反省するは我にあり! ~素敵ネコちゃんはなにをしてもカワイイ~前編
魔王城にすがすがしい朝が来た!
と、いってももう時刻はお昼過ぎ――。
大魔帝ケトスたる私のモフ毛も、食後の毛繕いで整って――ほんわかモコモコに膨らんでいる時間である。
ドヤる猫髭も、イイ感じにツンツンになっていたのだ!
さて、状況を説明しよう!
あの後、ダンジョン領域日本を再起動しイベントは終了。
大魔王ケトスの手によって、ゲームは終了! 大魔帝ケトスな私にかかっていたゲームラスボス化現象も解除され、事件も解決した!
まあ解決といっても、それは今回の冥界お家騒動事件だけの話。
まだ滅亡の未来が数個消えただけで、依然、地球は滅亡の危機にあるからね。
カナリア姫や、アン=グールモーアのような侵略者からの脅威はちゃーんと残されているのである。
どんだけ地球、狙われてるんだよ!
と、ツッコミたくなってしまうがまあ仕方がない。
それでもしばらくは落ち着くだろう!
というのが、未来視を使った我らが魔王様と――暴走のお説教を受け、霊峰で謹慎中のロックウェル卿の見解である。
つまり。
ソシャゲ化現象はそのままだが、世界には一応の平和が戻っていたのである。
ちなみに、最後の最後で暴走してしまったホワイトハウルも、天界にて謹慎中である。
今頃、大いなる光がデレデレに甘やかしているらしいが……。
あいつ、大丈夫かなあ……。
甘やかされ過ぎると、実は調子に乗っちゃうタイプなんだけど……。
まあいいや。
偉そうなホワイトハウルが、モフ毛を膨らませ――ドヤァァァァ!
群れのトップだぞ! 我、トップだぞ! みたいな顔をしてドヤるワンコ姿も見てみたいしね。
で、肝心の私はというと!
途中から暴走してしまったので、私も念のためお休み中。
憎悪の魔力をあまり吸わないように、お部屋の中で肉球あんよを伸ばして、のびのば~♪
ラストダンジョンの自室で、のんびりと療養!
反省という名の休暇期間というわけで、しばらく部屋での謹慎生活を送っていたのである!
毛布の上で、どで~ん!
携帯ゲーム機をピコピコピコ♪
謹慎三獣神で、オンラインゲームをしたり、チャットをしたり優雅な休日を過ごしていたのである。
ちなみに、ゲームでも私が勝った事を補足しておこうと思う。
で――!
頭をプスプスと暴走させた私は謹慎ということになっているが、一応のお説教も受けた。
魔王様に、たまにはちゃんとお説教を受けなさい!
と言われてしまい。
お膝の上に抱っこされたまま――ケトスゥ、ダメだろう。もうこんなにカワイイなんて、お前は悪い子だなぁ、ハハハハ!
と、ナーデナデナデされてしまったのである。
にこやかに笑いながら、私の耳を指でぴょこぴょこしながらのお説教?
に、サバスくんとジャハル君は、えぇ……っとなっていたが。
気にしない!
まあ、真面目な話をすると――だ。
そこまでのお説教にならなかった理由は、ちゃんとある。今回の暴走も全てはカナリア姫と世界のため――結局は、平和につながったからね。
いつかもっとストレスの溜まった私が暴走。そのまま世界を破壊する可能性もあったのだが――そのリスクもなくなり。
そして、一緒に暴れた事で炭鉱の金糸雀のストレスも解消! 滅びの歌による、人類滅亡の危機も、ゲーム内だけで収まり解決した。
そう! なんと!
二つも滅亡の未来の原因を、取り除くことができたのだ!
その点を考慮され、本気のお説教にはならなかったのである。
実は今となったら笑い話で済んでしまうが、ちょっと危ない未来もあった。
あそこで私が一度暴走していなかったら、もっと先の未来で大暴走していた可能性もあったようなのである。
ストレスの溜まったワンコとかネコちゃんが突然、ドダダダダダ――ッ!
