にゃんこフェスティバル開催! ~遭遇~その2
人々が賑わうソシャゲ化された日本。遠くから聞こえる祭囃子。その温かい音楽をモフ耳で受け。
路地裏にて肉球を輝かせるのは大魔帝。
天下の素敵ニャンコなケトス――すなわち、私である!
戦闘は既に始まっていた。
速攻で逃げに回ったあのリターナーズ誘拐犯。
吾輩と名乗る男が、私の結界内でダダダダダ!
見えない体と性質を利用して、雑魚を召喚しまくり逃走しているのである。
まあ、もちろん。
逃がすつもりなんて、ないんですけどね。
今回の連れである土着神の紅一点。
紫色の口紅が印象的な魅力ある神、琵琶天女が、水の暴龍を顕現させ次々と湧いてくる敵を薙ぎ払う――。
液体を流し消えていく敵を睨み、うげげ――眉を顰めて美天女が叫ぶ。
「な、なんなのよ! この、蟲みたいな魔力の塊は! キリがないじゃない!」
『たぶんバグだね。今、この世界は魔術式を用いてゲーム化しているからね、その計算式の隙間に魔術式を割り込ませて、システム側から敵を生み出しているんだよ』
解説して、私は肉球でスマホを操作し――世界干渉。
システムに埋め込まれた異質な魔術式を消去!
「あら! やるじゃない! さすがは黒猫の王子様!」
『まあね! って、前からちょっと疑問だったんだけどさ。王子って呼んでもらえるのは嬉しいけど、なんで王子なんだい』
ヒナタくんも一回、そんな感じの言葉を使っていたけど。
「だって、あなた自分で言っていたじゃない。魔王陛下って方の部下で息子みたいなものなんでしょう? つまり猫の殿下、王子様ってことなんじゃないかしら」
あー、なるほど。
その考えはなかったが……たしかに、魔王様が陛下で王様や皇帝みたいな存在なわけだし!
ぶにゃにゃにゃ!? 私って、王子属性まであったのか!
『ははは、それは新発見だね』
「ま、それだけじゃなくて。地球ではね、頼れる殿方を白馬の王子様って呼ぶのよ。で、あなたは黒いネコちゃんだから、黒猫の王子様。騒動が終わったら唄にしてあげてもよくってよ!」
言って、べべん♪
曲を奏でた琵琶天女が蛇の濁流を生み出し、魔力バグを戒める。
羽衣がジャレたくなる天女くん。
直接戦闘での破壊力はないが、なかなか補助に特化した悪くない能力者である。
『王子と呼ばれるにふさわしい活躍をしないと不味いね。そんなわけで、ねえねえ! こんな雑魚ばっかり呼び出して逃げ回ってる君! そろそろ観念してくれないかなー! 私の結界からは逃げられないって、さすがに気付いているんだろー!』
敵は転移帰還者達を誘拐していたナニモノか。
今の姿は……一見すると美青年。
魔力を吸収された犠牲者、立花トウヤくんの姿を模倣しているようなのだが。
んーむ。
路地裏を走り、その靴跡の輝きから魔力バグを発生させ雑魚を大量召喚。
逃走しているわけだが。
こりゃ、ただの時間稼ぎか諜報役かな。
たぶんこいつは本体じゃない。
どこか別の場所にも、この吾輩男と同じ存在が湧いている可能性は高い。
トウヤくんではない、魔力を吸収された人間と同じ姿のコレ。模倣された人間が、同じようにバグを撒いて逃げているのではないだろうか。
つまり、他の場所も襲われる可能性があるわけだがリスクは低い。
だって、ねえ?
ある意味で私以上にヤバイ、ニワトリやワンコがいることは言うまでもない。
それにだ。
道を歩く野良猫や、小学生ですらレベル……結構高いからね。
たぶん駄菓子ニャンコ屋で、にこにこワクワク。チョコドーナツを買っている五歳の幼稚園児でも、レベルニ、三十はある。
こどもですら、普通のファンタジー世界の門番並には強いからね、いまのここ。
ヒナタくんも規格外に強いし、グレイスさんに至ってはこのソシャゲ化した世界でみるみるレベルを上げている。
世界崩壊を防ぐ布石の一つとはいえ、大幅に平均レベルが上がっているのである。
私は意識を敵に戻す。
さて、既に周囲は闇のオーラで包んでいる。
のらりくらりと揺れる敵。
見えたり消えたりを繰り返す吾輩男。
バグ召喚の瞬間に顕現した――。
そのぎしりと歪んだ美貌を睨みつけ、ビシ!
