にゃんこ、のんびりゲーム三昧 ~魔王城にて~前編
未来視が得意なロックウェル卿の予知通り、やってきました新しい危機!
おそらく!
再び地球滅亡に繋がる事件の始まりを感じた最強ニャンコ、大魔帝ケトスこと私は――肉球をにぎにぎしながら、ぶにゃん♪
くはははははっと、いつもの哄笑を上げていた。
……。
いや、まあ。笑い事じゃないんだけどね。
それでもすぐに滅びがやってくるわけでもなく、私は現在休暇中。
時はお昼前。
場所はラストダンジョンこと私のおうち。
一旦魔王城に戻って、くわぁぁぁぁっと大あくび。
自室でのんびり身体をびにょーん!
湯たんぽ炎帝こと、炎の大精霊――精霊の国を治める女帝ジャハルくんの膝の上で、疲れた体を休めていたのである。
彼の膝の上で肉球あんよを前に倒し、ピョコピョコ!
お手々ではゲームコントローラーを掴み。
カチカチカチ。
二人そろってモニターに向かって、カーチカチカチカチ!
ぬ~んとネコ眉を顰めた私は、今度は猫ヒゲをうにょーんと前に倒す。
画面に向かい、私は猫口をクワワ!
『ダダダッダ! うにゃ……てい! てい! くはははははは!』
「ケ、ケトスさま! そこ! そこですってば! ネズミなんて狙ってないで、あっちのゾンビを倒さないとやられちゃいますってば! ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁぁぁ! こっち、やられちゃいますって! 聞こえてないんすか!?」
画面に映るのは――ゾンビさんの群れと演出のネズミが数匹。
滅んだ市街地が舞台の、よくあるゾンビパニックモノの系譜。
ゾンビ相手に銃をバンバン。
爆薬等をドドーンと撃ちこむ怪物系ガンシューティングゲームである。
『え? あ、ああ――分かってる、分かってる。うん、ゾンビねゾンビ!』
「この難関を越えればたぶんボスなので――、って……! 人の話、ちゃんと聞いてるんすか!? 絶対聞いてないっすよね!? あぁぁぁぁぁぁ! 囲まれちゃってるじゃないっすか! だからそれはネズミ! ネズミっすよねえ!?」
褐色の肌に浮かべた汗を蒸発させて、ジャハル君が私に叫んでいるのだが。
構わず私の操作するキャラはネズミに向かい……。
『ネズミだねえ。美味しそうで……ちょろちょろ動く、最新技術でリアルな……ネズミ……。……。……………。うにゃ、うにゃにゃにゃにゃ♪』
「ちょ! なにするつもりなんすか!?」
構わず私は、見開いた瞳をギンギラギン♪
ふん、ふん!
尻尾を左右に、バタタタタタタ――!
ネコちゃんの可愛いお鼻がスンスンしてしまい。
ああ、もう駄目だ。
我慢できない――ッ!
『なにって、ゲームの中からネズミを取り出して――保存食にするつもりだけど?』
「いや、これゲームっすよ、ゲーム! 現実と区別してくださいよ!」
やはり構わず。偉い大魔帝ニャンコな私はジャハル君の膝から立ち上がり――。
ゆっくりと腰を落とし近づき……そろーりそろーり。
タイミングを見計らってぇ……。
ダダダダダダダ!
猛ダッシュあんどジャンプ!
よーし、着地!
コードレスコントローラーなので、ネコちゃんがジャンプしても問題なくゲームは続いている!
「だぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁ! なにやってるんすか!」
慌てて叫ぶジャハル君。
そのキャラはゾンビに囲まれペチペチされているが、気にしない!
あれはあくまでもゲームのキャラ。私は現実とゲームの区別がつく、賢いニャンコなのだ。
モニターに猫手を突っ込み、てい!
逃がしたので――。
そのままモニターの中に入って、よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!
『くはははははは! 我にかかれば、地を這うネズミなど一撃でドキュンなのである!』
逃げるネズミを掴む私。
かわいいね?
さて、後でお風呂に入れて小屋で飼って、太らせよう。
まあ大抵、育てているうちに愛着が湧いちゃって食べられなくなっちゃうんだけど……。
ともあれ。
肉球に広がる冷たい感触の世界の中で、私は周囲をきょろきょろ。
あれ、ここ。
ゲームの中だね。
私は外にいるジャハル君に向かい言う。
『ねえねえ! みてみてー! 私、童話魔術の応用で中に入れちゃったよー! うわあ、よくみるとこのショッピングモールの後ろ、全部がハリボテだなあ。ゲームの外からだと見えないから作ってないのか。なんか楽屋裏を眺めている気分で、面白いかもー!』
ポンと顕現させた虫取りアミで更にネズミを捕まえ、ニヒィ!
亜空間に保存!
