聖戦 ~ネコ(神)がじゃれると大地が揺れる~前編
冥界でのゴタゴタに巻き込まれた私、大魔帝ケトスは全盛期モードでグハハハハハハ!
お城の中で戦うのは狭すぎる――と! ドゴドゴズドドドン!
クリスタル城の天井を体当たりでぶっ壊して、そのまま空へと前進中。
遥か上空を目指し駆けていた。
頬のモフ毛を揺らす風の感触も香りも、悪くない!
城を破壊された死神たちの悲鳴がモフ耳を揺らすが、もちろん気にしない。
マックス状態の体力ゲージを頭上に乗っけて、前脚をザッザッザ!
魔力を踏み込み空を駆ける肉球は、プニっとイイ感じに揺れている。
キリリ! と渋い横顔も、シュッとしていた!
やはり私はどんな姿でも輝いているね!
ともあれ――!
我が進むは、暗雲立ち込める黄泉の大空!
ふんふん!
猫の瞳をギンギラギン!
ちょっと鼻息を荒くし、くはははははは!
より高い位置にいる方が優位! そんなネコちゃん的マウントポジションの上空から、私はじぃぃぃぃぃっぃぃ♪
冥府の河とお城と、枯れた死の大地に目をやって。
麗しい我が視線の先にある、強大な魔族で神、冥界神を睨んでドヤの構え!
滾る魔力がモフ毛をぶわぶわっとさせ――モコモコモコモコ♪
『さあ行くぞ! 我は行くぞ! 死にたくない者は、我の前に立つでないぞ!』
興奮気味に空を駆けまわって、くははははははははは!
超絶かっこうイイ、嘶きを上げたその後に。
ズビシ――!
いつもの素敵ポーズで肉球を傾けて、私は聖戦に赴いた!
モフモフっと揺れるシッポも、かわいいね?
全盛期の巨獣モードでも、やはりかわいいね?
まずは小手調べに、ゲーム結界内でも発動できる逸話魔術をチェック!
ちなみに、逸話魔術とは――伝承などを魔術効果として発動させる、ある意味でアダムスヴェインや童話魔術と性質の似ている再現魔術。
むろん高等な儀式魔術の一種である。
『ゲヘナの業火よ! 我が前に立ちふさがる怨敵に鉄槌を、熱波の如く轟き唸れ!』
さあそんなわけで!
対する相手は――冥界神レイヴァン。
魔王様の兄で、普段は良い人。
でも現在は若干暴走中。私達にとっては異界であるこの世界。その冥府に眠る古き神々の魂の提出を要求し、私と敵対する道を選んだ悪食の魔性である。
私の放った火炎系統の逸話魔術。
降り注ぐ灼熱地獄の魔弾の群れに、さてどう返してくるか。
挑発するように私は巨獣大魔帝モードで、威厳もつ声を放つ。
『そのまま滅びるほど、貴殿は脆くもあるまい? さあ、どうする! 冥界神よ! 汝の反撃を我に見せよ! 我は見たい、もっと見たい! 我以外が解き放つ魔術の奔流を!』
天に向かい、朗々たる魔哮を穿つ大魔帝を目にし。
男も負けじと、翼をばさり!
「へえ、ゲーム結界の中だっていうのに無理やり法則を書き換えやがったか。相変わらずなんでもアリでやがるな、お前さんは。まあ――見てろよ、魔術の目に肥えたおまえさんも震えちまうほどの答えを見せてやるさ」
お兄さんは、装備名、冥界神の礼装の裾を、バタバタと翻しながらギリリ!
十重の魔法陣を平然と片手で操り、空を見上げる。
いつも飄々としたキシシシ笑いのお兄さんが、ゆらりと微笑を浮かべて手を翳した。
「神話改竄――アダムスヴェイン。詠唱承認。さあ、我が前に平伏せ、平民ども!」
開いた黒翼から、聖光が発生する。
それは古き神々であった時の力の一端なのだろう。
魔術名がエフェクトとなって発生する。
《――静謐なるナイルの導き――》
効果は、魔力干渉によって発生した魔術へ付与する強制静寂。
つまり無効化である。
ファラオが氾濫する大河を止める儀式の力をアダムスヴェイン、神話再現として引き出したのだろう。
地獄の業火が、しゅー……っと闇へと消えてしまう。
う、うちまけた!?
