にゃんこ、のんびりゲーム三昧 ~魔王城にて~後編
側近で信頼のできる部下、炎帝ジャハルくんが去った後の寂しい時間。
大魔帝ケトスこと私は一人、広い自室でうにょーん♪
麗しいニャンコな身体を、モフりと持て余し黄昏ていたのだが。
ななななな、なんと!
そこに現れたのは我らが君主! 魔王陛下その人!
当然、私はジャンプし抱っこを要求!
衝撃波がどごーんと魔王城を揺らすが、気にしない!
敵襲か! と、騒ぎになりだしてるけど、気にしない!
魔王様は強いからね! 上級幹部ぐらい軽く消滅させてしまう私の全力ジャンプを受け止めても、涼やかな笑みを浮かべている。
『魔王様♪ 魔王様♪ 魔王様!』
「おおっと! はは、おかえりケトス。我慢できなかったのかい?」
我が主の腕の中で、ゴロゴロうにゃうにゃ♪
全力で甘える私もかわいいね?
『だって突然やってくるんですから、それはずるいってもんじゃないですか? 普段だったら、心の準備ができているからゆったり優雅になりますけど? これは仕方のない事だと私は思いますよ?』
敬語モードでゴロゴロゴロ♪
ついつい、甘えてしまうのである。
くくく、くはははははははは! これぞ王者ニャンコの特権なのじゃぁぁぁぁ!
ズズズズイ!
ズズズズイ! 頭をこすりつけ、ゴーロゴロゴロ♪
魔力を放つ猫の喉音が、魔王城を振動させる。
かなり大きな魔力衝撃波が喉から発生し、魔王城の周囲をズガズガドドドン!
再会を喜ぶ未曾有の魔力で、天変地異が発生しているが――気にしない!
「ははははは、コラコラ、そんなにスリスリしなくても逃げたりしないよ。世界を滅茶苦茶にしつつも、ちゃっかりちゃんと救っていたようだが――安心したよ。キミは今日も、元気そうだね。会えて嬉しいよ」
『はい、可愛い私はいつでも元気ですからね~』
思わぬ時間に会えて、ものすっごい嬉しいのだが。
ふと賢い私は思い出す。
『あれ? でもたしか……魔王様。サバスくんから、魔王陛下はまだ重要なお仕事中なので、どうしても今日中にやっておかないと問題のある書類なので、すみません……後程に! って聞いていたのですが? 大丈夫なんですか?』
「んん~!? い、いやあ! キミが帰ってきていると聞いていたからね! 書類仕事からサボ、いや、逃げ……違うな、うん、そう……! しばし英気を養うために会いに来たんだよ!」
言って魔王様は、腕の中にいた私を抱き直して。
むぎゅ~♪
まるでトウヤくんのようにモフ毛に端整な顔を埋めて、ハフハフハフ。
「ああ、ケトスは相変わらずモフモフだな。このまま百年埋もれていたい、それほどに……ああ、そうだね。キミが愛おしいよ、そう、だから判子押しなんて、うん、今度でいいとワタシはそう思うんだ」
『ま、魔王様……私の猫毛がお顔についてますよ?』
んーむ、猫好きってこれ、結構好きなのかなぁ……。
他の人が見てないからいいけど、けっこう謎の光景だよねこれ。
しかし。
なぜ魔王様がここに飛んできたのか、その理由も理解できてしまった。
魔王軍最高幹部な思考に戻った私はジト目を作り、じぃぃぃぃぃぃ。
肉球で魔王様の頬をグイグイ押し返す。
『魔王様、私に逢いに来てくれたのは事実なんでしょうけど――』
「おやおや、どうしてそんなにクールな顔立ちでワタシを見ているんだい?」
私はケトス。
大魔帝ケトス――魔王陛下が不在な状態では魔王軍の代表でもあるわけで。
絨毯に降りた私は、更に――。
じぃぃぃぃぃぃっぃぃ。
紳士猫の声で、うなんな。
『仕事、サボってますね?』
ぎくり!
涼やかな魔王様の顔に浮かぶのは、ほんのりと垂れる一筋の汗。
『魔王様、私はとても嬉しいのですが――そのモードの時って、絶対に仕事を抜け出して現実逃避モードになってますよね? 私を口実に仕事、抜け出してきてますよね?』
「サ、サボってでも会いに来る。これもまた、愛の証さ」
ふっ! と、汗を滴らせ言い切る姿はまるで私である。
私って。
やっぱり魔王様の影響を、かなり受けてるよなぁ……と改めて思ってしまう。
ともあれ。
サボっているのはやはり事実らしく、それなり以上に大きな魔力がこちらに向かってきている。
扉をノックする、この魔力は――。
どんどんどん!
どんどんどん!