最初に捕まえたネズミと血族を同じくする者。つまり一家を全部捕まえ、ご馳走を与え、ますます太らせてやるのである。
やっぱり保存食なら綺麗にしておきたいからね。
後で、ネズミさん用のミニ洋館を顕現させておくか。
ま、まあ……同じ理由で飼っているネズミさんが山ほどいて。
家族の数だけミニ洋館が存在する。
私の管理する亜空間の一部には、ネズミランドができ始めているのだ。
それが見回りネズミに進化したりもするから、結局食べられていないのだが。
いつか食べるから。
うん、いつか食べるから――そのために贅沢させているだけだから。
ちなみに。
ネズミ魔獣たちの中で――路頭に迷う哀れなネズミを拾い育てる聖猫紳士がいる、なーんて誤解された噂まで流れていたりするのだが。
それはそれで、色々と複雑で。
食べにくくなっている理由の一つだったりもする。
崇められちゃってるんだよね。
ともあれ。
『おー! これ獲り放題だね! 君もおいでよー!』
モニターの中で手を振る私に、ジャハルくんがはぁ……。
「ゲームが壊れちゃうから、返してきてくださいよ……そのネズミ」
どうやら。
呆れているようである。
『ええ!? せっかく獲ったのに! 一匹ぐらいバグらせてゲームから引き抜いてもバレないって! まあ、家族ごと捕まえたから一匹じゃないけど、バレないバレない!』
「あのぅ……ですね? 中からだと見えないんでしょうけど――ケトスさま。そのぅ……中のゾンビたちがゲームの筈なのに困惑してますよ? あんたがモニターに入り込んだから、たぶんその世界。一部が現実化しちゃってます」
言われてモニターから抜け出し、私は画面を見て。
ぶにゃ!
……。
肉球で頬をポリポリ。
『あー、たしかに……私の影猫達がゲーム内に召喚されて、ゾンビ狩りを始めて画面がバグりだしてるね……エンディングが流れ出してるって事は、影猫の誰かがボスをそのまま倒しちゃったのかな』
「もうネズミはそのまま飼ってもいいっすけど……これ、本当に大丈夫なんすか? チェックできているならいいんすけど……」
重火器を担ぐ影猫達が、ゲームを乗っ取り――くはははははは!
モフ毛を靡かせ、映画のラストシーンを演じている。
勝利のブイサインを尻尾で作り、実に楽しそう。
『できてないだろうねえ……』
「ですよねぇ……」
あ、眷属猫達がそのままモニターの中で魔法陣を展開。
勝手にスタッフロールとかも書き換えてるし。
こいつら、誰に似たのか、本当に自由だよね――。
ま、いっか!
ドリームランドの猫達に占拠されたゲーム画面を見て、ジャハルくんが、がくり。
燃えるような髪と炎の吐息を揺らし言う。
「真面目にやってくださいよ、これ……敵を探す作業も兼ねているって話っすよねえ? たぶん、最初からやり直しっすよね? オレもずぅぅぅぅぅうっとやってますけど、ケトス様ほどに上手くないっすから、先に進めないんすよ」
『ああ、そっか。魔王城のみんなにもゲーム機を渡して探して貰ってるけど……慣れていないのか、あんまり上達してないんだよねえ』
まあ、休みといっても遊んでいるだけではないということだ。
今回、ダンジョン領域日本に攻撃をしかけている敵。
正体を掴めぬ、なかなかどうして生意気な黒幕がどれかの地球産ゲームを使い、自分の領域を結界化させて隠れている状況だからね。
あの件への対処も兼ねているのである。
具体的にはただ淡々とゲームをプレイして、該当する魔力パターンを探すだけ!
なのであるが――これがそれなり以上に面倒で……。
皆がそれぞれ自分の棲み処に戻り、山ほどあるゲームを分担して持ち帰りプレイ。
私が作った魔力パターンの情報。
敵と類似するゲーム情報が出たその時に、アラームが鳴る仕組みとなっているのである。
今頃、ヒナタくんも学友たちとホラーゲームをプレイ。
大いなる光とホワイトハウルはダンジョン領域日本を維持しながら、コントローラーをピコピコピコ。
ロックウェル卿はどうせまた被害者が出るだろうと、亜空間病院を再構築している真っ最中。
それぞれが行動を開始している。
新しく協力関係になっているメルティ・リターナーズの面々も今頃、事情を聞いて、あのモニターの前でピコピコピコとゲームとにらめっこをしている筈だ。
あそこのリーダーの初老紳士のおっちゃん、私の魔力に心酔して魅了されたままだからね。
そして、魔王城でも。
それぞれがゲーム機を並べて、カーチカチカチカチ。
たぶん今頃、フォックスエイルが購入したゲーム機を人間達にも流している筈。
皆が協力して、ゲームをしまくるという。
なかなか異様な光景になっているのである。
ふと私は真面目な顔になり、言葉でネコ髯を揺らす。
『んー、地球の事は魔王城のみんなとは関係ないし。こっちでも頼んじゃったのはあんまり良くなかったかなあ』
私は元あの世界の住人だが、ここの魔族にとっては関係のない世界だからね。
魔王軍幹部として、少し想う所もあるのだ。
悩む私もかなり可愛いわけだが――。
うーみゅと猫口をくちゃくちゃさせる私の頭に、そっと触れるのは温かい感触。
苦笑するジャハルくんが、私の頭を撫でながら言ったのだ。
「まあいいじゃないっすか。ゲームなんて新鮮な感覚っすからね、皆喜んでいますよ? オレだって、こうして久しぶりに直接ケトス様とあえて、こう、なんつーか……一緒に、ゲームもできて嬉しいっつーか……い、いえ! と、とにかく! 帰ってきてくれて嬉しいってことっすよ!」
頬をぽりぽり。
恥ずかしそうに言ってくれるジャハル君の顔は、まるで気を遣う女の子の顔で。
こりゃ、かなり気を遣わせてしまったかな。
私はどうもうっかりなのか。
信用できる相手だと気が緩んでしまう。ぽろっと弱音も漏らしちゃうからね。
さて、せっかく気を遣ってくれたのだ。
ちゃんとこっちも明るく乗っておこう!
