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冥王と黒猫の小休止 ~新たな物語へ~



 これは前回の物語が終わった後。

 戴冠式とパーティも無事終了。

 せっかくなので集まった我らが三獣神で、冥界バカンス!


 ……じゃなかった、しばらく様子を見ようとクリスタルな王城に滞在していた、ある日の出来事だった。


 絨毯で温かい王城の床。

 偉大なる私を呼ぶ声が、大きな扉の中から聞こえていた。


「お待ちしておりました、大魔帝ケトス殿。ささ、どうぞ中へ――ほら、お前達、接待の準備を」


 元冥王にグルメがあるからと呼ばれた私――。

 大魔帝ケトスは、彼の部屋に招かれ……こうして中に入ったのだが。


 執事の開けた扉を抜けると、そこはグルメ天国だった。


 女王即位の記章が施された大理石のテーブルの上。

 ズラァァァァァっと並んでいたのは――ちょっとグルメを用意した、というには多すぎる品々。


 冥界メロンに冥界プリンに冥界カステラに冥界紅白饅頭。

 酒と栗が輝くモンブランに、濃厚そうな香りを放つ苺のショートケーキ。

 その他たくさんエトセトラ。


 とてとて……とて――とてとてとて!

 ははーん?

 すぐに状況を悟り、ネコの私は皮肉気に眉を下げていた。


 給仕も執事もメイドさんも、たくさん揃えて――。

 ここはまさに、接待会場そのもの。

 どーかんがえても、ちょっとランチにお誘いしました――という空気を超えている。


 当然、中には冥界の元王様。

 元冥王アーケロンこと、分類すると動く炎の死霊鎧(リビングアーマー)のオッちゃんが待っていて。

 そわそわとした様子で、私の顔色を炎の中から探っている。


 私に何か頼みがあるのだろう。

 

 もこもこふわふわの猫毛を膨らませた私は、献上グルメを確認。

 ぶわっと尻尾を揺らし――。

 ジャンプ!


『で――私になんの相談なんだい?』


 ふかふかソファーにぴょんと飛び乗った私は、ド直球で言う。


 元冥王の本体は、鎧の中で蠢く蒼白い焔なのだが――。

 狼狽したように火がメラメラと揺らいでいた。


「そのぅ、まずは我ら冥界と死神、そして我が家族の問題を解決してくださったお礼として――どうかこちらをお納めください」


 これを受け取ったら、相談を受けないといけなくなるのだが。

 問題ない。

 なぜなら私は大魔帝ケトス、天下の大魔術師!

 大抵の相談なら叶える事ができる。


 だがしかーし! これはグルメ交渉!


『前回の件の報酬だということなら、遠慮なく全部貰って帰っちゃうけど。本当にそれだけでいいのかい?』

「い、いえ――そのぅ、あのぅ……なんといいましょうか」


 解決のお礼という言葉を額面通りに受け取ると、はいこれで終わり!

 になるんだよね。


 そう!

 これは駆け引き!

 私はできるだけ、相手に無理をさせない限界ラインで――グルメを引き出したいのである!


 内心とは反対にクールに猫目を光らせる私に、うぬぬぬぬ。

 元冥王が唸るように言う。


「わたくしももう老い先短い身、その……哀れな老人の頼みを……その、あのぅ」

『あー、そういや。そもそも君が弱り始め、眠りにつく期間が増えたから王位継承問題が始まり……今回の騒動が起こったんだっけ』


 王位を継ぐための最終試練。

 それこそが――まだ出会う前のカナリアくんが、魔導書転送攻撃でダンジョン領域日本に攻撃を仕掛けていた、理由だったしね。


「はい、恥ずかしながら――もはや我が命はそう長くは、ですので……そのぅ、消える我が身を哀れみ……」

『じゃあ、こうしようか』


 老い先短いを理由に最後の頼み事!?

 これはまずい!

 言われてしまったら断れない!


 言葉を遮り言って、私は肉球をパチン!


『我はケトス、大魔帝ケトス! 古き楽園、魔術と世界の祖を知るもの也!』


 魔力の渦を発生させ、レイヴァンお兄さんの力を借りた魔術を発動。

 ゴオォォォォォ!

 ダメージのない冥府の獄炎が元冥王を包み。


 しゅぃぃぃぃっぃい♪


 世界の法則と運命を書き換え、元冥王の炎を強化――。

 ぶぶぶ、ぶにゃははははは!

 神格を補強し、はい完成!


 残りわずかだった寿命を、大幅に延ばしたのである。


 ニヒィ! 勝った!

 これで。

 老い先短いからどうか最後の頼みを……作戦は使えない!


『はい! これであと千年は余裕で生きられる筈だ。そういうわけで、相談は終わり! じゃあ、私はグルメを貰って帰るからね~!』


 さしもの元冥王アーケロンも困惑したのか。

 慌てて、ガシャリと立ち上がる。


「ちょ! え!? いや、神に分類される存在の寿命を延ばしたのですか!?」

『そういうこと! これで君には交渉カードがなくなったってことだ。いやあ、残念だったねえ!』


 魔力カッターでメロンをカットし、生ハムと一緒にバクバクしながらドヤる私。

 かわいいね?