ヤギさん頭の悪魔執事、サバスくんである。
実は常勝無敗で地獄の帝国の偉い存在なのだが、まあここだとこんな風に魔王様や私に振り回される日々を送る……ちょっと可哀そうな部下でもある。
もちろん。
信頼しているからこそ我儘を言えるのだが。
「ケトス様ー! そこに魔王様がいらっしゃいますよね!」
『ああ、話が終わったらお連れする。ここは私に任せておくれ、すまないね――いつも迷惑をかけて。君には感謝しているよ、サバス。普段からとても気を遣わせてしまって、悪いね』
私の口からは、大魔帝としての声が零れていた。
紳士で穏やかで落ち着いた――ダンディ幹部ボイスともいう。
「いえ――ケトス様がそうおっしゃるのでしたら、分かりました。それでは、執務室でお待ちしているとお伝えいただければ、と」
『ありがとう――だ、そうですよ、魔王様。私の顔をお潰しになりたいのでしたら構いませんが、そうでないのなら、もう少ししたら戻ってあげてください』
くすりと苦笑してみせる私に、魔王様もくすり。
「キミは本当に成長したね。なんだかキミの方が魔王軍のみんなを上手く、良い道へと導いてくれるような気さえしてくるよ」
『そうやって、押し付けられても困りますよ。私の心は猫であり、とても不安定なのです。代理なら可能でしょうが、それ以上は……考えられませんね。私には――正しく魔を導く者。魔王陛下、貴方がいないと駄目なのですから』
告げて私は、忠義を表すように恭しく猫耳と顔を倒す。
魔王さま。
すーぐ魔王軍最高幹部(真)の座を渡そうとしてくるんだよね。
真剣な口調だったからだろう。
魔王様も困った様に頬を掻き。
「そうだね。まあ――もう少ししたら戻るよ。かわいいキミの顔に泥を塗りたくないし、サバスに怒られたくないからね」
『百年もお眠りになられていたのです、少しは怒られてあげてください。私も寂しかったですが、彼も、きっと――とても心細かったでしょうからね』
二人の間に広がる、温かさ。
麗しいスマートニャンコと麗しい魔王様の微笑む時間。
きっとこの歴史的瞬間を絵画にしたら、とても絵になっただろうと思う。
いや、まあ仕事サボリ現場なので……冷静になると、そこまで歴史的じゃない気もするが。
ともあれ!
よーし!
これで私が向こうでやらかした、様々な問題は有耶無耶になった!
必殺!
逆にこっちがイイ感じのお説教ムードをつくり、誤魔化そう作戦である!
更に誤魔化すべく、私は話題をふってみる。
『そういえば大魔王な私はどこに行ってるんですか? 魔力も姿も見えないですけど』
いつもは魔王様! 魔王様! と、立てた尻尾を震わせて、嬉しそうにくっついて歩いているのだが。
はて。
きょろきょろと猫アンテナを蠢かせる私に、魔王様が言う。
「ああ、キミがこっちに来ていると聞いて、急に耳をぴょこんと立ててね。ニヒヒヒヒって嗤って転移門の方に向かっていたけど。会っていないのかい?」
『え!? だ、大丈夫かなぁ……』
悪意のある悪さはしないだろうけど。
異界の私、だからなあ……。
……。
「たぶん、キミ達が作ったソシャゲ世界に興味があるんだろうね。あとはもしかしたら、そうだね――可能性の一つではあるが、キミに気を遣ったのかもしれないね」
『私にですか?』
とん――と私の鼻頭を優しく撫でる魔王様。
その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
「キミは――大魔王ケトスが長い間寂しい思いをしていたからと、彼に遠慮をしているだろう? 居場所を分け与えるように、ワタシの傍から一定の距離をとって離れている。それが分かるからね。大魔王ケトス、あの子も当然それを分かっている。感謝もしているのだろう。なにしろ異界のキミだからね。でもどうだろうか、帰ってきている時ぐらいはワタシを独占してもいいんじゃないかな? そう思って――大魔王も外出したんじゃないかな」
私のモフ毛が、ぶわりと膨らむ。
普段こちらが気を遣っているから、あっちも気を遣ってくれたという事か。
『にゃるほど。そういうことですか――恩人である私に気を遣うついでに、面白そうな日本で遊ぶ。二つを同時に満たせることに気付いて、大魔王はウキウキで飛んでいったわけですよね。なかなか計算高いかもしれませんね』
「そう! だから今日は存分に甘えてくれて構わないよ。さあおいで! ケトス!」
両手を広げ、ふふん♪
カモンカモンと待ち構える魔王様。
そのまま仕事を有耶無耶にしようとしている最愛の上司を横目に、私は考える。
実は少し、魔王様と距離を置いているのも事実なのだ。
百年、魔王様のお目覚めを待った。
これからはずっと一緒にいられるから、がっつく必要もない。そりゃあできるならずっと一緒にいたいが、私ももう立派な大人ネコ。
仕事もあるし、私個人を慕う部下も増えているからね。
独占欲を抑えめにしてのんびりと平和な時間を過ごしているわけだが。
まあ、たまにはこうして魔王様を独占するのも……。
いいよね!