『この場で確実に仕留めてあげるよ――!』
シュシュシュシュシュシュ!
宣言と共に、私はシッポの影から闇の毛針を放出!
見えない男に直撃させたのだが。
おや、無傷である。
パチパチパチ!
顕現した男は再び慇懃に手を叩き、すぅっ――。
嫌味な態度で頭を下げてみせる。
「おお、怖い怖い。吾輩、戦いは苦手なのですが――ふーむ、いいでしょういいでしょう。かの有名な大魔帝ケトス様がお相手なら、この吾輩も本気を出せるというモノ」
『ふーん、なるほどね。君、本体は別にあるタイプの面倒な魔物か』
まあ魔物なのかどうかは微妙な所だし。
該当する種類は複数浮かんでくるが。
私を腕に抱いたままふよふよ浮かぶ琵琶天女が、怪訝に眉を歪め――。
ぷっくらと膨らんだ唇を動かす。
「どういうこと? わたくしには……ただ攻撃が無効化されて……すり抜けたようにしかみえなかったんだけど」
『正確な例えじゃないかもしれないが、ここにいるコレは蜃気楼や幻影の類を利用した存在、吸収した魔力で生み出されたアバター。つまりゲームの駒みたいなモノなのさ――』
「駒ですって……っ、これほどの魔力で!?」
水瓶に溜めたネクタルの結界を纏い、驚嘆の声を上げる琵琶天女くん。
その驚く様子にヒゲを動かし、私は続ける。
『ああ、けれどそう不思議な話じゃない。神に作られし自動土人形、いわゆる神造ゴーレムだってそれなりの魔力があるのに自立して動いているだろう? まあアレには魔力と魂が込められているけれど、それと似たようなものさ。直接触れる事の出来ない魔力。奪われた被害者の魔力を核とし、疑似人格を埋め込まれ生み出された、模倣され歩く魔力――たぶんそれがこの吾輩男の正体さ』
まあ、土塊や人の形をした素材に魂を吹き込む行為。
上位存在によって行われたその奇跡の悪戯が人類の始まり、なーんていう話もある。
実際はどうだか知らないし、いま生きている人間も所詮は……式で計算の出来る物質。
原子の集合体。
複雑な計算式で構成された物質に、心と魂が宿っているに過ぎない――のかもしれないが。
この辺の話はややこしそうなので、割愛!
くわっと牙を見せながら、胸を張った私は更に――ビシ!
『コレを操っているボスはおそらく別の場所にいる。これでも私は本物の大魔族でね、いくら次元や認識を誤魔化したとしてもだ、私の攻撃を受けて無傷な筈がない。ならばやはり仕掛けがあると想定するべきだろう。少なくとも目の前のこれは幻影みたいなモノさ。吸収した魔力そのものを操っていると言い換えてもいい』
言葉を受けて、男はニヤニヤと美貌を軋ませる。
姿を再び消せないのは――にゃはり!
私の挑発の魔術にかかったのだ。
まあ、顔は思いっきりトウヤくん。
見知った顔なので少しやりにくいのだが、それも相手の作戦の内か。
「それでそれで、大魔帝さまはその推論を立てたとしてどうするおつもりで? この吾輩がただの操り人形。それは認めましょう。けれど、それがどうしたというのです?」
『ぶにゃははははは! あー、君、けっこう効いちゃってるんだ! ごめんごめん、実は模倣された魔力が動いているだけって、知っていながら、気にしていないふりをしていたんだ!』
更に追撃で挑発をどどーん!
