ハプニング? 召喚ゲストライブ! ~暗躍する大忙しニャンコ~
転移帰還者達、誘拐事件も解決し、後顧の憂いはなくなった。
さあ、夕方も過ぎてイベント開始の時間!
大魔帝ケトスこと世界を救ったニャンコな私は今、特設会場にて召喚の儀式を行っていた。
ダンジョン領域日本、そのどこからでも接続できる特殊空間。
お祭り会場。
そこは灯りで満ちていた。
アニマル達の提灯が、落ちた太陽の代わりに夜を明るく照らしていたのである。
並ぶグルメショップは各地の名産品を購入できる、猫魔獣店主の屋台。
現金やゲーム内マネーでの購入はもちろん可能。
ただ、今回の趣旨はイベント限定だからね。敵がドロップするようになっているイベント交換用アイテム――ネコちゃんワンちゃん用のオヤツでも、お金の代わりにグルメと交換ができるようになっていた。
さて、私は猫の頬毛をぶわぶわ!
おヒゲをぴんぴんにし、周囲をじぃぃぃぃぃっぃぃい!
屋台や露店から上がる白くて美味しそうな湯気が、満月に向かってその身を伸ばしている。
参拝する人々の表情も明るく、それぞれの顔にあるのは、笑顔。
優しい笑みが浮かんでいる。
イベント限定召喚カードをゲットしはじめている参加者たちも現れて、その性能の議論も始まっているようである。
召喚されていたのは、たまーに召喚主にも逆らうアニマル達。
ニャンコと狼とニワトリ。
そしてキツネだった。
彼等は人間への擬態能力も持っている。
なので男性キャラクターが欲しいモノは前者三枚を、女性キャラクターが欲しいモノは後者一枚を。それぞれに入手しようと頑張っているようだ。
ガチャの方からは、寡黙イケメンな殺戮騎士をモデルにした新キャラクター。
残念さは再現しなかった、異国美人風の魔銃使いのスーツ美女。
そして。
ちょっと生意気な聖剣使いの女子高生っぽい、これまた主人に逆らう事も多い女性キャラクターがでるようになっているのだが――。
これは勝手に実装したので黙っておこう。
賑わいを見る限り、まあ成功したと言ってもいいだろう。
そんなわけで!
夜イベントの召喚ゲストライブを発生させるべく、私はブニャハハハハハ!
力に満ちたモフ毛を膨らませたのである!
◇
会場内は珍しいゲストが召喚されるという事で、それなりの賑わいを見せていた。
ネコちゃんマークの綿あめをガジガジする子どもに手を振って。
かわいく肉球を見せてサービスしてみせる私。
やさしいね?
『やあみんな! 皆のアイドル、案内ニャンコの大魔帝だよ! イベントを楽しんでくれているかな! さあ最初のゲストはこちら!』
一応、ゲーム内にでてくるマスコットキャラ扱いの案内キャットを、演じているのだが。
こういうゲームのお約束。
大外れを引いた時でも、ガチャ画面でウニャハハハハハと嗤う、案内ニャンコに思う所があるモノもいるのだろう。
ガチャにハズレばっか入れやがって!
この駄猫ー!
と、ヤジを飛ばしてきたお兄さんお姉さんにはちょっと、一月、必要最低限な会話のみしか発言できなくなる呪いをかけて――っと。
さあ、準備は完了!
監督役かつ、私にある程度のお説教のできるヒナタくんが見守る中。
私は魔法陣を展開。
『おいでませ、有名人!』
杖を振った先の会場に顕現したのは。
伝承と子供の願いにより存在を確立させた神の如き、聖人。
赤い服とプレゼント袋、そしてトナカイのそりに乗って闇夜を走る有名人。
……。
に、よく似た存在。
会場の反応はというと――!
……。
あれ、困惑気味だね?
めっちゃ反応に困ってるね?
