騒動の始まり ~でこぼこコンビ結成~
まだランチタイムには早い時間、ぽかぽか太陽が校舎を温かく照らしている!
私のモフ毛も照らしている!
いやあ、太陽のぬくぬくっていいよね~♪
ついつい、ドヤ顔で胸を張ってしまうのである!
さて、現在我等は廊下を進撃中!
保健室での話し合いの結果。
とりあえず登校するということで、話は決まったのだ!
えらーいニャンコな私。
大魔帝ケトスは威風堂々と、肉球をぷにぷに、猫毛をモフモフ!
『というわけで。廊下のど真ん中をドヤ顔で進んでいたのである――! さあ、偉大なるニャンコの明日はどっちだ!』
ビシ――!
と、いつものように決めポーズを取ったのだが。
ザザザザザザ! っと、魔力に怯えた野鳥が、樹から飛び立ち逃げる音が響く中
私のポーズを不審に思ったのか。
残念王子で細身のぼっちゃん――死神貴族ヘンリー君が、記憶クリスタルに情報を転送する私に、眉を顰め。
軽薄そうな唇で、ぼそり。
「あのさあ、駄猫? いきなり廊下で変なポーズで格好をつけて、なにしてるんだ……? 魔導の儀式かなにかか? 宗教だったら、さすがに文句はないけどさあ。おまえ、ちょっと挙動不審すぎるんじゃないか?」
いや、猫っぽいといえば猫っぽいけどさあ。
と、貴族っぽいカッコウに着替えた彼は言う。
シッポを揺らしながらテンション高めに私は振り向き、にやり!
『今のは魔王様への信愛と忠誠を込めた素敵ポーズ! 見たものにご利益と幸運が与えられるっていう、奇跡の構えさ! まあ、魔王様への祈りと信仰だし、あー……宗教といえば宗教……になるのかな? 私、あの方をとてもお慕いして崇めてるしね』
肉球を舐めながら考える私に、慌ててヘンリー君は気まずそうに。
「そ、そうか――宗教儀式だったのなら悪かった。それぞれが信じる神を崇める権利はあるからな……。悪かった、ああ、悪かったよ! ボクの暴言は忘れてくれていいからな! だが、勘違いするなよ! ボクが謝ったのは宗教を批判した事だけだ! おまえのその暴走ネコぶりには、うんざりしてるんだからな!」
謝りながらも怒鳴って、更に怒る。
なかなか器用な王子である。
おお! ここは、大人ネコとしての余裕を披露する場面だろう。
私はふっと優しい微笑を浮かべ言ってやる。
『おや、なにを怒っているんだい? お腹空いちゃった? あー、わかるよー。わかる。お腹空いちゃうと、イライラしちゃうもんねえ』
「おまえみたいなケダモノと一緒にしないでくれ……。あと、その私はちゃんと分かっていますみたいなドヤ猫顔は止めろ。見当違いだ。あの事件以降、ボクは食欲があまりないんだよ」
ゲンナリと応える言葉は本音なのだろう。明らかに顔色が悪いし、頬もこけ気味である。
なかなかどうして。
ナイーヴな青少年だよね――。
引きこもり期間の籠城生活の影響か。
夢猫ネット。
そしてマンガやアニメの知識を吸収したのだろう、なんか妙に現代日本にも詳しいし。
しかし――こいつ。
心からの謝罪なのは確かみたいだし――小者で小悪党で面倒くさいバカ王子だけど……根はイイ奴っぽいのかな?
じぃぃぃぃぃぃっと眺め考える私を無視し――ヘンリー君は周囲の教室を見渡す。
「それにしても――すごいなここの魔術理論は。これら全てが魔術式で作られた幻影の世界なんだろうし。へえ、やはり外の世界にはボクも知らない魔術があるってことか。これはまあ、たしかに、興味深くはある」
ウジウジとしながらもよく見ているのだろう。
神経質そうな顔を尖らせ残念王子は言う。
「で? モフモフ毛玉ネコ。いったい、この学校は何を教えるって言うんだ? 転移帰還者達を集めているってのは聞いたが、まったく見えてこない」
『なにって、とりあえずは常識を学ぶ場所……みたいな?』
そういや、具体的にはまだそこまで決めてないんだよね。
ちょっぴし目線を逸らす私に気付き、王子は好機とみたのだろう。
すかさずドヤ顔で――ふふん!
