死せる国の王女 ~スタイリッシュ無双~ その2
冥界だか死の国だかとっても曖昧なこの世界。
蜃気楼のように死者の河で浮かぶ大陸――そのクリスタル色に輝く王城にて。
今日も私は大活躍!
私って誰だって?
そりゃあ天下で麗しい大魔帝ケトスに決まっている。
全盛期の巨獣フォルムで私は、周囲をじぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。
第一王女で黒ギャルプリンな女の子、カナリア君は無事である。
暗殺を未然に防ぐことはできた。
もっとも、疲れや衝撃でしばし眠っている状態になっているが――。
天蓋付きの寝具はふかふかそうで、あちらに彼女を転移!
ベッドごと結界で覆って、とりあえずの無事は確保。
さて。
私はぎしりと、敵を見る。
姫であるカナリアくんを卑劣な手段で殺そうとしていた相手は、どこかコヨーテっぽい長身の男、これがリーダーか。
それと契約の印で上司に逆らう事の出来ない、衛兵たちが数十人。
いや、数十人って……いくら広い王城だからって、さすがに廊下にそこまで集まるのってどうなの?
まあいっか。
『して、どうする異界の反逆者どもよ。我は姫殿下に味方をすると決めた。その方が面白そうだからな、降伏するか命乞いするか、それとも我に歯向かい儚く散るか――選ぶがいい、己が運命を。己が災禍の果てを――ぐふふふふふ、ぐははははははははは!』
と、そんなわけで脅しも完了♪
モフ毛を靡かせる私、華麗に顕現なのである!
さすがに挑発だと気が付いたのだろう、コヨーテっぽい悪役イケメンが濃い顔立ちを尖らせ吠える。
「面白そう、だと!?」
『ああ、その通りだ。見知った顔が殺されそうだから遊びにやってきた、邪魔してやった方が面白そうだから邪魔をする。ただそれだけのこと。何の問題があるというのだ?』
ぐふりと獣の嘲笑を漏らす私も美しい。
ていうか、こいつ――。
この状態の私を前にして叫べるって、けっこう凄いな。
ふむ。
鑑定をしてみると――狂戦士状態と呪いと、洗脳?
あー……。
面倒なやつじゃん、これ。たぶん、背後にいるそれなりに力のある存在、例えば一般的なゲームでラスボスとか呼ばれる邪悪なる闇に操られている、元イイ人。
そんな感じの男である。
えぇー……!?
私、このコヨーテっぽい顔の悪人とその背後にいる弟王子を退治して、さあ解決!
英雄ニャンコとして冥界グルメを堪能♪
ちやほやされてカナリアくんも救えて、すぐに事件も解決! 素晴らしき冥界散歩♪
で、終わる予定だったんだけど。
……。
うへぇ……っと唸る私だが、姿が姿だけに敵からはかなりの脅威に映っているようだ。
歯を食いしばり、ギリっとこちらを睨みコヨーテマンが言う。
「異界の大神よ、これはこちらの世界の事情。こちらの王国の内乱。大変申し訳ないのだがっ、あなた様には関係のない話であろう! すぐにお引き取り願いたい!」
『ほぅ? おかしなことを漏らす塵芥もおったものよ。汝等は我の世界に進軍した、汝らは我の世界に魔導書を送り周囲に混乱を招いた。それが関係ない、と?』
ネコのヒゲをぐねんぐねんさせ。
魔力放つ獣の吐息を、わざとぶわぁ……!
もちろん、ただの演出と嫌がらせである!
「あの一件は全てそちらのカナリア姫が行った事。我らには非は無し。その娘を気に入り、助けようと思うのは構わぬが――ならば、その娘のみを連れ帰り、この世界とのかかわりを断てばいいではないか!」
『なんとなくヤダ』
あ、しまった。
いつもの口調で言ってしまった。
慌てて私は時を僅かに遡り。
なんとなくヤダといった直前まで、戻り――キリリ!
