともあれ。
ブニャハハハハハハ! と、威圧するように嗤い、私はネコ髯をピョコピョコ!
『聞こえなかったか!? さあ、汝らの代表は速やかに前に出るといい!』
「ふむ――なんだキサマ、随分と無礼で生意気なドヤ猫であるが」
と、前に出たのは一人の僧兵。
種族は人間。
いわゆるモンクや修行僧に分類される、職業の者。
拳や棍棒系の武器で戦う前衛職でありながら、回復や結界の力を扱える――まあダンジョン攻略にはなにかと便利なクラスである。
ちなみに男なので、別に気を遣ってやる必要はなし。
これで異世界から仲間を助けるために飛んできた女の子~、とかだったらまた話は別だったんだけどね。
魔王様も女性には優しくしろっていつも言ってるし。
『おや、勝手にウチを覗く連中にまさか無礼者だと言われるとはね。なかなかどうして、おかしな話じゃないか』
「拙僧には神がついている。全ての行いは正しく肯定され、全ての行いは神の代行。拙僧こそが神といっても過言ではない。そちらが先に名乗るがいい、三流なる使い魔よ!」
言って、ふふんとウマの尻尾のような辮髪を揺らす僧兵くん。
うん。
どうやら実力をはかる力もなさそうだね……。
送り込まれた捨て駒か、あるいは仲間を助けるために先走ったか。
ともあれ、ここはこちらが大人になって。
皮肉気に、小馬鹿にした声を出してやる。
『おやおや。それは失礼した――神の代行者殿。それでは、無礼を詫びこちらから名乗ろう』
告げて、私は大魔帝セット一式を顕現させ。
装着!
いつもの演出のモヤモヤを発生させ、カカカっと瞳を赤く輝かせ。
ドヤァァァァァァァ!
『我はケトス。大魔帝ケトス――ほんのすこしだけ強い、特別なネコ魔獣さ。これからよろしく頼むよ、聖職者の方々。私は君達を歓迎しよう、良くも悪くもね』
静かに瞳を閉じて悠然と告げる私。
とっても神々しいね?
ゴゴゴゴゴゴっと、それなりの魔力を放出してやったのだ!
さあ、平伏せ!
恐れ戦け! 頭を垂れろ!
こちらはドヤタイムを待ち望んで、今か今かと薄目を開けて眺めているのだが。
あれ?
なんか反応が薄いな。
モンク僧は構わず前に出て。
「そうか、拙僧の名はモンク僧カイン。異界ダンジョンに調査へ向かい、突如として姿を消してしまった調査団を追って、この地に参った者。痛い目を見たくはないだろう? 拙僧らの仲間を返してもらおうか!」
『え? いや、私――大魔帝ケトスだよ?』
あれ、このパターンは想定してなかったんですけど。
怯えるか、震えるか。
それともキサマを倒して名を上げる! 的な反応でも欲しかったんですけど。
「使い魔の分際で仰々しい名であるな。まあキサマがこのダンジョン領域のボスであるとは理解した。さあ、卑劣な罠で拘束した拙僧らの同胞を解放せよ! いまならば命までは取りはしない、悪い話ではないであろう!」
ペカーっと頭を輝かせてモンクさんは偉そうにつげました。
まる。
どうもここを、ただのダンジョン領域のひとつ。
よくある異世界ダンジョンだと勘違いしているのだろう。
たまにあるんだよねえ……。
大迷宮的なダンジョンがある世界だと、他の異世界と繋がっちゃってて、あくまでもダンジョンの中の世界だと思い込んじゃうパターンって。
するとあのヤンキー少女はこの僧兵たちの仲間で、潜入調査していた斥候みたいな感じで、彼らを招き入れた……のかな?
いや、でもあのヤンキー少女はヒナタくんの存在を知っていたし……。
目の前の聖職者軍団は、明らかにファンタジーな格好だし。
『ねえねえ! その前に聞きたいのだけれど、この子に見覚えはあるかな? ウチの学校に入り込んでたスパイみたいな感じで、君達の調査団を招き入れた存在みたいなんだけど』
言って私は例のヤンキー少女の画像を浮かべてみせる。
まったくの第三者ってパターンもあるからね。
こちらを混乱させたり嫌がらせをするために、異界から聖職者軍団を誘い込んだのだとしたら、実は結構厄介そうな少女となるのだが。
問いかけに応じたモンク僧カインとやらは、辮髪を揺らし。
ふふん!
「たとえ知っていたとしても、なぜ拙僧らがキサマに情報を開示せねばならぬ! それよりもまずは我らが仲間を解放せよ! 話はそれからだ、この身の程知らずが!」
他の聖職者たちも同じような反応である。
ここをダンジョンの一フロアみたいに勘違いしているなら、仕方ないが。
なかなかの強気である。
まあ――もうこのわずかな期間で心を読んじゃったからね。
情報は筒抜け。
あの少女の事など知らないって、分かっちゃってるんだけどね……。
となると、あのヤンキー少女。
怪しさ大爆発かな。
ともあれ、じゃあ目の前の聖職者軍団は用済みなわけで……。
んーむ。
「神の信徒の手助けをできること、光栄に思うがいい! さあ、我が同胞らを解放せよ!」
そっちがその気ならこっちにも考えがある。
そうだそうだ!
と、吠える聖職者軍団に目をやり。
私はニャハっと無機質なニャンコスマイル。
そして――。
告げた!