「はぁぁぁぁぁ!? そんなことで大丈夫なのか!? ああ、ああ! これだから行き当たりばったりな愚民は嫌なんだ。ここにいる転移者達の年齢もバラバラ、飛ばされた地もバラバラ――魔術もスキルもみんな違う。中には転移先で転生していたり、種族が変わっているものまでいるんだろう? 教育の基準を決められるとは思えないんだけど? ええ? どうなんだよ、ネコの大先生様!」
ネコの大先生と、なんとも心にもない事をいっているが。
まあ皮肉や嫌味だろう。
しかし、私は地味に彼の言動に関心を示していた。
『へえ! 意外によく見ているじゃないか――さすがは王族だね。観察眼だけは良いものを持っているようだ! 残念王子なのに! ちょっとだけ見直したよ!』
「褒めてるのかけなしてるのか、はっきりしてくれよ。反応に困るだろう――で、本当に何を教えるつもりなんだ。たぶん早いうちに手を打たないと、そのうち……ああ、まあいいや。それはお節介だろうしな」
あれ、なんだろう。
何かを言いかけていたみたいだが、まあいいや。
『とりあえず教えるのは――やっぱり魔術やスキルについての知識かなあ。制御方法や、互いの異界魔術への理解。手加減の方法や、世界が元に戻った後にどう自分の異能の力と向き合っていくべきか。その辺の、精神的部分からレクリエーションを混ぜて教えていくことになるのかな。まあ――まずは、コミュニケーション能力を把握する所から始めようと思っているんだよねえ』
やっぱりまずは会話。
というやつである。
そしてゆくゆくは、魔王様へのお祈りの時間と授業を追加して……にゃは!
一気に魔王様のすばらしさを布教する、大チャーンス!
そんな私の思惑も知らず、残念王子は言う。
「まあ、いいんじゃないか――引きこもっているボクが言うのもなんだが、コミュニケーション能力は重要だろうからな。まあ、もっとも? ボクは群れるなんてもう嫌だし! ボクはぜったいに、もう誰も信じないし! くっだらないと思うけどな! なーにが王子についていきますだ、馬鹿馬鹿しい! ボクを追放したこと、後悔するがいいさ! ボクは必ずやネトゲの神になる!」
なははははは!
と、開き直り笑う王子は案外に楽しそうだった。
いや……旗色が悪くなって捨てた王子が大成するならともかく。ネトゲの神になったところで、別に家臣たちは後悔なんてしないと思うんだけど……。
まあいいや。
『はいはい、それはもう分かったから。とりあえず行くよ。ついてきておくれ』
「おまえはネコだから、まあ一緒に行動しても問題ないからな。ああ、いいだろう。ついていってやる! なんなら子分にしてやってもいいぞ?」
ここまでおバカだと。
なんというか、いちいち突っ込んで吹き飛ばすのも面倒になってきたかもしれない。
『君、けっこう打たれ強いね……?』
「王族とは――そういうものさ」
と、寂しそうな言葉を漏らす顔は……。
……。
まあ、そこまで嫌いじゃないけどね。
◇
あれから五分程。
ぷにぷにな肉球が向かう先は当然、教室!
ではなく。
るんるんに喉を鳴らしながら、私は早足でとてとてとて♪
『どこかな、どこかな~♪』
廊下の角を曲がって。
ささささ! さささささ!
そこには特別な場所は何もない。
空気の入れ替えで開いた窓と、流れる風が見えるのみ。
カーテンのぶわぶわを眺めながら私は言う。
『あっれー! おかしいなあ、この辺に学食があるって話だったんだけど……どこだろう?』
「いや、おまえ……ボクを教室に連れていくんじゃなかったのか?」
と、クマの目立つ顔で、私にジト目を向けるヘンリー君。
さすがにゲームのデータを消されるのは嫌らしく、素直に従っているのだが――。
対する、私は――もふもふモコモコな身体を膨らませて、ふんふん!
学食を探し、ズザザザザザ!
鼻からちょっと息を漏らしながら、周囲をきょろきょろ!
『言っただろ、別に無理に勉強をする必要はないって! そんなことより君も探しておくれよ。私さあ、ここの学食にあるオムライスがどんな味なのか、ちゃんと確かめておきたいんだよねえ!』
異世界のとろとろオムライスの味を思い出し、私はじゅるり♪
思わず口元から垂れるヨダレを、猫手で拭いて。
更に――廊下をダダダダ!
『もう! 全然ないじゃないか! もしかして、まだ食堂は作成できていないってオチじゃないだろうね!』
「はぁ……どーなってるんだよアンタの思考回路は。ガミガミ言われても面倒だしボクとしてはその方が助かるけどさあ、一応、父上と契約したんだろう? 食堂なんて探すよりも先に、やることがあるだろう? ほら、もう分かっただろ? ここはボクに勉強を促すのが、教師としての義務なんじゃないのか?」
たしかに正論である。
だがしかーし!