直撃である。
ぎしりと奥歯を噛み締める、その悔しさを隠す音が私の猫耳は捉えていた。
「上位存在に操作され動く魔力なのだとしたら、あなた方にできることはそう多くない。なにしろ、吸収された被害者の数。吾輩たちコピーは! 主の人形は増え続けるのですから! そしてこの端末も、ただの吾輩のコピー。いま喋っている言葉も、ただの模倣。主の人格を真似ただけの偽物! どれだけ殺されても、主には届かない。この人形がどれだけ傷ついたところで、我が主にはなんの被害は及ばないのです。つまりあなたがたの攻撃は無意味。お分かりですか?」
なかなかどうして、よく喋る人形である。
わずかな憐憫を浮かべた私は、魔術式を読み取る魔眼を発動。
おそらく。
いま言葉を漏らしている男の人格は、この男の主と同じ式で成り立っている。
つまり。
コピーされ切り離される時点での黒幕と、同じ記憶と意識があるのだ。
自分に言い聞かせているのだろう。
『君に質問だ――その姿から察するに、君はおそらく……奪われたトウヤくんの魔力に、君の主の模倣人格が与えられた人形だね。君が稼働したのはいつごろかい? そして君は主といった、つまり操っている上位存在とは別の意思がある。元は同じだったかもしれないが、既に別の個体といってもいい。そういう認識でいいのかな』
つまり、ややこしい話なのだが。
この男は切り離された端末。
元は彼の主と同一の人格や、意思があったのかもしれないが。既に独立した思考をもつ人形だという事だ。
同じ人格や性格だとしても、捨て駒にされていつかは消滅すると自覚しながらも動くコピー。本物ではないと自覚したその時点で、だんだんと元の人格からズレが発生し始めるのである。
そこに、隙がある。
私は、邪悪な顔でこっそりと咢を蠢かしていた。
とりあえず泥男の逸話から、スワンプマンとでも呼んでおこうか。
「色々とお聞きになるのですね。まあいいでしょう。応えましょう、教えましょう。吾輩が稼働したのはつい先日。我が主の狩り場であった日本が、邪悪なる異神、つまりあなたに占領されてしまってからでございますよ」
ま、妨害するためにここをダンジョン領域にしたのだから。
作戦は成功していたということだろう。
『なるほど。記憶や意思は主と呼ばれる黒幕と同一でも、君はまだ生まれたばかりの子供。可哀そうにねえ。使い捨てにされるために生み出されただなんて……ああ、なんて哀れなのだろうか』
私の声に魔力が浸透し始めている。
琵琶天女はそれに気づいたようだが、あえて何も口にしない。
邪悪な気配を纏った私が、なにか作戦を実行し始めていると察したのだろう。
「さて、もういいでしょう。それで、いかがなさいますか大魔帝さま? 攻撃の効かぬ吾輩をそのまま無駄に攻撃し続けますか? それとも無駄な時間を諦め、吾輩を見逃しますか? どちらでも構いませんよ。吾輩の役目はスパイ活動。もはや役目は果たしたといえるのですから」
平静を装うその歪んだ美貌に、私はスッと肉球を差し出した。
口が、ぎしりと動く。
『取引をしないかい?』
「取引ですか? はてさて。何を寝ぼけた――」
言葉を遮り――。
甘く湿った魔力を纏った猫の声が、路地裏に響き渡る。
『話を一応聞いてみてもいいだろう? 提案は簡単さ――君に本物の魂を与えてあげるよ。だからこちらにつきたまえ。今ここは私の闇のオーラで包まれている。たぶん君も、君を操っている存在とは直接連絡を取れていない、図星だろう? だから端末を切られることはない。よく考えてみなよ。それはすなわち、君にとっても人生を掴む――最初で最後のチャンスじゃないかな?』
言葉を受けて、一瞬動きを止めるも。
男は肩を揺らし、小馬鹿にしたような顔と声で美貌を歪める。
「くくく、くふふふふふ! いったいなにを仰っているのです。この吾輩に魂をですか!? 愚かな魔猫です、そのような力、主神クラスでもなければ不可能。吾輩を勧誘しようとしても無駄――」
『そうでもないさ。君達はどうやら私達を甘く見ているようだね。愚かにも民間人を犠牲にしている君のボス、その身の程知らずがどんな敵を相手にしているのか、それを知ってからでも回答は遅くはないだろう』
言って、私は琵琶天女を結界で覆い。
ぎしり。
ザザザ、ザァァアアアアアアアアアアアァァァァッァァァァ!