『いしのなか状態解除には寄付が必要となります。一人につき極上グルメ一山の寄付が必要となりますが、よろしいですか?』
おもいっきし単調な機械音声。
NPC――いわゆるゲームに登場する、ノンプレイヤーキャラクターを彷彿とさせる機械音で返してやったのである。
宿屋に泊まりますか? など聞いてくる店主を想像して貰えばいいだろうか。
「ふっ……おかしな魔猫だ、普段なら余興も構わぬ。だが。そういう戯言はもういい! もう一度だけ告げてやろう。我が同胞らをすみやかに解放せよ! 今ならば命までは――」
『いしのなか状態解除には寄付が必要となります。一人につき極上グルメ一山の寄付が必要となりますが、よろしいですか?』
再び、ゲーム内機械音声で返した私はネコの瞳をギラーン!
確かに。
このモンク僧の額に浮かぶ青筋を見た!
「拙僧の話を――っ!」
叫ぶその瞳に目掛けて、憎悪の魔力をほんのひとつまみ。
空気が。
変わる。
さすがに、直接魔力の波を受けて私という存在が、それなりに強い事は理解したのだろう。
沈黙に目をやり。
玉座の上で、良い位置を探し座り直した私は――穏やかな口調で言う。
『グルメを差し出せば、話を聞いてやってもいいよ。ここにはダンジョンを通じてやってきたのだろう、ならば――保存食の一つでも持ってはいないのかい?』
「ここにくるまでに……っ、すでに消費しておるわ!」
ま、それもそうか。
だったら用はない。
『おやおやぁ! 困りましたねえ! 支払い! 拒否ですか……!? それは残念です、それではまたのご来店をお待ちしております』
ニッコリ営業にゃんこスマイル!
告げた私は閉店ガラガラ。
本日のニャンコ相談センターの営業は終了いたしました――と。
誰でも読める魔力文字を浮かべて――ザザザ、ザァァァァ!
空間を徐々に遮断していく。
離れていく空間に手を伸ばし、モンク僧カインが喚きたてるように口を開く。
「ダンジョン領域に干渉だと!? キサマ! 下手にでていれば調子にのりおって!」
いや、どこが下手だったんだか……。
『えーとさあ、悪いんだけど。なんで偉そうな異教徒どもに命令されないといけないの? 私、猫なんだよ? そんな高圧的な連中の言うことなんて、聞くわけないじゃん!』
更に告げて、結界を展開!
相手をちゃんと防御結界で覆って、強制退場!
『君達の世界とここを繋げておいたままにしておくから、出直してくるんだね。今度はちゃんと礼儀とグルメを持ってやってくるんだ。そうしたら話ぐらいは聞いてあげるよ』
それじゃあね、と。
私は肉球を――ポン!
無礼な来訪者たちを元の世界へと帰還させた。
◇
来訪者を追い出した後、普通の学長室へと空間も戻り。
ヒトガタ君が呆れたように言う。
「なんだったのでしょうか、あの連中は……あまり強力な存在とは思えませんでしたが」
『さあねえ。ただハッキリしたことが二つある』
シリアスを維持した私は――ネコ手で器用に二本、爪を立ててみせる。
『一つは、あのヤンキー少女……彼女こそが間違いなく悪意のある侵入者だ。おそらく今の僧兵たちも異世界からあの少女に招かれて、こちらの力や行動基準をはかるために利用されたのだろう――そう私は考えている』
「なるほど。警戒レベルを引き上げましょう――」
即座にメルティ・リターナーズ、そしてアン・グールモーアに連絡を入れるヒトガタ君はやはり優秀。
組織をちゃんと使える部下っていうのは頼りになるからね。
つまり!
そんな優秀な部下を異界からスカウトしてきた私も、優秀だという事である!
大魔帝セットを亜空間に戻しながら自画自賛する私に。
彼は言う。
「何者なのでしょうね、あのヤンキーという特殊クラスに扮していた少女は……」
『まあ思い当たる存在はあるけれどね』
「と、おっしゃいますと?」
このパターンは、まあもうお約束だよね。
『ある程度、自分の存在を誤魔化すことができる程の存在で。影からこそこそと暗躍していて。女性で、なんか行動の端々から嫌な性格が滲み出ている。そんな力あるモノが一種類だけいるのさ。君ならもう、分かっているだろう?』
「古き神々――全ての始まりの楽園。神話とさえいえるほどに古く、しかしかつて確かに実在した神々の世界。その地に棲んでいたとされる、女神――ですか」
該当する存在でもある大いなる導きに関して、彼はあまり良い感情は持っていないのか。
わずかに眉間を尖らせている。
まあ、ヒトガタ君の出生にも色々と複雑な部分があるからね。
『まあ違っていたのなら、それはそれで構わないけれどね。古き神々――魔王陛下を逆恨みしている連中かどうかは、確かめるすべがある。大いなる光に大いなる導きはこちらの協力者だからね、さすがに直接会うか見て貰えば――その正体も看破できるだろう』
もし、魔王陛下に仇なすつもりなら。
……。
消えて貰おう。
ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォッォオ!
おっと、いけない。
思わず憎悪の魔力が世界を侵食しかけて、亀裂を生じさせるところだった。
毛づくろいをして、気分もリフレッシュ!
とりあえず、どちらかに学園に来てもらうとして。
頭を稼働させる私に、ヒトガタ君が言う。
「お考え中のところすみません。それで、もう一つはっきりしたことと言うのは? 支障がなければ、情報を共有させていただきたいのですが」
『ああ、そうだった。こっちは単純。これから、異界の極上グルメが山ほど――やってくるってことさ』
そう!
あの聖職者たちが、あのヤンキー少女に利用されていただけなのだとしたら!
高慢であったが、悪意のある人間とは限らない。
仲間を助ける手段。
私の提示した条件を満たして、再訪する可能性は高い!
その救出料金としてのお布施。
つまり。
いしのなかの人質、一人につき極上グルメの山をもって訪れてくるだろう!
くくく、くははははははは!
まさに完璧!
我の前には素敵なグルメの山が積まれる、そういう流れが完成したのであった!