『既に我はこの世界へと降り立った。それはここも我が縄張りの一つである証。汝等の言葉に耳を傾ける必要など、あるまい? 我は我の好きなようにする、止めたければ実力で示してみるが良かろう!』
なんとなくヤダを難しく言うと、こんな感じかな?
ともあれ私は、ゲームのラスボスのような暗澹とした絶望と憎悪のオーラを撒き散らしながら、ずしりと全盛期モードの身体を輝かせる。
「もはやここまで――ならば、いっそ貴様の邪悪なる魂を喰らって、その憎悪を我らが力にしてくれようぞ!」
言って、男は手を翳し――周囲にゲーム結界を発動。
システム音声が、まるでよくある天の声のように流れだす。
《ゲームテクスチャー、起動します》
《対象:全領域》《警告:領域内は全ての権能、能力、スキルが制限されます》
それは世界を書き換え、世界防衛魔術となって始動したのだろう。
カナリア君が見せてくれた量産型のゲーム。
ゾンビ系ガンシューティング要素のテクスチャーが展開されていく。
これでレベル一にされると非常に厄介だったのだが、今回はそれはなし。
敵対行動が、ガンと日本刀などに制限される程度だ。
問題はない。
さて、私も刀と銃でスタイリッシュなバトルをしよう!
と、ウキウキでいたのだが。
伸ばす肉球に、輝く日本刀が!
……あれ? こないね?
じゃあ、重厚なハンドガンが!
……あれ? 支給されないね?
ゲーム化された王城で、私に支給されたのは銃や刀ではなく、変なゲージ。
それはずっと、頭の上に残り続けていて。
私はじぃぃぃぃぃぃっと瞳だけで上を見る。
『ふむ……なぜ、我の頭上に、なんかラスボスの体力ゲージっぽいアレがあるのであるか?』
「な――っ、バカな! ラスボスの力を取り込んでいるだと!?」
ざわつき始める城内。
はて、なんだろうか。
「こやつ――っ、まさかアレと同類か!」
「世界を恨み、滅びと終焉を齎す泡子の魂!?」
いや、知らんて。なにその怖そうなの。
この世界、そんなのにまで恨まれてるの?
それにしてもなんだこの空気。
えぇ……勝手に盛り上がられても、こっちのテンションはついていってないんですけど。
私は周囲をちらり――やはり皆には、ゲームの刀と銃が支給されている。
眠るカナリアくんの傍にも、支給されている。
「ひっ……!」
「いやぁぁあああああああぁぁぁ、こないでぇっぇぇぇ!」
私はモフ耳を――ぶわ!
ただ目線があっただけなのに!
奥の方で様子を見に来ていた侍女っぽい女の人が、乾いた悲鳴を上げたのだ。
続いて。
朝を告げる役目を持つ鳥が、ぐぎゃぁぁぁぁぁ! っと叫びだし。
どこか遠くで赤子の泣く声がする。
ちょっとしたホラー映画の怪物登場シーンである。
まあ、すこしギャグ寄りだが。
ブスっと口を膨らませ、私は脆弱なる者達に問う。
『これが何だというのだ? おそらく、これがゼロになると死ぬのだろうが。貴様ら、自分たちだけで分かっていないで説明せよ!』
大きな猫手で頭上のゲージをベシベシ。
剥がれないことからすると……なんらかの制約か。
これは――。
あー、なるほど……。
私の存在が大きすぎて……刀と銃で無双する味方側のデータではなく、最奥に鎮座する大ボス側のデータが反映されているのか。
つまり、敵側のデータなのである。
ええ!? じゃあ!
私、今回もスタイリッシュアクションできないの!?
それを察した、アメントヤヌス伯爵……だっけ?
会話を盗み聞いていただけだから、正しい名前かはちょっと怪しいが、ともあれコヨーテっぽい顔のボスが吠える。
「たとえ異界の大神といえど、あの伝説の大魔帝ケトスといえど! ルールの適用されたこの世界では弱体化する筈。これは好機! そう、我らが好機であると知れ!」
おお!