呼ばれたゲストさんもトナカイさんも、互いに顔を見合わせて頬をぽりぽりしてるね。
まあ蹄で頬を掻くトナカイってのも珍しいけど。
「ちょっとケトスっち! あんたこれ、何を呼んだのよ!」
『見ればわかるだろう? サタンクロースだけど?』
ゲストさんの――その悪魔っぽい顔を見て、私は言う。
応じるヒナタくんが、眉間にシワを作り。
「いや、そりゃ確かに有名だけど……時期も違うし。いや、そもそもサンタクロースでしょ? あんた、間違ってるわよ?」
偉大なるこの私が、召喚に失敗する筈がない。
うにゅー、ヒナタくんもまだまだ甘いですなあ。
『いやいやいやいや、あってるよ! 勘違いしているのは君の方、この人はサンタクロースとは別人さ! 聖人に化けた反救世主、すなわちサタンクロース――世界の終わりの時に飢饉や災厄をばら撒く騎士が一柱、終わる世界に跨りし者。黙示録に記されしペイル……』
「何言ってるのか全然、分かんないし! 召喚失敗してるのよ! すぐに返してきなさい! だいたい、この人だって、いや悪魔だけど……とにかく困惑してるでしょ!」
言われてそちらに目をやると、確かに――トナカイさんも蒼白い顔で首を縦に振り。
サタンクロースも、うむ……と頷いている。
『えぇ……この人の後ろには、冥府やら黄泉がついて歩いているから……それなりに神格のある。って、君の顔が怖いから、はい、帰します。帰せばいいんでしょ。もー! 注文が多いんだから』
帰還魔術を唱えサタンクロースを戻して。
いざ、次のゲストを召喚!
『おいでませ! 有名で偉い人!』
どろん!
煙と魔力波動と共に顕現したのは、お地蔵さまから転身された冥府の神の一柱。
立派な髭を携えた、赤き顔の強面の御仁。
神格も当然それなり以上にあり、周囲がざわつきはじめているが。
ヒナタくんが、頬をヒクつかせて言う。
「怒らないから答えて頂戴ね。ケトスっち、あんた……今度は何をお呼びしやがってくださいましたのかしら?」
『閻魔大王だけど?』
日本の信仰だと地蔵菩薩と同一視されることもある。
地獄の王様。
まあ、名前やどんな感じの存在なのかは詳しくなくても、伝承を耳にしたことぐらいはあるだろう。
観衆のざわめきが、けっこう大きくなってきた。
その次の瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴっと閻魔様より魔力を赤くさせたヒナタくんが、腕を組んで。
じろり!
「もうちょっとお祭りっぽい神様を呼びなさいよ! しかもこの神様、本気で強いじゃない! 不敬って怒られたらどうするつもりなのよ! あんた、舌を抜かれるわよ!」
『えぇ、だって冥界とか奈落の王みたいなもんだろう? レイヴァンお兄さんみたいなもんだし。不敬って言われても、ねえ?』
閻魔様に向かい、こてんと顔を可愛く横に倒す。
あ、やばい。
魅了が効かないタイプだな、これ。
一応、ちゃんとした契約で召喚したから後で怒られるってことはないけど……。
まあ、怒らせないようにしておこう。
コンニャクの詰め合わせを、そそそっとお供えし、ははぁ……!
やはりどんな時もグルメ!
グルメが解決の糸口!
まあ、実は先ほどから呼んでいる存在には共通点がある。
それは――冥府に連なる神格の持ち主たち。
ちょっとこっちの冥界に隙を作る……なーんて思惑もあったりなかったりするわけだが。
ともあれ。
好物と伝承されているコンニャクを手土産にし、私は閻魔大王を帰還させる。
これで十分か。
おそらく、異界の冥王であるレイヴァンお兄さんが上手くやってくれているだろう。
ふとシリアスな顔を一瞬覗かせた私を、ヒナタくんのくりくりとした大きな目が覗き込み。
はぁ……と彼女はため息。
なんかあたしの知らない裏で動いているのね、と――これまた察しのイイ顔をしている。
『さて、じゃあ冗談もここまでだ。今から本物のゲストを呼ぶよ――というわけで、強制顕現! カモン、土着神の七柱!』
ここからが本当に呼ぶはずだったゲスト!
