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魔導教室 ~のんびりニャンコと天衣無縫(てんいむほう)~その4



 転移の訓練もひとまずの終わりを告げ。

 さあ、素敵で素晴らしいランチタイムだニャ!

 と――なる筈だったのだが。


 大魔帝ケトスたる私のモコモコ猫毛が、敵を察知し逆立っていた。

 最強ネコ魔獣。

 生徒を守るためにちょっと、ピリピリモードである。


 葉擦れの音が鳴り響く校庭。

 太陽で生まれる影の中。

 私はネコの丸口を、ぶにゃんと蠢かす。


『どうやら――しばらく転移の訓練を見られていたようだね。妙に視線を集めているとは思っていたけど、生徒達以外にも見ていた存在がいたって事か』


 モフ耳をピンと立てて、アンテナ代わりにきょろきょろ♪

 たしかに、何かがいる。


『違和感に気が付かなかったのは私の落ち度……ふむ。これは私のミス。反省しないといけないかもしれないね』


 私の言葉を受けて、生徒の一人ヘンリー君が結界を展開。

 残念顔ではなく、細い顔立ちをシリアスに尖らせ私に言う。


「おそらく、アンタが強すぎるせいだろうさ。相手が弱すぎると気配察知から逃れてしまうんじゃないのか? まあ、次から気を付ければいいだろう。それよりもヒナタ嬢は? 転移訓練実戦で行動不能状態になっているのなら、危ないだろう?」


 へえ。

 よく見ている。


『安全な場所に移してあるさ――まあ、学食だけど。あそこには強者が揃っている、問題ない』

「紅きマルス、戦乱世界を治めていた主神にして恐怖の大王アン・グールモーアに、その分身端末。異界を流れて修行する幻獣神、猫コック料理兵団。たしかに安全か。まったく、こんな学校に攻めてくるなんて、どこのバカなんだ」


 黒の魔導書を顕現させて、ヘンリー君が言う。

 ……。

 ふぇ? あの猫のコックさんって、幻獣神なの?


 まあ、そういう一面や伝承もあるということだろうが。


「どうした駄猫教師。なにかトラブルか?」

『いや――些事に過ぎない。結界維持に集中しておくれ。あの引きこもり結界は、私も感心する程のできだった、期待しているよ』


 まさか自分が使っている眷属の情報を、生徒の口からきいて。

 内心で。

 あにゃーん! と口を開いていたとは言えない。


 シリアスな空気に騙され、ヘンリー君が頬に浮かべる汗を太陽に反射させる。


「そうか――まあ頼りにされるって言うのは、悪い気分じゃないね。相手も雑魚って事はないだろうが……どうする? 言っておくが、ボクは師匠に伝授された、この引きこもり結界を張る能力だけなら自慢できるが、それ以外には期待するなよ!」


 あの優秀な結界、やっぱりあの方の魔術だったのか。


 引きこもり環境。

 必要だった一人の空間。他人の闇を覗き過ぎた王子。

 幼き脆い心を守る結界を授けた――あの方の心。


 その優しさに感慨を覚えた私は、ふっと微笑する。


『決まっているだろう。ここは生徒達を預かる私の箱庭。普段ならばまあ対話を選択することもあるだろうけど、今は生徒の安全が最優先だ』


 厳格な声を漏らす私に、ヘンリー王子がごくりと息を呑む。

 生徒を守ろうとする、私の鋭い殺意を感じ取っているのだろう。


 他の生徒の安全も確認した私は――。

 赤き魔力を解き放ち、宣言する。


『我はケトス。大魔帝ケトス! 魔王陛下を守護する獣、影を蠢きし――異世界の大神なり!』


 ぶぉぉぉおおおおおぉぉん!

 荒ぶる魔力が校庭を走り、砂塵が巻き起こる。


 校舎の中。

 メルティ・リターナーズから派遣されている通常授業用の教師達が――うげっ! また、なにかやらかしてやがる、と顔を引きつらせているが、気にしない!