やっとまともなシリアスに戻った!
私もシリアスに瞳を細め――つぅっと眼光を尖らせる。
『ならば敵対を選ぶ。それで良いのだな』
「単身、異界に乗り込んだそれが油断! ふふふふ、ふはははははは! これぞ、チャンス。我らが殿下のため、邪悪なる貴様を討ってみせようぞ!」
テンションが地味に高いな。
これ、ゲーム化ですこし精神状態に影響があるのかな。
『よかろう、では相手をしてやる。ただし、このままでは少々面白くないからな。我も姿を変えるとしよう』
言って私は、ザァアアアアアアアアアアアアァァッァ!
姿を全盛期フォルムから人型神父へと変貌。
いわゆる、モードチェンジ!
頭上にゲージをつけたまま、魅惑の美丈夫神父姿で恭しく礼をして見せる。
『やあ、初めましてこんにちは。私もケトス、大魔帝ケトス。わざわざ巨大な姿で体力ゲージを減らされても面白くないからね、この姿でお相手させて貰うよ。構わないよね? だって、私は大魔帝なのだから』
「人……だと?」
純粋な人間ではないと、分かっている筈なのに。
なぜだか相手は動揺している。
こいつら、もしかして――死神という特性のせいか、殺すべき人間や死の運命が定められた人間でないと殺せない。なーんていう制限でもあるのだろうか。
伝承や世界にもよるが、死神とは無暗に魂を刈り取る存在ではない。
彼らの大半は神の使い。
正しく来世や冥界、死後の国などに生者を届けるための案内人でもあるのだ。
ともあれ、こちらも相手を殺す気はない。
洗脳もされているみたいだし。
なにより当事者のカナリアくんが寝ている間に全滅させて、実は殺しちゃいけない理由でもあったら面倒だからね。
徒手空拳の構えで、私はクイクイ。
挑発するように、手を揺らす。
『さて、それじゃあ始めようか――せいぜい楽しませておくれ。脆弱なる者達』
ゲーム世界に上書きされたフィールド。
麗しい神父に化けた私と、姫を狙う悪い敵。
両者の戦いが始まろうとしていた。
◇
姫様の寝室。
彼女を守る結界は完璧なので、私は優雅に一人、舞っていた。
むろん、本当に踊っているのではない。
攻撃を避けているのである。
『へえ、なるほど――このゾンビ系ガンシューティングゲーム空間で攻撃を受けると、この私でもダメージを受けるのか。面白いね』
剣閃による波状攻撃を受け流し、ゲームルールを確認する私。
とっても麗しいね?
剣の腕には自信があったのだろう、刀を振りかざし神速の一閃を繰り返し続けるコヨーテマン。
その表情には、球の汗が浮かんでいた。
酷く動揺しているのだ。
シュー! シュシュシュシュ!
それもその筈。
本来なら当たる筈の神速剣は紙一重で、ずっと――届かない。
「なぜだ――っ、なぜ当たらん!」
『それは君達がただの超一流の剣士だからさ。それほどの使い手ならそりゃあ王宮の衛兵や、王子殿下の忠臣になれるだろうけど――世界は広い。君達が超一流であっても、上には上がいるという事だよ』
告げて、嗤い。
シュン!
『恥じる事はない――君達が弱いんじゃない、私が強いのさ』
背後に顕現して、耳元で囁いてやる。
魔術でもスキルでもなく単純な身体能力、この素晴らしき達人の技に、超一流の剣士が気付かぬはずがない。
まともに驚愕の息を漏らし、コヨーテっぽい男は眉を尖らせる。
「おのれ――! よもや……っ、このような使い手がおろうとは……っ」
『おやおや、魔術師や魔獣が武術を使う可能性だってある。それは戦術の基本だろう? まさか――想定していなかったのかい?』
おやおや、なんて普段は使わないのだが煽り力はそれなりに高い!