飼い主の制御も無視し、暴れ出す現象があるのだが――それを大魔帝である私がやっちゃうわけだからね。
世界なんて簡単に、ボカーンとなっていたっぽいのだ。
そのストレスの原因の一つは……まあ、我慢である。
私、理由があったとはいえ魔王様から意識して距離を取っていたからね。
大人ぶった猫をしていたからね。
その辺の、ネコちゃん的複雑な感情が、モヤモヤとなって溜まっていたようなのだ。
さっきの二点と、そのストレスも考慮された結果!
仕事漬けだった私は、魔王城で! 魔王様との謹慎の日々!
隙あらばお膝の上に転移して、ドヤる日々を送っているのである!
それでもお説教はお説教。
ちょっとは反省もしたし、私も、思う所がありしょんぼりしているのである。
というのが建前で――。
大魔帝ケトス、それは素晴らしきネコの名であり、みんなのアイドルにゃんこだからね!
にゃふふふふ!
ぶにゃ、ぶにゃははははははは!
みんなから! 心配されちゃってるんだよねえええ!
◇
そんなわけで!
ここは魔王城最奥の私の専用ルーム!
ロイヤルベッドの中にいるのは皆さまご存じ、華麗で素敵な大魔帝ケトス。
つまり私である!
ただし!
いつもと違い、魔王城に素敵な哄笑は響き渡っていない。
謹慎中だからね、おとなし~く、普通の音量で勝利のネコ笑い!
『ぶぶぶぶ、ぶにゃははははは! 謹慎! それはすばらしき響き! まさか反省が、こーんなにも良いイベントだったとは! いやあ、今まで人生の半分は損をしていたね!』
と、思わず毛布の上で哄笑を上げてしまうのも、無理なき事。
だって、さあ!
私が魔王様からお説教を受けて、しょんぼりと自室に閉じこもっていると噂が流れたらしく。
次から次に、来るわ来るわ。
見舞いのお客と、グルメとお土産がてんこ盛り!
現在、私のアイテム収納亜空間にあるのは、山のように積まれたニャンコも大満足な見舞い品の数々!
謹慎万歳!
反省ってすばらしい!
先ほどやってきた聖剣使いの女子高生、ヒナタくんも。
背中を向けたまま尻尾をばたばた振っていた私を、抱っこし。
「まーだ拗ねてるの? ケトスっち、まあカナリアちゃんのためにやった事なんだし。あんまり落ち込まないでよね。あ、あんたがしょぼくれてると、こっちのペースが変になっちゃうんだからね!」
と、妙にツンデレ気味な言葉と共に、お土産を大量に置いていってくれて。
そのあとやってきたレイヴァンお兄さんも。
つーんと、尻尾をバタバタ振りながら顔を背ける私に頬をぽりぽり。
「まあ、アレだ。なんつーか、冥界で俺様を止めてくれたのはお前さんだし。その、弟に怒られたからってまあ気を落とすなよ? な! ほら、なんだよ。わしゃわしゃしてやるから、拗ねるなよ!」
と、わしゃわしゃ抱っこをした後に、冥界産のグルメを献上。
立花トウヤくんとグレイスさんの姉弟もやってきて、やはり拗ねたフリをする私をナデナデ甘やかした後に、お土産をドドーン!
そう! なんと!
この謹慎はボーナスタイム! お見舞いにきてくれる人々が、しょんぼりと毛布にくるまり不貞腐れるフリをする私の前に、グルメの山を積んでいき。
ここはさながらご機嫌取りのネコ御殿。
いつも以上にチヤホヤされてしまうのである!
にゃはぁ!
反省って、実は凄い良い事なんじゃなかろうか!
