女子高生とショッピングモール ~災厄の予兆~
こんなヤベエ世界を征服するのは絶対に無理ゲーっしょ!
そう素直に諦めた死神の血族。
死の女王っぽい一面ももつ黒ギャル、カナリア嬢を引き連れて――トテトテトテ!
我らは、ネコ魔獣がショップ店員をしている都会のショッピングモールに突入!
最強ニャンコな私!
大魔帝ケトスは今日も優雅に肉球で、ベンチと樹々の目立つ歩行者用の道を、悠然と練り歩く!
ビシ――ッ!
亜空間に購入したお土産をしまいながら、いつものポーズを決めたのであった。
ちなみに、これは取り調べが終わった三日後の出来事である。
いやあ、お日様もポカポカだし。
そよ風さんも心地良く猫毛をモフモフさせるし、良い買い物日和なのじゃぁぁぁぁぁぁ!
そんな、幸せ顔なニャンコな私も美しいわけだが。
ゴテゴテなネイルで口元を覆いながら、カナリアくんが瞳を輝かせ。
くわッ!
ダダダダダダ!
モールの鏡の前で化粧を直していたのに、飛んできて。
「うっわ! なになに、なーに! それ! マジぱないんすけど! ねえねえケトスにゃん、そのポーズは何! 魔術儀式!?」
『ふっふっふ、これはね――ネコ魔獣の美しさと魔王様への敬意を同時に表現する、私の決めポーズさ!』
説明して、再度ニヤリ!
カッコウイイポーズを決めたまま、丸口をぴょこん!
肉球の角度まで計算する私。
かわいいね?
満足げに猫毛を膨らませる私も、鏡で自らの肉球の裏までチェック!
髯のしなりもイイ感じ!
まあ――ショッピングモールの壁貼り鏡って、ちょっと太って見えてしまうのが難点なのだが。
こればっかりは仕方がない。
『ねえねえ! どうだいカナリアくん、この脚の裏のモフモフ部分♪ こう、ビシっとした時にモフ毛がモコモコモコってなるように意識してるんだけどさあ』
ドヤる私に金髪プリンな髪を揺らすほど笑い、カナリア君が言う。
「あはははは、最高♪ 写真撮っていいっしょ? 元の世界に帰る前に、記念撮影したいっしょ! はい、カシャリ!」
『くははははははは! 超かっこうよく撮るとイイなのだ!』
私とカナリア君は頬を寄せて、にゃんスマホに向かってピース!
ちなみに、このにゃんスマホ。
ダンジョン領域日本に滞在している彼女の所持品である。
この地の生活基盤になるからと支給したからね、たぶん、とても絵になる一枚が撮れている筈である。
まあこんな感じで、既に和解していたのだ。
私とホワイトハウルを見た彼女が世界征服を諦め、降伏。
元の世界に戻るという事で――なんと!
事件は無事解決!
大魔王のホラーゲーム化状態はしばらく続いたままだが、世界に平和が戻ったのであった。
いやあ、今回の事件は早く終わってよかった♪
と、こちらは既に和気あいあいのハッピーエンドモードなのだが。
聖剣を翳して、浄化の魔術を扱う黒髪女子高生がこちらに転移。
ヒナタくんが私の心を魔術で読んで言う。
「なーにが! 終わってよかった♪ ――よ。ケトスっち、異世界のあんたが引き起こしてるこのホラーゲーム化現象、どーするのよ……! ショッピングモールだっていうのに、店員さんのネコ魔獣ちゃんと、ゾンビしかいなくなってるじゃない!」
くるくると回転しながら、聖剣を翳し。
黒髪を靡かせ――ヒナタくんは揺れる学生バッグをぎゅっと握る。
「ここはもうあんた達がいる場所じゃない、早く――安らかに眠りなさい!」
「へえ、ヒナタちゃん! やるじゃーん、それ、浄化の奇跡っしょ? いや、魔術かな? どっちでもいいけど、ひゃー! マージで勇者なんだ、ヒューヒュー!」
ゾンビさんに覆われたショッピングモールを駆けて、アンデッド達を浄化する黒髪女子高生。
なかなか悪くない画面になっているとは思う。
まあ――。
ノンキな声で応援する黒ギャルなカナリアくんと、鏡の前でいまだにポーズを決めている私がいなければ、だが。
こちらの空気とは反対に、向こうはゾンビ退治なゲームっぽい雰囲気のまま。
スタイリッシュにカツカツカツ!
モールの冷たい床を駆け、聖剣で大地に魔法陣を描き――跳躍。
空一面を覆うほどの、大魔術を使うようである。
「キリがない――ええーい、大技いくわよ!」
ヒナタくんが私の授けた魔導書、《聖者ケトスの書の複製書》を開き、バササササササ!