言葉を受けて、私はチッチッチと尻尾を振って応えてやる。
『勉強なんてやりたい人がやればいいのさ。それに、ほら、君って痩せてるだろう? 心配だろう? ジャンクフードばっかりだろうし、ちゃんとした食事を食べさせてあげた方がいいだろう! つまり、食堂こそが先決! 最優先事項! そう、これは君のためでもあるのさ!』
ビシっと言い切ってやったのだが。
完全に呆れ顔である。
心が読める私には見えていた。その目線が語る言葉は、うわぁ……なんだこいつ……。
『って、あれえ? どうしたの? 君のために行くんだよ? もっと喜んでいいよ?』
眉間に手を当て、残念そうに彼は言う。
「おまえ、本当にどうしようもない残念猫だな……」
『いや、君にだけは言われたくないんですけど? それにやっぱりちょっと心配だよ、君。本当にあんまり食べてないみたいじゃないか。なにごとも食事が一番! 悩みなんて、ごはんを食べていれば忘れられるってもんさ!』
私なんて、人間を滅ぼす感情すらごはんで誤魔化しているしね!
「おまえさあ……、ボクが追放されている王族だってこと、忘れてるんじゃないだろうな? 良い悪いは別として、扱い方が雑じゃないか? もうちょっと、なんかあるだろう?」
『えぇ……だって、王子って言っても私の方が偉いし……どうでもよくない? とにかく! 私もご飯を食べたいし、君の身体も少しは気になる! 両方を解決する手段が学食を発見する事なんだから、なーんも問題ないじゃないか!』
心配もしているのも事実。
それが伝わったのだろう。
「なんだ……いちおう、心配してくれているのか」
開いた窓から流れてきた風が、彼の頬を撫でていた。
私のモフ毛もぶわぶわっと風で靡く。
しばらくして。
王子は言った。
「変な奴だな、おまえ」
と、つまらなそうに息を漏らし。
けれど。
残念王子は表情をやわらげ、眉を下げたのだ。
「しょうがないやつだが、まあ仕方がない! いいだろう! ふっふっふ! ボクもたしかに少し腹が減っているからな! ちょっと待っていろ! 我が素晴らしき暗黒魔術、みせてやろうじゃないか!」
ヘンリーくんは貴族の突剣を取り出し、詠唱を開始。
三重相当の魔法陣を展開。
どうやらダンジョン探索用の魔術のようである。
「我はヘンリー! 死神貴族ヘンリー! 異界の冥帝、黒薔薇の貴公子よ。我らが歩むべき道を示したまえ――目的地探査!」
突剣の先端から煙が生まれ――ぷしゅう!
おそらく、本来なら煙が目的地まで流れて道を示す魔術だったようだが、反応はない。
術は成功していたし、その効果も魔術式にも無駄も失敗もなかった。
正常な魔術なのに消滅したという事は――がっくり。
『あちゃー……これ、やっぱりまだ食堂空間は作られていないって事か。ええ! じゃあ、私、今日ここに来た意味無いじゃん!』
「ぶははははは! 残念だったな、駄猫教師! ざまあみろ! ざまあみろ!」
毛を縮める程にショックを受けた私は、完全にテンションダウン。
廊下にどさっと倒れ込み。
しっぺしっぺしっぺ、と毛繕いを開始し、ふわぁぁぁぁぁぁっと大あくび。
『どうしよう、なんか……すっごいどうでもよくなってきちゃった。ねえ、帰ってゲームする?』
「なあ。どうしてテキトー魔神のおまえがどの面下げて、ボクに説教をしたのか――本当に分からないんだけれど? ていうかおまえ! マイペース過ぎるだろ! 完全に食堂だけが目当てでこの亜空間を作り出したな! 一瞬でも異界の学園生活に期待したボクが、バカみたいじゃないか!」
あ、期待してたんだ。
そんな言葉を受けても、既に私は廊下にころがり。
どでーん。
つまらなくなってきてしまった。
『ああ、私のオムライス。素敵なオムライス。学食の、なんかレストランとも家庭の味とも違う、オムライス。食べたかったニャぁ……』
「えぇ……。これが……あの大魔帝? 魔導書から伝わる逸話には偏りがあるとは聞いていたけどさあ……。これじゃあ、おまえを最強の闇を抱く神獣だと信仰している魔術師どもが、がっかりするぞ……?」
別に……私、どう思われてもいいし……。
そんな私に呆れたのか、ヘンリー君が――首のうしろをポリポリ掻くという、イケメンのみが許されるあの伝説のポーズをして、ぼそり。
「はぁ……じゃあ、今から自分で作ったらどうだ? ここはおまえの魔力で作られているんだろう? 食堂を新設するくらい、大魔帝ケトスなら朝飯前だろうに」
『おお! それは名案!』
ズジャっと起き上がった私は、十重の魔法陣を展開。
『いやあ、君! なんかさっきから所々で冴えてるね! そんなに頭が回るのに、なんでそんなに残念なんだい?』
「おい、こら! 駄猫! 残念っていうなよ――これでもボクは……! って、なんだこの魔力。攻撃魔術? ちょっと待て! 駄猫! おまえ、なにかしかけてるんじゃないだろうな? 変な魔力の流れを感じるぞ。さすがにゲームデータが人質なんだ、逆らったりはしないからな、もしボクに嫌がらせをしようとしているなら、やめろよな!」
攻撃魔術と聞き、私のモフ耳がピンと立つ。
『いや、私は食堂建設魔術以外にはなにも……って!? なにかくる!?』
「伏せろ――っ!」
ドドドドズズズズゥッゥゥゥン!