というわけで。
抱っこを求め――猫ジャンプ!
『仕方ないですねえ! じゃあ、もうちょっと私を抱っこしてもいいですよ!』
「そうだろう! そうだろう!」
ぶわりとモフ毛を膨らませ――くはははは!
モコモコの猫毛を存分にこすり付け、私は魔王様の膝の上で更にドヤァァァァッァア!
いやあ!
やっぱり王者たる猫の私には、帝王たる魔王様の膝の上がよく似合う!
むふぅ♪
満足な猫吐息を漏らし、私は召喚した紙パックジュースをチュルチュルチュル。
至福!
ここが地上の楽園であったか!
しばらく楽しい時間を満喫していたのだが。
ふと、魔王様が呟いた。
「ところでケトス――叡智に満ちるワタシはふと思ったのだけれど」
『どうしたんですか? 知恵ある麗しの魔王様』
声に応える私に。
なにやら未来視をするような顔で、瞳を赤く輝かせる魔王様。
その頬にはやはり、汗がじとり。
「いや、大魔王ケトス――あの子ってけっこう悪戯好きだろう? 長い間魔王軍最高幹部として過ごした君とは違って、なんというか……ほら! まだ大人ネコになり切れていない部分もあるじゃないか。ゲーム化された世界なんてみたら、絶対、なにかやらかす気もしてきたのだけれど……」
……。
いや、未来観測系の能力者である魔王様がそうおっしゃるのって。
めっちゃ不安なんですけど。
魔王様の予言って、的中率半端ないし。
いやしかし。
大魔王ケトスも私と同じく、行動する度に未来を変更するタイプのニャンコ。
確定した未来すらも覆す能力者だ。
問題ない。
うん、平気平気。
ぶにゃははははははと笑い、可愛いモフ猫な私は肉球をぴょこぴょこ♪
『魔王様は心配性ですねえ。いくら異界の私でも、この短期間で何かをやらかすなんてことは、さすがにないと思いますよ? ま、まあちょっと心配になってきたので、私は今日だけ休日を満喫したら戻るつもりですし。すぐに交代しますから』
あれ?
なんか私の未来視、ネコの直感にもとてつもない違和感が。
ある。
「それも、そうだねえ――変な心配をしちゃって、大魔王なキミには悪い事をしちゃったかな」
『にゃははは、今頃怒っていますよ、きっと!』
二人はおだやかに微笑んで。
そして。
鳴り響くアラーム音に、ヒクりと頬を蠢かす。
魔王様は未来視ができる。
私も先を知る能力であるネコの直感を持っている。
だからこそ、分かってしまったのだ。
あいつ、やらかしやがったな――と。
ゴゴゴゴゴゴオゴゴ!
ざぁぁああああああああああぁぁぁぁ!
これは魔力音。
唐突に展開された大魔法陣が、魔王城の上空を覆っている。
精霊の国に戻っていたジャハル君が、炎の緊急転移魔法陣を発動させ次元の隙間から。
くわッ!
「た、大変すよ! 大魔王ケトスが、ダンジョン領域日本のルールを勝手に書き換えて、日本が魑魅魍魎やアンデッド、ゾンビやグールにキョンシーとか、もう、なんつーか! だぁぁぁぁぁぁぁぁ! と、とにかく! ぐっちゃぐっちゃなんすよ! 日本だけなら異世界だからいいっすけど、こっちの世界にも、手持ちの全ホラーゲームの要素を加えたらしくって、大混乱して――。って、こっちにもアンデッドが、ラーハル! 直ぐに討伐隊を編制せよ、妾もすぐに向かう!」
緊急報告を終えて、ジャハル君は再び転移!