神聖な波動を放つワンコ印のその書から、顕現したのは聖職者のネコ魔獣達。
うにゃぁぁっぁっと、不浄なる者を許さぬ猫目がギロリ。
ショッピングモールに集うアンデッドの群れに突撃!
聖書の角で、ドガドガバキン!
物理攻撃による、浄化の儀式を行い始めていた。
ま、いまこのダンジョン領域日本でアンデッドの器を破壊すれば、全て問題なし。
本当にちゃんと成仏して――輪廻転生の輪に戻れるから、これで問題ないんだよね。
『ねえねえ! みてみて! あれ、私が教えたんだよ!』
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ! あんたも手伝いなさいよ!」
キィンと、毒爪ゾンビと鍔迫り合いを維持して――シュン!
腐敗したゾンビさんの腕を切り落としながら唸るヒナタくん。
片手に聖書、片手に聖剣。
そして一応、顔は美人さん。なかなかゲームっぽい女子高生になってきているのである。
さらにショッピングモールの奥へと駆ける、その背を眺め。
私は猫の瞳をすぅっと細める。
『ま、とりあえずは――順調に成長してきてるかな』
「ん? どったのよケトスにゃん。ヒナタちゃんの成長がなんかあるん? あーしには、もう既に最強に近い、ぶっとび黒髪美少女にしか見えないっしょ」
カナリア君の言葉に、私はモフ耳をぴょこり。
『んー……杞憂で終わればいいんだけど――色々とね。君が異世界にまで遠征しないといけない王族であるように、彼女もアレで複雑な出生なのさ。できることならば、私はあの子に死んでほしくないと思っている。そのためにはやはり、どうしてもある程度の力は必要だろうからね』
「ふーん、あーしにはよく分かんないけど。なーんだ、やっぱりああいう子が愛されるのね。ちょっと羨ましいかな」
なはは……と言って。
彼女は空を見上げていた。
太陽は明るく私達を照らしている。
モフ毛に集まる温かさを感じながら、私は言った。
『これでも私は紳士なネコを自称していてね――困っている淑女は見捨てられないのさ』
「紳士なネコ、ねえ……ま、あたしも淑女とは言えないけど自称してるし、お互い様ってやつ? あはははははははは!」
空元気を見せながら笑い。
そして、ふと――。
黒ギャル風な口調ではなく、王族の口調でカナリア君が続ける。
「ねえ……もしもよ。本当に淑女が見捨てられないなら――もし、あたしが本当に淑女だったら。逢って間もないあなたに、助けて欲しいって童話の御姫様のように恥知らずに縋りついたら。やっぱり、あなたは守ってくれていたのかしら?」
まるで夢物語を覗く少女の顔で、彼女の唇は小さく動いていた。
それは本当に、思わず零れた言葉だったのだろう。
言った後に、はっと目を見開いて――いつもの黒ギャルモードに戻り。
「なーんちゃって! どう、あーしの演技力! めっちゃパなくない?」
『ああ、驚いたよ――本当に、とてもね』
私は逆に、シリアスな口調で応じていた。
たしかに。
王族である彼女が、単身、異世界の冥界の力を入手するために来るのは不自然だ。
なにか、あるのだろう。
けれど、所詮は他所の世界の話。
彼女の抱える問題を知らない私は部外者、介入するべき領分ではないだろう。
が――!
私にはそんなの関係なーし!
『そうだね。もし本当に助けが欲しいと思ったのなら、そのにゃんスマホのさっきの写真に祈ればいい。少しは猫の加護もあるだろうさ。これでも私は本物の大神だからね。荒ぶり世界を呪う神、荒魂で祟り神だけど、神は神さ。きっとご利益もあるよ』
「あんがと、じゃあ最後の猫頼みの時はお願いするっしょ」
彼女はにこりと笑っていた。
空元気だとは知っていたが、私はあえて見てみぬふりをした。
戻ってきたヒナタくんも何かを察したようだったが、彼女も割り切りの心をもつ勇者――。
あえて、何も言わずに。
一人で戦わせたわねと私を抱き上げ、モフりだした。
◇
そんなわけで。
一週間後!
