攻略ラストタワー ~にゃんこ(強)と愉快な仲間達~その2
レベリングも順調に済ませた我らが仲良し探検隊。
大魔帝ケトスこと私が率いる――最適攻略メンバー!
にゃんこと愉快な仲間たちがいざ参る!
あちらで唸る超大型の敵に向かい、麗しい私は――ぶにゃははははは!
ビシ――ッ!
『我はケトス! 大魔帝ケトス! 鉄の巨人だか何だか知らんが、わが魅力の虜にしてくれるわ!』
よーし!
ポーズも完璧に決まったのである!
エリアは下層の大ボスフロア。
機械を模した宇宙船エフェクトが、ピコピコぎらぎら光っている階層である。
既に戦いは始まっていた――。
この鉄巨人の領域ボスを倒せば、おそらくお約束通り中層への道が開かれる。
ようするに次の階層に行くための、フラグ。
門番なのだ。
ならば最上階に潜んでいる悪党を倒すために、ゲーム空間とはいえ本気で倒すしかない。
私たちが取った行動は――!
正々堂々と!
正義のために!
いつもの卑怯な戦術である。
やり方は単純。
まず私がさきほどのビシ――! を決めて先制攻撃。
あれはただの決めポーズではなく、猫魔獣の種族スキル。
魅了である。
大ボスである鉄巨人――。
鉄製の鎧を着こんだ超特大モンスターを、真っ先に強制魅了状態にしたのだ。
まあさすがにボスだからね。
魅了しても同士討ちや自壊などはしてくれないが。
動きを止めるだけで、十分なのだ!
『オッケー! 私の魅了で敵はしばらく動けない! 頼んだよ、グレイスくん!』
「はい! あなたを永遠に――癒し続けてさしあげましょう! 因果転輪、治癒反転!」
カカカっと駆けるグレイスさんがズブシュ!
鎧と鎧の隙間に一発弾丸を撃ちこんで、治療の力を時属性で反転。
遅延性の永続スリップダメージを展開。
その後は、皆で一斉に――!
ただ待つ。
それだけである。
まあ本当なら逃げ回ったりしないといけないのだが、それも問題なし。
不可視の属性を持っている、新たな仲間のおかげだ。
私ではないもう一人の猫魔獣。
ネコの魂を付与されて間もない彼は、黒白のモフ毛をぶわっと魔力で膨らませ。
ぶにゃ!
ネコのおめめをギンギラギン!
「隠者のアルカナよ! 吾輩たちに聖剣王のマントを授けたまえ!」
元黒幕の分身。
現在いろいろとあって、ハチワレ模様な猫魔獣になっているホープくん――。
彼が習得したスキルで、私たち全員を透明化させているのである。
だって、このモフモフ黒白ニャンコ。
トウヤくんの姿に化けていた時に見せた能力は、なかなかに優秀。この私の攻撃を透明化でやり過ごすことができる、特殊能力者だからね。
魅了された鉄巨人はキョロキョロ。
やがて魅了が解けるが。
攻撃する対象も見失い――さらにキョロキョロ。うが? っと、元の位置に戻っていくのだが徐々にダメージを受け続ける。
以下、コレの繰り返しである。
「なんていうか、あたしたち」
徐々に弱って滅びるボスに目をやり。
聖剣と魔刀を構えていた女子高生勇者ヒナタくんと、殺戮騎士のトウヤ君が自分の獲物に目を落とし。
はぁ……と肩を落とす。
「斬っちゃダメっすか! 斬っちゃダメっすか! ダメなんすか!」
「いや、魅了状態が解けちゃうから不味いんじゃないかしら……。つまり、えぇ! あたしたち、低層フロアのボス戦なのに! 地味なんですけどー!」
前衛職でもある彼等は、本当に正面から戦う気満々だったのだ。
トウヤくんなんてレイヴァンお兄さんの力を借りた狂戦士化のバフで、髪を赤いオーラで逆立て。
瞳を魔力でギラギラ。
握る魔刀を光らせ犬歯をぎりり――っていかにも闇の定めを背負う騎士みたいな、カッコいい状態になってたんだけどね。
彼の手にする魔力刀。
紅天女も困った感じで、妖しく輝いているのだが。
あれ? もしかして敵を斬れなくて、モヤモヤしてる?