にこやかにお土産を整理する私を見て、私の側近で、炎帝のジャハル君が眉を下げて言う。
「良かったじゃないっすか。なんだかんだで――全部うまくいったんっすよね?」
記録クリスタルの情報を眺めるジャハル君が動かすのは、魔導ペン。
机に向かってまた暴走されても困る! ということで、私の代わりに報告書をまとめてくれているのである。
「冥界神レイヴァン様も、金糸雀姫の魂を回収することを諦めてくれたみたいですし。死の聖母サタン・ムエルテ神の力を引き出せるようになった彼女は、冥界の王としての資質に覚醒。ガス抜きした事で暴走もしなくなったんでしょ? ぜーんぶ、ケトス様の計画通りじゃないっすか」
ジャハル君の言葉にうなずき。
私はネコのヒゲを――ふふんと、ドヤ♪
『ま、私自身が暴走するところは計算外だったんだけど――なんとかね! いやあ、特に古き神に執着しているお兄さんが今回のどさくさで金糸雀姫を認めてくれるようになったのは、助かったね。もし、それでもやはり……なーんてなったら、私もシリアスをしないといけなくなっていたから……うん! つまり! ぜーんぶ私のおかげなのである!』
「で、どこまでが計算だったんすか?」
偉い私の頭を撫でながら――苦く微笑み彼は言う。
女王であり、私とも付き合いの長いジャハル君には、まあ色々と見えているのだろう。
『何の話だい?』
「結局は全て丸く収まったじゃないっすか。いやあ、実はですね――暴走まで計算に入れていたのかどうか、幹部連中の中で話題になってるんすよ。賭け金のレートは半々。真相を確かめてきてくれ、って頼まれてるんすよねえ」
ふふふっと微笑する側近に私も、ふっ……と微笑し返す。
『まあ、あれだけの大物が関わっていたんだ。どう転んでも――結局は上手く話が進むだろうとは、思っていたよ。その心のゆるみが、憎悪の魔力を吸い過ぎた熱暴走に繋がったのかもしれないね』
必殺!
なんとなくそれっぽいことを言う攻撃!
「っつーことは……あんた、まさか」
『そ! 暴走は本当に計算外。どちらに賭けていたのか知らないけれど、もし負けたんだとしたら悪かったね。でもそれは私のせいじゃないし? にゃははははは! 怒らないでねー!』
「やっぱり、暴走はマジだったんすね――賭けには勝ちましたけど、少し複雑っすよ」
って、ジャハル君……。
暴走はマジだった方に賭けていたんかい!
ネコちゃんのジト目を向けると、はははと誤魔化されてしまったのである。
まあ……。
長い付き合いだから、私をしっかりと把握していたってことだろうけど。
その辺りを揶揄ってやろうと思ったのだが。
ノックの音が響き渡った。
誰かまた、すばらしき私のお見舞いにきたのだろう!
今の私はお説教をされて拗ねているニャンコ!
ということになっているのだ。
仮病ではないが、私は慌てて毛布にダイブ!
いそいそと包まり。
肉球で眉間の毛を寄せて……っと。
お説教をされて、ツーンと不貞腐れているニャンコの真似に戻る。
「ケトスさま……それ、いつまで続けるんすか? いや、可愛いんですけどね?」
『せっかくのお休みだからね、しばらくは続けるつもりさ!』
くわっとドヤ顔をして言ってやったのである!
はぁ……とため息を漏らし、ジャハル君が扉に向かい声を上げる。
「待たせてすまぬな――扉は開いておる、入ってくるがよい。ただ、ケトス様は謹慎中である故――あまり長い間の謁見は叶わぬが、構わぬな?」
既によそ行きの顔、炎の女帝モードなのだろう。
ぷぷぷー!
いつもこのギャップに笑っちゃうんだよねえ!
っと、いかんいかん。
眉間をギュギュっとして、拗ねてる顔にしておかないと。
「あー、ケトスにゃんいるー? あーしよ、あーし! カナリアなんだけどー! って、あちゃー、側近さんもいるのか。えーと、あたしは冥界の姫、金色のカナリア……えーと……」
「構わぬ、話は聞いておるからな――入っていいと猫殿下は仰っている。どうぞ、遠慮せずに中へ」
訪ねてきたのは――カナリア君である!