そう、私が呼んだのは鬼天狗と琵琶天女、黒き破壊神の爺様。
以上、ソシャゲ経営三柱と。
その他四柱である。
強制的な魔力による呼び出しに惹かれ、やってきたゲストたちは――茫然。
それぞれがそれぞれ。
おもいっきりお祭りを満喫している様子が、見て分かる。
琵琶天女と爺様が、驚きの声を上げ――。
「ちょ! いきなりなによ! 呼ばれるなんて聞いてないから、わたくし、あちらで北海道名物のカップ焼きそばを箱買いするために、並んでいたのですけれど!?」
「ふぉっふぉっふぉ、こりゃまた突然じゃな。なーんでこれまた、ワシらなんぞをこんな舞台に召喚したんじゃ。ま、ここから眺める若き桜を愛でるのも一興であるがのう」
鬼天狗は翼をバサリとさせて、眉間に濃い皺を刻んだまま――ぶつぶつぶつ。
「はぁ……これだから強大な力を持つ獣神は。いや、神という存在がそもそもこういうタイプばかりであるから、神無月があれほどに大変であるわけか。傍若無人だからこそ、神であるのやも知れぬが……」
べちっと大きな手を額に当てて、いまだにぶつぶつぶつ。
ちょっぴし怒っているようだが。
彼も思いっきり遊んでいたのは明白。
鬼天狗さんはどうやら水風船のヨーヨー釣りを満喫していたようで、その腕には無数のビニョビニョな風船が抱えられている。
残り四名は、巻き込まないでくれ。
そんな顔で私をじぃぃぃぃぃぃぃ。
こっちの土着神達は、ソシャゲ経営による信仰値稼ぎをできていないので、他の三柱よりも力が弱っているのだろう。
だから!
悪戯ニャンコな顔で私は、ニヒィ!
頬から伸びるヒゲが、ピンピンうねうねしてしまうのである!
彼等の中の紅一点。
琵琶天女が、水瓶から神酒を注ぎ――ふぅ……と気怠い息。
紫色の口紅を輝かせる。
「それで、本当にどうしたのよ? わたくしたち、何も聞かされていないから準備もできていないわよ?」
『ははは、ごめんごめん。せっかくだからこの祭りの熱気を利用し、君達にちょっときっかけを与えて――かつての力を取り戻して貰おうと思ってね! お祭りだし、幸せにしてくれる神さまが必要だって事さ! というわけで、今日のゲストは皆さんご存知の、七福神さ!』
言って、私は聖者ケトスの書をバサササササ!
彼らが時代の流れと共に失っていった信仰を、私の魔力で補い。
神仏再臨。
かつての力を強制顕現!
ぼわん!
七柱の姿が、見る見るうちに変化を――し。
まず黒き破壊神だった爺様が、東洋の破壊神の力を取り戻し――。
マハーカーラの流れを継ぐ、大黒様へとその身を転輪。
よく知る七福神の姿となった老公が、ぎょろりと瞳を輝かせ。
「ふぉっふぉっふぉ! 懐かしきこの力! ワシの栄華伝承が蘇るというモノ!」
「あらいやだ。わたくしにも力が満ちて――」
聖なる川の流れ。水の女神サラスヴァティの流れを汲み、日本に流れてきた土着神。
琵琶天女。
その羽衣が淡く輝き後光を纏い、弁才天へとその身を転輪。
べべん――♪
聞く者の心を虜にする神の琵琶、その奏でる聖なる音色に言葉を乗せる。
「我が名は弁才天。日出ずる国に住まう人の子らよ――わたくしを弁天様と呼ぶ愛しい子らよ。久方ぶりでありますね。ここで再会できたのも、なにかの縁でありましょう。ふふ――今宵は楽しい宴にしようではありませんか」
そして。
一番変容したのは、鬼天狗だろう。
伝承の中で変化をしてしまったその身が、宝棒を携えた武者鎧の武神へと転輪。
「ふむ――よもや、この信仰を失った現代社会で四天王が一尊、毘沙門天の姿に戻れようとは……」
他の四柱もそれぞれ、布袋。
恵比寿、福禄寿、寿老人の姿へと転輪。元の力を取り戻していく。
時代と共に失った信仰。
その力を取り戻した彼ら、その光に導かれたのだろう。
舞台は音と光を纏いながら変形し、幸福を運ぶ船へとその姿を変える。
私の用意したゲスト、それは幸福を運ぶ七柱。
にひ、にひひひひひ!
どーだ! これで文句はあるまい!
完全勝利な笑みを浮かべ、私は――。
ドドドドド、ドヤァァァァア!