荒れ狂う十重の魔法陣を展開。
ネコと人と魔。
三種の心と魂。憎悪の魔性の力が乗算される、全盛期の闇へとこの姿を戻す。
それなりに魔力のある存在ならば、否が応でも気付いてしまうだろう。
この圧倒的な魔力ならば――不可能はない。
多少以上の無茶。
ありえぬ奇跡も実現できてしまう、と。
つまり――私ならば、疑似人格、コピーに過ぎぬ己に本物の魂を授ける事も可能である。
と。
冷たく凍え震える空気の中。
私は告げた。
『選ぶがいい、愚かなる主人に仕える道化人形よ。我はケトス、大魔帝ケトス。主神の器たる魔猫の王。汝に提案だ。偽りではなく、虚ろではなく。本物の魂をくれてやる。見返りは簡単な事。我が眷族となれ、忠誠を誓え。我が影の兵士の一つとなれ。汝がまだ罪を犯していない魔力人形であるのなら、慈悲をくれてやってもいい――そう思うておるのだが、どうだ?』
魔力に圧され、地に伏し。
歯をガタガタと揺らしながら……吾輩男はなんとか、言葉を漏らした。
「な……なにを、ありえぬことを」
『我は魔族。嘘はついても契約は遵守する。それが魔としての矜持。魔王陛下の部下たる我の信念。今一度問う、選ぶがいい――哀れなる操り人形よ。本物の魂が欲しくはないか? 捨てられ、使われるために生まれたその宿命を変えたくはないか? 運命に抗いたくはないか? 今一度考えよ、道は開かれた。楽園への扉を開く権利を、今、汝は手に入れたのだ。誇るがいい、喜ぶがいい――我の気まぐれに遭遇せし、その豪運をな』
誘う声はさながら、闇に誘うラスボスである。
ま、私。
本物の主神クラス以上の神だからね。
既に形ある魔力人形相手ならば――魂の付与ぐらい、できてしまうのである。
前にもブラックハウル卿との戦いで、似たような事をしたしね。
『自由に生きたくはないか? 自分の意思なのだからと切り捨てられ、使い捨てにされてしまうのは悲しき事だとは思わぬか? 我はいささかであるが汝に同情を覚えた、だからこうして声をかけておる。答えよ、汝の心を我に示せ。どちらでも構わぬ――あくまでも主の命に従い、抗うというのなら、我は永遠なる滅びの夢を汝にくれてやろう。魂を欲し、我が眷族となるのならば――速やかに主の情報を明け渡すこととなろう。どちらでも我は構わぬ。結果は同じ。我は汝の魂を読み取り、その情報を抜き出すだけであるからな』
肉球をギギギギギと差し出し。
私の咢は男の運命の選択を問う。
本当にどちらでもいいんだよね。
トウヤくんの魔力から生み出されたこの男は、まだ罪を犯していない。
だって。
被害者がでないようにとダンジョン領域日本に書き換えちゃって以降、犠牲者は観測されていないからね。
ならば味方にしても問題なし。
疑似魂を破壊して、その情報を読み取り黒幕の真意や場所を探るもよし。
本物の魂を与え、眷族とし――嘘を吐けぬその情報を、直接彼の口から語らせる。
黒幕を追う事に関してのみならば、結果は同じなのである。
さて、ここでダメ押しだ。
『どちらでも構わぬ。構わぬが――くくく、くははははははは! 我が天秤は揺らいでいる、その本心は語り掛けている時点で、既に傾いているのであろうな。我は汝を気に入った――できることならば滅ぼしたくはない。我には汝が必要だ。我が眷族となれ、そして魔王陛下のための歯車と、共になろうではないか』
こういうタイプの存在って。
まっすぐに必要だと言われると――。
「本当に……わ、吾輩の力を必要としている、と。そう言うのですか」
『この我からしばしの間、逃げおおせる事ができたのだ。誇るがいい、それは誰にでもできる芸当ではない。このまま滅びてしまうのは勿体なかろう?』
歪んだ美貌に、一筋の光が灯る。
はい、攻略完了。
「ああ、そうですね。吾輩と主は元は同じ存在だった。吾輩は切り離され、死ぬ運命にあった。そんな身勝手なかつての吾輩、主に最後まで付き従う道理など、たしかに、ない」
『決まりだな――汝に魂と共に名を与えてやろう。スワンプマンでは少々物悲しい、ならばそうだな。希望だ。汝は我の希望の光を掴んだ、ならばホープと名乗るとよかろう』
言って、私は――吾輩男に魂を注ぎ込んだ。
契約は結ばれた。
ここに新たな命が誕生したのである。
なぜか琵琶天女が、え? ありなのこれ?
倒す筈の敵を勧誘って!
ちょっと意味がわからないんですけど!?
みたいな顔でこっちを見ているが気にしない!
だって、仲間にできるならそっちの方がお得だし。
わりといつもの事だし。
ねえ?
◇
これで情報が大量に入手できる。
そして新たな戦力もゲット!
いやあ、ホープくんって名前もありだよねえ~。なにしろ三文字で、覚えやすい!
さーて。
相手の居場所を突き止める事ができれば――にゃふ、にゃふふふふふ!
ホープくんを連れて。
黒幕狩りじゃぁぁぁぁぁっぁぁあ!