死の聖母モードではなく、はじめて出逢った時の黒ギャル女子高生風の彼女であった。
カナリア君は少し緊張しているのだろう、ジャハル君にお辞儀をしている。
「その、ははは、すみません……えーと、今から姫モードになるんで、ちょーっと待っててもらっていい?」
「ふふふふ、なるほど――ケトス様のおっしゃられていた通り、愛嬌のある姫だ。プライベートなのであろう? 気にせずそのままで良い、妾もしばし席を外すでな」
言って、ジャハル君が微笑し、炎の転移魔法陣を組む。
「では――妾はこれにて、ここでの会話は記録されぬ。異界の姫よ、安心するとよかろう。それでは、またいずれ――公式の場で」
炎の中に妖艶な笑みだけを残し消えていくその様は、まさに大精霊。
これ。
私みたいに、演出にこだわったな……。
まあ、席を外す理由は単純。
異国の王族であるカナリア君に、気を遣ったのだろう。
国のトップであるジャハル君と次期女王であるカナリアくんが顔を合わせると、色々と複雑になるからね。
ともあれ私は拗ねたニャンコモードを解除し、肉球を上げてぇ!
ぶにゃん!
『やあカナリアくん! 久しぶりだねえ! 元気にしていたかな?』
「ははは、マージでごめんねー、ケトスにゃん。あーしのためだったのに、こんな事になっちゃって。でも本当に嬉しかったし、うん、感謝してるっしょ!」
キシシシと微笑む彼女は元気そうだ。
ちょっと安心する。
しかーし! それはそれ、これはこれ!
お見舞い待ちの私は、パンパンと肉球で毛布を叩いて――興奮気味にうなんな!
『で、で! 例のモノは!? 元冥王の事だ、君にちゃんと見舞いの品をもたせているんだろう!』
「ぶはははは! もー! いきなりそれー? マジうけるんですけど! そりゃ、たしかにお父様がこれを持っていきなさいって、もたせてくれたけどさあ! 感動の再会にこう、なんか盛り上がりとかないわけ?」
ぺちぺちと、私の頭を軽く撫でながら姫は大笑い。
翳すゴテゴテネイルアートの先、亜空間から召喚されたのは冥界の特産品!
御出汁の香るおうどんセット!
どこからどう見ても――賄賂。
これからも冥界を宜しくお願いしますと言わんばかりの品々だが、私、ネコちゃんだからね!
気にせず受け取ってしまうのである!
そもそも国交を作っていない世界。
条約とか規約違反でもないからね。
魔王様からも、お見舞いの品は気持ちなんだから断ったら失礼になるって言われてるし。
舌なめずりをし、私は偉そうにドヤって言う。
『よろしい! 実によろしい! くははははははは! なかなかどうして、美味しそうな冥界うどんセット詰め合わせでは、にゃいか!』
「うちの名産ってあんまりないからねえ、おうどんで満足してもらえるなら助かるっしょ」
言って、姫は渡したままになっているにゃんスマホで記念撮影。
元冥王に画像を見せるつもりなのだろう。
あの王様にしてみれば、まだ油断はできない状況。
冥界神のレイヴァンお兄さんの気が変わらないうちに、私との仲を強固にしておきたい、というのが本音なのだと思う。
『さて、ちょっと真面目な話をしようか』
「んー、シリアスってやつ?」
口元に細い指をあて、彼女はおどけたように言う。
『そ、あんまり好きじゃないんだけどね。けれど、魔王様にちゃんと話しておきなさいって言われちゃってるからね。大事な話だよ』
私は大魔帝ケトスとしての顔と声で、おだやかにそう告げた。
空気が変わったのを察したのだろう、彼女も姫としての顔で私を見ている。
その瞬間。
黒い光が彼女を包み、葬儀のヴェールが少女の顔を覆い始める。
「あたしもシリアスはあまり好きではないのですけれど、仕方ないのでしょうね」
黒のヴェールの奥から美貌を覗かせる――淑女。
その立ち居振る舞いは、まさに死の聖母。
女王としての威厳を持つ、カナリアくんである。
私のように、魂と心を使い分ける事ができるようになっているのだろう。
古き神の転生体、か。
これからも彼女はきっと、色々な苦労と経験を積むのだろうと思う。
静かに瞳を閉じ、私は王者としての声で告げた。
『今、君たち冥府の国の王権は私が所持したままになっている。カナリア姫、私はそれを君に譲ろうと思う』
そう。
実は、あの冥界――いまだに私が王様状態になってるんだよね。
ネコと姫の物語はまだ続く。