狂戦士状態だもんねえ……。
わりと闇の職業、殺戮騎士だもんねぇ……。
トウヤ君本人の性格はともかく。
その本能は戦いを求める性質にあるのだろう。
『あー、ご、ごめんね~トウヤくん。中層に上がったら、君の殺戮騎士のスキルで暴れて貰うから。ね?』
「え? いや、別に問題ないんすけど――こう、滾る魔力が……なんつーか」
ガガっと厄介な仕事を片付けるために栄養ドリンクを飲んだが、なんやかんやで仕事自体が延期。
そのままに解散。
てな感じの――。
もんもんとした不完全燃焼な状態に……なってるのかな?
魔刀を握る手の筋が脈々としてるし。
目が据わってるし。
周囲をチラっとみて、バーサーク状態のトウヤくんは鼻梁に狂戦士化特有の殺気を纏いながら。
ぼそり。
「ちょっと、あっちで湧いてる領域ボスの取り巻きを斬ってきてもいいっすか? あー、レベルも上がると思うんで」
『そ――そうだね。ボスはこのまま私の魅了とグレイスさんのエグイ弾丸攻撃。それとホープくんの不可視の補助のループで倒すから――君は無理をしない程度にレベル上げをしておくれ。ボスの取り巻きで無限に湧く敵だからね。たぶんそれなりに経験値も美味しいと思うから』
しゅぱーん!
って、許可を出したらエサを与えられた狂犬みたいに飛んで行っちゃった。
その風圧たるや末恐ろしい。
私のネコ髯とねこしっぽが、ぶわぶわっと風に流されている。
「魔刀顕現! 乱れ咲け――黒天ジョロウグモ! ふは、ふはははははは! やってやる、やってやるぜ!」
新たな黒刀を顕現させ、狂犬のごとき男がダッシュ!
あちらにいるのは――ワイルドハントの群れ。
いわゆる死しても戦う亡霊軍隊である。
見た目は死霊の聖騎士っぽい姿が特徴的な……――って!
『もう戦ってるじゃん! はや!』
不可視の状態を維持したままのトウヤくんが――ダダダダダ!
虚空に瞳だけを赤く輝かせ、ゆらり。
剣士としての声で唸る。
対する亡霊軍隊も瞳だけを妖しく輝かせ、魔法陣を展開。
「うごぉぉぉぉぉ!」
「ギギギ」
「じぎぎぎぎぎぎぃぃぃ!」
飛び交う魔力を、キィンキンキン!
駆けながら撃ち払い。
瞳から紅い魔力残像を発生させ、線を描くように疾走するトウヤくんが――。
闇の中で犬歯をギラリ。
「ハハ! その魔力! その力! どうやらそこそこ戦えるようだな。いいぜ、ああ、いいぜえ――ッ、燃える! 燃える! その魂! 貰い受けてやるよ!」
相手の魂を喰らい吸収するスキルを発動。
ワイルドハントの魂を歯でかみ砕き、力に変換し続けている。
あ、レベルが上がってる。
でも、すごい光景だな……これ。
刀だけではなく、浮かぶ魔力すらも喰らって戦うその姿は戦場の鬼。トウヤくんには、乱戦に適した力があるのだろう。
私はちょっと引き気味に、猫口をぼそり。
『う、うにゃ……? ねえ、ヒナタくん――ト、トウヤくん……さあ。これ、味方だからいいけど』
「うーん、どーみてもふつうなら敵サイドよね、この戦い方。悪役ハンサムな魔剣士とか暗黒騎士みたいな剣士がさ? 血に飢えた状態で闇堕ち、力を求めて騎士軍に襲い掛かってる! って感じよね。これで素敵なおじ様だったら嬉しいんだけど、まだ十年以上は早いだろうし……」
漏らした私の呟きに、ヒナタくんも続いていた。
おじ様だったら良かったんかい!