「ざ、残念どころか、まだ生きていられるので――感謝しなくてはいけないのでありますが。いやはや。やはりケトス殿はその……破天荒でいらっしゃいますな」


 さて、からかうのはこれくらいでいいかな。

 私は苦笑し、神父としての声で言う。


『まあ頼みがあるという事は理解したよ。言うだけ言ってみなよ。叶えてあげるかどうかは別として、聞くだけならタダだしね。実はこの時にちゃんと聞いておかなくて、後で悔いる展開になる……ってのも嫌だしね』


 穏やかな声に、元冥王は安堵の炎を揺らす。

 どうでもいいけど、このオッちゃん……炎の身体だから表情と感情が逆に読みやすいな。


「相談というのは、我が息子についてなのです」


 息子……。


『あ、ああ……最近まで豚さんになっていた王子くんね』


 たしかカナリアくんとは腹違いだったか、それとも後に生まれたのか。

 その辺の事情に詳しくはないが……。

 なんにしても王の座を望み騒動を起こしていた、黒幕である。


 まずい。

 私、あのブタ化の状態異常をかけたままになっていたことを、完全に忘れていたから――。

 ちょっと負い目があるんだよね。


「頼みというのは他でもありません。我が息子を、しばらく――ダンジョン領域日本に住まわせてやりたい……と、思っておりまして、はい……」


 モンブランの栗を魔術で分裂させながら、私は神妙なネコ顔で問う。


『どういうことだい? たしかもうカナリア君とは和解したと聞いているし、黒マナティー亜種……ブレイヴソウルからの情報だと、問題も起こしていないって話だったんだけど?』


 そもそも、原因は黒マナティー亜種の悪戯。

 嫌がらせで洗脳されていた部分もあったし。


「まあ……娘と息子の仲は徐々に良くなっているのです。もちろんわだかまりもあるでしょうが、それは時間が解決してくれる筈。ただ……問題は家臣たちなのです。アレはやはり一度謀反を起こした身、カナリアによる統治が良くなればなるほど、息子への目も重く白いものになっておりましてな」


 つまり、落ち着くまでほとぼりを冷ましたい。

 ということか。


『なるほどねえ。で、ダンジョン領域日本の主神であり管理者である私にしばらく預けたいと。でもそれなら、ロックウェル卿かホワイトハウルに相談しても良かったんじゃないかい? あいつらも、管理者権限を持ってるし』


 ショートケーキから剥がしたフィルムについたクリームを、ぺろぺろ。

 可愛く舐める私も素敵だね?


 クリームまみれになりながらも疑問を口にした私に、がくがくがく。

 元冥王が怯えた声で言う。


「畏れながら……あのお二方は、そのぅ、ケトス様と違って……我が息子の対応に関しては、甘くないでしょうからなあ」

『どういうことだい?』

「ホワイトハウル様に相談したとしましょう、おそらく息子はかつての罪を咎められ何百年と封印されるがオチ。ロックウェル卿様と相談したとしましょう。おそらく冥界が滅びます」


 悲壮な顔で首を横に振っている。

 炎だけど。


 いや、ホワイトハウルは分からんでもないけど。

 ロックウェル卿……めっちゃ話が飛んだなあ……。


「ともあれ――息子には、この機会に外の世界を知ってもらいたいのです。そこで思い至ったのが、賢者教育の場所とされる――学校。専門用語で高校というのでしたかな? ケトス様の偉大なる御力をお借りし、異界に存在するとされる賢者養成の地に通わせ、多少の常識を学ばせたいのです」


 うわ、また話が飛んだなあ。

 まあたしかに。

 学校は常識を学ぶ場という側面もあるが。


 私は元冥王の部屋の本棚をチラリ……。

 なんか、地球の漫画がいっぱい並んでるけど……。

 この元王様、まさか地球の学校の知識を、マンガヤアニメで覚えているんじゃないだろうな。


 日本の学校の裏には、秘密の組織やグループがあり。

 日夜、魔術やスキルが飛び交い影で戦闘をしている――なんてことは、たぶんないんだけど。


「ケトス様、あなたはかつてもっとトンデモナイ暴走大魔族だったとお聞きしております。それが今は破天荒とはいえ、こうして会話も通じる紳士な方となっている。更生なさった実績をお持ちのあなたに、ぜひ、うちの息子を頼みたいと。そう思っているのですが――いかがでしょうか?」

『なんか微妙に失礼なことを言われた気もするけど……まあいいや』


 私はネコのモフ手を組んで考える。


 たしかに、ブタ化のまま放置しちゃった負い目もあるし。

 このまま針のむしろな状態で置いておくのも、かわいそうな気もするし。

 なによりだ。

 退屈だしね。


 今のダンジョン領域日本は夢の中、ソシャゲ化世界という事で学校は休眠しているが……。

 一時的に起動させるのも悪くない。


 好奇心にネコ髯をぴょこぴょこさせた私は、ニヒィ!


『で――報酬は?』


 私はこの依頼を引き受ける事にした。


 なぜかって?

 そりゃあ、決まっている!


 魔王様に脱走の罪を責められる前の実績づくり!

 実は息子さんとやらを助けるためだった!

 いやあ人助けだったから、連絡せずに謹慎中に飛び出したとしても仕方がない!


 そういう大義名分。

 ようするに――言い訳が欲しかったからである。


 というわけで、次の舞台は元冥王の息子さんを連れて再び日本へ!

 とりあえずはヒナタくんと連絡して、彼女の学校を起動させよう!

 と思うのだ!


 はてさて、これからどうなるのか。


 まあしばらくは何も起こらないみたいだし。

 大丈夫だよね?



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― 新着の感想 ―
[一言] 日本的には冥界の食べ物って ヨモツヘグイになる訳だから怖いけど この腹ペコアニマル達には味付けの一つ程度にしかならんよなあ
[良い点] 相変わらずお人好しなケトス様!《*≧∀≦》 [一言] ケトス様はやっぱり面倒見がいいですよね。 ((o(^∇^)o))
[一言] 大丈夫ですケトス様! 魔王様は全て見ておいでですよ!! なのできっと、仕方無いなぁと言いつつもチクチクお説教しながら背中をナデナデしてくれるはず!! 元冥王さんや、漫画アニメの知識は偏って…
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