ぶにゃあぁぁぁぁぁぁぁ! っと、口をあんぐり開ける私にお兄さんがニヤリ。
「この撃ち合いは俺様の勝ちのようだな、ケトスよ」
『い、いまのはほんのお試しであるのだ! か、勝ち誇るでない!』
再度微笑し、男はゆったりと唇を舌で濡らす。
「わぁってるよ、おまえさんの強さは本物だ。俺様が冥界で本来の力を取り戻している事と、そしてお前さんがゲーム化で弱体化してなかったらこうはいかねえさ。それでも、楽しいだろう? こういう魔術のぶつけ合いってのは――ああ、いいぜ。実にいい。ふふふふ、ふはははははは! たまんねえじゃねえか!」
黒く性的な声と美貌。
その姿はまるで、ちょっとゲスで二枚目な美形悪役皇帝。
見物する死神の女性陣が、ぽっと頬を赤らめている。
魅了されたのだろう。
実際、今のお兄さんからは王者の貫禄も魅力も感じ取ることができる。
あのレイヴァンお兄さんのくせにである。
く、くそー、地味に目立ちおって……っ、私の方が目立つべきなのに!
しばらく互いの小手調べの魔術合戦が続き。
冥界は大混乱。
「ちょちょ、ちょっと! マージでやばいんですけど! これ! 冥界、壊れちゃうんじゃないの!? あーた達! 加減ってもんを知らないの! それでも本物の神なんでしょう!? 少しは周りのことも考えて欲しいんですけどー!?」
叫んだのはカナリア姫、どさくさに紛れて王女を盾にしようとする豚さん伯爵を、逆に盾にしながらの絶叫である。
元冥王が燃える黒い靄を揺らし、吠える。
「お前は下がっていなさい! これは聖戦だ、我らが立ち入っていい領域ではない……!」
「けど、お父様!」
「あの大魔帝ケトス殿と、あの冥界神レイヴァンであるぞ? 姫よ。お前も、彼ら二柱のとんでもないアホみたいな逸話の数々。気まぐれに暴れ、想いのままに救う大神伝承。善も悪もない混沌とした傍若無人さを理解している筈だ。無駄だ、あれほどの大神となると人の話など聞かんのだ! 戦いが始まってしまったら最後――まともに話をするどころか、会話が成立するかどうかが危ういレベルであろうな!」
モワワ!
っと、炎を燃やし興奮気味に叫ぶリビングアーマー王。
このおっちゃん。
さりげなく私達をバカにしている気もするが、まあやっていることは、本当に世界を揺らすほどの戦いなので否定はできない。
まあ実は私もレイヴァンお兄さんも、理性は保っている。
敵対と言っても、互いに本気の殺し合いじゃない。
これは一種のゲーム。
なんだかんだで本気を出して戦える機会が少ないので、私もお兄さんも楽しんでいるのだ!
その裏で――。
こうやって戦いながらも、お兄さんの方は冥界に影を伸ばしなにやら仕掛けをしているようだが……はてさて。
私はそこには干渉せず、戦いを楽しみながら吠える。
『やるではないか! 魔兄よ! 我は楽しい! ああ、実に楽しい! 魔王陛下との懐かしき修行の日々を思い出すようである!』
魔力と魔力がぶつかり合う。
お兄さんの方が魔性の証たる赤き瞳を輝かせ、ついでに犬歯も輝かせた。
「ゲーム化で耐性も下がっている状態のネコちゃんを攻撃するのは本意じゃねえが。まあしゃあねえだろうな……、ふふふふ、ふはははははは! たまにはこういう余興もいいじゃねえか! さあ、聖戦を再開しよう。我が弟の愛弟子。ケトスよ!」
『安心せよ、魔兄よ。我は汝の命を奪おうとは思うておらぬ! なれど! 我が君、魔王陛下は貴殿が捕まらぬと嘆いておったからな、その身、その魂を戒め捕縛し、陛下への供物としてくれようぞ!』
ようするに、私が勝ったらお兄さんを魔王様の前に引っ張っていくぞ。
そういう宣言である。
「は!? ちょ、待て! それは反則だろう!」
『ぐはははははは! 我は魔王陛下の味方! その一点においては、いついかなる時にも曇りなし!』
向こうが放ってきた自動追撃の死神の戦斧による斬撃をひらり!
かわして、キックして肉球で破壊!
割れた斧のかけらを宙に浮かべて、逆に利用!
『データ改竄。裏技発動! 我が魔斧よ――集い乱れて、裂き狂え!』
闇の霧の中で瞳を赤く染め、私はゲーム内アイテムの斧を大量に召喚。
しゅんしゅんしゅん♪
コミカルな音を立てて、レイヴァンお兄さんに向かい戦斧の乱舞が襲う。
「あたたたた! てめえ! これ! ダメージすらねえただの嫌がらせじゃねえか!」
『ぐははははは! 足止めにはなろう!? それはスタンといって、一時的に行動ができなくなるゲーム内状態異常よ! 無限のスタン地獄、貴殿は我慢ができるかな?』
そうこうしている間にも、私は巨大な虫取りアミを顕現!