まあ。
このワイルドハントはゲームとして作られた存在。実際の魔物のワイルドハントとは結構異なるのだが――。
なかなかどうして無双状態である。
「ふふ、ふははははは! まとめてかかってきな! 俺の殺戮数の糧としてやるさ! 乱れ咲け、紅天女!」
紅天女にも炎の魔力を滾らせて、敵陣を駆けてバッサバッサと薙ぎ払う。
その姿は正に鬼神。
ま、殺戮数を稼いでおいてくれると助かるのも事実だから、いっか。
亡霊とはいえ、人型の幽霊だから殺害数に判定されるようだし。
ボスを相手にハメ技を決める組。
あちらで殺害数とレベルを稼ぐ、不可視状態で暴れるトウヤ君。
そして、仕事が無くて困った顔のヒナタ君が私に言う。
「ねえケトスっち……あたしたち、なんかすんごいアレよ、アレ。悪者みたいな戦い方しかしてないんじゃない?」
一応、世界を救う側なのに―!
と、口を膨らませている。私は苦笑し、ネコ眉を下げる。
『いいじゃないか。相手は異世界人を召喚し戦奴隷として使役する世界の主神。しかも、私に成敗されたのを根に持って、地球に潜伏、転移帰還者達を誘拐して力を吸収してたんだよ? そーいう相手にはなにをしてもいい。どんな手段を使ってでも死の鉄槌を与えるべしって、聖者の書に記してあったし』
肉球を掲げるように、ネコ手を上げてドヤる私に。
ヒナタくんがいう。
「いや、聖者の書って。それってたぶん聖者ケトスの書……あんたの言葉でしょ?」
これでも私は本物の聖人属性も持っている。
嘘は言っていない。
ヒナタくんが、ぶーぶー!
と、拗ねた様子で文句をいうその横で――。
どんどんと禍々しくなっている魔銃を構えるグレイスさんが、赤毛を靡かせ、ふふふふ。
唇をはっきりと動かしてみせる。
「わたしはケトス様の事を本物の聖人。いえ、聖猫様だと思っていますよ。少し破天荒ですが、愛らしいですし。なにより、困っている存在を見捨てられないイイ人ですから」
『おや、そう言ってもらえると助かるね。後で魔王さまに報告する時に、このソシャゲ化も君を助けるためだったって言い訳もできるからね』
半分は趣味と遊びだったのだが。
助けようとしているのも事実! イコール、私は悪くない!
そんな冗談じみた言葉だったのに。
グレイスさんは、敵に向けて魔銃による逆行治療と時魔術を注ぎ込みながら。
「ケトス様。あなたは普段からこうして他人に肉球を差し伸べ、お救いなさっているから、感覚を忘れてしまっているのかもしれませんが。わたし……本当に、感謝しているんですよ? 弟の事も、全部。あなたのおかげなのですから」
背を向けているので、その表情は読めない。
けれどその声は、とても温かくて穏やかで――少しだけ泣きそうな響きを持っていた。
『まあ、悩める淑女を助けるのも、紳士ニャンコの務めだからね。感謝は素直に受け取っておくよ』
「はい、ちゃんと受け取ってください」
赤毛を靡かせ振り返ったグレイスさん。
その頬が少しだけ赤くなっている。
「ふふ、もしあなたがソシャゲの中で生きるキャラクターだったら。危なかったかもしれませんね。たぶん、わたし――夢中になって、最大レベルまで育てるためにいっぱい課金しちゃってますよ」
まるで恋する淑女の顔で、彼女は言った。
それはまるで映画のワンシーンのような、綺麗な顔だった。
ま、まあ……台詞はかなりアレだが。
実際。
横で聞いていたヒナタくんが、ぶびゅっと口に含んでいた回復アイテムを吹きだしているし。
『にゃはははは! 君にとってはそれが、最上位の誉め言葉なんだろうね』