 まあ、異常事態とはすぐに察して貰えただろう。


 覗き魔たちも察して降伏してくれると、とっても助かるのだが。


 まあ、わざわざ盗み見ているのだ。

 たぶん無理だよね。

 隠れ切っているつもりなんだろうし。


 猫目石の魔杖で、トントンと地面を叩き。

 私はネコの口を上下させる。


『そこにいるのは分かっているよ。どうか穏便に話し合いたい。最終警告だ――でてきたまえ』


 義務として発した私の問いかけに――返事はない。

 偵察がメインか。

 この状況で学校に忍び込むことができて、なおかつ対話に応じる気がない。


『敵ってことでいいかな?』


 最終警告の後に、更にもう一回警告をした。

 それすなわち、私は手を差し伸べチャンスを与えたという事実が証明されたわけである。


 つまり! 後は何をしても問題なし!

 せっかくなので相手には生きた教材になって貰おうと、私は心を切り替える。


 じゃあ、やっちゃおうか。

 ぎしり。

 次元が割れる音がした。


 いったい、空気を入れ替えたと察した者は、何人いたのだろうか。


 察した者は、身体を震わせていた。

 生徒達の何人かは既に、私の恐怖を知っている。

 味方だと分かっていても、本能が身体を震えさせるのだろう。


 ……。

 いや、まあアン・グールモーアは酢豚の仕込みをしながら、「やってしまうでありまする!」と爆笑しているし。

 目を輝かせるトウヤくんは、私の勇姿を本格的な高級カメラで撮影しているが。


 あいつら……ブレないなあ。


 ともあれ、察した者は既に私から目を離せなくなっていた。


 これから起こるのは、一瞬の殺戮。

 瞬殺。

 魔猫としての私が、チェシャ猫スマイルでモフ毛を揺らす。


『そうだね。それも君達の答え。私はそれを尊重しよう――タイムリミット。終わりの時間だ。私はランチタイムを邪魔されたくないのさ――』


 死の宣告を終えた私の影が、伸びる。

 転移魔術を操り。

 生徒達に、転移を攻撃に転用した際の恐ろしさを伝えるように――。


 肉球を、ぽん♪


『強制転移魔術:《石棺たる天衣無縫てんいむほう》――さあ、冷たく昏い石櫃せきひつで永久に漂い続けるといい』


 コミカルな肉球音が響いた。

 次の瞬間。

 ギシィィイイイイイイイイイイイィッィィィィン!


『さようなら、名も知らぬ捨て駒たちよ』


 これで終わり。


 砂塵は治まり。

 揺れるモフ毛も落ち着いている。


 どこの誰かもわからない、謎の集団はそのまま転移されて別の場所。

 座標は――。


 いしのなか。


 他人を対象とした転移を扱うという事は、即死魔術を使うと同義。

 回避する手段を用意できない者へは、不可避の死。


 何人かの生徒は、私がやってみせた即死消滅攻撃を察したのだろう。


 ぞっと顔を青褪めさせて、息をのんでいる。


 緊張と静寂。

 揺れる樹々と葉擦れの音の隙間を縫うように、私はネコのヒゲを揺らす。

 天に向かい告げたのだ。


『聞こえているだろうか、名も知らぬ我が敵よ。既に彼等は消失ロストした。けれど――私ならば、哀れに消失してしまった生贄を助ける事もできる。助けたければ、正式に謝罪と挨拶に来たまえ。悪く思わないでおくれよ? 私はちゃんと警告をした。これは、私の言葉を無視した君たちへの罰さ』


 ふ……っ。

 決まったニャ!


 残酷でクールなにゃんこ教師、これこそがドヤシーン!

 全てが完璧な流れだった。

 筈なのだが。


 動揺していないヘンリー君が、冷静な顔のまま――。

 ぼそり。


「いや、石の中に転移させて殲滅するより……魅了して情報を引き出した方が良かったんじゃないのか? おまえ、ネコ魔獣なんだから影魔術と窃盗スキルと魅了が得意なんだろう?」

『ぶ、ぶにゃ!?』


 ……。

 言われてみれば、まあ……。


『これはこれで、別にいーの! みんなに転移魔術の使い方を説明したかったし! 生贄が向こうから来てくれたんだから、ちょうどよかったの!』


 私は地面をペンペンと叩いて熱弁したのであるが。

 誤魔化せただろうか?