これもゲーム内アイテム。
効果はコレクション要素である虫を集める時に使用する、ただそれだけである。
もっとも、これは冥府属性のモノを捕縛するアミへとデータを改ざんしてあるので。
命中させれば、お兄さんをゲット!
魔王様の元へと運ぶことも可能!
『くははははは! もらったぁ! 冥界神狩りなのである!』
巨大前脚と肉球で掴んだアミを、バサ!
魔王様、お兄さんとコーヒータイムがしたいけど、何故か知らないけど逃げられているって言ってたからね~!
私が再会させてあげないとね~!
さすがに魔王様の元へと連行されるのは嫌なのか。
影を渡って、お兄さんは一旦退避。
『うぬ、逃げおったか……っ』
「そっちがその気なら、いいぜ? じゃあこっちも裏技を使ってやるよ!」
お兄さんがバッと翼から取り出したのは、神々しく光輝くバイオリンのような弦楽器。
太陽神の系列の魔道具。
おそらく、いつかの吟遊詩人ケントくんに授けた、ハープと同系統の神器だろう。
「禁呪解放! アダムスヴェイン――さあ俺様の戯曲に落ちるがいい! 神曲祭典、第三の円環!」
告げて、まるでライフルを撃つかのような姿勢でバイオリンを抱え。
オーロラの空を舞台に、戯曲攻撃を開始。
トールールールゥ、トゥルルルゥ、トゥッゥル!
ツゥルルルルットゥ! トゥ!
まあ、それなりに……というか、音楽の神としての側面もあるのか、その技巧は神の領域と言っていいだろう。
音楽を嗜む心が薄い私にはあまり効果はないが、冥府の霊魂たちはその音色に聞き惚れ、身も心も浮かべていた。
成仏しはじめている霊体まで存在しているのだが、さてどういう効果なのか。
赤き魔力を纏い。
黒き翼を悠々と広げて演奏する美丈夫なる冥帝。王者の器たるその姿は、やはりそれなり以上に様になっているが。
私、ネコちゃんだからね。
ぜーんぜん、効果はない。
そもそもこれは攻撃というよりは、周囲の属性を変更する……補助効果が目的か。
いつのまにか、冥界属性だったフィールドに地獄の河が流れ始めている。
冥界神のお兄さんがまるで美男子のように、ふっと微笑する姿が若干ムカついたので。
私は、呪いアイテムである祟り石を取り出し。
とりゃ! とりゃ! とりゃ!
投擲! 投擲! 投擲!
『おーちーよ! おーちーよ! 呪われ、押されて、地に落ちよ!』
「おっと、あぶねえ。おいおい、それ、直撃したら五十年は呪われるっていう殺生石じゃねえか!?」
五十年分の呪いで魂を束縛、その隙に神取りアミで捕まえるつもりなのだが。
あ!
分身で避けられた!
『ん-みゅ、残念兄レイヴァンのくせに、なかなかどーして、生意気であるな!』
「おまえさん、前々から思っていたが、すこし俺様をバカにしすぎじゃねえか? まあ親近感があって構わねえが……」
漏らす言葉に棘はない。
こうして対等でいられる存在と関係性は、彼にとっても悪くないモノだということか。
「そんなに焦るなよ、お前さんだって俺様の曲を聞きゃあ――、一発で、子猫に戻っちまうよ。ああ、そうだ。お前さんを一から育て直してやるのも悪かねえな。きっと、素直なイイ子になれるだろうよ。なあ? さあ、終焉だ――聞き惚れる者達のために、そろそろ第四戯曲を奏でようじゃねえか!」
告げた冥界神の手が――更なる魔曲を奏で始める。
美しくも魂を揺さぶるこの音は、音波攻撃。
神話などの逸話を魔術効果として発動させる、お兄さんの得意技アダムスヴェインの一種である。
地獄の一節。
裏切りの河に纏わるエピソードを魔曲として解き放っているのだ。
「フフフ、フハハハハハッハハハ! さあ踊れ! さあ酔いしれろ! 我こそがレイヴァン、地獄を知りし黒薔薇の貴公子なり――!」
ジャジャジャジャジャ-ン!
ジャジャジャ♪
ジャジャジャジャッジャ、ジャジャジャ、ジャーン♪
破滅の音色が、オーロラの空を割き――私のモフ耳をぶわぶわっと揺らす。
仲間を裏切らせる状態異常攻撃のようだが……。
私の仲間というか、使役しているのはネクロマンシーで呼んだ死霊の騎士達。
アンデッドなので、基本的に精神に左右する状態異常は無効である。
そして。
もう一つの眷属は、私の影響下で状態異常攻撃を無効化する……猫神の加護を受けた、冥界ネコ魔獣たちだけ。
当然、何の意味もない。
男は勝利を確信しているのだろう。
演奏に酔い、閉じていた瞳を薄らと開けて微笑を……崩す。
「な……っ、どうなっていやがる!?」
『おー、もう終わったのであるか?』
くわぁぁぁぁぁっと私が欠伸をしていたからだろう。
お兄さんの手は止まり、強面の鼻梁が黒く染まる――。
ついでに、引き攣った顔をギャグマンガみたいに硬直させていた。
「ま、まあいい――さあ、俺様の眷属となれケトスよ」
伸ばされた指をじっと見て、私は首をキョトンと傾げる。
なーにを言っているんだろうか、この男は。
後ろあんよで、首の後ろをカカカカカカ!