『にゃははははは! 一番信用できる君にそう言ってもらえると、嬉しいね! じゃあもうちょっと頼っちゃおうかな!』
「い、一番信用できるっすか?」
『当たり前だろう? なにをいまさらそんなに驚いているのさ?』
きょとんと言ったのだが。
「ケトスさまは……まーた、そうやって! なははははは! だ、騙されないっすよ!」
照れているのだろう。
妙に顔をかぁぁぁぁっと熱くさせて、可愛い私を抱きあげた炎帝ジャハル君。
その指が嬉しさを誤魔化すように、モフ毛をワシャワシャする。
『くははははははは! 良いぞ、良い! もっと我を撫でるのじゃ!』
私のネコ目も、ちょっぴり微笑みの形を作っている。
こういう休日も悪くないよね!
私達はのんびり、黒幕探しのゲームを続けた。
◇
どんなに面白いゲームでも、ぶっ続けでやるとそれなりにゲンナリするもので。
私とジャハル君は、ずーん……。
しかも敵が使っているのがアンデッドばかりだというので、候補のゲームはだいたいホラーゲームになるわけで……。
目にクマを作る勢いで、コントローラーを絨毯に置き。
げふん。
絨毯に落ちて、でろーん。
身体を伸ばす私のモフ耳を、ジャハル君の炎の吐息が揺らす。
「魔力パターン……みつからなかったっすね」
『うん、まあ楽しかったんだけどね。さすがにこう、ホラーゲームのバッドエンドばかり見続けると……疲れるね。だいたい、なんでハサミをもった男が女の子を襲うのさ。普通、こういう場合って女の子が魔導の力に目覚めて、逆にぶっ飛ばすんじゃないのかい?』
目をこすりながら、とあるニャンコに倒された「積まれていた書類」に手を伸ばし。
ジャハル君がぼそり。
「あー……資料を見る限り、それは三作目からっすね。主人公が魔法少女みたいになって、襲ってくる怪物と戦うらしいっすよ?」
『えぇ……? それはそれで極端だね……って、もう夕方過ぎてるじゃん! ジャハルくん、君、確か精霊国で会議があるって言ってなかった?』
言われて時計を顕現させて――ジャハル君がボボボボボ!
紅蓮のドレスを顕現させ、輝く赤き髪を結い上げ女帝モードに変身!
「うわ! やっば! そ、それじゃあ途中で悪いんっすけど、オレは行きますね!」
『ああ、それじゃあ女帝としての仕事をきちんとこなしておくれよ。精霊族も君を頼りにしているだろうからね』
文字通り、風のように去ってしまったジャハル君。
その紅い後ろ髪を眺め、私は苦笑する。
たぶん遅刻だろうから――精霊国に。
私の世話をしていたから遅れていた。怒らないであげてね、っと。
魔力メッセージを送り部下をフォローする私。
とっても偉いね?
まあ、これで平気かな。
ただ、まあ……なんというか。
湯たんぽがなくなってしまったせいか、妙に猫毛が寒く感じてしまう。
うーみゅ。
一人になってしまったのである。
誰か遊びに来ないかな~っと尻尾をビタンビタンさせていると。
私の猫耳がモフっと立って。
猫毛がモコモコモコモコモコモコ!
肉球の表面がきゅんとなり、私は慌てて周囲をきょろきょろ!
こ、この素晴らしき魔力波動は!
直感は正しかった。
いつの間にか、私の目の前には一切の無駄のない転移魔法陣が走り出し。
キィンキィンキィン!
顕現したのは――魔王様!
魔王様は穏やかな微笑を作って、室内作業用のローブから手を伸ばし。
「やあ! ワタシの可愛いケトス、どうしてそんな寂しそうな顔をしているんだい?」
『ぶにゃ! ま、魔王様!?』
驚いた私はそのままジャンプ!
魔王様の腕の中に着地した♪