 苦笑するヘンリー君は軍師っぽい顔で考え込んで。


「まあ、たしかに。もし生徒達の中に侵入者がいるのなら、これで迂闊な手段は取らなくなっただろうからな。抑止力をアピールとしたと思えば、悪くはないか。まあ! おそらく何も考えなしにやったんだろうけどな!」

『そ、それだ! そう、私は侵入者に警告の意味を込めてだね』


 モフ毛をぶわぶわさせて言い訳する私を抱きあげ。

 残念王子は言う。


「それよりもだ――ボクもお腹が空いてきたよ。誰かさんがボクに、オムライスなんて食べさせたせいでね。ちゃんとした料理じゃないと味気ないと思うようになったし、ああ、そうさ。責任を取ってもらいたいし、どうせランチタイムに遅れるとアンタ、ブチぎれるんだろう? だったら早く行くぞ。授業は終了、そのまま学食へって事でいいな」


 ようやく彼もグルメの良さを理解したのだろう!

 むろん、私に異論はなかった。


『おお! 君もだいぶ私という存在を理解してきたようだね! さあ、行けタクシー! 我を運び、学食に乗り込むのじゃ! くははははははは! あ、そんなわけで授業は終了ね! 続きはまた明日ってことで、解散!』


 ビシっと指差す先は――グルメが待ち構える学生食堂!


 ルンルンでゴロゴロと喉を鳴らすドヤ猫な私を運びながら、ヘンリー君が生徒達に向かい。

 告げる。


「他の連中も――うっかりでこの駄猫をキレさせるなよ。ボクたちを巻き込んだことに一定の責任を感じているらしいし、在籍している限りは守ってくれるようだが。反対に考えてみろ。悪意を持って侵入している相手には、たぶん、ヤバイぞ。ああ、マジでやばい。本当に敵と認識されたら――ああなるだろうからな」


 その視線の先にあるのは、さきほど全滅させられた謎の人物たちが埋まる。

 いし。


 細い身体で、それなりに大声を上げたヘンリー君であるが。

 これは彼なりの優しさかな。

 警告したのだ。


 悪意ある存在には、大魔帝ケトスは厳しい。

 容赦なく消し去るぞ。

 と。


 ようするに、忍び込んでる奴がいるなら自己申告して来いと言ったのだ。

 まあ名乗り出てくれたら、私も比較的穏便に対処するだろうしね。


 なにはともあれ、まずはごはん!

 素敵なランチタイムが待っている!


 はてさて。

 これからどうなることやら。


 ◇


 かくして、転移の基礎授業はとりあえず無事終了。

 新たな問題も生まれたわけだが、この辺りは動きがあった方が助かるので問題なし!


 だって、ずっと潜伏されたままが一番面倒だから。

 ねえ?

 ここらで侵入者が敵なのか、第三者なのかハッキリさせておきたいのである。


 今回の件でやはり。

 何者かが、この学園に干渉しようとしている――。

 または、既に干渉している事は確定したわけだしね。


 いしのなかで埋まる人質を回収しに、何者かが接触してくるかどうか。

 次の動きは、それ次第かな?


 まあ悩みは尽きぬが腹は減る!

 そんなわけで!

 私はランチを十分に楽しみ――午後はぐっすりと惰眠を貪ったのであった!


 余談であるが、私を抱っこし運んだヘンリー君は筋肉痛に悩まされたらしい。

 ただし!

 これは彼の運動不足が原因であり!

 私のせいではない!


 と、記録しておこうと思う。



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― 新着の感想 ―
[一言] 敵だといしのなかに転移させられてもふーんで終わるね うんうんそうだね、ヘンリーくんの運動不足だよね!!ヒキニートしてたんだから、多分きっとそうなんじゃないかなぁ知らんけど
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