日本観光をして、お土産もいっぱい持った黒ギャルなカナリアくん。
死神姫の生活を忘れて楽しんでいた、満足げな彼女に向かい私はお別れの顔を見せる。
『さて短い付き合いだったけど、こっちの観光は楽しんでもらえたかな?』
ここは転移門。
繋がる先は、カナリア君の世界。
どんな状況になっているかは知らないが――私達とは関係のない世界がそこには広がっている。
故郷の風を受けながら、プリン色の愉快な髪を靡かせて死神姫は言う。
「楽しんだ、楽しんだ。いやあ! あーしはこっち側からしたら侵略者だったはずっしょ? あーたら、人が良すぎだっつーの! え、人じゃなくてニャンコちゃんか。まあ、どっちでもいいけどさ! 本当、こんなに心から楽しんだのは……うん、久しぶりで、やだ、あーしったら、ズズ……っ、しんみりお別れなんてするつもり、なかったんだけど」
涙ぐんでいる様子だが。
王族なのだ、お茶らけているが色々と大変なのだろう。
だが、ここに隙がある。
そう、誰にでも油断というものは存在するのだ。
そっと肉球をのばし、私の影は蠢き出す。
魔王陛下に遣える大魔帝としての邪悪な部分を隠し――。
優しい顔をして、ぶにゃん。
『まあ、またいつでも来ればいいじゃないか。君なら単独で世界移動ぐらいできるんだろ? 君の世界の死霊魔術理論も大変興味深い、魔術師としての好奇心も刺激されるからね。君の存在も含め、おおいに歓迎するよ』
「そう? もー! ケトスにゃんたら、さてはこのあーしに惚れた!? かぁぁぁぁぁぁ! モテる女は本当に辛いわー! マジうけるんですけどー!」
心の隙間を覗く顔で、私は自然な流れを装い言う。
『ところで――純粋に魔術師としての興味なんだけど。君の世界ではいったい、どの種類のゲーム結界を使っていたんだい? たぶん、防衛用にこちらの世界のゲームを使って、世界を書き換え、侵略を受けにくくしているよね?』
「あー、そっか! もう敵対してないんだから、教えちゃってもいいもんね」
言って、彼女が差し出したのは――ワゴンセールで売っているような量産型の、ゾンビ系ガンシューティングゲーム。
想定の範囲内。
日本刀と銃を使って、無双するタイプのまあよくあるゲームだった。
これならゲームルールを適用されても、まあ問題はないだろう。
黒毛を靡かせ微笑した私は、肉球で別れの握手をする。
カナリア君も握手を返して、転移門の中に消えていった。
『それじゃあ元気でね――君はまだ若いんだ、ま、色々困難もあるだろうけど、なんとかなるよ。きっとね』
「そう? まあ、楽観的に考えるっしょ! じゃあね黒猫のおじ様、それにヒナタちゃんも――!」
声は遠ざかり、転移門が閉じていく。
ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴ。
重い音の中、光るネイルの輝きも消え――やがて魔力も感知できない場所へと消えた。
別れはあっけなく、一瞬で終わってしまった。
世界には、静けさだけが広がっていたのだ。
まあ、静けさっていっても。
浄化待ちのアンデッドで溢れてるんですけどね。
さて。
見送ったわけだが。
一緒に別れを済ませたヒナタくんが、私の頭を撫でながら。
淡々と言った。
「で、どーするつもりなの。あの子、きっと――殺されるわよ」
『かもしれないね――しかし、その未来視に似た宣言は、ロックウェル卿からの指導かい?』
はぁ……と露骨に嫌そうな顔で肩を落とし。
げんなりとヒナタ君。
「あのニワトリ、いいからさっさと覚えんか! って、クワワワワワ煩くてね、さすがに近未来を読む能力ぐらいは覚えちゃったわよ」
『はは、私よりも指導が厳しいだろう』
「ワンコとニワトリはもう、まさに鬼ね……鬼教官よ……」
そう!
三獣神の中で、一番優しいのはこの私なのである!
……。
まあ、冗談抜きで……いつかの、あの司書ウサギが言っていたように、私よりもある意味でヤバイっぽいからなあ、あいつら。
コミカルでギャグ調なワンコとニワトリのくせに。
どーも私の前だと、猫を被ってるっぽいんだよね。
むろん、でっかいギャグ補正の猫である。
気を許してくれているという事だろうが。
ともあれ。
『お父さんが帰ってくる前にレベルアップして驚かせたいんだろう? ちゃんと成長しているから、そこは信用して貰っていいよ』
「んー、どれくらいレベルを上げれば、ああ! こんなにも成長してすごいじゃないか、お小遣いも倍額だな! って言ってもらえるのかしらねえ。まあ、いいわ! このソシャゲ化世界は時間の流れが特殊! 今のうちに超レベルアップしてやるんだからね! 待ってなさいよ!」
ビシっと海外旅行にいっている両親を指さす彼女に微笑み。
私は一つ息を吐いた。
私達が介入したことにより変動した世界は、既に動きだしている。
勇者ヒナタ、その成長も変化の一環。
歯車がカチリカチリと、異なる運命を手繰り寄せ始めているのだ。
はてさて、これからどうなるか。
とりあえずは――私の肉球の上に落ちた、プリン頭の金糸雀がどうなるか。
賢く慈悲深い私は、そっと未来を憂い――。
赤き瞳に魔力を浮かべた。
死神姫の物語が、動き始めた。