襲ったのは魔術による爆発。
やばい! 私はいま、食堂建設の魔術を行使しているから――咄嗟に結界を張れない!
慌てて解除し、ヘンリー君を守ろうとしたのだが。
凛とした声が響く。
「ハーデスの棺よ――! 命を死から守りたまえ」
ズズズズズズ!
作られたコフィン型の結界が周囲を覆っている。
あれ?
なんか先にヘンリー君の方が結界を張ったのか。しかも私の分までも。
……。
ひょろっとした筈だった体躯で手を翳し、意外に凛とした顔をみせ、バチバチバチ。
冥府の権能を行使した、それなりに強力な結界を維持している。
王族としての顔で、彼が問う。
「怪我はないか――駄猫」
『ありがとう、毛が汚れるのは嫌だから助かったよ。しかし。なんだろうね、今の』
ちゃんとお礼を言える私、偉い!
ふふーんと褒められ待ちをしていたのだが、それを無視してヘンリー君が言う。
「ふん、嫌だ嫌だ。この爆発の原因は……やっぱりそうか。あぁ、くっだらないね。ボクにはだいたい想像がついてしまったよ」
『え、それは本当かい? ねえねえ、なにか分かってるなら教えてよ!』
期待を向けられるのはまんざらでもないのか。
王子はちょっと自慢げに言う。
「いいだろう! 教えてやる。いやあさっきも思っていたんだが、やはりこうなったね! ここは異世界召喚から戻ってきた人間達が集まっているわけだろう? 勇者だったり、英雄だったり、まあ自分の力に対してプライドを持っている奴も多い」
存外に冷静な判断力を持っているようで、残念王子は怜悧な顔で続ける。
「英雄とはとかく我儘な存在。それに、あり得ない体験をした連中が多いのさ。みんな、我が強いんだろうよ。そんなのが二人以上もいたら、どうなると思う? 狼の群れの中で、ボス狼が二匹以上同時に居たら――もう分かっただろう? トラブルが起きるに決まっているじゃないか! みんな自分が特別だと思っているだろうからね。衝突が起こるのは必然。対策をしっかりしなかったのは失策としかいえないね!」
まあ、たしかにあり得ない話じゃない。
『ああ、なるほど……じゃあこれ、生徒達が喧嘩してるのか』
「まさか、そんな事も分からないでこんな施設を作ったって言うのか? はん! これだから考えなしの駄猫は困るねえ!」
うっ……!
正論攻撃とは、やるな。
『ま、まあ今回は試験だからね。仕方ないじゃないか!』
「ボクにはもうお前が理解できた。絶対、普段から――もっとちゃんと考えて行動してくださいって、部下から文句を言われているだろう?」
私の頭の中には、ジャハル君のお説教顔が浮かんでいて。
ぐぬぬぬぬ!
こっちが押され気味である。
そんな敗戦を覆すべく、私は誤魔化し叫んでいた。
『とにかく、止めないと! 食堂新設は後だ! この私の食事を邪魔するような生徒には、分からせてあげないとね!』
「いや……おまえ、それ完全に私怨じゃないか」
ジト目を受けながらも、気にせず私はダッシュ!
私とヘンリー君のへんてこコンビはそのまま、なんだかんだで一緒に行動。
騒動の場所を目指し廊下を駆けていた。