『ねえねえ、どうだいヒナタく~ん? 七福神ならその幸福を運ぶ能力はトップクラス! このイベントに参加してくれている皆に幸せを齎してくれると、そう思わないかい? 別にぃ、私はぁ、何も考えてないダメニャンコなんかじゃないし~! って、聞いてないね……おーい、どうしたんだい』
本当ならここでドヤる筈だったのに。
ヒナタくんが目線を向けていたのは素敵ニャンコな顔ではなく、七福神の一柱。
あのダンジョンタワーの元となっているソシャゲの経営者。
鬼天狗である。
私のかわいい頭を軽くぺちぺちし、上機嫌で彼女は言う。
「やだあ、もー! 毘沙門天様ってけっこう素敵なおじ様じゃない! なによケトスっち~、あの土着神様達が、かの有名な七福神だったのなら、先に教えてくれればよかったのに!」
この子、本当にイケおじに弱いよね……。
『まあ、本人たちがどう自覚しているのか、分からなかったからね。人間からの信仰が薄れた影響で、記憶も薄れ、忘れかけていたみたいだから――仕方ないじゃないか。もしドヤ顔で宣言した後に予想が外れていたら、けっこう恥ずかしいし』
と、ネコのモフ耳を撫でられる度にうにょうにょさせて、私は答えていた。
後光を纏い。
ソシャゲ空間という特殊なフィールドの中で、信仰値を取り戻した七福神。
彼等のリーダー的な存在なのだろう。
鬼天狗こと、毘沙門天の流れを汲む土着神の武神がぼそり。
「それで、かつて人間に強く信仰されていた頃の姿と力。この神格を取り戻してくれたのはありがたいのであるが。一体、なにをしろというのだ?」
「じゃのう。ワシらは確かに幸福を齎す神ではあるが、ライブといわれてものう」
まあ、こっちも色々とあったのだから仕方がない。
そう目でアピールすると、空気を察したのだろう。
かまわなくてよ――と、やはり目で合図を返してくれた琵琶天女が、艶やかに曲を奏でながら、べべん!
「いいじゃないの別に! わたくしはこういう賑やかな宴は歓迎よ――! まあ、現実的な事を考えるとソーシャルゲームなわけなんだし、一定期間の幸運値アップの加護を与えてあげるのがよろしいのじゃなくて?」
七福神による加護。
それがどれほどの価値になるか、既にスキルや魔術を知っている者ならば分かるのだろう。
会場の熱気はますます高まっている。
後は任せて大丈夫そう、かな。
ちょっとこっちもまだやることがあるし――。
ニャンコな私は、シリアスな顔で破壊神の爺様に目をやって。
『さて、本当に突然ですまないが――少し派手目になにか催しを頼んだよ。このダンジョン領域日本のデータの一部を弄れるようにしておくから、アイテムを咲かせる桜を顕現させてみたり、イベント限定の敵を作ってみたり、まあ内容は任せるけど――ちょっと時間稼ぎをしてくれると助かる』
「何をするつもりかは知らぬが、良い良い、力を取り戻してくれた礼もあるからのう」
老獪な笑みを浮かべる破壊神に感謝の礼を残し。
私は闇の夜へと姿を消した。
太陽は沈んだ、けれど――希望はまだ沈んでいない。
◇
七福神たちが派手に動いている、その裏で――。
色々な空間を走り回って、現在、私はドリームランドにやってきていた。
影ネコが住まう楽園。
私の夢と影、心の中に浮かぶ世界である。
魔王様より賜った、私の世界だ。
ここはある程度の法則を無視できる場所。
行動をするのなら、ここがいい。
待ち人は、木の葉の渦と共に顕現。
ふぁさ~っと狐毛を靡かせ、焦げたパン色の手で着地。
「はーい! ケトス様、呼ばれて飛び出てココンコン! なーんてね、ご注文の品をかき集めてきたわよ!」
『へえ――さすがフォックスエイル。君の仕事は相変わらず早いね』
そう、色欲の魔性であり魔王城の居候。
本業は商人の、まあ信用に値する女ギツネである。
彼女に緊急の仕事を頼んだのだ。
力を取り戻し、色欲の魔性としての能力を存分と揮える彼女は今、完全なる魔狐モード。
私と戦った時のような巨獣の姿になっていた。
狐のモフ耳とモフしっぽを艶やかに輝かせ、彼女のキツネ口が動く。