お手々をチペチペと毛繕いする私――巨獣でもかわいいね?
「って、はぁぁああああああああぁぁ!? ケトスよ、おまえさん、なんでこっちに裏切らねえんだ! これを聞いたら、どんな神だって裏切りの感情が芽生え、俺様に魅了される筈なんだが?」
『なんだが? と言われてものう。まあ、なんかいい曲かな? とは思うが、それで終わりであったし。そもそもだ、その魔曲攻撃、ネコ魔獣に効くモノなのであるか?』
しばし沈黙が走る中。
お兄さんは自らの魔術を説明するかのように、淡々と言う。
「は? いや、だって……これは魂の罪禍。つまり誰しもがもつ、後ろめたい感情を刺激して、魂の隙をついた上での、絶対不可避な魅了をだな」
あー、そういう事か。と、嘆息と共に私は告げる。
『やはり地獄の逸話を利用し、罪悪感を軸に発動させる精神攻撃であったか。ああ……しかし、もうそのパターンはやったぞ? 罪の意識的な、アレであろう? ホワイトハウルの時に、とっくに無効にしておるぞ? 既にやったイベントだ、二番煎じであるぞ? 我等は罪に縛られぬ誇り高きネコ魔獣。そんなヒトガタ人種どもの冥府での制約に、興味などない』
ようするに、人間とか神とか。
そういう罪とか罰とか、面倒な事を考える種族には効果抜群、必中のアダムスヴェインだったのだろうが。
ネコちゃんには、まったく効かない類の選曲だったのだ。
クワっと翼も瞳もひろげて、お兄さんが唸る。
「てめえら! 少しは悪いかなー! とか、ごめんなさいとか! そういう感情はねえのか!」
『ネコ相手になーにを言っておるのだ? 麗しくも気高いネコを相手に……っ、いかんいかん! 駄目だ、嗤いが止まらぬ! ぶわはははははっは、世界最高種族であり、全ての罪が許される我らネコ魔獣に、よもやそのような不遜な言いがかりを……ふはははははは。神として恥ずかしくはないのか!?』
私が大笑いしているので、冥界ネコ魔獣たちも大笑い。
「いやいやいや! 恥ずかしいのはお前さん達だろうが! ちったぁ反省をしろ、反省を! 図々しくて、これっぽっちも罪悪感がないから術が効果を発揮しないなんて、普通はそっちが恥ずかしいんだよ!」
ビシっと指差してきているが、気にせず私は魔力を纏う。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
次はこちらの番と、お兄さんを取っ捕まえるための魔術儀式の構え!
「っち、やる気か!」
『魔王様への手土産も欲しいからな――さあ、大人しく鳥籠に入るがいい!』
我らの聖戦は続く。
ちなみに、どちらの体力ゲージもまったく減っていない。
神様同士の、かわいらしい戯れの様なものだという事だ。
まあ、実は私達の下。聖戦に巻き込まれている死神の方々は、絶賛大混乱中なのだが。
……。
これは仕方がない。
そう、仕方がない。
そもそもだ。
私の領域に攻め込んできたのはここの冥界の連中。
ようするに先にこちらに迷惑をかけたのは向こうなのだ、巻き込んできたのも向こう。
そして何より――私が介入しなければ死神の方々は冥界神に喰われ、滅んでいただろう。
ちょっと戦いに巻き込まれ、状態異常まみれになっていても詮無き事。
死亡者も怪我人もでていないし。
つまり、私はそんなに悪くない!
よーし! 言い切った!
そんなわけで、天に超特大の神話魔法陣をグールグル!
巨大な前脚を伸ばし、詠唱を開始!
『我はラスボス――冥府ゲーム化結界の主! 大魔帝ケトスなり!』
名乗り上げで魔術をゲーム領域に落とし込んで、変換♪
発動可能なゲームエフェクトに書き換え――。
膨大な魔術式を、黄泉の空に顕現。オーロラ色の空を埋め尽くすほどの計算式を展開!
憎悪の瞳を赤く染め、ぎらぁぁぁぁl!
『神話再現――アダムスヴェイン!』
超特大規模な、ゲームエフェクト魔法陣が冥界を覆う――!