きっと。
精霊国を守るために動いているのだろう。
魔力の気配で分かる――これ、アンデッド領域で両方の世界が満たされたな。
あの白モフモフドヤ顔ニャンコ。
あ……あいつ。
やっぱり、即行やらかしやがったのか……。
どう、説教してやろうか。
自分の行動を棚に上げて、爪をにょきにょきさせる私の頭を――魔王様の吐息が揺らす。
「なるほどね――大魔王ケトスも考えたね」
『どういうことですか?』
叡智ある顔立ちに魔術師としての表情を乗せ。
魔王様は怜悧な声でおっしゃる。
「今のダンジョン領域日本は、アン・グールモーアくんのような侵略者に狙われているのだろう?」
『ええ、まあ。ロックウェル卿もあのペンギンもそう言っていますけど』
私も何かモフ毛のざわつきを感じるし。
なにか悪意あるモノたちから攻撃を受け続けているのは、確定だろう。
実際。
恐怖のペンギン事件を解決しても、滅びの予知は覆っていないからね。
「今回の件、話を聞く限りの予想だが――魔導書を核としてバグを発生させ侵食、つまり攻撃してきている。領域の書き換えによるバグを発生させるわけだから、それを妨害すれば一時的にとはいえ安全は確保できるだろう。しかし相手の居場所が分からないので、防ぐ手段がない。結界を張っても気休め程度、敵は巧みに魔導書を送り続けている。ではどうすればいいか。簡単さ、先に絶大な魔力をもって領域の書き換え、つまり問答無用でバグらせてしまえばいい。あくまでも相手側の攻撃を止める事ができるだけだが――それをおそらく大魔王は実行したのだろうね」
ふむ――たしかに、相手が魔導書によってアンデッド領域に書き換えているのなら。
手段を選ばず、私も対抗する場合。
……。
ああ、先に全領域をバグらせて相手の魔導書を否定する。
ああいう領域の書き換えは、基本的に先にやったもん勝ち。
優先順位が生まれてしまうのだ。
侵略者が同時に襲ってこない理由も、先に領域に手を加えている者がいるから待機している状態になっている。
なーんて魔導論文もあるぐらいだし。
ともあれ、魔術師の顔で私も言う。
『先にアンデッド領域化させた、大魔王の魔術の方が優先される。あの大魔王ケトスの魔術を破り領域を上書きできる存在なんて、まずいないでしょうしね。となると、もうこれ以上攻撃を受ける事はなくなる……そう言う事ですか。なかなか無茶苦茶ですが、筋は通っていますね』
遠見の魔術を発動させると――。
そこに映っていたのは、ドヤ顔をしてクハハハハハハと嗤う麗しい白猫と。
そして、その後ろ。
サングラスをかけた黒きニワトリと、どっかの大陸の主神、黒き狼毛を靡かせたブラックハウル卿が控えている。
どうやら三柱で、ダンジョン領域日本に自分たちの魔力を送っているようだ。
微笑ましいポカポカ太陽を背景に。
ビシ!
バサ! わぉぉぉぉぉぉぉん!
大空の下――三匹が一斉に嗤いだす。
『さあいけ、いざ行け、今日も行け! 我ら三獣神! 異界の魔王城居候組の意地を見せるのニャ!』
『グググ、フハハハハ! せっかくだから遊んでやるとするか!』
『クワワワワワワッ! おーおー! 余らは、異界の大魔族ぞ! 頭が高いのである、人類どもよ! クワワワワワワワ!』
パラリラパラリラ~♪
不良たちがバイクの上で音を鳴らすように、獣たちがクハハハハハ!
めちゃくちゃ楽しそうである。
いや、チンピラじゃないんだから……。
まあ、実際、もしこの光景を黒幕が見ていたのなら――効果は抜群だろう。
これ、ギャグみたいになってるけど。
世界を軽く滅ぼせる三獣神(闇落ち)が世界の法則を書き換えている、とんでもない規模の大事件だからね。
仲間や同族に誤射しないように。
そして悪戯や悪意をもった犯罪を防ぐように、フレンドリーファイア、つまり同士討ちを禁止する結界まで張ってるからね。
魔術法則も物理法則も、書き換えまくってるからね。
私や私の関係者は彼らを知っていて、根が良い奴だとも知っているが。
……。
黒幕からしたらおそらく、自分たちよりも邪悪で危険な獣神に先を越された!
そう震えて。
戦々恐々となっていることだろう。
ソシャゲ世界に慣れている一般人は、というと。
またイベントか~とのんびりしているようで、幸いである。
「ふーむ、凄いね。あの子たち――魔術式が洗練されている。三柱揃うと力を増すタイプだね」
『そのようですが……これ、たぶん――百パーセント善意でやってるから怒れないヤツですし……。どーしましょう』
あーあー。
ダンジョン領域日本全体が、アンデッドで溢れかえった呪われた土地。
ゾンビ系ガンシューティングゲームの、殺伐とした世界みたいになっちゃってるじゃん……。
既にソシャゲ世界を楽しんでいる人間や動物たちが新イベントだと騒ぎ出す。
しゅんしゅん!
転移アイテムを使って、広場に集合し始めていたのだ。
あ、街のスズメが浄化魔術を唱えて、ゾンビ狩りをして経験値を稼いでるし。
小学生の列が、光の砲撃でアハハハハハと笑いながらゾンビ狩りをしてるし。
おばあちゃんがライフルを構えて、カチャ――ずどーんとヘッドショットをキメてるし。
なーんだ、このカオスな世界。
ていうか。
あの世界の一般人間達、適応力高すぎじゃない?