「ふふふ、まああなたにはたーっぷりお世話になったものね。できる時にちゃんと恩を返しておきたいのよ。商人としての力を頼ってくれるのは、悪い気分でもないしね――」
『そう言ってもらえると助かるよ。本当に急だったから、かなり大変だっただろう。ありがとう』
心から礼を言うと、彼女はなぜか肉球を赤くして――。
ちょっとだけそっぽを向いていた。
そんな仕草を本人は苦笑し、フォックスエイルが真面目な顔で言う。
「ところで、本当にこんなものどうするつもりなの? 確かに貴重なモノではあるけれど。これはある意味で禁忌の品、取り扱うのは地球じゃ様々な制約に引っかかるでしょうに」
『まあ色々とね。悪い事に使うわけじゃないから、大目に見ておくれよ』
商品を受け取り、契約書にサインする私は――肝心の品をチェック。
これなら。
問題なさそうか。
「それじゃあ、後は――あなたが購入した地球の液状猫おやつを持ち帰って、猫魔獣大隊に配っておけばいいのね。で、こっちは……あらまあ、最近は犬用の液状オヤツもあるのね。で、これを各地に住んでいるスパイワンワンズにだったわね。分かったわ、ちゃーんと配達しておくから安心して頂戴な」
『ああ、頼んだよ。猫用以外にもワンコ用の液状オヤツがこんなに販売されているとは思わなくてね。犬系統の魔獣にもおすそ分けってヤツさ。これさあ、けっこうクセになるらしくって……毛布の上でぐで~んとしながら、ホワイトハウルがよくチュルチュル吸ってるよ』
映像として見せたのだが。
ホワイトハウルを尊敬している彼女は、ココンと顔を変える。
「白銀の魔狼様の貴重なプライベート映像か。売ったらいくらになるかしらね」
さすがは商売人。
頭の中では記録クリスタル映像がいくらで売れるか、皮算用をしているのだろう。
私はジト目で、肉球をぎゅっと握って計算する彼女の焦げパン色のお手々をじぃぃぃ。
『いや、さすがに売らないからね? 絶対怒るし、あのワンコ』
「ふふ、半分冗談よ。個人的にはあの方の普段の姿に興味もあるけれど――さすがに裁定されたくはないし、またの機会にね。さて、じゃあ早く届けてあげたいし――そろそろ行くわ。またねケトス様。こちらも商品の仕入れにまた来ると思うから、その時はよろしく頼むわ」
言って、木の葉の幻影を残しフォックスエイルは魔王城へと帰還する。
やはりどうも、あの焦げたパン色の手に私は弱い。
少し刺さる懐かしさと共に、私は彼女の残したアイテムに目をやった。
超特急で彼女が用意してくれた貴重な品々。
フォックスエイルの転生特典である商人の能力で、世界からかき集めた遺物。
とても高価な、本当に貴重で値段のつけられない商品だ。
そして、私は――レイヴァンお兄さんからの連絡を確認し。
大魔帝セット一式を顕現させる。
肉球で掴み装備し――さあ、準備だ!
キィィィィッィィィン!
握る猫目石の魔杖に、力がこもる。
ザザザ、ザァァァァァッァァア!
私だけではない魔力波動が乗算される。
これは魔王様の力だ。あの方もきっと眺めていらっしゃるのだろう。
ならば、これは私だけの力ではない。
フォックスエイルもレイヴァンお兄さんも頑張ってくれたわけだし。
だからこそ、確実にやらないとね!
『我はケトス、大魔帝ケトス! 終わりを知る、終末の獣。異世界より降臨せし、滅びを齎す大神なり!』
名乗り上げが詠唱となり、力を発動。
赤と青。
複数の魔術属性を纏いながら、歯を食いしばる。
バチンバチン、ドバダバーッ!
ドリームランドの法則が、徐々に、確実に書き換わっていく。
影猫達が顕現し、わっせわっせ♪
私の魔力と魔術に従い、行動を開始し始めていた。
光景も効果音もコミカルだが、やっている事は本当に大規模魔術。
ここまで準備が整えば、たぶん。
いける!
勝利を確信した私は、紅蓮のマントを超カッコウよく靡かせ、モフ毛をぶわぶわぶわ!
幸運値を引き上げる七福神の加護と、装備する輝きの王冠の幸運補正も受け!
いざ、ゆかん!
『さあ君達も私に力を貸しておくれ! ドリームランドは夢の国、私の心と影の世界。好き勝手やったとしても、問題なし!』
くははははははと、哄笑を上げて――。
私は魔力を解放した。