「あ! す、すみません! わたしったら、もう、どうして肝心な時にこうなのかしら! 感謝を伝えたいだけだったのに。はぁ……駄目ですねえ。セイヤくんならどうすれば喜ぶか分かるんですが……ケトスさんの場合、グルメ以外が思い浮かばなくて」
こーいう所はブレないなあ、この人。
まあ、そういう所も嫌いじゃないけどね。
『感謝はこの後、ここを乗っ取りアジトにしている犯人を倒した後で、ゆっくりと頼むよ。私の胃袋はいつでもウェルカムだからさ』
「ふふふ、はい」
彼女は微笑み、ガンガンガンとエグイ遅延攻撃をボスに放射。
魅了で鉄巨人の動きを戒める、私もゆったりと微笑む。
彼女が本当に私に感謝をしていると、伝わってくるからだ。
そんな二人を見て。
ヒナタくんがじぃぃぃぃぃっぃい。
「いや、感動的なシーンなのかもしれないけど。今ボス戦中で、しかもものすっごいセコイ戦い方をしている最中なんですけど?」
「ふーむ。お嬢さん。吾輩……察してしまったのですが。どちらにか分かりませんが。あなたはもしや、少し嫉妬をなされているのですかな? ほほぅ! これは、我が主を軸とした! 三角関係なのではニャいですかにゃ!」
ハチワレホープくんが――興味津々にぶにゃん!
指摘された女子高生はあからさまに肩を落とし。
げんなりとした顔でぼそり。
「ないわよ、ないない。はぁ……魂を得て猫魔獣になりたてな、知識欲の権化みたいなネコちゃんにまで変な心配までされちゃうし――今回の戦いで役目もないし。あたし、すんごい可哀そうな気がするわ」
「そうですか? ならいいのですが。吾輩勘違いをしていたようで、申し訳ない」
慇懃にぺこり。
猫耳をふわっとさせ、頭を下げたハチワレホープくんが詫びるように続ける。
「そうですよね、ヒナタ様は人間。我が主は魔猫の君主。もし我が主に仄かな淡い感情をいだいていらっしゃるのなら、それは悲恋ともなりうると……勝手に思い込んでしまいまして。すみません、吾輩、人間達や俗世に生きる生物の、そういう甘い感情をデータで把握できておりません故。とんだ、勘違いとご無礼を。どうかお許しくださいませ」
まあ確かに。
ハチワレホープくんの勘違いではあるのだが。もし人間である彼女が、永遠ともいえる存在である相手にそういう感情を抱いてしまったら――。
長く共にはいられない。
文字通り生きる長さが違うのだから、幸せの時は一瞬で終わってしまうだろう。
ヒナタくんは一瞬私に目をやって。
眉を下げる。
「そうよ、ぜーんぶあんたの勘違い。あたしが――そういう変な感情を抱くわけないでしょ」
ホープくんの鼻の頭をツンと軽く指で弾いて。
ふん!
と、つまらなそうに言い切って、後ろを向いてしまうヒナタ君。
繊細な年ごろだからね。
そういう話で揶揄われるのはあまり好きじゃないのだろう。
「ふむ。なるほどなるほど。これは吾輩が口にするべき案件ではなさそうですな」
なぜかホープ君は私に目をやって。
我が主も意外に、なかなか。
そう呟いて、ニヒヒヒと猫魔獣としての笑みを浮かべていた。
◇
ちなみにあの後。
低層のボスはチクチク作戦で無傷のまま突破!
取り巻き狩りをしていたトウヤくんも、レベルアップ!
殺戮数参照スキルを更に習得。
既に中層~上層突破までの準備は完了したと、いえる状態になっていた。
だって、ねえ。
もうあの極悪コンボが、安定して発動できるようになったからね。
中層からは一気に駆け上がる。
そう、無双状態なのじゃ!