むろん、嫌味っぽく言ってやっただけである。
この状況を打開するには、姫を人質にするしかないと考えたのだろう。
何人かの衛兵が眠るカナリア嬢のふかふかベッドに向かうが、そこは既に私の張った結界の中。
先にしかけた私側のゲーム領域だ、彼等には突破ができない。
くだらない、見え透いたゲスたちをみて。
漆黒の髪の隙間から覗く赤い瞳が――ギラギラギラと輝き出す。
冷めた口調で私は言う。
『君達、つまらないね――もう、いいかな』
ぞっと顔を青褪めさせるコヨーテマンを無視し、私は彼の背後の衛兵の額にデコピン♪
それだけで、一体退治。
衝撃に吹き飛ばされた衛兵はそのまま地を滑り、ズザァァァァァァッァア!
「ぐ、ぎゃぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ひっ! く、くるなぁぁぁぁ!」
デコピンに飛ぶ衛兵は廊下の絨毯を巻き込み、床石を抉りながら廊下を進み。
壁に激突!
昏倒した衛兵が虫の息を漏らし、唸る。
あ!
殺しちゃって……は、いないか。良かった。これ、普通の人間だったら完全にアウトだったな。
危ない危ない。
いや、まあ人質なんて使おうとしたのだ。
もし死んでいたとしても、私、悪くない!
うん。
ともあれ。
目の前は軽い地獄絵図。
吹き飛ばされたエネルギーに巻き込まれた敵兵士が、肩と脚を脱臼し、血と涙と汗を顔じゅうから滴らせ――うがうがうが。
声にならない声を上げて、のたうち回っていた。
私はイケメンだけが許されるポーズ!
首の後ろカキカキをしながら、苦笑し詫びる。
『ああ、ごめん、少しやり過ぎた。んー、ちょっと加減が難しいね』
「剣は通じん! 撃ち殺せ――!」
コヨーテマンが剣を掲げ、唸りを上げる。
その号令はゲーム内でも使われている効果なのだろう。
バフのエフェクトが、銃撃隊の頭上を回る。
鳴り響く銃声――瞬時に高速で放たれる弾丸。
響く音は――ダダダダダダ!
けれど私は――。
うにゃうにゃうにゃうにゃ!
それらを全て手のひらで掴んで受け止めて。
キャッチ! キャッチ! キャッチ!
ドドドドド、ドヤァァァァッァァァア!
回転するその弾丸の摩擦熱を確かめ、ニヤリ。
黒髪の隙間から紅き瞳を輝かせ――私は口角をつり上げる。
『ふーむ、これも直撃すれば私にダメージを与えられるって訳だね。けれど熱によるダメージは私の耐性で無効化できる、全てがゲームの理論で上書きされているわけではない、か』
「す、素手で……っ、ば、バカな! 全ての弾道を読んだ、だと!?」
月並みなセリフである。
そのお約束な驚愕に従ってみるのも一興か。
神父姿のまま――武闘家の顔で。
優雅な私は握りつぶした弾丸を更に潰し、粉状にして床に落とす。
パラパラパラと、音が鳴る中。
『これくらい、君たちだってできるだろう?』
完全なる勝者の台詞。
決まった!
これぞ!
弾丸受け止めのドヤ!
あー! せっかく銃撃のあるゲームだし、これがやりたかったんだよねえ!
普段じゃ肉球ペチンで終わりだし、なかなかできないからね!
そんなわけで。
ゲームシステムを把握する私の戯れは、続いた。
私は嗤う。
敵は慄く。
だいたい、魔術やスキルに制限を与えたからといって優位に立ったと思う方がおかしい。
猫のしなやかなる武術を嗜むこの私に、肉弾戦で勝とうと思うのが――五百年早い!
まさに愚の骨頂。
そもそもの間違いなのである!




